魚と鳥と獣の神


                    ☆

 昔々、天上の神々の世界にも、手に負えないようないたずらな神や、乱暴な神が居ました。
 そんな中でも特に酷いのは、魚の神と、鳥の神と、獣の神でした。また、この神たちは仲が悪くて、寄ると触ると喧嘩ばかりしていました。
 神々の大王は三人の神を呼んで、何度も注意をしましたが、少しも治りません。
(――ああ、なんという情けない事だ。地上の人間たちでさえ、あんな真面目に働いているのに、天上の神の中にこのような厄介者が居ようとは……)
 とうとう我慢の出来なくなった大王は、まず、一番暴れ者の魚の神を呼びつけました。
「よいか、魚の神。お前のような乱暴者は、もうこの天上界に置いておくわけにはいかない。すぐに人間の世界に下って、海にでも、川にでも、好きな所に住むがいいだろう!」
 と、大王はきつく命令しました。
「そうですか。仕方がありません。では、そうします」
 自分が悪いとわかっている魚の神は、すぐに人間の世界に下りました。そしてしばらく住んでみると、ここは思ったよりも良い所でした。第一、怖い大王などもいません。それに、海は広く、川もたくさんあって、いくら暴れても、誰からも文句を言われません。かえって嬉しくなりました。すると、この魚の神を、天上で見ていた鳥の神が思いました。
(――魚の神の奴は、上手い事をしたな。あんなに広い所を自由に遊びまわっているんだから……。私も何とかして、人間の世界に下っていきたいんだが……。そうだ、それにはもっとひどく暴れて、大王様を怒らせよう!)
 こうして、ますます乱暴になった鳥の神を見て、大王はもう我慢が出来なくなりました。鳥の神を呼びつけると、
「この頃のお前の暴れようは神々の恥だ。自分でもわかるだろう。もう許しておくわけにはいかないから、お前も人間の世界に下って、好きな所に住むがいいだろう!」
 と言いました。
「はい、仕方がありません。では、そうします」
 鳥の神は、心の中ではうまくいったと喜びながらも、うわべだけは寂しそうな顔をしながら、さっさと人間の世界に下りました。
 するとその様子を、海の中で見ていた魚の神が、少し慌てました。
「おやっ、鳥の神の奴も追い出されてきたぞ! さて、そうなると、これは考えものだな。あいつは乱暴者だから、いつこっちへ喧嘩を仕掛けてくるか分からないぞ! そうだ。その時になって慌てないように、今から家来たちの数を増やしておかないと……」
 という事で、魚の神は、海にも川にもやたらと色々な魚を増やし始めました。
 魚の神のそんな様子も、鳥の神にはすぐに分かりました。
「ふん、魚の神の奴、慌てだしたな。よし、向こうがそうなら、こっちだって負けてなんかいられるもんか!」


 鳥の神も、林や森に、やたらと色々な鳥を増やし始めました。ところで、まだ天上にいる獣の神は、二人の神のそんな姿を見て思いました。
(魚の神も鳥の神も、上手い事をやってるな。よし、こうなったら、私だってまごまごしてはいられないぞ。怖い大王のそばなんかより、人間の世界に下った方が……)
 そして獣の神も、二人の神のように暴れ出したので、すぐに大王に呼びつけられました。
「どうだ獣の神、私がなぜお前を呼びつけたのか、そのわけは、もう分かっているだろうな?」
 大王が言うと、
「はい、分かっております。仕方がありません。私も魚の神や鳥の神のように、人間の世界に下っていく覚悟は出来ております」
 と、獣の神も、うわべだけは寂しそうな顔で言いました。
「そうか。では、かわいそうだが……」
 という事で、獣の神も、人間の世界に下ってきました。そして、二人の神に負けないようにと、山や野に、色々な獣たちを増やし始めました。
 こうして人間の世界に下ってきた三人の神は、いざという時に備えて、それぞれに家来を増やしましたが、でも、思ったような大きな喧嘩は起こりませんでした。
 もっとも、考えてみるとそのはずです。魚の方は水の中だし、鳥の方は空の上だし、獣の方は陸の上で、それぞれに住んでいる所が違っているからです。
 ――いや、神々の大王は、それをちゃんと知っていて、人間たちの暮らしのために、三人の神をこの地上に送ってくれたのでした。



おしまい


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