時は近未来!
 発達した科学技術によって、人々は今とは全く違う生活を送って…………いた訳ではなく。
 人々の生活様式は現代社会と大して変わらない、そんな未来。
 機械技術が飛躍的な発展を遂げ、あるものを生み出していた。
 それは、「心」を持つロボット。
 発達したAI技術によって、ロボットは人と同様の心を持つ存在に進化し、共に暮らすパートナーとなっていた。
 そして、そんな中でも自在にパーツを交換・カスタマイズする事によって文字通り「『装』いを『改』められる」完全自律の小型人型ロボット、『改装機(かいぞーき)』!
 この物語は、そんな改装機達の織りなす、愛と涙、笑いと感動の物語である!

 ……ぬわぁんちゃって!



迷路にはまってメイロメロ?



「はーい、報道改装機のリポティーヌです! それでは、ここで前回までのおさらいをしていきましょう! 空栗市主催で開催される事になった、ロボットによる一大レース、『第一回空栗鉄人大レース』。合計十五名の選手が参加し、優勝賞金の百万円を目指してスタートしました! まず最初の関門で、ディサイズ選手とイダテン選手が脱落。続いて音児町での借り物競走、降来町でのウタケダマ探しは全員クリアしました。ですが、次の愛石町での熱湯湖越えで、ドラキュリア選手、ヨクリュウ選手、ホムラ選手が脱落しました。現在残る選手は十名! 果たしてこの先、どんな走りを見せてくれるのでしょう! では、期待に胸をふくらませつつ、レースの続きを見てまいりましょう! どうぞ!」
 上で説明された通り、愛石町での湖越えで数人の脱落者を出しながらも、関門をクリアした選手達は次の関門へ向かっていた。
 先頭を走るのは変わらずカマイチだ。
 そこから少し遅れて、エイナ、サイカが続く。
 その後をピクシウスとゲイボルグのテックボット二名が追い、ソウマ達少年組が続いている。
 最後尾を走るのはカゲオボロとツムジザキのあやかし研究所組だが、忍者の脚力を持つ二人は、凄まじいスピードで前を走る選手達を追いかけていた。
 田舎道を走る一同は、前方に山が見えてきた事に気がつく。
 そこには坑道のような入り口があり、二人の改装機が待ちかまえていた。
 一人は大柄な改装機で、黄色と黒に塗り分けられた、建機を思わせるボディをしている。
 もう一人は紫色の改装機で、両肩には弾倉、右膝にレバーが付いている。
 建機風の改装機はサイクロウの弟でジュウキ、紫色の改装機はカギヤという。
 二人は建設会社・前巻コンストラクションのメンバーで、それぞれジュウキは現場監督兼リーダー格、カギヤは発破役を勤めている。
 二人の横には、関門の説明用と思しきホワイトボードが置いてあった。
「どうやらここが次の関門らしいわね」
 カマイチ達が到着すると、ジュウキは説明を始めた。
「ようこそ。察しの通り、ここが次の関門だ。早速だが説明に入ろう。カギヤ」
「ああ」
 ジュウキに言われて、カギヤはカマイチ達に方位磁石を渡した。
「これな〜に?」
 ハテナ顔でサイカが尋ねる。
「発信器つきの方位磁石だ。なくすとエラい事になるぞ」
「どういう事でやんすか?」
「それについては今から説明する。ここではこの山の反対側まで抜けて貰うというのが課題だ」
 背後のホワイトボードを指し示してジュウキが言った。
 ホワイトボードの中央には、左右の麓にあたる部分に穴が開いた山の図が描かれ、矢印で山を抜けるという解説が描かれていた。
「この山の中には、オレ達が作った迷路が広がっている。そこでこの方位磁石という訳だ。もし道に迷ったら……ほら、磁石の裏にスイッチがあるだろう?」
 ジュウキの言う通り、方位磁石の裏にはボタンが付いていた。
「それを押せば救難信号が発信されるようになっている。もし迷ったら押してくれ。ただし、当然レースには失格になるけどな」
 ちなみにこの迷路、このレースの後にはアトラクションとして一般公開される予定らしい。
「それじゃあ、はりきって行こ〜!」
「おー!」
 なぜか張り切って叫ぶサイカを先頭に、三人は迷路に入っていった。
 中に入ると、坑道を思わせる通路がちょうど三方向に広がっている。
 明かりは壁に掛けられた照明でまかなわれているが、そこまで強い光という訳ではなく、薄暗い。
「じゃ、サイカはこっちに行こ〜っと!」
「だったらあちきはこっちでやんす!」
 それぞれサイカは真ん中、エイナは左側の通路に進んでいった。
 残されたカマイチは冷静に、しかし頭脳をフル回転させて、いかに早く、この迷路から抜けるか考えを巡らせていた。
(方位磁石を渡された事や、この山の大きさから考えて、闇雲に走っても迷路からは抜けられない。だったら逆に……)
 カマイチは意を決すると、右側の通路に向かって走り出した。
 果たして彼には、どんな狙いがあるのか?

