〜第50話 Despair bringer〜

杏子「くっそ、何なんだよ……!」

杏子「何なんだよこいつら!」

ヘルワープ「シャァァ……。スタースクリーム、本当にこいつらが、“ヤツ”の言っていたエネルギー源なのか?」

スタースクリーム「インキュベーターの情報だ。薄気味の悪い連中だが、少なくとも間違っちゃいないだろう」

杏子「ワケ分かんねえ事……」

杏子「言ってんじゃねえ!」

バッ!

ヘルワープ「おっと!」

ドゴッ!

杏子「うわっ!」

マミ「佐倉さん!」

ヘルワープ「……これで二つ目だ」

スタースクリーム「次は……」

ドガァァン!

スタースクリーム「!」

スタースクリーム「どこのどいつだ! 邪魔する野郎は!?」

マミ「貴方達……」

くれは「助太刀しますよ、巴さん」

マミ「貴方達の力は借りないわ!」

瀬利「何だよ何だよ、この期に及んで、何を意固地になってやがる! 苛立たしいぜ!」

汐莉「そうそう。そんな呑気な事、言ってる場合じゃないと思うの〜」

くれは(彼らは一体……。デストロンみたいだけど、でも、どうしてソウルジェムを……?)

ほむら「きゃあっ!」

くれは「!」

スタースクリーム「これで三つ目だ。丁度いい所に獲物が飛び込んできたな」

くれは「暁美さん!」

ヘルワープ「次は……」

ドゴォン! ドガガガガ!

ヘルワープ「シャァァ……次から次へと……今度は誰だ!?」

マミ「デストロン!?」

メガトロン「貴様ら、何者だ? デストロンのようだが……。ワシらのシマで勝手をやるとは、覚悟は出来ておるのだろうな!?」

スタースクリーム「ちっ。この世界のディセプティコン共か……」

コンボイ「メガトロン!」

メガトロン「!」

メガトロン「コンボイか」

コンボイ「どういう事だ、メガトロン? 何故、デストロン同士で争っている?」

メガトロン「お前達には関係の無い事だ。引っ込んでおるがいい!」

スタースクリーム「ちっ、オートボット共まで現れやがった。……こいつは面倒だが、丁度いい。連中が言い争ってる間に……」

?「スタースクリーム! ヘルワープ!」

スタースクリーム・ヘルワープ「!」

スタースクリーム「ショックウェーブか!」

ショックウェーブ「……三つか。それだけあれば実験には十分だ。ディセプティコン、帰還せよ」

スタースクリーム「……ちっ、しょうがねえ」

スタースクリーム「トランスフォーム!」

ヘルワープ「トランスフォーム!」

ゴガギギギ!

スタースクリーム「あばよ、マヌケども!」

くれは「くっ、待ちなさい!」

メガトロン「サウンドウェーブ、コンドルに連中を追跡させろ!」

サウンドウェーブ「イジェークト! コンドル、偵察尾行セヨ」

くれは(彼らは明らかにソウルジェムを狙っていた……。何故? 一体なにが目的で……?)

瀬利「杏子! さやか! ほむら!」

マミ「美樹さん! 佐倉さん!」

くれは(……くっ。どちらにせよ、このまま後を追う、という訳にもいきませんね……)

〜場面転換〜

アカサカ「じゃあ、見慣れないデストロン達が、杏子ちゃん達のソウルジェムを奪っていった、と?」

メガトロン「ああ。それから奴ら、“ディセプティコン”と名乗っておったな……」

コンボイ「ディセプティコン? という事は、彼らはデストロンではないのか?」

メガトロン「だからワシらも知らんと言っておろうが。詳しくはコンドルの報告を聞いてからだ」

アカサカ「分かったよ。何かわかったら、オレ達にも連絡をくれ」

メガトロン「ああ。ワシらも報告を待つとしよう」

コンボイ「アカサカ。我々も基地に帰還する事にする。何か手が必要な時は言ってくれ」

アカサカ「あいよ、さんきゅ」

アカサカ「…………」

アカサカ(…………。『ディセプティコン』か。って事はまさか……。なんにしても、このままじゃヤベェぞ……)

まどか「店長さん!」

まどか「さやかちゃん達が……目を覚まさないんです!」

マミ「それどころか……三人とも脈も無い。これじゃあ……」

アカサカ「……そいつぁ……」

キュゥべえ「仕方ないよ。ソウルジェムが身体から離れ過ぎているからね。言わば、今のさやか達の身体は抜け殻なのさ」

まどか「キュゥべえ!?」

マミ「一体……どういう事!?」

キュゥべえ「ソウルジェムは、君達魔法少女の本体なんだよ。魔法少女との契約を取り結ぶボクの役目はね。君達の魂を抜き取ってソウルジェムに変える事なのさ」

マミ「え……?」

まどか「ソウルジェムが……魂?」

くれは「…………」

瀬利「……お前ら、まさかまだ知らなかったのか……?」

汐莉「うそ、やだ、マジ……?」

くれは「……キュゥべえ、貴方は知っていますね。彼ら……ディセプティコンが暁美さん達のソウルジェムを持ち去っていった理由を。答えなさい!」

キュゥべえ「利害が一致したからさ。君達は中々魔女になってくれなかったからね」

くれは「!」

マミ「……どういう事なの、キュゥべえ!?」

くれは「……巴さん。何故ソウルジェムに穢れが溜まるのか、考えた事はありますか?」

マミ「えっ……?」

くれは「ソウルジェムは、ただ、私達の魂を物質化した物ではありません。魔法少女が魔力を使い果たし、穢れが限界を超えた時……
グリーフシードに変化して、私達は魔女になります。……私の親友も、そうやって魔女になりました」

