時は近未来!
 発達した科学技術によって、人々は今とは全く違う生活を送って…………いた訳ではなく。
 人々の生活様式は現代社会と大して変わらない、そんな未来。
 機械技術が飛躍的な発展を遂げ、あるものを生み出していた。
 それは、「心」を持つロボット。
 発達したAI技術によって、ロボットは人と同様の心を持つ存在に進化し、共に暮らすパートナーとなっていた。
 そして、そんな中でも自在にパーツを交換・カスタマイズする事によって文字通り「『装』いを『改』められる」完全自律の小型人型ロボット、『改装機(かいぞーき)』!
 この物語は、そんな改装機達の織りなす、愛と涙、笑いと感動の物語である!

 ……ぬわぁんちゃって!



借り物競走は大波乱!



 ある日、空栗市で開催される事になった『第一回空栗鉄人大レース』。
 ある者はレースへの興味から、またある者は賞金の百万円を目当てに。
 かくして、ロボット達による一大レースが始まったのであった!

 スタートの合図と共に、選手達が一斉に飛び出した。
「シャシャシャシャシャシャシャシャ!」
 トップを走るのはイダテンとディサイズの二人だった。
 圧倒的なスピードで周囲を引き離し、競技場の出口に向かって駆けていく。
「はっはっはっは! やっぱりスピードならオレ達が圧倒的だな!」
「その通りです、アニキ! シュンシュン、シュンシュン! シュンシュン、シュンシュン! シュ〜〜〜ン!」
 ディサイズとイダテンが、走りながら得意げに高笑いを上げる。
 さすがはそれぞれ「瞬断」と「俊足」の異名を持つだけの事はあった。
 このまま彼らの優勝は決まってしまうのだろうか?
 ……と、世の中そんなに甘くない。
 第一、それでは物語があまりにもあっさり終わってしまう。
 案の定、

 ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!

 凄まじい激突音が響き、ディサイズとイダテンの二人は、競技場の“出口通路の空間に”めり込んでいた。
 いや、良く見ると、そこは壁だ。
 出口通路のだまし絵がそこに描かれていたのだ。
「なんで、こんな所に……」
「出口の絵が……」
 ディサイズとイダテンはその場に目を回してひっくり返る。
「おおーっと、さっそく第一関門で脱落した選手がいるようです!」
 競技場にリポティーヌのマイクが響き渡った。
 本当の出口は、壁と同じ色のカーテンで隠されていた。
 どうやらこれが今回のレースの最初の関門だったらしい。
「何をやってんだ、あのバカ共……」
「全くだな」
 観客席から二人の改装機が呆れた視線をディサイズ達に向けていた。
 一人は白いボディに濃い青のアクセントが入った改装機で、左手が鍵の形をしているほか、全身のあちこちに門や錠前のような装飾がついていた。
 もう一人は銀と水色に彩られたボディで、額には三つ叉の槍先のような装飾が付いている。
 二人とも、胴体部と左肩がディサイズと同じデザインだった。
 ディサイズの同僚で、同じく三つ星コーポレーションのメンバーであるゲートとブレンドだ。
 ゲートはチームのリーダー格で、左手の鍵に試作品の空間転移装置が搭載されており、人間の大人程度の質量のものまでならテレポーテーションさせる事が可能だ。通り名は「転送のゲート」。
 能力的にも人格的にもリーダーにはふさわしいのだが、いまいち陰が薄いのが密かな悩みであった。
 ブレンドはチームの頭脳派で、会計も担当している潜入捜査用の第一期改装機(しかも最初期ロット)だ。
 頭脳派にありがちな割と腹黒い性格で、ディサイズとは犬猿の仲なのだが、妙な部分で意見が合う事も多かった。
 彼の能力は「外装の自在脱着」。
 その場で瞬時に外装を取り替える事が出来るのだ。
 そう、驚くべき事に、彼はなんとあのダントウの実の兄なのである。
 ただし、ブレンドにはある「忘れたい過去」があり、その事も関係してダントウに自分が兄である事を明かしていないため、二人の間柄を知っているのはブレンド自身と、彼らを作ったドクターのみであった。(このあたりの事情はまた別の機会に)
 さて、競技場のトラックにひっくり返ったディサイズ達を見下ろしながら、リポティーヌがマイクに向かって叫んでいた。
「第一関門、『出口はどこ!?』。カラー監修は、塗装用の改装機、クロマルさんにご協力頂きました〜!」

