〜第20話 寄り道をしてもいいじゃないですか〜

〜前回までのあらすじ〜

お菓子の魔女との戦いで、危機に陥った巴マミだが、間一髪のところで暁美ほむら・碧くれはの二人に助けられる。
だが、二人はマミに対して辛辣な忠告をするのだった。

※登校中

まどか「マミさん、大丈夫かなぁ……」

さやか「な〜に落ち込んでんのさ! 別にまどかが悪い訳じゃないんだから、元気出しなよ!」

まどか「うん……」

さやか「それより、あの転校生に、碧くれはとかいう奴らだよ! もしその時、あたしや杏子がいたら、絶対に好き勝手な事なんて言わせなかったのに……!」

まどか「…………」

キュゥべえ「まどかがボクと契約してくれたら、マミにも負けない魔法少女になれるよ。そうすれば、あの二人なんて物の数じゃないだろうね」

まどか「キュゥべえ……」

さやか「こらこら、あたしや杏子がいるんだから。まどかが無理して魔法少女になる必要は無いよ。それとも、あたし達だけじゃ不安?」

まどか「さやかちゃん……」

マミ「……例え何を言っても、私が鹿目さんを危険な目に遭わせていたって事は、彼女達の言う通りよ。
それに、確かにあの時あの二人が現れなければ、私はやられていたわ。だから、ね、鹿目さん。
魔法少女体験コースは、しばらくやめておきましょう。魔法少女になるのも、もう少し考えてからの方がいい……」

まどか「マミさん、私……」

マミ「心配しないで。ちょっと考えたい事が出来ちゃっただけだから」

まどか(マミさんはああ言ってたけど、やっぱり心配だなぁ……。でも、あの時、ほむらちゃん達……)

ほむら「ばっ、バカ! こんな事やってる場合じゃ……」

ほむら「今度の魔女は、これまでの奴等とは訳が違う……!」

まどか(あの時のほむらちゃん、マミさんの事をすごく心配してたように見えた……)

〜場面転換〜

くれは「今日はいい天気ですねぇ。……あ、そうだ」

〜一時間後。〜

くれは「これとこれと……よし、準備完了っと。それじゃあ、行きますか」

Je m'baladais sur l'avenue le coeur ouvert à l'inconnu.
(知らない人にも心を開いて通りを歩いていたのさ)
J'avais envie de dire bonjour à n'importe qui
(誰にでもボンジュールと言いたい気持ちで)
N'importe qui et ce fut toi, je t'ai dit n'importe quoi,
(その誰にでもが 君だった 君とは何でも話したよ)
Il suffisait de te parler, pour t'apprivoiser.
(君と親しくなるのにはそれで十分だった)

Aux Champs-Elysées, aux Champs-Elysées
(シャンゼリゼには シャンゼリゼには)
Au soleil, sous la pluie, à midi ou à minuit,
(晴れていても 雨が降っていても 昼間でも 真夜中でも)
Il y a tout ce que vous voulez aux Champs-Elysées
(欲しいものは何でもあるのさ シャンゼリゼには)