まどかマミ「!」

マミ「本当なの、キュゥべえ!?」

キュゥべえ「訂正するほど間違いではないね。付け加えるなら、ボク達の目的は別に魔法少女の魔女化じゃない。それはあくまで副産物に過ぎないからね。
ボク達の使命はソウルジェムがグリーフシードに変化する、その時に発生する膨大な感情のエネルギーを集める事なのさ。宇宙の寿命を延ばすためにね」

キュゥべえ「君達はエントロピーって言葉を知ってるかい? 簡単に例えると、たき火で得られる熱エネルギーは木を育てる労力と釣り合わないって事さ。
エネルギーは形を変換するごとにロスが生じる。宇宙全体のエネルギーは目減りしていく一方なんだ」

キュゥべえ「だからボク達は熱力学の法則に縛られないエネルギーを探し当てた。そうして見つけたのが魔法少女の魔力だよ。
ソウルジェムになった君たちの魂は燃え尽きてグリーフシードへと変わる、その瞬間に膨大なエネルギーを発生させる。君達の魂はエントロピーを覆すエネルギー足りえるんだよ」

マミ「…………!」

キュゥべえ「そして、彼らクラウド世界のディセプティコンも同じエネルギーを求めていた。かつて彼らは時空管理システム“SARA”を目的にしていたけれど、
彼女がクラウド世界のオートボットの手に渡ってからは、様々な時空の代替エネルギーを集めていた。そこでボクは、ナツミの提案を受けて、
彼らに協力を持ち掛けたという訳さ。得られたエネルギーを折版するという条件でね」

まどか「……酷いよ。そんなの、あんまりだよ」

キュゥべえ「……君たちはいつもそうだね。事実をありのままに伝えると決まって同じ反応をする。訳が分からないよ」

マミ「貴方は私達の命を、何だと思っているの!? どうしてこんな事をするの!?」

キュゥべえ「ボクはただ、君たちの願いを叶えたに過ぎないよ。ボクとの契約で交わした願いは確かに君の心からの願いだったはずだ」

キュゥべえ「叶えた願いの対価を受け取る権利はあっていいはずだよ? さやか達が犠牲になって君が生き延びるのなら、むしろ君にとっては幸運じゃないのかい?」

マミ「いらない! 大切な仲間を犠牲にしてまで、私は生きたくなんか……」

キュゥべえ「君こそどうして仲間の生き死ににそこまで拘るんだい? 君の生きるという願いを叶えるために、
君の手で積み上げられてきた魔法少女の犠牲を顧みれば、今更仲間二人の犠牲なんて対した物じゃないだろう?」

マミ「!」

チキッ

くれは「……もう消えなさい、インキュベーター。それ以上無駄口をたたくなら、その首をすっ飛ばしますよ。無駄に個体数を減らしたくはないのでしょう?」

キュゥべえ「……やれやれ、君はマミ達とは対立していたはずなのに。本当に訳が分からないよ」

瀬利「……相変わらず胸クソの悪りィ奴だ。苛立たしいぜ!」

アカサカ「あいつらには感情の概念が無いからな。悪意も無ければ罪悪感も無い。ただ淡々と“役割”を全うしようとするだけだ。
例えるならクインテッサに近いが……と言っても、クインテッサにも感情がある分、まだあいつらの方が人間的か。
『有機生命体でありながら、思考は機械に近い』。それが奴らだよ」

まどか「くれはちゃんや……ほむらちゃん達は知ってたの?」

くれは「……ええ」

まどか「どうして教えてくれなかったの?」

くれは「前もって話しても、誰も信じてくれなかったから。……以前、言いましたよね。暁美さんはそれですっかり心をすり減らしてしまったと」

まどか「あ……」

くれは「……はぁ。本当は私が話すべき事ではないのかも知れませんが……」

くれは「……こうなった以上、仕方ありません。お話ししましょう。何故、暁美さんが全てを犠牲にしてでも貴女を守ろうとするのか。今まで暁美さんが歩んできた、永い永い苦難の物語を……」

