〜第42話 The messenger of malice・前編〜

プルルルル……プルルルル……

ウエスト「はい、石丸書店です。……ああ、サウンドウェーブ。え?」

ウエスト「打ち合わせはキャンセル?」

サウンドウェーブ「アア。スマン、メガトロン様ノ予定ガ空キ次第、連絡スル」

ウエスト「分かった。宜しく〜」

アカサカ「どうしたウエスト?」

ウエスト「打ち合わせはキャンセルだって。何かあったのかな?」

ディケイド「“あれ”かな、店長」

アカサカ「ああ。全く大騒ぎだ」

ウエスト「何の話?」

ディケイド「なんだ、お前なにも聞いてないのか? 襲撃事件だよ」

アカサカ「ここ数日で、デストロン絡みの襲撃事件が5件も発生してんだ」

ディケイド「花火をぶちかまそうとしてる奴がいるのさ。色んな勢力のバランスが、綱渡りのロープで逆立ちしてるこの街でな。血を見ないとすまなくなるかもな」

〜場面転換〜

メガトロン「また一人やられたぞ。今度はビーコン部隊のジェネラルだ。ここはサウスタウンか? それともゴッサムシティか?」

ギル「よすでおじゃる、メガトロン」

シルバー「だからこうして情報会を持っている。共存の時代だ。流血と銃弾の果てに、ようやく手にした均衡は大事にしたいと思わないか、メガトロン?」

メガトロン「おや、シルバーエクスプレス。余がいつ言ったかな。“共存を求めている”などと」

郭嘉「フン。“吹く”じゃないですか、銀玉鉄砲。辺境惑星の骨董品が皇帝気取りとは笑わせます。炭鉱に帰って石炭でも掘ってなさい」

メガトロン「フッ……。機駕コロの内部部品はポンコツ車と同じだと言うが、本当かな、郭嘉?」

郭嘉「貴様!」

シルバー「二人とも口を慎め」

シルバー「何のための情報会だ? 確かに我々には、互いにとって忘れられない遺恨がある。
だが現在は相互利益の為に協力し合う時代だ。それぞれの商売の足しになれば“なんでもいい”」