「クロマル、いつのまに……」
 観客席で、黄色に塗られた改装機がやや驚いたように、隣に座っている青い改装機に声をかける。
 黄色い改装機は両肩が円筒状の工具箱になっているが、それ以外は比較的ベーシックなデザインだ。
 名前はカイゾー。
 精密作業に特化した改装機で、この『かいぞーき!!』の物語の中心的存在の一人である。
 ……え、その割に前回影も形も無かったって?
 それは置いておいて……。(おい)
 カイゾーの隣の青い改装機がクロマルだ。
 顔の液晶部分は他と違う、非常に珍しい黒いタイプで、左右の腕にはそれぞれ筆とエアブラシが装備されていた。
 塗装用だけに色彩感覚に優れている。
 今回もその色彩感覚を買われてレースの主催側から依頼があったらしい。
 因みに色彩感覚に反するかのように味覚がとんでもないのが欠点で、好物は『ぬか味噌タルタルソース味』のプリンだったりする。
 なお、カイゾーとクロマル二人の関係は双子(のようなもの)であり、永遠の『ト○ジェリ』のようなものらしい。
「・・・クロマル・・・最近よく出かけてると思ったら・・・こういう事だったんだ・・・」
 女性型の赤い改装機が続けた。
 彼女は額に火のような装飾が付いていて、眠そうな半目に緑色の大きめの瞳、ノンビリとした口調が印象的だ。
 加熱用の改装機で、ヒーティアという。
「ええ。『是非ともあなたの色彩感覚をお借りしたい』と言われましてね」
 フフンと鼻(あるのかそんなもん)を鳴らすと、クロマルは得意げに鼻の辺りを某若大将のごとくこすった。
「あっそう……」
 カイゾーは大して興味なさそうに、クロマルとは逆の意味合いで鼻を鳴らした。
「そう言えば、アイル先輩はどこに行ったッスか?」
「確かに……今朝から居ませんでしたね」
 カイゾー達の後ろの席から声がかかる。
「〜ッス」口調なのは、つぼみのような形の頭部に緑色に塗られたボディの第三期改装機で、それに続けたのはすみれ色(ピンク?)のボディに顔の右半分を青いバイザーで覆った女性改装機だ。
 第三期はカイタローという解体用の改装機、すみれ色の女性改装機はヒーリンという修復用改装機で、サイカの実の姉である。
 そこに固まって座っているのは、カイゾー、クロマル、ヒーティア、一列後ろの席にヒーリン、カイタローそして腰まで届く長い白髪を持った少女の六人だった。
 サイカと先程名前の出たアイルも含め、皆カイゾー達のルームシェア仲間である。
「アイルだったら、『今日はちょっと仕事が入っちゃった』とか言って今朝出てったぞ」
 白髪の少女がカイゾー達に声をかける。
 髪の先が金色のメッシュになっていて、ツリ目に緑色の瞳が特徴的だ。
 彼女はプロムという名で、実は人間ではない。
 ネットワーク上をさまよっていた実体を持たないプログラム生命体で、誰がいつ、何のために作ったのかも分からなかった。
 そして彼女自身も一切の記憶を持っていなかったのである(「もともと無かった」という話もある)。
 ある時ヒーリンの昔のボディに偶然迷い込んで大騒動を起こした末、現在は機械診療所の所長、光槌獏(みかづち・ばく)の制作したアンドロイドボディを肉体として、カイゾー達の家の一員となっている。
 彼女の『プロム』という名前も、その際にカイゾー達にもらったものである(この辺りの詳しいエピソードは原作の第十三話と第十五話を読もう!)。
「こんな日に仕事ですか……アイルさんも大変だなぁ」
 残念そうにクロマルが呟く。
 どうやらこの空栗市あげての一大イベントを、彼女と一緒に観戦したかったらしい。

