〜第32話 意固地なのも大概にしとけよ〜

マミ「魔女は逃げたわ。仕留めたいならすぐに追いかけなさい。今回は貴方達に譲ってあげる」

くれは「……別に魔女の事など大した問題ではないんですが」

マミ「飲み込みが悪いわね。見逃してあげるって言ってるの」

ほむらくれは「…………」

さやか「それとも、あたし達とやり合う気?」

杏子「なら相手になってやるぜ」

マミ「もう、二人とも。すぐに実力で訴えては駄目よ」

マミ「……お互い、余計なトラブルとは無縁でいたいと思わない?」

くれは「……おっしゃる通り。仕方ありません、今回は失礼させて頂きます。
シェークスピアいわく、『神よ、知り合い同士が手をつなぎ合うのはなんと難しい事か』。行きましょう、暁美さん」

ほむら「…………」

〜場面転換〜

ほむら「助っ人?」

くれは「はい。先日みたいに予期せぬ事態があった場合、人数がいた方が対処もしやすいかと思いまして。
それに、この間のように巴さん達とトラブルになった場合、今のところ私達は人数的にも戦力的にも不利ですしね。
特に美樹さんと佐倉さんの連携は、かなり高度なレベルに達しています。美樹さんの魔法少女としての成長が著しいようです」

ほむら「貴方にしては珍しいわね。美樹さやかにそこまで高い評価をしているなんて」

くれは「美樹さんをなめてはいけませんよ。伸びしろで言えば、彼女は佐倉さん以上です。
元々パワー、スピード、防御力、回復力がバランス良く優れている上、巴さんが生存している内に契約して、
なおかつ佐倉さんとの仲も良好である事が彼女にとってプラスに働いたようですね。
精神的に余裕がある状態で腕を磨くことが出来た、と」

ほむら「…………」

くれは「まぁ、彼女達の生存率が上がるのは良い傾向だとして、私達が身動きが取れなくなってしまっては元も子もありませんからね」

ほむら「……あなた、私達以外に魔法少女の知り合いなんていたの?」

くれは「ええ。実力は申し分ないのですが、性格的に少々クセがある方々だったので、今まで呼ぶことを躊躇していたのですけれど……四の五の言っていられる状況でもありませんし」

ほむら「……任せるわ」

〜二日後。〜

くれは「暁美さん、彼女たちが到着したようです」

(BGM「氷結の軍団」)

くれは「暁美さん、紹介します」

くれは「こちらが築紫 瀬利(つくし・せり)さんで……」

瀬利「けっ」

くれは「こちらが七海 汐莉(ななみ・しおり)さんです」

汐莉「どうも〜♪」

くれは「瀬利、汐莉。こちらが話していた暁美ほむらさんです」

瀬利「けっ、何だよ何だよ。陰気そうな奴だなぁ! 苛立たしいぜ!」

汐莉「やっだぁ、瀬利ちゃんったら。綺麗でサラサラの黒髪じゃない。いいわ〜、羨ましいわ〜。私、くせっ毛だもん」

ほむら「……くれは」

くれは「……だから『性格の方にクセがある』って言ったじゃないですか。取り敢えず、実力の方は保証しますよ」

汐莉「ねぇねぇ、くれちゃん。私達、ちょ〜っとお散歩に行ってきたいのぉ」

くれは「散歩?」

汐莉「そう。折角初めての街なんだもの。あっちこっち見てみたいわぁ〜」

くれは「……それは構いませんが、くれぐれもトラブルを起こさないで下さいよ? 特にこの街の魔法少女の方と」

汐莉「やっだぁ。分かってるわよ♪」

〜場面転換〜

汐莉「なかなかいい街ねぇ」

瀬利「ん?」

汐莉「どしたの、瀬利ちゃん?」

ロードブロック「さあさあ、次の挑戦者は誰だ〜!? このグリジバーに一発でも攻撃を当てれば賞金10万円だよ〜!
もちろん、グリジバーは防御だけ! さあさあ、我こそはと思う方は、大金ゲットのチャンス!」