シルバー「下らんメンツなど犬に食わせろ。それがヴィランというものだ」

シルバー「……メガトロン。これは初耳だろうが、我らブラッチャーの者もやられている。ブラックエクスプレスとは別隊のロードブラッチャーと直属の子爵級幹部が一名だ」

シルバー「ヘブンズストリートの給油所で。手口はお宅と一緒だよ」

メガトロン「どういう事だシルバー?」

メガトロン「天秤を動かそうとしている者がいる。“そうだな”、ギル?」

ギル「冗談はよすでおじゃる、メガトロン。我らグランショッカーが、うぬらデストロンと争って何の得があるというのでおじゃるか」

メガトロン「ではギル、真犯人について郭嘉に質問を」

郭嘉「ふざけるんじゃありません、銀玉鉄砲。こちらも師団長が一人やられてるんです」

郭嘉「シルバーさん、これは街の人間の仕事ではありません。流れ者の仕業です。この街の仕組みを知らない奴です」

シルバー「……では、この件は外部勢力と断定し、ヴィランは連携して犯人を狩り出そう。共同で布告も出す。誤解による流血を防ぐためだ。異論は?」

メガトロン「……くだらんな。茶番だ」

郭嘉「なんですって!?」

シルバー「軽率は控えてくれ、メガトロン。この街ごと吹っ飛ばすのは、貴公の本意ではないはずだ」

メガトロン「ふん。親睦会のつもりか、シルバーエクスプレス? お次は人生ゲームでもやるのかね?」

メガトロン「余が今日ここに来たのはな、“我々の立場を明確にしておくためだ”。我がデストロンは行く手を遮る全てを容赦せん」

メガトロン「全ての障害はただ進み、押し潰し、粉砕する」

〜場面転換〜

ガチャッ、ガシャ……

さやか「見なよ、みんな銃をぶら下げてる。まるで西部劇の世界に迷い込んだみたい……」

杏子「当然だな。パニッシャー気取りのイカレ野郎がうろついてんだからよ」

さやか「パニッシャー……『罰を与える者』……。何の罰なんだろう?」

杏子「さぁな。今のサレラシオ(ここ)は火中の栗だ。充分火が通って、破裂するタイミングを待ってるのさ」

ブラー「聞いたか、杏子。賞金が出たぜ」

杏子「いくら?」

ブラー「五百万だとさ」

杏子「へえ? いよいよ本腰だな。あたしらも狙うかい」

ブラー「見当はついてんのかい?」

杏子「うんにゃ。余所者なら分かるはずなんだけどねぇ」

さやか「……そう、余所者がいればすぐに分かる。そんなに大きな街じゃない」

杏子「そいつが見当つかないって事は、匿ってる奴がいるって事さ。でも誰かは分からねえ。おかげでみんな疑心暗鬼だ」

ブラー「まぁ何でも構わねえけどよ。“とばっちり”だきゃあ御免だね」

杏子「心配性だぜ、ブラー。ここは中立地帯なんだ。誰も手は出さねえよ」

瀬利「よぉ、杏子!」

ドカッ!

瀬利「相っ変わらずシケたもん飲んでんなぁ。どうよ、景気は?」

杏子「せ、瀬利! てめえ!」

さやか「ん……?」

さやか「!」

ガタッ!

さやか「あーっ! あんたあの時の!」

瀬利「何だよ何だよ、さやかも一緒かよ。よぉ、元気か?」

杏子「なになに、お前ら知り合いだったのかよ?」

さやか「知り合いも何も、こいつ、あの碧くれはって奴の仲間なんだよ! 何しにここに来たのさ! まさか今回の事件も……」

瀬利「何だよ何だよ、そいつはあたしは無関係だ。大体、あたしはくれはとはダチだが、別にあいつの手下って訳じゃねえ。一から十まであいつに従ってる訳じゃねえよ」

さやか「…………」

瀬利「まぁそうイキんなよ、さやか。ケンカしに来たんじゃねぇよ。お前さんも居るってのは知らなかったが、今日は杏子にいーい話持って来たんだよ」

杏子「……犯人狩りの話だろ?」

瀬利「ありゃ?」

ブラー「杏子とその話をしてたところだ。この街で知らねぇ奴はいねえよ」

瀬利「ありゃ、そうなの? なんだつまんねぇ」

瀬利「いや、そんなら話は早えや。気の早いのは、もう動いてるよ。ヴィランは当然として、フリーの連中も集まってる。聞いた所じゃあダブルディーラー、VAVA、バスコ・タ・ジョロキア……」

ブラー「すげぇな。殺し屋と傭兵の見本市だ」

瀬利「他の連中もだ。ボヤボヤしてっと持ってかれるぜ。五百は惜しいよ杏子」

杏子「全くだ。他に新ネタはねぇのかよ、瀬利」

瀬利「一つあるぜ。実はな……」

〜場面転換〜

ナツミ「どう、デストロンと機駕に続いて、今度はあなたの最大の障害になってるブラッチャーを始末してあげたわ」

?「さすがだな。けど、これだけ派手に動いて、連中にバレたら……」

ナツミ「あら、いいじゃない。バレたらバレたで。この街に君臨する悪の支配者が誰なのか、それを知らしめるのが早いか遅いかの違いでしょう? 何か問題でも?」

?「…………」

〜場面転換〜

アカサカ「やれやれ……」

インペラー「あ、店長お帰りッス」

サンクラ「どうだい様子は? もう誰かに吊るされちまったかい?」

アカサカ「まだだ。だが良くはねえな。こりゃ一つ誤ると事だぜ」

インペラー「通り魔は、相手を知っててやってるんスかね? だとしたらとても正気とは思えないッス」

アカサカ「稀に出てくるのさ、こういう世界には。“厄種”と呼ばれる連中でな。暗黒街でもお荷物になる、クズの中のアウトサイダーだ」

アカサカ「大概は分別なく暴れて、とっととくたばってくれるもんだが、たまに獣並みの勘や冴え過ぎたオツムのせいで、変に生き延びる奴もいる。
言うなれば浅倉威やジャック・ネイピアと同類だよ。連中は、イカれた事なしには生きていけねえ。そして、災厄をまき散らすんだ」

