〜第55話 静寂の夜〜

ナツミ「良かった良かった。“あの時”のような思いをしないで済んで……ね」

ナツミ「……でも」

ナツミ「そっちの青ショートは良くなさそうね。なにせ、魔法少女になるまではごくごく普通の女子中学生。重すぎる魔法少女の真実なんて……」

?「そうそう容易く受け入れられるモノじゃない」

ナツミ「!」

咲夜「む〜ん。儚き哉(かな)、人生」

ナツミ「美月咲夜……」

ナツミ「何故ここへ? 先遣は私の役のはずよ」

咲夜「気にしない、気にしない。月夜の散歩ですよ☆」

ナツミ「ふん。相変わらず、食えない人ね。頭が痛い……」

咲夜「しかしなんでしょう。いくらデストロン達の力を借りたとはいえ、彼女達がディセプティコンさえ退けてしまうなんて意外でしたね」

ナツミ「あら、そう? 私は“なんとは”なしにそうなると思ってたわよ。
あの喪服以外、誰も魔女にならなかったのは確かに意外だったけどね」

咲夜「へえ、何故です?」

ナツミ「あの喪服があの戦いの中で魔女化する事は分かっていたからね。例えディセプティコンがどれだけ強力な力を持っていたとしても、
“野望や論理に振り回される走狗(イヌ)”である限り、魔女と言う“化物”は倒せないわ」

咲夜「?」

ナツミ「化物を倒すのはいつだって人間よ。化物は人間に倒されるわ。人間だけが『倒す』事を目的にするからよ。
戦いの悦びや欲望だけではなくて。己の成すべき義務だからよ」

咲夜「むむむむむん。そういうモンですかねぇ……」

ナツミ「そういうモンよ」

咲夜「む〜ん。でも、その理屈だと、私達にも彼女は倒せないって事になりませんか?」

ナツミ「ふふっ、それはそれで面白いじゃない」

〜場面転換〜

アカサカ「ふう。そろそろ一杯やって寝るか……」

アカサカ「……何の用だ、インキュベーター?」

キュゥべえ「気づいてたんだね」

アカサカ「部屋に入る時はノック位するもんだ。感情が無くてもエチケットは守れるだろ」

キュゥべえ「疑問なんだよね。アカサカ、何故キミは“ボクを認識できるんだい”?
普通の人間にはボクの姿は見えないはずなのに。いや、それだけじゃない。あの時……」

キュゥべえ「キミだけじゃない、あの場に居た全員が、ボクの事を認識していたように思えるんだけど。
まどか達だけでなく、キュアハッピーにヒカリアン、それからトランスフォーマーに仮面ライダーまで」

キュゥべえ「キミがボク達の干渉を受け付けない力でも持ってるのか、あるいは別の何かなのか。キミ達の言葉で表現するなら、『知的好奇心』というやつさ」

アカサカ「……オレを調べ回そうって思うんならやめておけ。ファミコンで数兆桁の円周率計算をやるようなもんだ。お前らがオーバーロードを起こすだけだぞ」

キュゥべえ「ふ〜ん。まあ、そう言うなら今日の所は消えるとするよ。歓迎されてないみたいだしね」

アカサカ「ったく、ゴシップ誌の記者みたいな奴だ。さてと……」

〜場面転換〜

ガチャ

アカサカ「ん?」

杏子「あ、店長……起きてたんだ」

アカサカ「そりゃこっちの台詞だよ。もう日付が変わってだいぶ経つ時間だぜ」

杏子「なんか……眠れなくってさ」

アカサカ「ふ〜ん……」

アカサカ「ちょっと待ってな」

杏子「?」

アカサカ「ほら。眠れない時にはいいらしいぜ。ホットミルクなんて作ったの初めてだから、味は保障しねえけどよ」

杏子「…………」

アカサカ「お味はいかが?」

杏子「……ゲロ甘」

アカサカ「そいつは失礼」

杏子「でも……なんか、懐かしいよ」

アカサカ「そっか」

コトッ……

アカサカ「……んで、悩み事があんだろ?」

杏子「別に、そんな事……」

アカサカ「今さら隠し事は無しにしようや。見てりゃわかるって」

杏子「…………」

杏子「なあ店長。あたし達って、何なんだろうな?」

アカサカ「ん?」

杏子「あたし達、魂を肉体から抜き出されて、ソウルジェムに変えられたんだろ?
それじゃあ、あたし達、ゾンビにされちまったようなもんじゃん。それでも、あたし達って『人間』って言えるのかな……?」

アカサカ「ふむ……」

スッ……

アカサカ「杏子ちゃん」

杏子「?」

ピンッ!

杏子「いてっ!」

杏子「痛って〜な! 何すんだよ!」

アカサカ「痛いのは生きてる証拠だよ」

杏子「は?」

アカサカ「それに……」

わしゃわしゃ……

杏子「ちょっ、本当に何なんだよ!?」

アカサカ「杏子ちゃんは温ったけぇよ」

杏子「はぁ?」

アカサカ「ゾンビだったら痛みも感じねぇし、温かくもねぇ。魂が身体から抜き出されてようが、杏子ちゃんはしっかりと人間だよ」

杏子「…………」

アカサカ「人間が人間たらしめている物はただ一つ。己の意志だ」

アカサカ「君(杏子ちゃん)は君(杏子ちゃん)の意志がある限り、例えガラスの水槽の培養液の中に浮かぶ脳みそが
君の全てだとしても。きっと電子頭脳に収められた、小さな記憶回路が君の全てだったとしても」

アカサカ「君は人間だ。人間は魂の、心の、意志の生き物だ」

杏子「…………」

アカサカ「君(杏子ちゃん)は、“杏子ちゃん(君)だ”」

杏子「…………」

アカサカ「杏子ちゃん?」

杏子「……さっきのホットミルクのせいかな。急に眠くなってきちまったよ」

杏子「お休み、店長。それから……ありがとな」

アカサカ「ああ、お休み」

アカサカ「…………」

コトッ……

アカサカ「……願わくば、あの少女達に、幸多からん事を」



〜つづく〜

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