瀬利「けっ、武術をショーにしてんのかよ。苛立たしいぜ!」

汐莉「え〜、でもぉ、瀬利ちゃんなら勝てるんじゃな〜い?」

瀬利「なに言ってんだよ」

汐莉「上手くいけば、アイツらの鼻っ柱ヘシ折って、10万円までゲット出来ちゃうのよ。やってみて欲しいの〜」

瀬利「…………」

さやか「それでさ……」

まどか「へぇ〜」

ガヤガヤ……

まどかさやか「?」

さやか「何だろう、あの人だかり?」

さやか「何かあったんですか?」

ゲルググ「ああ、今、『攻撃を当てられたら賞金10万円』ってショーをやっててよ。女の子が挑戦してるみたいなんだ」

まどか「女の子?」

さやか「ほんとだ!」

まどか「さやかちゃん。あの子、私達と同じくらいの年みたいだね」

さやか「そうだね……」

さやか「お〜い!」

瀬利「?」

さやか「なんか良くわかんないけど、がんばれ〜!」

まどか「がんばって〜!」

瀬利「へっ……」

瀬利「行くぜ、オッサン」

シュンッ!

一同「!?」

バシッ!

グリジバー「!?」

瀬利「ほい、一本」

まどか「……さやかちゃん、今の、見えた……?」

さやか「ううん、全然……」

〜場面転換〜

さやか「さっきの子、凄かったね〜」

まどか「うん。ビックリしちゃった」

瀬利「よお、あんたら」

さやかまどか「?」

瀬利「さっきはありがとよ。あたしの事、応援してくれてたろ」

さやか「応援ってほどじゃないけど……あたし達と同じくらいの年に見えたのに、あんな事に挑戦してて凄いなって思って」

瀬利「これも何かの縁だ。応援の礼って訳でもねえけど、茶でも奢らせてくれよ」

さやか「でも、会ったばかりの相手にそんな……」

瀬利「遠慮すんなって。なんせ、今あたしらは10万入ったばっかなんだからよ」

〜場面転換〜

瀬利「……それでよ、あたしのダチが、この街での仕事がはかどらねえからって、あたしらが呼ばれたんだ」

さやか「へぇ〜。じゃ、築紫さんが呼ばれたって事は、結構危ない仕事をしてる人なの?」

瀬利「ああ〜、まぁ、そんなような、そうでないような……」

さやか「?」

さやか「でも、さっき見てたけど、築紫さんって本当に強いんだね。デストロン相手にあっという間に勝っちゃったんだもん」

瀬利「……そんな事はねえよ。あたしなんざ、まだまだだ。師匠だった親父にゃ、一度も勝った事がねえしよ。それに……」

さやか「?」

瀬利「……いや、何でもねえ。それからさ、あたしの事、『瀬利』でいいよ。苦手なんだ、名字で呼ばれんの」

さやか「分かった。それじゃ、あたしの事も『さやか』でいいよ」

さやか「!」

ガタッ!

まどか「さやかちゃん?」

さやか(まどか、魔女が出たみたい!)

まどか(ええっ!)

さやか(あたし、行ってくる!)

まどか(気を付けて。私もすぐ、マミさんに知らせて来るから!)

さやか(うん! 宜しく!)

瀬利「なんだよなんだよ、どうしたんだ?」

さやか「ごめん、あたし達、急用を思い出しちゃってさ……もう行かないと」

瀬利「そうか。けど、あんたとはまた、どっかで会えそうな気がするな」

さやか「そうだね」

〜場面転換〜

さやか「……思ったより静かな結界だな……」

さやか「!」

使い魔「バウバウ!」

使い魔「ワォーン!」

さやか「さっそくお出ましか!」

さやか「一気に蹴散らしてやる!」

使い魔「ワォ――ン!」

さやか「くっ、すばしっこい!」

シュォォォォォ……

さやか「!」

墓守の魔女

さやか「親玉のご登場か!」

?「なんだよなんだよ、魔女の気配を感じたから来てみりゃあ……」

さやか「!?」

さやか「あ、あんた達! まさか……!」

瀬利「お前、魔法少女だったのか。まあいいや」

瀬利「まずは一仕事片づけちまおうぜ、汐莉」

汐莉「オッケー♪」

ヒュバッ!

ババッ!

ザン!

瀬利「よし、行くぜ!」

汐莉「了解〜♪」

瀬利「神剣無双流……」

瀬利「窮奇(きゅうき)!」

ガキィィィィン!

