映画『MEMENT』感想


 ここでは、映画『MEMNT(メメント)』の、管理人の感想を掲載しています。あくまで管理人個人の感想・考察ですので、「ああ、こういう解釈もあるんだ」位の気持ちで読んで頂ければ幸いです。
 なお、ネタバレを含みますのでご注意ください。


『MEMENT』は、『ダークナイト』などのクリストファー・ノーラン監督が2000年に製作(日本では2001年11月に公開)した映画です。

 内容としては、10分間しか記憶を保てない前向性健忘という障害を患ったレナードという男性が、かつて妻を強姦して殺害した犯人「ジョン・G」なる人物を探し出し、復讐しようとするもの……のはずだったのですが、物語が進んでいくうちに、彼も含めてとんでもない“嘘”と“利己主義”に塗り固められたストーリーだったことが明らかになります。

 そもそも私がこの作品を知ったきっかけは、とある同人誌に引用されていたのが始まりだったんですが、調べていくと面白そうだったので見てみました。

「主人公が10分でそれまでの事を忘れてしまう」という内容もさることながら、ストーリーを終わりから始まりへ、時系列を逆向きに映し出していくという形式が非常に斬新でした。
 簡単に説明すると、普通の映画なら、一つ一つのシーンが

OP→a→b→c→d→e→A→B→C→D→E→ED

 となりますが、この作品では

OP→a→E→b→D→c→C→d→B→e→A→ED

 となっています。この内、小文字で書いた“a”〜“e”はレナードの行動の根幹に関わっている部分で、「サミー・ジャンキス」という男に関するエピソード(後述)なのですが、白黒で撮影され、幕間という形でストーリーの途中々々で挟まれています。こちらは実際の時間軸通りに並べられています。

 一方、大文字の“A”〜“E”で表した部分が言わば本編で、こちらは結末から逆に再生されています。つまり次のシーンの終わりの部分が(幕間を挟んだ上で)前のシーンの冒頭部に繋がっていることで、「どうしてレナードが今こういう状況になっているのか」が分かってくる、といった演出という訳です。

 ぶっちゃけ「観方を把握していない、初めての状況で」この映画を見ると大いに混乱する部分ではあるのですが(もちろん、ここが製作者の狙いなのでしょうけれど)、ここで私が面白いと思ったのが、「登場人物の本性が、『時間軸上では最初の部分で』すでに明らかになっている」ということです。

 つまり普通の作品であれば、「親切な顔で近づいてきた人間が、実はとんでもない悪党だった」となるのですが、この作品では「最初にレナードに酷いことを言ったりしたりした人間が、彼が10分経てば何もかもを忘れることをいいことに、後で親切そうな顔で近づいている」ということです。この物語のネタバレになる部分も「時間軸上では」冒頭部で全て暴露されているのですが、ストーリーが逆再生されていることで「終盤になって全てが明らかになる」という構成になっています。

 まあつまり、結局視聴者にとっては「最初は親切そうに見えた人間が実は酷い奴だった」てな事にはなるのですけれども(苦笑)。ですがそれもこれも、「主人公が10分しか新しい記憶を維持できない」っていう設定があるからこそ成立するトリック、というわけです。


主な登場人物

レナード
 物語の主人公。強盗に頭を殴られた後遺症で前向性健忘を患い、10分程しか記憶が保てない。10分経つとその記憶を失い、自分が何をしていたか、何が起きていたのか全く忘れてしまう。これは妻を殺された事件以降の出来事に対してであり、妻が殺される前の記憶については完全な状態で残っている。……と本人は思っているが……。
 元保険会社の調査員で、サミー・ジャンキスという男性を担当していた。
 愛する妻を強姦して殺した「ジョン・G」を探し求めている。

テディ
 冒頭でレナードに殺される男性。本名はジョン・エドワード・ギャメル。レナードに協力的に接し、たびたび忠告や助言をする。警察官らしいのだが……。

ナタリー
 ファーディーズ・バーで働く女性。恋人のジミー・グランツを誰かに殺されている。実はジミーは麻薬の売人で、彼女は客とジミーの取り次ぎをしていた(つまり彼女も麻薬の密売にかかわっている)。


 さて、という訳で簡単なあらすじから管理人の感想・管理人なりの考察までやっていこうと思います。ここからはネタバレを含みますので、まだ未視聴の方で、これからこの作品を見ようと思われている方はご注意ください。