 さて、同じ頃、山の反対側では。
「……で、本当にここに、レア物の鉱石があるんだろうな?」
 タルを横にしたような胴体に、太くてゴツい手足を持ったテックボットが口を開く。
 シルバーを主体にしたカラーリングで、赤いアクセントが入っている。
 頭部は直接胴体の正面に付いており、耳の部分から水牛のように太い角が、上に向かって伸びている。
 手には太い棍棒を握っていた。
 瞳の色は、白兵戦用を意味する水色だ。
 傍らには彼とよく似た姿のテックボットが立っている。
 ただし、カラーリングはシルバーと青で、手にナックルダスター型の装備がついている点と、耳の角が横に伸びている点が異なる。
 棍棒を持っているのはギグバート、ナックルダスターを装備している方はメルケインという、アーム配下の白兵戦型テックボットだ。
 ギグバートは短気で激情家、粗暴な性格。対してメルケインは、無口で寡黙、そして思慮深い性格をしている。
 二人は以前、羽車町の銀行を襲撃した事があるのだが、アロアとソウマ、そしてドラキュリアの妹のジャベルという改装機とのバトルの末、撃退されていた。
 ちなみにこの一件で、アロアは前巻町へと送還されることになったのであった。
「アーム殿のご指示だ。間違いは無かろう」
 赤紫に塗られた細身のテックボットが返事をする。
 胴体はぱっと見るとクナイのようで、胸部から肩にかけてはマキビシのようにも見える。
 頭部はマスクなどと相まって、忍者のような印象を与えていた。
 その顔の奥で、探索用のテックボットを意味するダークグレーの瞳が鈍い輝きを放っていた。
 彼の名はグーナインという。
 隣には頭部の形状以外彼と全く同型のテックボットがいた。
 カラーリングは青が主体だ。
 同じく探索用のテックボットで、シューリンゲン。
 外見上はほとんど同じ二人だが、グーナインは接近戦を、シューリンゲンは遠距離戦を得意としているという違いがある。
「よっしゃ! ほんじゃさっさとやっちまおうぜ!」
 ギグバートが棍棒『スパイクメイス』を振り上げて言った。
 四人はこの山に、鉱石の盗掘にやって来ていたのだ。
 これには根拠がある。
 この山は、少し前に先程の前巻コンストラクションの面々と、ピクシウスの主人である井坂嵐士がドタバタを起こした山だ。
 紆余曲折の末、結局は前巻コンストラクションのメンバーであるドリル改装機・センガが温泉を掘り当てたことで山に温泉施設がオープンし、井坂も逮捕されてしまったのだった。
 ここで重要なのは、「井坂がピクシウスを連れてやって来た」という事だ。つまり「精巧なレーダーであるピクシウスが探知してきた場所」という事で、アームズテックはこの山に鉱石があるであろう事を確信したのだった。
 しかもピクシウスは自社製品だ。
 その能力の精度は自分達が一番よく分かっている、という訳だ。
「確かに、この先に何か鉱物らしい反応がある。ギグバート、メルケイン、岩盤を砕いてくれ」
「任せときな!」
 シューリンゲンに促され、二人はそれぞれの得物を振り上げた。
「そらよ!」

 ドガァァァァァァァァァァァァァァァァン!


