〜第49話 面白くもねえ話さ〜

瀬利「よし、行くぞさやか」

さやか「うん!」

ザパン! ザパン!

魔女「フィッシャーマァァァァァァァァァァァァァン!」

釣り人の魔女

魔女「フィッシャー!」

使い魔「ギョギョ!」

使い魔「ギョギョッ、ギョ!」

さやか「たあっ!」

ザシュッ!

使い魔「ギョギョッ!」

瀬利「おらっ!」

ドガッ!

使い魔「ギョッ!」

魔女「フィッシャー!」

さやか「!」

ドゴォッ!

さやか「うわっ!」

ガシッ

瀬利「っと、危ねえ」

瀬利「大丈夫か、さやか?」

さやか「うん。ごめん……」

瀬利「しゃーねぇな、いっちょ、お手本見せてやるよ」

瀬利「はっ!」

魔女「フィッシャーッ!」

瀬利「おっと!」

バシャァァァァン!

瀬利「でいっ!」

ブシャッ!

魔女「フィッシャーッ!」

スタッ

瀬利「仕上げといくか」

瀬利「神剣無双流……」

瀬利「水虎!」

ザシャァァァァァァァッ!

魔女「フィッシャアマァァァァァァァァァァァァァン!」

ドガァァァァァァァァァァァァァァン!

さやか「やっぱり、瀬利は強いや……」

〜場面転換〜

瀬利「ほら、さやか」

さやか「ありがと」

さやか「……ほとんど新品じゃん。あんた一体、どういう使い方してんの?」

瀬利「あたしはいつも省エネで戦ってるからな。杏子も……それに多分、巴マミもお前に比べたら、グリーフシード使う回数は少ないんじゃねえか?」

さやか「言われてみれば……」

瀬利「つまり、お前さんは、まだまだ魔力の使い方に無駄があるってこったよ」

さやか「そうか……」

瀬利「剣の方もだが、魔力の使い方もこれからは覚えていった方がいい。グリーフシードが切れたら大変な事になるってのは、お前も知ってんだろ?」

さやか「う、うん……」

〜場面転換〜

ほむら「築紫瀬利が?」

くれは「ええ。ここ数日、美樹さんに頼まれて稽古をつけてるらしいですよ。ああ見えて、瀬利は面倒見がいいですからね。ひき肉の重ね蒸しかぁ、美味しそうだなぁ……

ほむら「…………」

くれは「『このまま築紫瀬利が巴マミ達の方についたら厄介だ』」

くれは「そう思ってる顔ですね、暁美さん?」

ほむら「…………」

くれは「心配しなくても大丈夫ですよ。瀬利の性格上、私達を密かに裏切るなんて“絶対に有り得ませんから”。シェイクスピアいわく、『正直なほど富める遺産はない』」

〜場面転換〜

さやか「ねぇ、瀬利」

瀬利「何だよ?」

さやか「あんたってさ……どうして魔法少女になったの?」

瀬利「……聞いたって面白くもねえ話さ。それにあたしは、あんたが嫌いな『自分の為に願い事を使った』魔法少女だしな」

さやか「…………」

瀬利「……強く、なりたかったんだよ」

瀬利「あたしの実家は神剣無双流の道場でね。あたしは物心がついたころから、親父に稽古をつけてもらってた。
あたしもそれが当たり前だと思ってたし、親父の期待に応えたくて、剣道一筋だった。けど……」

瀬利「ある日、親父に言われたんだ。『お前の剣は人を殺す剣だ』って。あたしはそれが悔しくて、
親父に挑んだ。親父に勝てば、親父もあたしの事を認めてくれると思って」

瀬利「結果は惨敗だった。惨めだったよ。今までのあたしが、全て否定されたような気がして。あたしが今まで頑張ってきたのは、何のためだったのかって」

瀬利「そんな時、アイツが現れた。あの野郎が。そうしてあたしはアイツに願った。『親父に勝てるだけの力が欲しい』って。
それで得たのは、神剣無双流の全ての奥義だ。あたしがまだ習得してなかった、気を操るような高度な技も含めて」

瀬利「でも、あたしはすぐに後悔した。『こんな力で親父に勝って、それで正解なのか』って。
自分の力でもない力で強くなったって、意味があるのかってな……。全く、自分自身に対して苛立たしかったよ。
それであたしは、逃げるように家を飛び出した。本当の意味で強くなろう、そう誓って」

さやか「……ごめん。あたし、そんな事も知らないで、あんたに偉そうな事……」

瀬利「気にすんな。同情が欲しくて言ってんなら、もっと色付けて話をするよ。要するに、あたしは結局は弱い奴だったってだけの話さ」

さやか(この時、あたしは思ったんだ。何であたしが瀬利に心を許せたのか。あたしが感じていた引け目を、こいつも持ってたんだ……)

さやか「ねぇ、瀬利」

瀬利「何だよ?」

さやか「良かったら……あたし達の所に来ない? 杏子は勿論OKって言うだろうし、マミさんだってあたしが説得してみせるから」

瀬利「……悪りぃな、それは出来ねぇ」

瀬利「くれはにゃでっけぇ借りがあるし、何よりあたしはアイツのダチだからな。ダチを裏切るような真似はしたくねぇんだ」

さやか「……そう言うって思った」

さやか「でもさ」

瀬利「?」

さやか「あたし達も……友達だよね?」

瀬利「何言ってんだよ、そんなの当たり前じゃねえか」

さやか「うん!」

〜場面転換〜

ナツミ「“ただいっさいは過ぎて行きます。自分がいままで阿鼻叫喚で生きて来た所謂『人間』の世界に於いて、たった一つ真理らしく思われたのはそれだけでした”」

キュゥべえ「やあ、ナツミ」

ナツミ「あら、白幕。どうだった、頼んでおいた用事は?」

キュゥべえ「君の言った通りだったよ。彼らは、ボク達の提案を二つ返事で受けてくれたよ」

ナツミ「だから言ったでしょう、利害の一致は何よりの交渉材料だって……」

ナツミ「ふふ、これから楽しみだわ……。堕ちて〜、ど〜こへゆくの、こ〜ぼれた紅〜い実は♪ 嗚呼〜掌をすり〜抜けてく〜♪ 夜は〜、い〜つも長くて〜ふ〜あんにな〜るから、どうか繋いだ小指〜のまま〜……♪」

魔女図鑑

釣り人の魔女

釣り人の魔女。その性質は偽善。
釣るか釣られるかのゲームを楽しみ、“獲ったら放す”と豪語している。
しかし獲物が負った傷や、得物を放す場所の事、その後の事などはなにも考えていない。

釣り人の魔女の手下

釣り人の魔女の手下。その役割は疑似餌。
魔女が獲物を捕らえやすいように、獲物を追い回し、魔女のもとに誘導する。
だが、時にその鋭い針で、獲物をズタズタにしてしまう。



〜おしまい〜

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