 競技場を走っている選手達の方に話を戻そう。
 突然のディサイズとイダテンの事故に驚きながらも、彼らのおかげで第一関門の存在に気づいた選手達は、足早にディサイズ達の横を駆け抜けていく。
「お先にしっつれ〜い♪」
「運転中は常に前方注意。これ常識でやんすよ!」
「師匠……ごめんね、先行くよ」
「あ〜あ。ディサイズ兄ぃもイダテン兄ぃもお大事に〜」
 それぞれ思い思いの言葉をかけながら、競技場から出て行った。
 ここで、今回のレースを詳しく説明しておこう。
 この『第一回空栗鉄人大レース』が、空栗市全域を舞台にした一大マラソンレースである事は前回述べた通りだ。
 だが、ただ走るだけでは面白くない。
 そう考えた主催者側は、「各町・各地で関門を設ける」というルールを定めた。
 即ち、各町に一つずつ通過する為の関門を置いたのである。
 この各関門をクリアしなければ、たとえゴールしたとしてもこのレースの勝者とは認められないのであった。
 なお、この第一関門だけは、存在をバラしてしまっていては意味が無くなるため、選手達にも秘密にされていた。
 競技場から町に飛び出した一同は、あらかじめ提示されていた道を走って次の関門に向かっていく。
 空栗競技場は市内でも一番の都会である音児町にある為、競技場を出て最初の関門は必然的にこの音児町にあるという事になる。
 トップは飛行能力を活かしたヨクリュウとドラキュリア、そして念動力で空中浮遊するサイカだ。
 その三人と遜色のない速度で、ローラースケートをフル稼働させてエイナが続く。
 さらに忍者の脚力を持ったカゲオボロとツムジザキ、彼らと同等の脚力を持つカマイチが、凄まじいスピードで彼らを追う。
 残りはだいたい大きな差が無い速度で、先頭集団を追いかけていた。
 ここで意外だったのがルーゼとダントウだった。
 彼らは二人とも飛行能力を備えているのにもかかわらず、地面を走っていた。
 特にルーゼなど、本気を出せばヨクリュウすら凌ぐスピードで飛行できるのだ(因みに世界で一番早く飛ぶことの出来る生物は、ハエの仲間である)。
 なぜ、彼らはわざわざ地上を走っているのか?
 それは、
「レースと言ったらやっぱり足だろ!」
 という理由からだった。
 割と単純なのである。
「誰が単純だって!」
「ほんと、失礼だな!」
 やば、聞こえてたのね。
 こりゃ失敬。
 さて、先頭を飛んでいたヨクリュウ達の前に、大きな建物が姿を現していた。
 空栗市が誕生するよりも以前から営業を続けている、操業ウン百年の由緒正しい百貨店『高徹堂百貨店(こうてつどうひゃっかてん)』だ。
 その本店ビルの入り口で、一人の改装機が一同を待ちかまえていた。
 ご丁寧に、横には『第一回空栗鉄人大レース・第二関門』という立て札まで立っている。  その改装機は全身に機関車のパーツがついていた。
 額にはライト、胸部は機関車の先頭部分になっている。
「え〜、本日は第一回空栗鉄人大レースにご参加頂き、誠に有難う御座いま〜す。私(わたくし)が音児町での関門を預からせて頂いております、ドウリンと、申します」
 まるで某烈車戦隊のアナウンスような口調でドウリンが自己紹介をする。
「ギャーォ、ここが二つ目の関門か」
「ここでは一体何をしたらいいの?」
「それでは、選手の皆様に、ご説明させて頂きます。第二関門は、名付けて『借り物競走! 百貨店巡り』で、御座います」
「借り物競走〜?」
 ヨクリュウ達が、揃って疑問符を頭上に浮かべる。
 そこへカマイチ達も追いついてきた。
「ここでは、このボックスに入れられたクジを引いて頂き、そこに書かれた物を持ってきて頂く、というルールとなっております。なお、クジに書かれた品物につきましては、全てこの百貨店に取り揃えておりますので、ご安心下さい。それでは、ご到着順にクジをお引き下さいませ」
「よっしゃ! ほんじゃ早速」
 ヨクリュウからボックスに手を入れ、クジを引く。
「ギャーォ……『革靴』」
「『ブローチつきのリボン』ねぇ」
 これはドラキュリア。
「『プレミアム・コーヒー牛乳』?」
 サイカはきょとんとした表情で言った。
「『メープルシロップ』……でやんすか」
 エイナは商品が書かれた紙を眺めて目をパチクリ。
 さっそく店内に入ろうとする一同だったが、ドウリンが呼び止めた。
「なお、もし借りてきた商品に傷などがついていた場合、お客様のお買い上げになってしまいますので、あらかじめご注意下さいませ」
「なぬっ!?」
 その説明に、一同はギョッとなる。
 もし高額商品を引いてしまい、さらにそれが破損などしてしまった場合……賞金などとは言っていられなくなる。
 こうして緊張感漂う借り物競走が幕を開けたのだった。