「ん、何か今、音がしたような……」
 洞窟内の迷路を進みながら、ピクシウスがふと立ち止まる。
 ゲイボルグと別れ、迷路に入って数分。
 彼はここでも自身のレーダー機能を活かし、順調に歩を進めていた。
 実は彼、この迷路に入る前にジュウキ達の姿を見て、彼らが以前洞窟内で鉢合わせした相手だと気づいていた。しかし、一方の前巻コンストラクション達は、井坂とピクシウスの顔を知らない。
 これは二人が終始モグモールという重機メカに乗っていたためである。
 だが、ここで自分の素性が彼らにばれてしまっては、最悪の場合レースからの脱落、という事も考えられる。
 それでは元も子もないので、グッとこらえて迷路に挑んでいた。
 彼の頭の中にあったのは、
「ボスの保釈金!」
 の一点だったのである。
 涙ぐましいほど主人思いなのであった。
「こんな迷路、全身レーダーのオレにとっては楽勝楽勝……ん?」
 ふと、ピクシウスの前に人影が現れる。
 どうもレースの参加者ではないようだ。
「お前は……」

 一方、ゲイボルグの方はと言うと。
「…………迷った」
 そう、完全に道に迷ってしまっていた。
 元々考えるのが得意ではないゲイボルグは、迷路に突入しても
「当たって砕けろ!」
 と猪突猛進し、ご覧の有様、という訳であった。
「はー、腹減った〜……」
 洞窟内の壁にもたれかかって腰を下ろす。
 洞窟の土壁はひんやりとしていて、背中に心地よい。
「あんだけアームに頼み込んで、レースに出させて貰ったってのにな〜」
 言いながら、手元の方位磁石を見る。
「助け、呼んじまうかなぁ……」
 と呟く。
 だが、そんな彼の脳裏にふと仲間達の顔が浮かんでいた。
 何のかんのでレースに出る事を許してくれたアーム。
 文句を言いつつもお目付役になってくれたブレイド(とサーベル&ロンデル)。
「ま、頑張んなさいねー」
「賞金ゲットしたら分けてね〜♪ ケラケラ♪」
「キミの足なら、そこらのロボットなんてメじゃないデスヨ」
 などと応援してくれた同僚達。
 彼らの顔を思い出す内に、ゲイボルグの表情が変わる。
 浮かんだのは……笑みだ。
「だよな。助け待ってんのなんてカッコ悪ィもんな」
 ゲイボルグは立ち上がり、ニョイ・ロッドを取り出す。
「行くっきゃねーや!」
 ゲイボルグはニョイ・ロッドを構えると、前方の壁に向き合った。

 同じ頃、エイナは。
「え〜っと、道、間違えたでやんすかなぁ……」
 方位磁石を手にして汗ジトになっていた。
 彼女もどうやら、迷路で迷ってしまったらしい。
「でも大丈夫! こんな事もあろうかと……」

 ジャキィィィィィン!

 瞬時にエイナはパトカーモードに変形した。
「新しくカーナビシステムを積んでおいたでやんす! スイッチ・オン!」
 だが……。

 シーン……

「あれ?」
 カーナビシステムはウンともスンとも言わない。
「どうしたでやんすか?」
 やがて、
<圏外デス。圏外デス>
 無情なコンピューター音声が洞窟内にこだまする。
「そんなぁ……」
 エイナはがっかりとした声を出す。
 数分後、係員に救助されるエイナの姿があったとさ。
 合掌。
「無念でやんす……」