あらすじ

 とある廃屋で、テディという男がレナードに殺されたところから物語は始まった。

 ある日、レナードの妻が自宅に押し入った強盗に強姦され、殺害される。レナードは現場にいた犯人の一人を銃で撃ち殺すも、もう一人の犯人「ジョン・G」に突き飛ばされ、その時の外傷で10分間しか記憶が保てないという『前向性健忘』になってしまう。復讐のために犯人探しを始めたレナードは、自身のハンデをメモをすることによって克服し、目的を果たそうとする。
 かつて保険会社の調査員をしていたレナードの担当した顧客の中に、現在の彼と同じような症状を患っていた「サミー・ジャンキス」という男性がいた(ただし彼は2、3分ほどしか記憶が保てない)。そこでレナードは彼を教訓にして、メモは系統づけ、習慣づけを利用して身体の本能的な部分に叩き込もうと試みる。そして出会った人物や訪れた場所はポラロイドカメラで撮影し、写真にはメモを書き添え、重要なことはメモを無くしたり改竄されないように、自分の体に刺青として彫り込んだ。

 果たしてレナードが追う「ジョン・G」は誰なのか? 真実は何なのか……?


「サミー・ジャンキス」のエピソード

 かつてレナードの顧客に、サミー・ジャンキスという男がいた。彼は現在のレナードと同じく前向性健忘症を患っていたが、レナードよりも症状が酷く、新しい情報を2分程度しか記憶していられない。当然、仕事などにも就けないので、保険が申し込まれる。そのサミーを調査したのが、当時のレナードだった。
 レナードは「条件付け」のテストで、サミーの症状を審査しようとする。本能的な記憶は、短期記憶障害とは脳の別の部分で記憶するからだ。しかしサミーはどれだけテストを重ねても条件付けが出来なかった。
 サミーの症状は精神的なものに思われ、請求は却下される。レナードは昇進し、サミーの妻は借金を抱えた。

 夫の介護に心身ともに疲れ果てた妻は、レナードのところに相談に行く。「30秒だけでいい、仕事の事は忘れて、レナード個人の意見を聞かせてほしい」と言われたレナードは、「肉体的には新しいことを覚えられると考えている」と答えた。

 そして妻は最後のテストを行う。彼女は糖尿病で、定期的に夫にインシュリンの注射をしてもらっていた(この習慣は、サミーが記憶障害に陥る以前からのことであったので、サミーは複雑な手順を問題なく行える)。彼女は夫にインシュリンを注射させ、夫の記憶がとんだ頃を見計らって、再び自分に注射を繰り返させる、というものだった。
 もし夫が病気を装っているだけならば、愛する妻を死なせないために、注射をやめる筈であった。
 しかし、夫の病気は本物で、自分が注射をしたことを忘れ、繰り返し妻に注射を行う。結果、妻はインシュリンの打ちすぎで死んでしまった。


事の真相

 ストーリーの終盤(時系列上は冒頭)、驚くべき真相が明かされます。ジョン・Gと目されるジミー・グランツを殺したレナードは、後から現れ、他人のふりをしているテディに詰め寄ります。「テディの写真を持っている=レナードとテディは知り合いである」にも関わらず、テディが嘘をついていたからです。
 レナードはジミーが「20万ドル(麻薬取引用の金)を持ってきたこと」と、「ジミーがこと切れる直前に『サミー』とうわごとを言ったこと」の理由をテディに問いただします。

 テディは、「どうせ10分経てばレナードはすべて忘れてしまうから」と開き直って、全てを暴露してしまいます。

 自分はジミー・グランツとアンフェタミン(麻薬)の取引があり、レナードにジミーを始末させて麻薬と金、どちらも手に入れようとしていたこと。

 実は本物のジョン・Gは、一年ほど前にテディの協力で見つけ出し、とっくの昔にレナード自身が始末していたこと。

 レナードの奥さんを死なせたのはジョン・Gではなく、サミーのエピソードが実はレナード自身のエピソードで、インシュリンの過剰摂取で死んでしまったのはレナードの奥さんであること。

 その辛い記憶を完全に書き換えるために、繰り返しサミー・ジャンキスのエピソードを“自分自身に言い聞かせるように”誰彼かまわず話し、それによる「習慣づけ」で自身をサミーに置き換えた事。

 サミーという人物は、いることには確かにいたが、彼はただの独身の詐欺師で、レナードの調査でそれが判明しただけだったということ。

 復讐を完遂したはずのレナードは、結局その事すら忘れてしまい、さらには新たな“復讐”を始めるために、ジョン・Gの資料から意図的に決定的な証拠となる部分を削除したこと。


なぜテディは“ジョン・G”にされたのか。

 言い換えてみれば、この映画は「どうしてテディがレナードに殺されるハメになったのか」を振り返る映画でもあります。

 テディは悪徳警官で、最初の復讐こそレナードに同情して協力していましたが、レナードが復讐を遂げても満足する事が出来ず、また同じことを繰り返そうとすることに目をつけ、彼にジミーを始末させることで、麻薬の金20万ドルと麻薬の両方を手に入れようと考えました。

