〜第44話 あたしに稽古をつけて欲しいの〜

瀬利「……はぁ? なんだって?」

さやか「だから、あたしに稽古をつけて欲しいの」

瀬利「なんだよなんだよ、どういう風の吹き回しだ? 特訓してぇっつうなら、それこそ杏子や巴マミに頼みゃいいじゃねえか」

さやか「マミさんは銃が武器だし、杏子も槍だし……。あんた言ってたじゃん、あたしが『筋はいいけど基礎がまだまだ』だって」

瀬利(ああ、そういやそんな事も言ったっけな……)

さやか「だから、剣術の基礎から鍛えたいと思ったんだ」

瀬利「ふ〜ん……」

さやか「それに」

瀬利「?」

さやか「あんた、確かにあいつらの仲間だけど、あたし、あんた個人は悪いヤツだと思ってないし……」

瀬利「……あ〜、あ〜、分かったよ。そんなに言うなら付き合ってやらぁ」

さやか「ほんと!?」

瀬利「ただし、やるからにゃあ半端な事はしねえ。稽古も竹刀じゃなくて真剣を使う。それでもいいか?」

さやか「望むところだよ!」

瀬利「あと……」

さやか「?」

瀬利「特訓するのは、お前さんの学校が無い時間だけだ。学業を疎かにしてまでやるってんなら、特訓はナシだ」

さやか「わ、わかった。でも……」

瀬利「何だよ、不満か?」

さやか「いや、あんたって、意外と生真面目なんだなって……」

瀬利「うるせえよ」

〜場面転換〜

瀬利「……じゃ、まずは、今日中にこの岩を斬れるようになってみろ。ただし、『力に頼らず』だ」

さやか「力に……頼らずに……?」

瀬利「やれやれ。その様子だと、やっぱりお前、自分の武器の特性を理解してねえな?」

さやか「どういう事?」

瀬利「お前のソレ、刀だって気づいてたか?」

さやか「刀ぁ!? これが?」

瀬利「ほら、刃の所見てみろ。刃紋が入ってるだろ?」

さやか「うん……」

瀬利「刀ってのは、刀剣の中でも『斬る』事に特化したモンなんだ」

さやか「『斬る』? 剣って元々斬るもんじゃないの?」

瀬利「どっちかって言うと、日本の刀以外は『叩き切る』や『突く』って使い方が主流なんだ。
あたしのこれも……古代日本の剣みたいな形してるけど、これも『叩き切る』タイプだな」

さやか「へぇ〜……」

瀬利「それに対して、日本の刀は『断ち切る』事が出来るように作られてる。だからお前もそのことを理解して武器を扱えば、それだけでも随分違うようになるだろう。そんじゃ、試しにやってみな」

さやか「オッケー」

さやか「たぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

キン! キィィン! カキィィィン!

さやか「駄目だぁ、切れないや……」

瀬利「ん〜……。やっぱり、基礎体力作りから始めっか」

〜場面転換〜

さやか「51、52、53、54……」

瀬利「ほらほら、ペース落ちてっぞ。こん位で根を上げんのか?」

さやか「何を! 56、57、58、59……」

〜場面転換〜

カア、カア……

さやか「疲れた〜……もう、クッタクタだよ……」

瀬利「おいおい、今日の課題、忘れた訳じゃねえよな? 庭に出るぞ」

さやか「こんな体力使い切った状態で、こんな岩斬れないよ……」

瀬利「泣き言言う前にやってみろよ、苛立たしいぜ」

さやか「う、うん。このぉ……」

バキン!

さやか「!?」

さやか「ウソ、斬れてる! なんで!?」

瀬利「な? お前にゃもともと、この岩を斬れるくらいの力量はあったんだよ」

瀬利「人間の身体ってのは、メチャクチャ疲れると、一番楽な動作をしようとするもんなんだ。つまり一番自然な動きってこったな。
朝の時は体力もあったけど、その分ムダな動きが多かった。でも今は、一日特訓してクタクタになってたから、余計な動作をしなくなった。だから斬れたんだよ」

さやか「瀬利……」

さやか「あんたって、ただ強いだけの奴じゃなかったんだね」

瀬利「ケンカ売ってんのかテメェ」

〜場面転換〜

杏子「さやか、今日も瀬利ん所で特訓すんのか?」

さやか「うん。だからさ……」

杏子「ああ。マミにゃ、うまい事言っておくよ」

さやか「ゴメンね、杏子。マミさんに、変な心配かけたくないから……。じゃあ」

まどか「…………」

まどか「……本当の事が言えないって、こんなの、悲しいよ」

杏子「しょーがねぇよ。マミは頭が固てェからなぁ。ま、あたしが言うのも何だけどよ」

まどか「…………」

まどか(いつか、さやかちゃんと瀬利ちゃんみたいに、みんなが仲良く出来たらいいのに……)



〜おしまい〜

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