 他方、ここまで出番の無かったソウマ達はどうしていたかと言うと。
「なぁ、ルーゼ、ダントウ。お前ら、迷路得意?」
「いや、あんまり……」
「おれも。でも、作戦はあるよ」
「作戦?」
 疑問符を浮かべるソウマに、ダントウはコクリと頷く。
「ランドパーツ、転送!」
<カモン・ランドパーツ>
 電子音声が響き、ダントウのボディが変化を遂げる。
 左右の爪先はそれぞれディフォルメされた肉食恐竜とモグラのようなものに代わり、額にはクワガタムシのような装飾がついている。
 カラーリングは全体的に黄色いものになっていた。
「ダントウ・ランドモード!」
 ランドモードは、その名の通り、陸上や地中戦に特化したダントウの特殊形態だ。
「ランドストライク!」
 ダントウは飛び上がると、モグラの鼻にあたる右足のドリルを高速回転させた。
「どりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!

 ダントウはそのまま、出口の方向に向かって真っ直ぐ壁を掘っていく。
「なるほど」
「こりゃいいや!」
 ソウマとルーゼも、ダントウの掘った後に続くのであった。

「うーん……」
 ツムジザキはピッと指を立て、難しい顔でその場に立ち尽くしている。
 横には狼形態に変形したカゲオボロが鼻をクンクンさせていた。
「風は……向こうから吹いてくるな……」
「ああ、オレの嗅覚センサーも、向こうが出口だって感知したぜ」
「よし、行くか!」
「おうよ!」
 ツムジザキとカゲオボロは走り出す。
 二人は出口側から流れてくる空気の流れを読んで、出口を探していたのだ。
 空気を操る事に長けているツムジザキと、絶大な嗅覚センサーを持つカゲオボロならではの方法であった。


 さてさて、ピクシウスの方に話を戻すとしよう。
「お前は……」
 そこにいたのは改装機だった。オレンジを基調としたボディを、力強い下半身が支えている。
 額と両肩には大型のドリルが装備されていた。
 前巻コンストラクションのメンバーで、穴掘り担当のセンガだ。
 今回の迷路も、掘削は主に彼の仕事である。
 ただし、彼には致命的な欠点があった。
 それは極度の方向音痴である、という点だ。
 その方向音痴のせいで、地中で壊してしまった配管や配線は星の数を超えるという。
 ドリルのパワーは凄まじく、ピクシウス達が乗っていたモグモールとのドリルでの対決で競り勝ってしまうほどだ。
「何やってんだよ、こんな所で」
 ピクシウスがセンガに尋ねる。
「それがさ……迷っちまった」
「あららら……」
 バツが悪そうな顔をして言うセンガに、思わずピクシウスはつんのめる。
 どうやら迷路工事を完了したまでは良かったものの、そのまま迷路内に取り残されてしまっていたらしい。
「なぁ、あんたレースの参加選手だよな? おいらを出口まで連れて行ってくれないか?」
「あのなぁ……」
 ピクシウスが呆れたような視線を向けた。
 それはそうだろう。
 迷路を造った当事者が、その迷路から抜け出せないというのだから。
 だが、ここで出会った事は、お互いにとって非常に幸運であったと言える。
「そうだ。お前、穴掘るパワーは残ってるか?」
「そりゃもちろん!」
 ピクシウスの質問に、センガは胸を張って答えた。
「そんならオレにいい考えがある。ここは協力して、一緒に外に出ようぜ」
 ピクシウスの頭の中で、またしても電球がピカッと光っていた。