 もしかしたら、ジミー・グランツ以前にも、レナードはテディによって仕立てられた“ジョン・G”を何人も殺してきたのかも知れません。
 単純に考えればレナードは「ジミーを始末するのに、全く関係ない自分が利用されたこと」に怒って彼に報復しようとした、となりそうですが、実際はそうではありません。

 テディが復讐の対象となった理由は、「レナードに“サミー・ジャンキス”のエピソードの真実を教えてしまったから」です。

 レナードは10分経てばそれまでのことを忘れてしまう前向性健忘を患っているものの、「(結果として)自分が妻を殺してしまった」ことを完全に記憶から、それこそ無意識下レベルで消去してしまいたかったのです。
 そこで利用されたのがサミーでした。レナードは、妻のインシュリン注射に関するエピソードで、自身をサミーに置き換えることによって「妻を殺してしまった」ことから逃げ出そうと考えたのです。あるいは「サミーの条件付け」や「サミーの妻がレナードのオフィスを訪ねてきた」エピソードも、かつて彼が保険調査員としてギリギリのラインで切ってきた申請者たちの物が混ぜ合わされているのかも知れません。

 本題に戻りますが、結果としてレナードは、前向性健忘を患う以前の出来事であるはずの「強盗の記憶」を含めて、自身の無意識下の部分の記憶をも書き換えることに成功しました。
 冒頭でレナードは「習慣づけによって手順を間違えないようになる」ことを説明していますが、まさに“習慣づけによって記憶を書き換えた”という訳です。
 余談ですが、劇中でテディが「あんたの話は毎回面白くなっていった」と言っていることから、最初はもっと単純な形だったのでしょう。

 さて、そうやってレナードは記憶の書き換えに成功しますが、テディは上記の通り、全てを教えてしまいます。
 そこでレナードは「せっかく記憶を書き換えてまで忘れてた事を教えやがって! よし決めた、どうせ今の話も忘れるけど、次はこいつを殺す! 名前も『ジョン・エドワード・ギャメル』で『ジョン・G』になるし、これで事の真相を知ってる奴もいなくなるし、丁度いいや」となったわけです。

 因果応報、自業自得とは言え、どうせ10分で忘れるから全部教えても大丈夫と高をくくってしまったことと、本名が“ジョン・G”だったことが、彼の寿命を縮めることになったわけです。


レナードの『真実』

 さて、この『MEMENT』に登場する人間は、(レナードに直接の因果関係が無いジミーやドッド以外)誰も彼も嘘つきでレナードを騙して利用していますが、そのレナード自身も例外ではありません。

 実はレナード自身もレナードを騙しています。レナードは自分を利用していたテディを次の標的に定めますが、実際のところ、レナード自身もテディが用意してくれていた「“ジョン・G”の捜査」を己の存在意義としていました。

 レナードはテディを次の標的に決めた際、写真の裏に「こいつのウソを信じるな」とだけ書き込み、さらにタトゥーにする「事実その6」として、テディの車のナンバーのみをメモします。
 単にテディに復讐をしたいだけならその場で殺すか、写真にメモするにしても「こいつが犯人だ」とでも書いておけば済むはずです。

 また、彼は本編以前に“ジョン・G”の資料から意図的に12P目を抜いたことがテディの口から語られています(これは真実とみて間違い無いでしょう)。加えて「ジョン・Gになりうるジミーの遺体の写真」と、「本物のジョン・Gを始末した際の“記念写真”」も燃やしてしまいます。
 復讐をやめるつもりであれば、これらの写真を燃やす必要は無い、むしろ残しておかなければならない“復讐を達成した証拠品”なわけです。

 前向性健忘を患い、まともな人生も送れないレナードにとっては妻の復讐劇(まさしく“茶番劇”です)は、ある意味人生を充実させる生きがいになっていました。

 よって、彼はテディがいなくても「ジョン・Gを探し出して始末する」という人生をこれからも繰り返していくのでしょう。


おしまいに。

 DVDだと映像特典として、「リバース・シークエンス再生」というのがあります。これはストーリーを「実際に起きた時系列順に」並べ替えてあるもので、一度本編を見た後にこれを見れば、内容のおさらいに役に立つと思います。特に管理人みたいにニブい場合は、これを見てようやく「ああ、こうだった訳ね」と納得できる部分もありました(おい)。
 ただし文字通りのネタバレ映像なので、本編を視聴する前に見ることはお勧めしません(当たり前か)。

 以上、『MEMENT』の感想と、管理人なりの考察でした。お付き合い有難う御座いました。

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