 まず『革靴』を引いたヨクリュウは、衣料品売り場に来ていた。
「ギャーゥ、革靴、革靴と……。お、あったあった」
 比較的簡単なものだった事もあり、ヨクリュウはレジで店員にレースの選手である事を伝えると、デパートの入り口まで向かう。
 因みに彼が抱えているのは一番安い合成皮革の革靴だ。
 万が一の事を考えてのチョイスであった。
「ん?」
 ふと、衣料品売り場を来た道の通り戻っていたヨクリュウは、ドラキュリアの姿を認める。
 どうやら彼女も目当ての商品を見つけたようだが、何故か彼女はそのリボンを胸に付けて、試着用の姿見にその姿を映していた。
 それはドラキュリアの瞳と同じ緑色の宝石で出来たブローチが付いた、深い青色のリボンだった。
 胸にそれを付けたドラキュリアには、いつもとはまた違った、落ち着いた雰囲気があった。
(こんな格好したら、ツルギどういう反応するかな……)
 考えてため息をつく。
 彼女はまだ、ツルギに自分の気持ちをはっきりとは伝えていないのだ。
 そのため、この間などせっかく遊園地までツルギを誘ったと言うのに、
「他人には聞かせられない話でもあるのか?」
 などと心配されてしまう始末だった。
(ギャゥゥ……難儀だな)
 ヨクリュウは複雑な顔をして、ドラキュリアの方を見ていた。
 彼は彼で、ドラキュリアの事が気になっている。
 ただ、彼女のツルギに対する気持ちを知っている為、言い出す気は無いらしかった。
 それどころか、むしろ彼女の想いが成就する事を願っている節すらある。
「ま、頑張れよ、ドラキュリア……」
 ヨクリュウは何となく、彼女の邪魔をしてはいけないような気がして、足早に彼女の後ろを走り去った。