瀬利「ちっ、固てぇ魔女だな。汐莉!」

汐莉「は〜い♪」

シュッ!

汐莉「それっ!」

バギャッ!

ズザザザザザ……

ギギギギギ……

ズズズズズ……

瀬利「ノックして『もしも〜し』ってか。本体のお出ましだな」

ヒュバッ!

シャッ!

汐莉「やっだぁ。鋭くて良く切れそうな鎌。いいわぁ〜」

汐莉「私もそれ、欲しいわ〜」

シュゥゥゥ……

スッ……

汐莉「はあっ!」

ザンッ!

汐莉「やっぱり良く切れるわねぇ♪」

汐莉「瀬利ちゃん、あとお願いね♪」

瀬利「あいよ」

チャッ!

瀬利「神剣無双流……」

瀬利「水虎(すいこ)!」

ザシャァァァァァァァッ!

ドガァァァァァァァァァァァァァァン!

さやか「す、すごい……」

瀬利「なんだよなんだよ、くれはの奴、こんな魔女がいる街で手間取ってやがんのか?」

さやか「!」

汐莉「やっだぁ。たまたまこの魔女が弱かっただけかも知れないわよ〜?」

瀬利「よぉ、あんた。危なっかしかった……」

瀬利「なんだよなんだよ、得物の“マズい方”がこっちを向いてるが、こりゃ一体どういう訳だ?」

さやか「あんた……あんたの仲間ってのは、あの碧くれはって奴なんだろ?」

瀬利「なんだよ、くれはの事知ってるのか?」

さやか「知ってるも何も、グリーフシード目当てでキュゥべえを狙ってる、自分勝手な奴らじゃんか!」

瀬利「何だそりゃ? まぁいい。どういうつもりか知らねえが、先に剣を向けたのはそっちだからな」

チキッ

瀬利「やるってんなら、ちょっと遊んでやるよ。おい、汐莉、お前は手ぇ出すなよ」

汐莉「は〜い。なんか、ややこしい事になっちゃいそうねぇ……」

さやか(こいつ……冗談抜きに強いけど……でも、マミさんも杏子もいない今、あたしが頑張らないと!)

さやか「たぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

パシッ!

さやか「!」

瀬利「何だよ何だよ、筋はいいみたいだが、基礎がなってねえじゃねえか。苛立たしいぜ!」

瀬利「ほらよ」

ガキィィィン!

さやか「うわっ!」

瀬利「今日はこれ位にしといてやるよ。もうちょっと腕を磨いて、また来い。今度はもうちょっと、あたしを楽しませろよ」

さやか「くっ、まだまだ!」

ギィン! キィン! カシィィン!

瀬利「物わかりの悪ィ奴だな。いい加減にしとけよ」

さやか「まだだぁっ!」

瀬利「ちっ……」

ガキッ!

さやか「うわぁっ!」

瀬利「意固地なのも大概にしとけよ。身の丈を知るってのも大事な事だぜ」

さやか「……そうやってあんたは、『身の丈』って奴を知って諦めたんだね」

瀬利「あん?」

さやか「あたし、ちょっと話しただけだけど、あんたの事、侍みたいな真っ直ぐな奴だって思ってた……。
強くなろうと頑張ってるんだって、思ってた。でも……」

さやか「あんたは自分の“身の丈”を知って、強くなる事を諦めて、あんな奴らとつるむ事を選んだんだ」

瀬利「てめえ……」

さやか「あたしは確かにマミさんや杏子に比べたら、まだまだ未熟だけど、だからって諦めたりしない!」

瀬利「てめえなんかに何が分かるってんだ!」

さやか「分かるもんか! 魔法少女の力を自分のために使ってるような、そんな連中の仲間になってる奴の事なんか!」

瀬利「てめぇ……。“てめえらのそれが”! あたしを“殺しやがった”!」

汐莉「あ〜あ、瀬利ちゃんを本気にさせちゃった。あたし、知〜らないっと……」

ギィィン!

瀬利「こ、の、野郎……」

瀬利「しつけぇんだよ! いい加減引き下がりやがれ!」

ガキン! ギィィィン!