「なんとか出口まで来られたわね」
 山の反対側に開いた出口に、最初に到達したのはカマイチだった。
 彼は迷路に突入するなり、壁づたいに走っていた。
 迷路というものは、壁づたいに行けば必ずゴールまで到達するようになっている。
 ただしこれはスタート地点から始めなければ意味がない。
 カマイチは闇雲に進んで時間を食うよりも、確実な方法で迷路を突破しようと考えたのだ。
「おめでとさ〜ん! キミが一着なのさ!」
「思ったより早くクリアされちゃいましたね……。設計ミスだったんでしょうか……。うふふ……」
 黒いボディに紫のアクセントが入った、やたらと明るい男性型改装機と、白いボディに金色のアクセントが入った、やたらと暗い女性型改装機がカマイチを出迎えた。
 男性型は前巻コンストラクションの暗視係でヤミノリという改装機、女性型は照明係でシャイナという改装機だ。
 尚、ヤミノリは非常に運が悪く、シャイナはやたらと運が良いという特徴があった。
「この道を真っ直ぐ行くと次の関門だよ! 頑張ってね!」
 どこからともなく扇子を取り出してヤミノリが言った。
「もうひとふんばりね!」
 カマイチはヤミノリ達に見送られながら、次の関門がある羽車町へと向かって走っていった。
 その直後、
「やったー! 出られた〜!」
 サイカが出口から顔を出した。
 カマイチに続いて迷路をクリアしたサイカだが、彼女は特に何をした、という訳ではない。
 ただ方位磁石を手に、感じるままに進んでいたのだ。
 恐らくこれは、彼女に備えられた『超能力』と方位磁石の作用であると考えられた。
 超能力にも色々ある。サイカや彼女の姉であるヒーリンで研究されていた『念動力』。
 遠くの相手と声を出さずに会話する『テレパシー』。
 カメラに思い描いた物を映す『念写』。
 瞬時に違う場所へと転移する『瞬間移動』などなど。
 だが、これら超能力には共通の部分から『力』が発揮されているという説がある。
 例えるのであれば乗り物と同じだ。
 基本は同じ『エンジン』だが、それが自動車を動かす事もあれば、バイクを動かす事もあるし、飛行機を動かす事も、時には戦車を動かす事もある、という訳だ。
「このちょーしで行っくぞ〜!」
 サイカも元気いっぱいに、羽車町の方へ飛んでいった。


 場面は再び変わって、ゲイボルグ。
「どりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 ドガァァァァァァァァァァァァン!

 ゲイボルグのニョイ・ロッドが壁を砕く。
 彼も壁を破壊して迷路を突破するという、単純かつ荒っぽい手段に出ていた。
「もういっちょ!」

 ドガァァァァァァァァァァァァン!

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「へっ?」
 壁の破壊音に混じって聞こえてきた悲鳴に、ゲイボルグがキョトンとなる。
 土煙が晴れると、そこにはメルケインが目を回してひっくり返っていた。
 どうやらゲイボルグとメルケインが壁の両側から同時に攻撃を加え、そのままニョイ・ロッドがメルケインに命中してしまったらしい。
 さらにその隣ではギグバートが冷や汗をかいて腰を抜かしていた。
 いきなり真横でこんな惨事が起これば、それも当然だろう。
「ギグにメル! それに、シューリンゲンにグーナインも。お前らここで何やってんだ?」
 同僚との思わぬ場所での遭遇に、ゲイボルグがハテナ顔で尋ねた。
「任務だ。お主の方こそ、なにゆえこのような場所に?」
 返事出来ないギグバート達に代わって、グーナインが答えた。
「レースの途中なんだけど、迷っちまってさ……」
 ゲイボルグが頭をかく。
「つまり、この山から出たい、というわけだな」
「そう」
「だったらこの道を真っ直ぐ行くがよい。拙者達が掘ってきた穴が、山の向こう側まで続いておる。これが周囲の地図だ」
「ホントか!? サンキュー!」
 ゲイボルグは礼もそこそこに走り出した。
 その様子を見ていたシューリンゲンがグーナインに訊く。
「いいのか、一応オレ達は任務中だぞ?」
「なに、あ奴の事だ。わざわざ我らの存在を周囲に話して回る、などという事はあるまいて」
「それもそうか」
 二人は頷きあうと、まだ目を回したままのメルケインを起こしにかかった。
 が、この後彼らは思わぬ相手と遭遇する事になる。
 それは、
「……風はこっちの方から吹いてくるが……」
「ん、なんだありゃ?」
 現れたのはツムジザキとカゲオボロだった。
 どうやら出口から吹いてくる風を辿っているうち、グーナイン達が進んできた穴の方に来てしまったらしかった。
「お、お前達は!」
「テック者!」
 思わず二人は武器を構えて、テックボット達の方へ向き直る。
 因みにこの二人に限らず、あやかし研究所の関係者にはアームズテックの関係者を「テック者」と呼ぶ者が多い。
 また、二人が相手がテックボットと見るや、いきなり戦闘態勢に入ったのにはちょっとした訳があったりするのだが、それはまたの機会に語るとしよう。
 さて、テックボット達の方も、いきなり現れたツムジザキ達に狼狽していた。
「どうすんだよギグ、メル、グーナイン! 完全に見られてるぞ!」
「うっ……うるせえ! こんなモンはなぁ……黙らしちまえばいいんだよ!」
 体勢を立て直したギグバートが、どこかで聞いたものと全く同じ台詞を発しながら、スパイクメイスを振り上げてツムジザキ達に殴りかかった。
「ちいっ!」