くれは「この辺りにしますか」

くれは「やっぱり、こんな日に外で頂くコーヒーは格別ですねぇ。暁美さんも誘えば良かったかなぁ。……でも、この時間だとまだ学校に残ってるかな……」

くれは「ん?」

まどか「あ……」

くれは「こんにちは。鹿目さんじゃないですか」

まどか「こんにちは、碧さん……」

くれは「学校の帰りですか?」

まどか「う、うん」

くれは「今日は美樹さんと一緒じゃないんですね」

まどか「さやかちゃんは日直の仕事があったから。先に帰っててって。碧さんも、今日はほむらちゃんと一緒じゃないんだね?」

くれは「あはは。別に共闘してるからって、四六時中一緒にいる訳じゃありませんよ」

まどか「それもそっか」

くれは「ところで、立ち話も何ですし……一緒にコーヒーでもいかがですか? 生憎、ミルクも砂糖も用意してませんが」

まどか「……うん。頂きます」

くれは「よかったらこれもどうぞ」

まどか「……これって、シャルモンのケーキ?」

くれは「ええ。美味しいと評判でしたので、ためしに買ってみたんです」

まどか「実は私も、ちょっと食べてみたかったんだ。でも高いからなかなか……」

くれは「そうなんですか。それなら丁度良かったですね」

まどか「……あの、碧さん」

くれは「そんなに畏まらなくても結構ですよ」

まどか「じゃあ……その、『くれはちゃん』って呼んでもいい?」

くれは「ええ。もちろん構いませんよ」

まどか「くれは……ちゃん。えっと、この間は有難う。マミさんを助けてくれて」

くれは「お礼なら、暁美さんにおっしゃって下さい。あれは暁美さんが言い出した事ですから。『巴マミが死んだら、まどかが悲しむから』ってね」

まどか「ほむらちゃんが?」

くれは「ええ」

まどか「そっか。そうなんだ……」

まどか「くれはちゃん、訊いてもいい?」

くれは「答えなくても構わない、というのであれば、どうぞ?」

まどか「その……くれはちゃんやほむらちゃんって、どうしてキュゥべえを狙ってるの?」

くれは「…………」

まどか「あっ、ごめんなさい。答えたくなかった……?」

くれは「……理由言っても、あなた方は信じませんよ」

まどか「そんな。ちゃんと話せば、マミさんだって、さやかちゃんだって、きっと分かってくれるよ!」

くれは「ダメなんですよ。それで暁美さんはすっかり心をすり減らしてしまったんですから」

まどか「ほむらちゃんが?」

くれは「あまり詳しくお話しすると、暁美さんの内面にまで踏み込んだ話になってしまうので、ここでやめておきます。気になるのであれば、鹿目さんご自身の口で暁美さんに訊くべきでしょう」

まどか「うん、わかった……」

〜そして。〜

くれは「〜♪ 〜♪」

まどか「その曲なんだったっけ? 聞いた事はあるような気がするんだけど……」

くれは「『オー・シャンゼリゼ』です。陽気な感じが好きなんですよ」

まどか「ああ、そうだ! 思い出した。小学生のころ、音楽の授業で聞いた事があったよ! くれはちゃん、歌とか好きなの?」

くれは「……ええ、まぁ、嫌いではないです……」

まどか「ちょっと聞いてみたいな」

くれは「ええっ!?」

まどか「ダメかな?」

くれは「……一回だけですよ?」

まどか「うん!」

くれは「では、コホン……」

Tu m'as dit "J'ai rendez-vous dans un sous-sol avec des fous,
(君は「陽気な仲間と地下室で会うのよ)
Qui vivent la guitare à la main, du soir au matin".
(一日中ギターを抱えている人よ」と言ったので)
Alors je t'ai accompagnée, on a chanté, on a dansé
(僕もついて行った そして歌って 踊って)
Et l'on n'a même pas pensé à s'embrasser
(抱き合ってキスしようなんて考えもしなかったよ)

Aux Champs-Elysées, aux Champs-Elysées
(シャンゼリゼには シャンゼリゼには)
Au soleil, sous la pluie, à midi ou à minuit,
(晴れていても 雨が降っていても 昼間でも 真夜中でも)
Il y a tout ce que vous voulez aux Champs-Elysées
(欲しいものは何でもあるのさ シャンゼリゼには)

パチパチパチ

まどか「すっごく素敵! 綺麗な歌声だねぇ」

くれは「恐縮です。人前で歌ったのも久しぶりですよ」

まどか「そうなんだ。もったいないなぁ、折角素敵な歌声なのに……」

?「くれはちゃんの歌声って、すっごく素敵だよね。歌手になれるんじゃない?」

くれは「…………」

まどか「くれはちゃん? どうかしたの?」

くれは「ああ、いえ。ちょっと、昔の事を思い出しただけです」

まどか「……?」

くれは「……ねぇ、鹿目さん。貴女、ご自分に自信を持ちたい、と思って、一度は魔法少女になろうと思ったんでしょう?」

まどか「えっ……どうして……」

くれは「見ていて分かりましたよ。これでも、人を見る目はあるつもりなので」

まどか「…………」

くれは「でも、例え今、得意な事が無くても、きっといつかは自分に自信が持てる時が、誰かの役に立っている、と自分で思える時が来ますよ。
回り道をしても、寄り道をしてもいいじゃないですか。無理に何かを変える必要なんて無いんですよ。
ゲーテいわく、『ただ、自分を信じるのだ。そうすれば、どう生きるべきかが見えてくる』。」

まどか「……ありがとう」

くれは「さて、と。すっかり引き留めてしまってすみません。そろそろ帰らないと、ご両親が心配されるのではないですか?」

まどか「あっ、そうだね。早めに帰るよ」

くれは「鹿目さん」

まどか「?」

くれは「今日、私に会った事は美樹さん達には黙っておいて頂けませんか? 不要なトラブルを招いてしまったとなると、暁美さんに申し訳ないので……」

まどか「……うん、分かった……」

まどか「くれはちゃん」

くれは「?」

まどか「コーヒーとケーキ、ごちそうさまでした。とっても美味しかったよ」

くれは「私の方こそ、楽しい時間を過ごさせて頂きました。有難う御座います」

まどか「えへへ……」

まどか「それじゃ……またね」

くれは「……はい。いずれまた」

くれは「……ふぅ。ほんと、絵に描いたようないい子ですね。暁美さんが命を懸けて守りたいって言うのも、分かる気がします」

くれは「“『それじゃ またね』って手を振って”……か」



〜おしまい〜

戻る