〜第26話 私はそれに賭けてみたいの〜
パ――ッ
プップー
くれは「……今のところ、状況は私達にとっておおむね良好ですね。鹿目さんは契約から遠ざかっていますし、巴さんもあの魔女との戦いで生存。あとは……」 ?「おい、危ねえぞ!」 ゴン! くれは「な……何で突然、空からハンマーが……」 スクラッパー「上でビルの工事やっててよ。手、滑らせちまった。大丈夫か?」 くれは「暁美さん! 暁美さん! しっかりしてください!」 ほむら「う……」 ほむら「…………」 くれは「ええ―――っ!?」 アカサカ・杏子「記憶喪失ぅ?」 くれは「ええ……。私の事も、自分が魔法少女だという事も覚えてらっしゃらないみたいで……」 杏子「はー。しっかし、あのほむらがすっかり可愛らしくなっちゃったもんだねぇ」 まどか「ほむらちゃん、記憶喪失になったって本当!?」 ほむら「鹿目さん! 美樹さん! 良かったぁ。やっと知ってる人に会えた……」 アカサカ(どういう事だ?……いや待て、今ほむらちゃん、『鹿目さん』って言ったよな。いつもみたいに『まどか』じゃなくて) ノックアウト「これは……退行ですね」 ノックアウト「ええ。記憶全てが無くなってしまった訳ではなく、恐らく彼女の話を聞く限り、彼女が魔法少女になる前辺りまで精神が戻ってしまったようです」 杏子「でも要するに記憶喪失なんだろ? だったら頭殴るとか、ちょっと『チクッ』とかすればいいんじゃねーの?」 ノックアウト「一通りやってみましたが、全然ダメでしたからね」 アカサカ「お前な――――っ!」 杏子「……ん? どうしたんだ、まどか?」 さやか「でもさぁ。まどかやあたし、それにマミさんの事覚えてるんなら、こいつ今のままでいいんじゃないの? くれは「……ちょっと貴方がた……」 まどか「ほむらちゃん、ちょっと来て!」 ほむら「あの、突然どうしたの、鹿目さん?」 まどか「私、ほむらちゃんが優しいんだって事、知ってるから。いつも帰り道、見守ってくれてたの、気づいてたんだよ」 くれは「しかし、どうやって暁美さんの記憶を戻しましょう? 何か、今の暁美さんを思い出させるものでもあれば、可能性はあるかも知れませんが……」 まどか「魔女や魔法少女を見れば、ほむらちゃん、何か思い出すかも知れないし……」 くれは「……私が危なくなったら、お二人を見捨てて逃げるとは思わないのですか?」 くれは(ああ、そうか。この子は“こういう”子なんだ……) くれは「……なんて言ってたら、都合よく魔女が出たみたいですね」 さやか「だったらさぁ……」 さやか「あたし達も一緒に行かせてもらえるかな」 くれは「あなた方……何故?」 さやか「ま、そういう事だからさ、まどか。ここは大船に乗ったつもりで任せなよ!」 さやか「それじゃあ、行こうか!」 戻る
ほむら「そうね。あとはワルプルギスの夜さえ超えられれば……」
ほむら・くれは「?」
ほむら「!!」
くれは「あ、暁美さん!」
?「いやぁ、悪い悪い」
くれは「大丈夫な訳ないでしょ――っ!」
くれは「暁美さん、気がつきましたか?」
くれは「暁美さん?」
ほむら「……えっと……だれ?」
くれは「……え?」
〜場面転換〜
アカサカ「なんとまぁ……」
ほむら「あ……あの……(おどおど)」
アカサカ「……で、それは分かったんだけどさ。何でウチに連れてきたの? ウチは本屋であって、病院じゃねーぞ」
くれは「それは、こちらは仲介屋もやってると聞いたので、誰か医者の方を紹介して頂きたいと……」
アカサカ「ああ、そういう事。うーん、医者なら一人知ってる事には知ってるけど……」
杏子「さやか、まどか」
ほむら「あ!」
まどか「え? ええっ!?」
さやか「何これ、どうなってんの……?」
〜場面転換〜
アカサカ「退行?」
アカサカ「何とかならねぇ?」
ノックアウト「精神医学に関しては、私は専門外ですからねぇ。そもそも“ナマモノ”診るのも得意ではありませんし」
アカサカ「“ナマモノ”ってお前……」
さやか「記憶喪失になったら定番だしね」
アカサカ「おいおい……」
ノックアウト「ははは、ダメですよー、そんな事しても」
まどか・くれは「あ、あわわわわ……」
ノックアウト「店長さん……科学にも出来る事と出来ない事があるのですよ」
アカサカ「お前のは『科学』の域まで行ってないだろうが!」
まどか「あ、ううん。ほむらちゃんがいつもと全然違うから、ちょっとびっくりしちゃって……」
(ほむら「鹿目さん」)
杏子「だよなー。雰囲気、全然違うもんな〜」
今のほむらなら、あたし達とも上手くやっていけそうじゃん。そしたら、無駄な争いもしなくて済むし……」
杏子「成程な。そういうのもアリかもな」
ほむら「え……あの……」
ほむら「えっ、鹿目さん?」
〜場面転換〜
まどか「ごめんね、いきなり連れ出しちゃって。でも、私、さやかちゃん達はああ言ってたけど、やっぱりほむらちゃんにはもとに戻ってほしい……」
ほむら「…………」
まどか「確かに今のほむらちゃんなら、さやかちゃん達と上手くやっていけるかも知れないけど、でも、それじゃあ、今までのほむらちゃんが否定されてるみたいで、私は嫌」
くれは「鹿目さん……」
まどか「それに、くれはちゃんの事だって思い出さないと。くれはちゃんだって、ほむらちゃんの友達でしょう?」
くれは「…………」
まどか「くれはちゃん、それなんだけど……魔女との戦いに、私とほむらちゃんを連れて行って欲しいの」
くれは「は?」
くれは「成程、ショック療法という訳ですか……。しかし、その方法には賛成出来ません。
記憶が戻る保障はありませんし、第一、貴方や今の無防備な暁美さんが危険にさらされる事になります」
まどか「それでも、ほんの少しでも可能性があるなら、私はそれに賭けてみたいの。もちろん、くれはちゃんも戦いづらくなるとは思うけど……」
まどか「くれはちゃんはそんな事しないよ! くれはちゃんがほむらちゃんの事、本当に心配なの、分かるもん。だから、私はくれはちゃんを信じる!」
まどか「くれはちゃん?」
くれは「ふふ、ようやく確信しましたよ。何故暁美さんが、何度繰り返しても、全てをかなぐり捨てて貴方を守ろうとするのか」
まどか「?」
くれは「いえ、こちらの事です」
まどか「くれはちゃん、お願い出来る……?」
くれは「分かりました。こうなったら、私もその案に賭けてみましょう。
シェークスピアいわく『逆境も考え方によっては素晴らしいもの』、です」
まどか「さやかちゃん、杏子ちゃん……」
さやか「勘違いしないでよ! あたし達はただ、まどかが心配なだけだよ。そうじゃないなら、誰があんた達の手伝いなんてするもんか!」
くれは「…………」
まどか「有難う、さやかちゃん、杏子ちゃん……」
杏子「あいよ」
まどか「うん!」
くれは「はい」
〜つづく〜