〜第37話 私が決めたことだから〜

くれは「…………」

ほむら「くれは」

くれは「?」

くれは「暁美さん……。いらしてたんですか」

ほむら「ごめんなさい。呼び鈴は鳴らしたのだけれど……」

くれは「すみません。少し、ボーっとしてたみたいです」

ほむら「そのグリーフシード……」

くれは「これは……私の友達です」

ほむら「…………」

くれは(私が彼女と知り合った時の事を、私は今でも鮮明に覚えています……)

?「はいっ!」

ポンッ!

くれは「!」

?「びっくりした?」

くれは「それはまあ……いきなり目の前でそんな事されたら。貴方……楓 藍(かえで・あい)さん、でしたよね」

藍「覚えててくれたんだ♪ えへへ、碧さんの表情が変わったの、初めて見ちゃった」

くれは「……私、そんなに無表情ですか?」

藍「うん。碧さんって、勉強もスポーツも出来るのに、何でいつもつまらなさそうな顔してるのかなって」

くれは「そう……ですね。確かに、言われてみるとそうかも知れません。
何と言うか……大体の事は、一度やると出来てしまうので、やりがいを感じなくなってるのかも知れません」

藍「ふ〜ん。何をやっても“つまんない”なんて……それじゃ、碧さんって、よっぽど“つまんない”人なんだね」

くれは「!」

藍「あ……ゴメン。私、思った事をそのまま言っちゃうってクセがあって、治さなきゃって思ってるんだけど、その……」

くれは「いえ、気にしないで下さい。逆にそこまではっきり言われると気持ちが良いです」

くれは(それから私は、彼女と友達になりました。私とは全く違ったタイプの方でしたし、
何より『立派な手品師になりたい』という、『やりたい事』をしっかりと持っていた事に魅かれたのかも知れません。そんなある日……)

くれは(藍ちゃんは凄いなぁ。ちゃんと自分でやりたい事がはっきりしてて。それに比べて、私は……)

くれは「ん?」

くれは「なに、ここ……? 私、夢でも見てるの……?」

使い魔「ケッケッケッケ……」

使い魔「カッカッカッカ……」

くれは「!」

顔の魔女

魔女「グルルルル……」

くれは「なに、こいつ……!?」

魔女「ガァァァァッ……」

くれは(に、逃げないと……でも、脚が……)

魔女「ガァァァァァァァッ!」

くれは「!」

?「させないよ!」

パン! パン!

魔女「!」

?「大丈夫だった? 危ないから離れてて」

くれは「貴方……」

くれは「あ……藍ちゃん?」

藍「えへへ、いきなりバレちゃったね」

藍「学校では内緒にしててね♪」

藍「はっ!」

くれは「これって……」

キュゥべえ「彼女は魔法少女。魔女を狩る者たちさ」

くれは「貴方は……」

キュゥべえ「ボクはキュゥべえ。よろしく、くれは」

藍「はぁっ!」

ドン! ドォォン!

ドゴォォォォォォン!

ズズゥゥゥン……

藍「大丈夫だった? 怪我は無い?」

くれは「う、うん……」

くれは「!」

グオッ!

くれは「藍ちゃん、危ない!」

藍「きゃっ!」

ズシィィィン……

藍「ビックリした〜……。最後の悪あがきだったみたいだね。有難う、くれはちゃん」

くれは「……藍ちゃんは、いつもこんな危ない事をしてるの?」

藍「うん。だってこれが、魔法少女の使命だから」

くれは「……今度からは、私も一緒に連れて行ってくれない?」

藍「また危ない目に遭うんだよ? どうして?」

くれは「藍ちゃんが友達だから。心配だからだよ」

ほむら「……それが貴方の、魔法少女との出会いだったのね」

くれは「ゲーテいわく、『あの人が私を愛してから、自分が自分にとって、どれほど価値のあるものになった事だろう』。私にとっては、まさに彼女がそれでした」

くれは(そして……私は彼女と一緒にパトロールなんかをするようになりました。
とは言っても、暁美さんもご存知の通り、魔女はいつでも出る訳でもないので、大抵は雑談したり、遊んでる内に帰宅する事が多かったんですが)

くれは(友達と一緒にゲームセンターに行く、なんて言うのも初めての体験で、私は彼女からいろいろな事を教わりました)

キュゥべえ「ねえくれは、キミは魔法少女にならないのかい? キミが魔法少女になれば、彼女ももっと助かると思うんだけど」

くれは「それはそうかも知れませんが……私、これといって願い事が無いんですよねぇ」

藍「うん。私もくれはちゃんには、簡単に魔法少女にはなって欲しくない……」

くれは「藍ちゃん?」

藍「よく考えてから、『自分の力じゃどうにも出来ない事』を、どうしても叶えたくなった時に願い事をしないと、きっと後悔する事になると思うから……」

くれは「…………」

くれは(彼女が『奇術の腕をもっと上げたい』という願いでインキュベーターと契約した、という事は後で聞きました。
でも、彼女はその事を悔んでいたんだそうです。『自分の夢を、安易に契約で叶えてしまった』って。そして、『あの日』がやってきました……)

