〜第38話 そん時の目印にしようや〜

パ――ッ
プップー

瀬利「さ〜ってと、師匠のお使いは終わったし、今日はこれでフリー。何して過ごすかな〜……」

ドン

瀬利「お、悪ぃな」

アンダーバイト「待てやコラ」

瀬利「ああん?」

※「ケンカだケンカだー!」

※「女の子が、デストロンに絡まれてるぞー!」

アンダーバイト「おお痛てえ。こりゃ腕の骨イッっちゃってるなぁ、姉ちゃんよぉ……」

瀬利「……はぁ、センスのねえ絡み方」

アンダーバイト「ん?」

瀬利「もうちっと捻った方がいいんじゃねえの、オッサン?」

アンダーバイト「ふん、その度胸に免じて命だけは助けてやるぜ。ただし、有り金全部置いてったらの話だが」

瀬利「ごたく並べてねえでさっさと来いよ」

アンダーバイト「ああん?」

瀬利「こちとら暇じゃねえんだよ! このミニチュアダックスフンド!」

どっ!
ははははは!


アンダーバイト「てっ、てっ、てめぇ……」

アンダーバイト「オレを犬扱いすんなーっ!」

瀬利「犬は犬だろうがーっ!」

ドガァァァァァッ!

アンダーバイト「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

瀬利「悪りぃけど、動物に付き合ってる暇ねえんだよ、あたし」

おおーっ!
パチパチパチパチ!

〜場面転換〜

瀬利「〜♪ 〜♪」

グイッ

瀬利「ん? なんだ?」

?「おーばさん♪」

瀬利「おっ、おばっ……」

瀬利「いいか、坊主?」

?「坊主じゃないよ。ファイアだもん」

瀬利「オーケー、ファイア。言っておくが、あたしはまだ14だ。おばさんなんてトシじゃねえ。いいか?」

ファイア「うん!」

瀬利「そーか。分かってくれりゃあそれでいい。じゃあな」

ファイア「あっ! ちょっと待ってよ!」

ファイア「おばさん!」

瀬利「!」

瀬利「だ、か、ら……」

ファイア「『お姉さん』、でしょ?」

〜場面転換〜

てくてく……
とっとっと……

瀬利(なんだよなんだよ、犬の次は迷子かよ。あたしの今日の運勢、そんなに悪いってのか? 苛立たしいぜ……)

瀬利「頼む! ついてくるな!」

ファイア「やだ! 僕の話聞いてくれるまで、ずっとついていくもん!」

瀬利「…………」

〜場面転換〜

汐莉「〜♪ 〜♪」

汐莉「あら?」

汐莉「あれは瀬利ちゃん……」

汐莉「んがっ!」

くれは「どうしたんですか、急に立ち止まって?」

汐莉「せ、せ、瀬利ちゃんが! ちっちゃい男の子をたぶらかして……」

くれは「瀬利が?」

くれは「どこに?」

汐莉「あら……?」

くれは「見間違えたんじゃないですか?」

汐莉「そんな事ないわよ〜! 瀬利ちゃんが、こーんなちっちゃい男の子と一緒に……」

くれは「それはないですよ。ああ見えても、瀬利はノーマルですから」

汐莉「そうかしら……」

〜場面転換〜

ファイア「いっただきま〜す♪」

瀬利「いいか? それ食ったらさっさと帰るんだぞ?」

ファイア「やだ! だったら食べない!」

瀬利「あのなぁ……」

ファイア「む〜……」

瀬利「分かった分かった。とにかく、それ食え」

ファイア「うん!」

ファイア「ねえお姉ちゃん」

瀬利「ん?」

ファイア「名前なんていうの?」

瀬利「あたしか? あたしの名前は……」

瀬利「瀬利。築紫瀬利だ」

ファイア「ふ〜ん……」

ファイア「変な名前」

瀬利「ガクッ……」

ファイア「ねえ瀬利……」

瀬利「?」

ファイア「僕の話を聞いて」

瀬利「…………」

ファイア「…………」

ぽん

瀬利「しゃーねぇな」

ファイア「それじゃあ!」

瀬利「いいぜ。話してみな?」

ファイア「僕……僕……瀬利を雇いたいの!」

瀬利「はぁ……?」

瀬利「何言ってんだ、雇うって意味知ってんのか?」

ファイア「瀬利……強いんでしょ?」

瀬利「言うほどじゃねぇが、それなりにゃあな」

ファイア「だから、瀬利を雇いたいんだよ」

瀬利「雇うねぇ……」

瀬利「言っとくけど、あたし、高いぜ?」

ファイア「……いいよ。お金が無いから……」

ファイア「これでお願い」

瀬利「何だこりゃ? こんなモン……ん?」

ファイア「…………」

瀬利「訳ありって事ね……」

ファイア(僕、仲間のゼロやユニコーンと旅をしてたんだ。
でも、この街の近くの森を通った時、怪物に襲われて……)

ドガァッ!