 バゴォォォォン!

 二人はその一撃を、左右に跳んで避ける。
 狙いを外した棍棒は、坑道の地面を砕いていた。
「何だかよく分からんが、どうやら他人に見られてはまずい事をしていたようだな!」
「らしいな。引っ張り出して訳でも訊いてみるか!」
「しゃらくさい!」
 かくして、レースの最中にもかかわらず、思わぬ場所でバトルが勃発してしまったのであった。
「喰らえ!」
 シューリンゲンの手から、目にも留まらぬ速さで無数の手裏剣が飛ぶ。
 それに対して、ツムジザキが唇を尖らせる。

 ひゅるるるるるるるるるるるっ!

 口笛のような音が周囲に鳴った。
 同時に、彼らに向かって投げつけられていた手裏剣が砕け散る。
「なにっ!?」
 ツムジザキの真空鎌鼬だ。
「我が必殺の真空鎌鼬……とくと味わえテック者!」
「つあっ!」
 代わってグーナインが、手にした忍者刀でツムジザキに斬りつける。

 ガキィィィン!

 ツムジザキはその一撃を、両手に交差させた大鎌で受け止めていた。
 刃と刃が火花を散らし、辺りに耳障りな金属音を響かせる。
 同時にまたもツムジザキの口が尖ったのを見て、グーナインはとっさに後方へ跳ぶ。
 直後、今グーナインがいた位置の空気が、キーンと弾けた。
 一方、カゲオボロはギグバート・メルケインと戦闘を開始していた。
 カゲオボロの両手からかぎ爪の爪部分が風を切って飛び出す。
「むんっ!」
 射出されたかぎ爪は、まるで生き物のようにギグバート達に襲いかかった。
「くっ!」
 二人は宙を舞うかぎ爪を、身を伏せて避けた。
 ギグバート達を捕らえ損ねたかぎ爪が、カゲオボロの腕の動きで旋回する。
 鼓膜を切るような鋭いうなりを発して、洞窟の岩盤にかぎ爪のワイヤー部分が当たった。
 すると、固いはずの岩盤が、まるで鉄の棒ででも打たれたように砕け散る。
 カゲオボロのかぎ爪は、ワイヤーの部分も併せて武器となっていた。
 そのワイヤーはまるで凧糸のように細く、力を加えればたちまち千切れそうに見えながら、刃をあてても切れる事はなかった。
 日の光の下では黒く輝き、日がかげると全く見えなくなる。
 しかもそれが剣や槍などと違ってカゲオボロ自身の位置、姿勢とはほとんど無関係に見えるのだから、相手は攻撃はおろか防御の手がかりも無いのであった。
「はあっ!」
 カゲオボロの腕が動き、かぎ爪のワイヤーがギグバートのスパイクメイスの先端に絡みつく。
 さらにカゲオボロが腕を引くと、棍棒の先端が、まるで鋭い刃物で切ったかのように切断された。
「なんだと!?」
「こいつは特殊な繊維をよりあわせて、特製のグリスを塗り込んだもんだ。切れ味は最高だぜぇ、テック者!」
 ワイヤーをペロリと舐めて、カゲオボロが迫力のある笑みを浮かべた。
 その時だ。
「!」
 背後から振り下ろされたメルケインの拳をカゲオボロは転がって避けていた。
「やってくれるじゃねえか、テック者よぉ!」
 狭い坑道内での乱闘は、最高潮に達していた。
 シューリンゲンは坑道内の壁や天井を縦横無尽に飛び回り、空気はツムジザキの真空鎌鼬で裂け、岩盤がギグバートとメルケインのパワーで砕かれる。
 だが、そうこうしている内に坑道の方が悲鳴を上げ始めていた。