藍「くれはちゃん……」

くれは「藍ちゃん、どうしたの!? 顔、真っ青じゃない!」

藍「くれはちゃん……私、私、魔女になんかなりたくないよぉ……」

くれは「!? どういう事!?」

藍「キュゥべえから聞いたの。『ソウルジェムの浄化が間に合わずに、黒く染まり切った時、私達は魔女になる』って……」

くれは「そんな……それじゃあすぐに、ソウルジェムを浄化しないと!」

藍「もう、手遅れなんだ。ほら……」

くれは「!」

藍「グリーフシードも切らしちゃってるし、気づくのが遅かったの……」

くれは「……どういう事です、キュゥべえ!」

キュゥべえ「彼女の言った通りさ。グリーフシードが無い以上、彼女はもう、すぐにでも魔女になってしまうだろうね」

くれは「何故、そんな大事な事を黙っていたのですか!」

キュゥべえ「訊かれなかったからね。でもくれは、キミなら彼女を助けられるよ。『彼女を救う』って願いで、ボクと契約すればいいのさ」

藍「だめ! それはやめて、くれはちゃん! 私のために、魔法少女になんてならないで……」

くれは「でも……」

藍「バチが、当たっちゃったのかなぁ。契約なんかで、簡単に夢を叶えようとしたから……」

くれは「そんな事……そんな事……」

藍「もう、お別れだね、くれはちゃん。私、くれはちゃんに会えて、幸せだったよ。私の夢を応援してくれて、私と一緒にいてくれて……」

くれは「藍ちゃん!」

藍「さようなら、くれはちゃん……大好きだよ」

ヴォォォォォォォォッ!

くれは「藍ちゃぁぁぁぁぁぁん!」

ズズズズズズズズズ……

くれは「こんな、こんな事って……」

奇術師の魔女

くれは「キュゥべえ、貴方は……彼女を騙していたのですか!?」

キュゥべえ「騙す? 認識の相違から生じた判断ミスを後悔する時、人間は決まってそう言うんだよね。まったく、訳がわからないよ」

くれは「貴様……! 貴様は!!」

キュゥべえ「それよりもくれは、このままだと、キミも危ないんじゃないかい?」

くれは「『“訊かれなかったから”教えなかった』。そう言いましたね。だったら、洗いざらい教えてもらいましょうか。貴方の目的を。貴方が何を考えているのかを」

くれは(精神の死は、肉体の死よりも重い! 藍ちゃんを弄んだ罪、しっかりと清算してもらう!)

くれは「こうして私は、彼と契約しました。彼女を助けるために。同時に彼らに復讐するために。
彼らに感情の概念が無いと知ったのもその時です。
ですので、私は彼らが私の怒りを理解できないという事を逆手にとって、“あんな条件の”願い事をした、という訳です」

ほむら「そういう事だったのね……」

くれは「……つまらない話をしました」

ほむら「いいえ、そんな事は無いわ。私も……同じだから」

汐莉「ただいま〜♪」

くれはほむら「?」

汐莉「くれちゃん、お夕飯の材料買ってきたわよ〜って……やっだぁ、ほむらちゃん。来てたのね♪」

ほむら「七海汐莉……」

くれは「そう言えば、暁美さん、お夕飯まだですよね。良かったら食べて行って下さい」

ほむら「別に、そんな気を使わなくても……」

汐莉「やっだぁ、ほむらちゃんてば。遠慮しないで欲しいの〜♪」

ほむら「ちょ、ちょっと、七海汐莉! 引っ張らないで……! 分かった! 分かったから!」

くれは「クスッ……」

くれは「…………」

くれは(藍ちゃん、ごめんね。結局私、魔法少女になっちゃった。でも、後悔はしてないよ。
だって、私が選んだ道だから。私が決めたことだから……)

Someday I want to run away
To the world of midnight
Where the darkness fill the air
Where it's icy cold

Where nobody has a name
Where living is not a game
There, I can hide my broken heart
Dying to survive

There, no one can see me cry
The tears of my lonely soul
I'll find peace of mind
In the dark and cold world of midnight...


魔女図鑑

顔の魔女

顔の魔女。その性質は束縛。
全ての価値観を顔立ちに置いている。
気に入った顔があれば、頭ごと切り取って集めている。

顔の魔女の手下

顔の魔女の手下。その役割はコレクション。
魔女に収集された顔の成れの果て。
既に白骨化した彼らは、魔女から見向きもされない。

奇術師の魔女

奇術師の魔女。その性質は感動。
マジックの舞台のような結界の中で、観客を感動させるマジックの研鑽に心血を注いでいる。
だが、今や彼女のマジックを目にするのは手下のみである。



〜おしまい〜

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