ユニコーン「ぐわっ!」

ファイア「ユニコーン!」

ゼロ「いいか? 絶対に出てきちゃ駄目だぞ」

ファイア「でも……!」

ゼロ「音を立てるんじゃないぞ。朝になったら、街に向かうんだ」

ファイア「ゼロ……!」

ゼロ「元気でな」

ファイア「ゼロ!」

ファイア「ゼロ……ユニコーン……」

ファイア「街の人に話しても、誰も相手にしてくれなかった。
子供の僕が言う事だから信じてくれなかったのか、怪物が怖かったのか知らないけど……」

瀬利「成程ね。道理でしつこい訳だ」

ガタッ……

瀬利「じゃ、行こうか」

ファイア「え?」

瀬利「ビシッとリベンジ、決めるんだろ?」

ファイア「うん!」

〜場面転換〜

くれは汐莉「ただいま〜」

くれは「すみません暁美さん。留守番してもらっちゃって……」

ほむら「別に、気にしないで。それより、何か変わった事は無かった?」

くれは「それなんですが……」

ほむら「何?」

くれは「ちょっと気になる噂を耳にしたもので……」

ほむら「どんな噂?」

くれは「どうやら、最近頻繁に人が居なくなっているみたいです。街の人達は『神隠し』なんて言ってるみたいですが……」

ほむら「魔女の仕業かも知れない、という事ね?」

くれは「どうしますか?」

ほむら「魔女の仕業なら、巴マミ達に任せておいても良いのだけれど……」

くれは「ただ、もし魔女なら、結界に取り込まれでもしない限り、普通の人には見えませんし……」

ほむら「少し調べてみた方が良さそうね」

くれは「じゃあ、もう少し街の人の話を聞いておきますか。あ、これお土産です

ほむら「そうね。……ありがと

〜場面転換〜

瀬利「襲われたのはここなんだな?」

ファイア「うん……」

瀬利「けっこう近いか……」

ファイア「え?」

瀬利「ああ、こっちの話。さ、行くぞ」

ファイア「行くってどこへ?」

瀬利「怪物アジト♪」

ファイア「え?」

ズゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ……

瀬利「覚悟はいいか?」

ファイア「うん、いいよ……」

ガチャ

瀬利「ごめん下さ〜い」

ファイア「誰も居ないみたい……」

瀬利(な〜んか変だ。一見なんの変哲もない家みたいだが、何か気に食わねぇ。
まるで実物大のドールハウスにでも放り込まれたみたいだ。
それにこの妖気、家中に反響しやがって、実態がどこにあるのか見当もつかねぇ……)

?「ううぅ……」

ファイア「瀬利、あそこ……」

瀬利「扉の向こうか?」

バンッ!

瀬利「! なっ……何だこりゃ!?」

ファイア「そんな……!」

ゼロ「ううぅ……」

ユニコーン「ううっ……」

ファイア「みんな!」

瀬利「待て!」

瀬利「これを見ろっつーの!」

ザシュッ!

ズリュゥゥゥゥゥ……

瀬利「あたしら、クジラの腹ん中ってか。取り敢えず外に出る。いいな?」

ファイア「うん!」

ビュバッ!

ファイア「ああっ!」

瀬利「やっぱこうなるか!」

バシュゥゥゥゥゥッ!

瀬利「走るぞ!」

ザシュッ! ザシュゥッ!

瀬利「しつけぇ奴は嫌われんぞ!」

ファイア「瀬利! 出口が……!」

瀬利「ちっ……!」

ガシュッ!

ファイア「瀬利、早く!」

瀬利「いや、そいつは無理くせぇ……」

ファイア「!」

ファイア「瀬利!」

瀬利「来るな! 邪魔だからさっさと行け!」

ファイア「でも瀬利が、瀬利が……!」

瀬利「へっ……。やっぱ、ガキにゃ弱いな、あたし……」

ズシィィィン!