 ピッ……ピシッ……

 坑道内の壁に亀裂が走っていく。
 それに最初に気づいたのはシューリンゲンとグーナインだった。
「お、おい! ちょっと待て!」
「なにやら妙な音がしておるぞ!」
「へっ……?」
 一同は戦闘を中断し、周囲を見渡す。

 ピシッ……ピシピシピシッ……!

 あたりの壁には、どんどん亀裂が広がっていた。
「まさか……」
「嫌な予感……」
 ついに坑道内の壁が耐えきれなくなり、一気に崩れ落ちる。

 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!

「どわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「のわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「ぎぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」
 一同の悲鳴は、坑道の崩落音にかき消されてしまった。
 数時間後、係員に救助されるカゲオボロ達と、モグモール(もちろん井坂達が使った物とは別の機体だ)で密かに回収されるギグバート達の姿があったとさ。
 合掌。
「っておい! さっきと同じオチ使うんじゃねえ!」


「……今……凄い音が聞こえたような……」
 迷路の出口で、シャイナがボソッと言った。
 それは先程の、坑道の崩落音なのだが、もちろん彼女たちはそんな事知るよしもない。
 そこへ、
「や〜っとゴールか〜!」
 ゲイボルグが現れる。
 彼はグーナイン達の掘った穴から一気に迷路を抜け、大幅にカマイチ達との差を詰めていた。
 さらに、

 ドガァァァァァァァァァァァァァァァァァン!

 壁を突き破ってダントウ、ソウマ、ルーゼが現れる。
 その拍子に、

 ゴン!

「ぐぇぇぇぇぇぇっ……」
 吹っ飛んだ岩盤が頭に当たり、ヤミノリはその場に伸びてしまった。
「突破成功!」
 ランドモードから元の姿に戻ったダントウが、うーんとのびをする。
「前の連中との差もだいぶ縮まったみたいだし、このまま一気に追いついちまおうぜ!」
「よっしゃ!」
 ソウマ達も、その場から三人揃って駆けだした。
 そしてそして……。

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……

 周囲を地鳴りが襲う。
「これは……?」

 ドゴォォォォォン!

「どわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
 地面からオレンジと黒に塗られた、小さなドリルタンクのようなメカが現れる。
 弾みで地面に転がっていたヤミノリは吹っ飛び、頭から地面に突っ込んでしまった。
 ドリルタンクにつかまっているのはピクシウスだ。
 と言うことは……?
「おーい、無事に出られたみたいだぞ」
「ほんとか?」

 ガシャン!

 ピクシウスの声に、ドリルタンクはセンガへと姿を変える。
 ピクシウスは自身のレーダー機能でセンガをナビゲートして、外へと掘り進んできたのであった。
「本当にありがとうな! 助かったぜ!」
 両手を握って激しく握手してくるセンガに、ピクシウスは苦笑する。
「じゃ、この後も頑張れよ!」
「ああ、サンキュー」
 笑顔で自分を見送るセンガに複雑な気分になりつつも、ピクシウスも羽車町へと向かって駆けだした。
 迷路内での思わぬハプニングで、さらに脱落者を出しつつも、残った選手達は次の関門のある羽車町へと歩を進めていく。
 果たして、羽車町ではどんな関門が一同を待ちかまえているのか?
 次回を待て!


続く!


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