サンクラ「ああいう手合いに共通してんのはな、“色んなもん”を“憎んでる”って事だ」

サンクラ「ただ憎むんじゃなく、色んなものを憎み過ぎて、“自分が何を憎んでるのかも分からなくなっちまってる”。そして最後は、何もかも巻き添えにして吹っ飛ばすのさ」

インペラー「そういうもんスかねぇ」

サンクラ「ま、本当の所は、当の本人にしか分からねぇよ。オレはカウンセラーでも心理学者でもねェからな。これだって受け売りだ」

〜場面転換〜

カッ、カッ、カッ……

マミ(……そう。それなら、尚更私達も気を付けないといけないわね)

マミ「彼女の言葉を全て鵜呑みにする訳ではないけれど、『佐倉さんの友達』としての、彼女の言葉を信じましょう」

さやか(もしアイツが言ってた事が本当なら……あたしが絶対……)

?「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

さやか「!」

さやか(今の悲鳴……あっちだ!)

ナツミ「だ、誰か……」

テラゲーターバズクロウ「…………」

さやか「!?」

バッ!

さやか「あんた達、一体……」

テラゲーターバズクロウ「…………」

ナツミ「あ、有難う……」

ナツミ「助かったわ……」

スッ……

ガキィィン!

ナツミ「!」

さやか「くっ……」

ナツミ「……どうして分かったの? 私が襲われていたのがブラフだって……」

さやか「いくつか引っかかる事があったんだ。デストロン(こいつら)はいくら悪党だからって、理由もなしに“普通の女の子”を襲ったりはしない。
第二に、その二人から弱いけど魔力を感じたんだ。ロボットのデストロンから魔力を感じるなんて、普通なら“有り得ない”。それからもう一つ、聞いたんだよ」

瀬利「実はな……。襲撃事件の犯人は、魔法少女じゃねえかって言われてるらしい」

杏子「魔法少女?」

瀬利「ああ。確かじゃ、ねえがな」

ナツミ「……成程。思ったよりは手練れのようね。ふぅ、頭が痛い……」

さやか「あんた、一体……」

ナツミ「私の名前は淵奈ナツミ」

ナツミ「お察しの通り、この一連の襲撃事件の犯人よ」

ヴゥォォォォォォ……

さやか「くっ……!」

テラゲーター「ん……?」

バズクロウ「あっしら、一体……?」

さやか「あんた達、早くここから離れな!」

テラゲーター「あ、ああ。分かったっぺ」

バズクロウ「何だか知らないけど、さいならでやんす!」

ナツミ「あらあら、いいのかしら。三人でかかって来た方が良かったんじゃないの?」

さやか「いくらデストロンだからって、魔法少女が引き起こした事件に巻き込む訳にはいかない! 魔法少女の悪党は、魔法少女のあたしが止めてやる!」

ナツミ「やれやれ、とんだ正義感ね。頭が痛い……」

スッ……
ザザッ……

さやか「たぁぁぁぁぁぁっ!」

キィン! ギィィン!

ギギギギ……

ナツミ「……へぇ、なかなかやるじゃない」

シュッ!

さやか「?」

チキッ!

さやか「!」

バス! バス! バス!

バギャッ!

さやか「うわぁぁぁっ!」

ドシャッ

さやか「うぐっ……」

ガッ!

さやか「ああっ!」

ナツミ「チェック・メイトね。ただ殺してもつまらないし……そうだ、両手足を吹っ飛ばして、ダルマにしてあげましょうか? もしかしたら本の一冊でも書けるかも知れないわよ?」

チキッ!

さやか「!」

さやか(……あたしは、マミさん達みたいになりたいと思って、今まで戦ってきたのに、それなのに、こんな奴にも勝てないなんて……)

ナツミ「それじゃあ、最初はどこがいい? お望みの場所を吹っ飛ばしてあげるわよ?」

瀬利「神剣無双流……!」

ナツミ「!」

瀬利「青鷺火(あおさぎび)!」

バシュッ!

ナツミ「ちいっ!」

スタッ!

さやか「あ、あんた!」

さやか「瀬利!?」

瀬利「何やってんだよおめえ! ズラかるぞ!」

ガシッ!!

さやか「はあっ!?」

さやか「ちょ……ちょっと離して! 敵前逃亡って、あんたそれでも……」

瀬利「……黙ってろよ」



〜つづく〜

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