ハッピー「……店長、知ってたの? 魔法少女の事……」

アカサカ「……まぁね」

ハッピー「だったら! どうしてもっと早く教えてあげなかったの!?」

アカサカ「教えてどうする? オレと知り合った時にゃ、もうあの子たちは魔法少女になってたんだぞ。いたずらに本当のこと教えて、余計な絶望与えろってのか?」

ハッピー「それは……」

アカサカ「真実を知るのがいつも正しいとは限らん」

ハッピー「…………」

まどか「そんな……ほむらちゃんが、私のために……」

くれは「体感時間にして数十年。暁美さんは、同じ一ヶ月を繰り返してきました。誰にも頼れず、信じられず……それがどれ程の孤独と苦痛だったか」

くれは「……もっとも、ほんの数える程度には、皆さんと良好な関係を築けた時間軸もあったようですが……」

まどか「ほむらちゃん……」

くれは「だから、貴女は絶対に魔法少女にはならないで下さい。もし暁美さん達を助け出しても、貴女が魔法少女になっていたら、私は暁美さんに顔向けが出来ません」

瀬利「それに、さやかも杏子も、あんたには戦って欲しくない。きっとそう思ってる」

まどか「…………」

アカサカ「みんな。今、メガトロンから連絡があった。連中の居所が割れたぞ」

くれは「…………」

くれは「……行きましょう、巴さん。今ならまだ、間に合います。佐倉さんや美樹さんを、助ける事が出来るんです」

マミ「……行ってどうするの? 例えソウルジェムを取り戻しても、いつか私達は魔女になるのよ? だったら、今助かったって無意味じゃない……」

瀬利「てめぇ、何言って……」

くれは「…………」

スッ……

パシィッ!

まどか瀬利汐莉「!」

くれは「いい加減になさい! いつまでそうやって腐っているつもりですか! 確かに、今まであなたが魔女……魔法少女の成れの果てを犠牲にしたという事実は消えません」

くれは「でも、それ以上にあなたに助けられた多くの命がある。その事を、私も鹿目さんも……暁美さんだって知っています」

マミ「…………」

くれは「理由や過程はどうあれ、『救える命はみんな助ける』。そのために貴方は魔法少女の力を人のために使うと決めたのではなかったんですか?」

マミ「碧さん……」

くれは「……私らしくもない。何、熱くなってるんでしょう……」

くれは「とにかく、私は行きます。暁美さんを……私の友達を見殺しにする気はありません。また友達を助けられないのはゴメンですから」

瀬利「おい、待てよくれは。まさかお前だけで行くつもりじゃねえだろうな、苛立たしいぜ!」

くれは「瀬利」

瀬利「杏子はあたしにとってもダチだ。それに、さやかの奴ともまだ決着つけてねえし、まだまだ教えてねえ事だって沢山あんだよ」

汐莉「はいは〜い。私も行くわよ。私だって、頼って欲しいの〜」

くれは「汐莉」

まどか「くれはちゃん、瀬利ちゃん、汐莉ちゃん……」

くれは「心配しないで下さい、鹿目さん。私達は強いんですよ♪ ちゃっちゃっと片づけて帰って来ますから」

汐莉「そうそう。ちょっとは私達の実力を信じて欲しいの〜」

まどか「……ごめん、ホントにごめん。私、何も出来なくて……」

くれは「そんな事はありませんよ。貴女はいい人です。悪鬼の様な人間が山ほどいる事を思えば、善人という、ただそれだけで価値があります」

くれは「いつか貴女に救われて、貴女の事も救ってくれる人が現れるでしょう」

くれは「だからもっと、ご自分に誇りを持って下さい」

まどか「くれはちゃん……」

くれは「じゃ、行って来ますね♪」

マミ「……待って」

マミ「私、どうかしてたわ。あなたの言う通りよ。助けられるかも知れないのに何もしないなんて。私はまた、大切な人達を失うところだった」

くれは「巴さん」

マミ「私も……行くわ。この手で、佐倉さん達を助ける!」

くれは「そう来なくっちゃ。カミュいわく、『生きる事への絶望なくして生きる事への愛は無い』」

ハッピー「待って! 私も行く! 杏子ちゃん達は、私にとっても友達だもん!」

アカサカ「そう言うと思ったよ。ほら」

ハッピー「店長、これ……?」

アカサカ「前にスィンドルから買っておいた、ピーチエナジーロックシードとゲネシスドライバーだ。相手が異次元のデストロンなら、これ位用意しておいた方がいいだろ」

ハッピー「……有難う、店長」

アカサカ「……じゃ、行きますか」

くれは「店長さんも来るんですか?」

アカサカ「杏子ちゃんはウチの従業員だからね。雇用主のオレが何もしないって訳にもいかんだろ」

瀬利「あんた戦えんの、店長さん?」

アカサカ「失敬な。君達若者にお手本を見せて上げますよ」

ウエスト「……そう言えば、店長って強いの?」

ディケイド「さあ。あいつに関しては色々と分からない事だらけなんだよな。オレ達も」

サンクラ「ああ。それに色々な噂もある。いわく、『子供の頃に仲間と一緒に異世界で冒険をした』とか、『かつては銀河連邦の裏組織の軍人だった』とか。
はたまた『ドイツの伯爵に仕える発明家だった』とか、『パラレルワールドの管理国家に潜り込んだスパイだった』とかもな」

ウエスト「ふ〜ん……」

アカサカ「サンダークラッカー」

サンクラ「?」

アカサカ「お前さんに一個、頼んでおきたい事がある」

サンクラ「なんだ?」

マミ「それじゃあ、行きましょう」

一同「おう!」



〜つづく〜

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