さやか「うるさい! あんた達こそ、この街から出てけ!」

汐莉「ん〜、本気になってる瀬利ちゃん相手に、あの子なかなかやるわねぇ。妬ましいわ〜……」

汐莉(あの子が本当に、くれちゃん達の邪魔になってるんなら、ここでやっつけちゃっといた方がお得だとは思うけど……)

チキッ

汐莉「や〜めた。余計な事して、瀬利ちゃん怒らせる方が損だもんね」

瀬利(嫌いだ。本当に嫌いだ)

瀬利(魔法少女は正義の味方であるべしなんて思い込んでる、こいつらが大嫌いだ)

瀬利(我らこそが真の魔法少女だとぬかさんばかりの、こいつの目が大嫌いだ)

ギギギギ……
ガン! ガン!


瀬利「!」

瀬利「ちっ! ちぃっ!」

キン! キィン!

さやか「!」

マミ「余りその子をいじめないでくれるかしら。その子は私の大事な後輩なんだから」

さやか「マミさん!」

瀬利「なんだよなんだよ、不意打ちで飛び道具たぁ、苛立たしいぜ!」

スッ……

汐莉「あ〜ら。じゃあ、こっちはアタシに任せてもらおうかしら。瀬利ちゃんばっかり、ズルいわぁ〜」

マミ「…………」

ジャカカカッ……

マミ汐莉「!」

ドンッ! ドゥンッ!
ガン! キン!

タンッ!

汐莉「それっ!」

マミ「くっ!」

ガキィィィン!

マミ「!」

汐莉「もう一つ!」

マミ「くっ!」

シュッ!

マミ「これならどう!?」

シャガッ!

マミ「ティロ・フィナーレ!」

ドンッ!

汐莉「やっば!」

ヒュッ……

ガキン!

ドゴォォォォォォォン!

マミ「ティロ・フィナーレが!」

汐莉「よくもあんな大技かましてくれたわねぇ。覚悟して欲しいの〜……」

?(瀬利! 汐莉!)

瀬利「くれは!」

汐莉「くれちゃん……」

くれは(何をしてるんですか、貴方達は! すぐに戻って来なさい!)

瀬利「先に仕掛けてきたのはコイツらだ! それに、今さら引っ込めるかよ!」

さやか「たぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

瀬利「ちいっ!」

キィィィン!

くれは(戻 れ と 言っ て る ん で す! 私 は!)

ギリッ……

ヒュッ……

瀬利「苛立たしいが、今日はここまでだ。これ以上やると、くれはに本気で怒られるんでな」

マミ「そう簡単に逃げられると思ってるのかしら?」

チャッ……

瀬利「思ってるさ。神剣無双流……」

瀬利「大太郎法師(だいだらぼっち)!」

ドガァァァァァァァァァァァァァン!

マミさやか「!」

マミ「…………」

マミ「どうやら逃げられたみたいね……」

マミ「美樹さん、大丈夫だった?」

さやか「うん。有難う、マミさん」

マミ「本当に、一人で無茶をしては駄目よ?」

さやか「は〜い……」

さやか(もっと、もっと強くならないと。今のままじゃ、全然ダメだ……!)

〜場面転換〜

くれは「まったく。あっっっっれほど、『この街の魔法少女の方と問題を起こさないように』って言いましたよね?」

汐莉「ごめ〜ん。仲良くなった子が魔法少女だったなんて、思いもよらなかったのよぉ……」

くれは「ふう……。まぁ、今回は、彼女達を牽制できた、と思いますか。マーデン曰く、『弱い人間はチャンスを待ち、強い人間はチャンスを作る』」

汐莉「そうそう。ポジティブに考えなきゃダメよ〜♪」

くれは「貴方は少し反省なさい!」

汐莉「怒らないで欲しいの〜……」

瀬利「…………」

さやか(あんたの事、侍みたいな真っ直ぐな奴だって思ってた……)

瀬利「サムライ。サムライか。あたしが……」

瀬利「フッ……」

魔女図鑑

墓守の魔女

墓守の魔女。その性質は沈黙。
何よりも静寂を愛し、結界に迷い込んだ者は永遠の眠りにつかせられることになる。
静寂を破るものには容赦しない。

墓守の魔女の手下

墓守の魔女の手下。その役割は番犬。
魔女の結界を徘徊し、侵入者を見つければすぐさま吠え立てて魔女に報せる。しかしその遠吠えは、時に魔女の怒りを招くこともある。



〜おしまい〜

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