 一方、サイカとエイナが向かったのは食料品売り場だった。
「おたがいがんばろーね!」
「で、やんすね!」
 サイカとエイナはお互いを激励すると、その場から離れる。
 早速サイカはドリンクコーナーへ向かう。
 そこはさすが大型百貨店。
 ジュースに始まり、お茶、ミネラルウォーター、コーヒー、乳酸菌飲料、酒類、果ては飲むゼリーやパック入りのスープまで。
 色々なメーカーの、値段も種類も様々な飲料が所狭しと並べられていた。
 そんな売り場をふわふわと浮かびながら、サイカは商品のラベルを目で追っていく。
「えーっと、『プレミアム・コーヒー牛乳』かぁ」
 それは巷で人気の、コーヒー豆から牛乳まで、厳選に厳選を重ねた材料で作られたというコーヒー飲料だった。
「あっ! あったぁ!」
 サイカはそのお目当ての飲み物が、棚においてあるのを発見する。
 しかもご丁寧に、それが最後の一個だった。
「やったね〜♪ これでサイカの借り物はお〜わりっ♪」
 コーヒー牛乳に手を伸ばそうとするサイカだったが、一瞬早く、茶色い手がそれを掴む。
「ああっ!」
 コーヒー牛乳を手に取ったのは、小柄な茶色に塗られたテックボットだった。
 額の部分は嘴、足は爪のようになっていて、背中から左右に黒い触手のような物が垂れている。
 どことなく猛禽類をイメージさせる姿である。
「やったぁ! 最後の一個ゲットー!」
 そのテックボットがはしゃぐ。
 顔つきも相まって、割と幼い印象を与えていた。
 ブレイド達の同僚で、スピアという掃討戦用のテックボットだ。
 が、サイカは相手が誰かなど構っていられない。
 このままではまたクジを引き直しに入り口まで戻らなければならなかった。
 それでは随分とタイムロスになってしまう。
 サイカはさっそく行動に出た。
 ヒョイ、と、スピアの手からコーヒー牛乳が浮かび上がる。
「あれ?」
 スピアが目を白黒させるのも当然といえば当然だ。
 コーヒー牛乳はふわりと宙を舞い、サイカの手に収まる。
「ごめーん! ちょっとかしてね!」
 サイカは遠くからスピアに叫ぶと、そのまま速攻でレジに向かった。
 戦闘用のテックボット相手に平気でこんな事をやってしまうサイカだが、これも無邪気のなせるわざか!?
 いや、怖い物知らずのなせるわざだな……。
 さて、こうなると収まらないのがスピアだ。
「ちょっと、何するんだよこのチビ! 待てーっ!」
 そのままスピアも宙を滑って、サイカの後を追った。
 かくして買い物客でごった返す店内で、はた迷惑な追いかけっこが開始されてしまったのであった。
「そんなにおこらなくてもいーでしょ! あとで返すからー!」
 サイカの方はのんきに呟きつつも、売り場を右に左へと曲がっていく。
 スピアもさるもの、そんなサイカを見失う事無く付いていった。
 しかし、結果的に事情を知らない一般客にはかなり迷惑をかける事になってしまっていた。
「き、気をつけろーっ!」
「どわーっ!」
「ぎぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」
「し、死ぬーっ!」(←?)
 そんな追いかけっこを、二人のテックボットが遠巻きに眺めていた。
 一人は楽しそうにケラケラ笑いながら。
 もう一人はゲンナリとした様子で。
 二人とも頭部にはツインテール状のパーツがつき、ゴスロリチックなデザインで、顔立ちも似ている事から姉妹であることが伺えた。
 ケラケラ笑っている方は、頭部のツインテールがそれぞれ大鎌になっている。
 また、アメリカンパンクのテイストが入っており、いかにも不真面目っぽい顔つきをしていた。
 雰囲気からして、こちらの方が姉のようだ。
 妹の方は頭部のツインテールが大型のブースターになっており、ボディの各所にもフリルのようなスラスターが付いていた。
 姉とは対照的に生真面目そうな雰囲気を醸し出している。
 彼女達はやはりブレイドの同僚で、姉はサイゼム、妹はクラブラーといった。
 サイゼムは娯楽好きで自堕落、他人を嘲笑う不真面目な性格。
 クラブラーはお菓子などの飲食物や嗜好品を「ムダ」と考える性格をしている。ただし、妙なところで律儀な面を持っていた。
 正反対ではあるが、両者とも有る意味「兵器らしい性格」をしているとも言える。
「いいぞー、もっとやれやれ〜♪ ケラケラケラケラ♪」
「『もっとやれ』じゃないよ姉さん。全くスピアってば……」
 それぞれ性格を如実に表した台詞を口にする。
 そんな二人を意に介することもなく、サイカとスピアの追いかけっこはまだ続いていた。
「しつこいなー。……ん?」
 ふと、サイカの眼前に缶詰コーナーが飛び込んできた。
 棚に缶詰が山と積み上げられている。
「そうだ……」
 サイカの頭に悪戯っぽい考えが浮かぶ。
「待てーっ! ボクのコーヒー牛乳返せーっ!」
 サイカを追いかけるスピアは、埒があかないと踏んだのか、スピードを上げた。
 サイカの方はそれを待っていたかのように、缶詰コーナーで急旋回してスピアの頭上を飛び越える。
「へ?」
 サイカの突然の行動に気を取られたスピアは思わずそちらの方に顔を向ける。
「ケラケラケラケラ♪ フラグ見えちゃったー♪」
 その様子を見ていたサイゼムがニヤッと笑って呟く。
「しまっ……ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ! ちょ、ちょっとタンマ!」
 はっと気づいたスピアは減速しようとするが、時、すでに遅し。
 飛び出すな、スピアは急に止まれない。