ファイア「瀬利――っ!」

〜場面転換〜

怪物「くっくっくっく……」

怪物「驚いた。わざわざ餌になりに来る奴がいるなんて」

瀬利「客の対応、なってないんじゃないか? この家」

怪物「減らず口がまだ叩けるのか。いい度胸じゃねえか」

瀬利「口だけは達者なもんでね」

怪物「貴様……何者だ?」

瀬利「さぁな……」

怪物「まあいい。どうせお前は死ぬんだからな」

瀬利「死に土産に、一つ訊いていいか? 奥の人達はまだ生きてんの?」

怪物「ああ。食い物は新鮮な方がいいだろう?」

瀬利「あっそ。そりゃ何より」

怪物「でもお前は今すぐ殺す事にするよ……」

瀬利「おー怖。そりゃまたなんで?」

怪物「貴様は危険な臭いがするからだ!」

ビュバッ!

瀬利「ちっ!」

ビュオッ!

ドゴッ!

怪物「ぐわっ!」

瀬利「おーおー、ナイスなタイミングだこと」

ほむら「なかなかいい恰好ね、築紫瀬利」

瀬利「へぇへぇ、否定はしませんよ」

くれは「写真でも撮っておきましょうか?」

瀬利「それだきゃカンベン」

汐莉「やっだぁ、瀬利ちゃんてば。遠慮しないで欲しいの〜♪」

ガン! ガン! ガン!

スタッ!

怪物「貴様ら、いつの間に……!」

汐莉「たぁぁぁぁぁぁぁっ!」

シャァァァッ!

汐莉「えっ!?」

怪物「かぁぁぁぁぁぁっ!」

くれは「気を付けて、汐莉!」

汐莉「ありがと!」

ほむら「くっ、キリが無いわ!」

ガン! ガン! ガン!

瀬利「くれは、何か方法ねえの!?」

くれは「そんな事言われても……」

くれは「?」

ウゾゾゾゾ……

くれは「あれ狙うってどうです? なんか、弱点ぽいし……」

汐莉「いいの、そんなんで?」

瀬利「くれはのその勘に賭けようじゃねえの!」

ほむら「勘がいいからね、彼女は」

瀬利「行くぜ!」

怪物「させるか!」

瀬利「!」

ドガッ!

怪物「これでお前は丸腰だ……」

怪物「!」

瀬利「ざ〜んねん。神剣無双流にゃ、丸腰の時の技もあるんだ……」

瀬利「よっ!」

ドゴッ!

怪物「ぐはぁっ!」

ギギギギギ……

瀬利「神剣無双流……」

瀬利「山童(やまわろ)!」

ドギュッ!

バシュゥゥゥゥゥッ……!

ズドドドドドドド……

〜場面転換〜

チチチ……
チュン、チュン……

ファイア「ゼロ! ユニコーン!」

ゼロ「ファイア!」

ファイア「良かった。本当に良かった」

ファイア「瀬利!」

瀬利「良かったな、ファイア」

ファイア「瀬利……」

瀬利「じゃ、気を付けてな……っと」

スッ……

瀬利「あたしがつけてても、似合わねぇから」

ファイア「でもそれじゃ、僕、何もお礼してないよ!」

瀬利「いつかお前が立派な騎士になったら、またあたしン所に来い。
そしたら、あたしと手合わせしてくれ。ペンダントは、そん時の目印にしようや」

ファイア「えっ?」

瀬利「それが礼って事でどうだ?」

ファイア「うん! 瀬利、ありがとう!」

瀬利「……それにしても、何であんなに都合よく現れてくれちゃった訳?」

ほむら「貴方の彼氏が見たかったのよ」

瀬利「は?」

くれは「街で噂になってましたよ。瀬利らしき人が、町で散々暴れた後、男の子を連れて森の方へ逃げて行ったって」

瀬利「いいっ!?」

汐莉「可愛かったわね〜、あの子。まさか瀬利ちゃんにあ〜んな趣味があるなんてね〜♪」

瀬利「いっぺん死ぬか汐莉!?」

汐莉「な〜によなによ。本当のことじゃな〜い。街中その噂で持ちきりよ〜♪」

瀬利「ちっくしょ、これじゃ当分街中歩けねえじゃねえか! ホントに今日はついてねぇ!」

瀬利「ああもう全く、苛立たしいぜーっ!」



〜おしまい〜

戻る