四人の音楽家
☆ むかし、テロールという所に、四人の音楽家がいました。 この人たちは、笛吹き、バイオリン弾き、チェロ弾き、太鼓叩きの四人が組になっていて、小さな楽団を作っていたのでした。 しかし、みんなは、余り上手ではありません。テロールにいて音楽会を開いても、この町の人はあまり聞きに来てくれないので、お金が集まりません。 みんなは、そこで相談して、旅に出かけて、あちらこちらと巡り歩き、演奏旅行をやろうと計画しました。 「ひとつ、僕たちの腕試しだ。まず、オーストリアの中心のにぎやかな町で、演奏会を開こうじゃないか」 と、仲間の一人が言い出しました。 「だめ、だめ。僕たちの腕前じゃ、どの町へ行ったって、音楽界に集まってくれないよ」 「じゃあ、どこだっていい。食べさせて、泊めてくれりゃあ、そこで音楽会を開くとするさ」 「すると、僕たちは、バイオリンを弾きながら、オーストリア中、旅が出来るって訳だね」 バイオリン弾きで、一番年下のローベルトは、旅行が出来るので大賛成です。 相談が決まると、四人の楽団は出発しましたが、まるでちんどん屋の旅行と言った格好でした。 四人の音楽家は、あちらこちらの町や村で、道端に立ったり、広場に立って演奏すると、帽子を回してお金をもらい、旅を続けてゆきました。 秋の半ばを過ぎた頃、四人はランデルス山のふもとを通りかかりました。 このランデルス山には、不思議な出来事があるという噂を、みんな道々聞かされていました。 ニーデルの牧場の橋のたもとまで来ると、そこで一休みしました。もう日は暮れかけています。その時、四人の中で一番元気のいい一人が言いました。 「おい、どうだい、今夜の十二時に、赤ひげの王様にセレナーデを弾いて、お聞かせしたらどうだろう」 「これ、これ、滅多な事を言う出ないぞ。ここの王様じゃないか」 「そうだよ。このランデルス山にも、きっと山の王様がいるに違いない。この山には、どっさり宝物が隠されている、という事だ。王様に音楽を聞かせて、その褒美に宝物をもらおうという考えだ」 「そんな勝手な事を言って、王様が利いたら叱られるぞ。パウル」 年の若いローベルトは、心配そうにランデルス山を見上げていました。山は深く、暗く、麓の森の中の色づいた木々が、まるで火を受けたように赤く見えていました。 ローベルトが反対しても、みんなは宝物が欲しいので、王様の前でセレナーデを演奏しようと相談を決めました。 「地上の世界では、僕たちには幸せがやって来ないよ。この山で、ひとつ、運試しの四重奏をやろう」 そして、ローベルトに、 「お前がいなくては、上手くいかないんだ」 と、みんなの仲間入りをさせて、ランデルス山に出かけました。真夜中の十二時、ニーデル牧場の鐘を合図に四人は一斉に楽器を鳴らし始めました。 ちょうど一曲弾き終わった時、目の前に明かりがついて、気が付くと、お供を連れた王女様がそこに立っていました。そして、自分についてくるようにと合図をしました。 険しい道ですが、王女様がともす灯りに導かれ、ずんずん進んでゆくと、山の中にお城がありました。 王女様の後について通された広間には、王様が、たくさんの家来に取り囲まれて座っていました。 「すぐ、演奏するように」 という王女様の言いつけで、四人の楽師は王様に捧げる曲を力を込めて演奏しました。 年をとった王様は、大変満足な様子で、楽師たちに食事を与えるように言いつけました。 広間のカーテンが開かれると、テーブルの上に、どっさりご馳走が並んでいます。全て金の皿、銀のフォークにナイフ、水晶の壺に、美味しそうなお酒が入っていました。 「こんなご馳走は、生まれて初めてだ」 と、パウルが言いました。 「こんな美味しいお酒も、生まれて初めてだ」 と、ローベルトも言いました。 見回すと、部屋一面に、金や銀の宝物がキラキラ輝いていました。 食事がすむと、もう一曲演奏したのですが、今度もたいそうお褒めを頂きました。 四人は、どんな褒美がもらえるかと待ち構えていました。ところが、いよいよ山を下りる時になって、出口で案内の小人から、緑の枝を一本ずつ渡されました。 「えっ、これが王様からのご褒美かい」 慌てて案内の小人に尋ねようとすると、出口の石の扉が、ぎーっと閉まってしまいました。 「ランデルス山には不思議な事があると聞いていたが、あの王様が赤ひげの王様ってわけだな。しかし、この緑の枝が音楽のお礼とは、いったいどういう事だ」 みんなは腹を立てて、渡された緑の枝を谷間に向かって投げ捨て、重い足を引きずって、山を下ってゆきました。 この四人の内、年の若いローベルトだけは、緑の小枝を大切にして、家へ持って帰りました。そして、留守番をしていたお嫁さんに、ランデルス山の不思議な出来事を話して聞かせました。 「まあ、この枝がその時のご褒美なのですね。でも、あの山に、赤ひげの王様が住んでいるなんて、みんな魔法使いの人たちじゃあないのでしょうか」 お嫁さんは枝を受け取って、緑の葉っぱに手を触れてみました。すると、持っている枝がだんだん重くなってきました。 「あら、どうしたのでしょう」 ローベルトが受け取って、枝を調べてみました。 「やっ、これはどうした事だ。この木の枝は銀の枝だ」 「あら、あら、葉っぱがみんな金の葉に変わっていますよ」 「やっぱり、王様のご褒美は、大切に持って帰って良かったな」 金の葉っぱは、一枚一枚お金に換えていっても、楽に一生暮らせるほどありました。 それを聞いて、悔しがったのは他の三人でした。 「ローベルトの奴、上手い事をしたな」 「あの時、宝物の枝を谷間に捨てなければよかった」 「どうだい、もう一度出かけて、王様の前で演奏するか」 と言いました。が、ローベルトは、もう四重奏の楽団には加わらず、宝物の枝で一生楽しく暮らしたという事です。 おしまい 戻る |