 ドガァァァン!
 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!

「のわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
 案の定、スピアは缶詰の山に突っ込んでしまう。
 哀れ、スピアは崩れた缶詰の山に生き埋めになってしまったのであった。
 合掌。
「合掌じゃないっての!」
 缶詰の山から這い出したスピアは、腹立ち紛れに近くの壁を殴りつける。
 すると、辛うじて棚に引っかかっていた缶詰が一つ落下してきて、スピアの頭を直撃する。

 ゴン!

「ぐぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ……」
 スピアは今度こそ、目を回してのびてしまうのだった。
「あらら……ちょっとやり過ぎちゃったかなぁ……テヘッ」
 サイカは可愛らしく舌を出すと、その場を後にした。
 尚、その後缶詰売り場には、頭に大きなコブを作り気絶しているスピアを指さしてケラケラ笑っているサイゼムと、その横でブツブツ言いながら缶詰を片付けているクラブラーの姿があったそうな。

 他方、エイナの方は何をしていたのかと言うと。
「メープルシロップ……なかなか無いでやんすねぇ」
 彼女のお題であるメープルシロップを探して、調味料のコーナーをてこてこと歩いていた。
 足裏のローラースケートは収納している。
「そう! お店の中はローラーシューズで走っちゃダメでやんす! 他のお客さんの迷惑になるでやんすよ!」
 誰に言うでもなく、エイナは叫んでいた。
 先程から、調味料コーナーやパンのコーナーなどを探し回っているものの、なかなかメープルシロップは置いていなかった。
 その時である。
「お嬢ちゃ〜ん、ハチミツいらないかい?」
「え?」
 ふと呼び止められて、エイナは声のした方を向く。
 そこは物産展のコーナーで、空栗市の東西南北、様々な名品が出品されていた。
 エイナに声をかけてきたのは、ハチのような姿をした改装機だった。
 濃いイエローとブラウンに塗られたボディに、額にはスズメバチの頭の形をした飾りが付き、背中にはハチのように羽が付いている。
「フォースター印の手作りハチミツ。ハチの飼育方法から採蜜用の花にまでこだわった一品だよ。もちろん無添加だし、安心安全!」
 そう、彼はディサイズ達と同じくフォースター製作所生まれの養蜂用改装機で、「ハチ使いのホーミッツ」といった。
「ハチミツ……でやんすか?」
「そうそう。どうだいお嬢ちゃん、味見してみないかい?」
 ニコニコと笑いながら、ホーミッツがハチミツの入ったビンを差し出す。
 中に入っているハチミツは、綺麗な琥珀色をしていた。
「どれどれ……」
 エイナは薬指の先にハチミツを付けると、ペロリと舐めてみる。
 料理上手なエイナの味覚センサーは、そのハチミツがホーミッツの言葉通り、なかなか上物である事を見極めていた。
「……美味しいでやんすね」
 純粋な感想が、自然と口をついて出ていた。
 ホーミッツも嬉しそうに言う。
「そうだろう。ホットケーキにかけてもよし、ハチミツレモンにしてもよし。恋人との甘〜い一時にもピッタリだよ」
 もしここでラチェアがいたら、
「甘〜いハチミツは美少女や美少年にかけこそなのですよ!」
 などと力説して、ゲンパクからきっついツッコミを受けていたに違いない。
 それはともかく……。
「甘いひととき……」
 その一言で、エイナがどこか夢見るような目つきになる。
 この時エイナの頭の中では、『あちきとあにきの愛の生活』が妄想されていた。
 ちょっとばかり、エイナの頭の中を覗いてみると――

『あにき〜、今日はあにきのために、ホットケーキを作ったでやんす〜v』
 ちなみにこの時の彼女はエプロン姿だ。
『美味しいよ、エイナ』
『ポッv』
『エイナ、ホットケーキも美味しいけど……』
『?』
『今度はエイナを食べさせてくれ! ガバッ!』
『ああっ、だめ! ……あにき、優しくして欲しいでやんすぅv』

「な〜んちゃって、な〜んちゃって! やん、やん、あにきってば〜v」
 エイナは顔を真っ赤にして、自分の想像に身をクネクネ動かしていた。(注:今の会話の意味が分からなかったという方、親御さんに訊くのだけは勘弁して下さい)
 妄想に浸る改装機の少女を見ながら、ホーミッツは見てはいけないものを見たように青ざめている。
「おじさん!」
 突然、エイナは我に返り、キッとホーミッツの方を向いた。
「は、はひっ!?」
 ホーミッツの身体がビクッと震える。
 声なども、完全に裏返ってしまっていた。
「メープルシロップは無いでやんすか?」
「へっ?」

 所変わって、ペット用品のコーナーでは……。
「なぁ、ツムジザキ。お前、何引いたんだよ?」
 カゲオボロとツムジザキは、二人揃ってペット用品コーナーにいた。
 カゲオボロの問いに、ツムジザキは答えるのも嫌だといった表情でポツリと呟く。
「……首輪」
「あっはっはっは! ぴったりじゃねえか! お前大将の犬だし……」
 その瞬間、

 ひゅるるるるるるるるるるるるっ!
 パキッ!

 口笛のような音が響いたかと思うと、カゲオボロの近くにあったポップが、まるで鋭い刃物で切ったかのようにパックリと裂けていた。
「オレを犬と言うな……!」
 えも言えぬ迫力をにじませ、ツムジザキが低い声で言う。
 これがツムジザキの能力だった。
 何かを投げるのでもなく、吹くのでもない。
 彼は吸うのだ。
 彼の口や指先には、空気の吸排気口が設けられており、強烈な吸引により、やや離れた虚空に小旋風を作る。
 この旋風の中心に真空が生じるのだ。
 この真空に触れたが最後、どんな物でも、まるで鎌鼬に襲われたかのように内部から弾けてしまうのである。
 ツムジザキの最強の必殺技、「真空鎌鼬」である。
 思わずカゲオボロの後頭部をツツーッと汗が一筋流れる。
「じょ、冗談だよ冗談。これくらい聞き流せって」
「全く……そういうお前はどうなんだよ。オレと同じ場所にいるって事は、お前もペット用品なんだろ」
「ああ。犬用ガムだ」
 犬用ガムとは、あの骨の形をした犬用の歯磨き食品である。
「お前の方こそ犬じゃねえか! 外見も含めて!」
「何だと! オレは犬じゃねぇ! 狼だ! お前こそ大将の飼い犬だろうが!」
「うるさい! この犬、犬、犬、犬!」
「きぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ! なんだとこの野郎!」
 たちまち二人は子供のような言い争いを始めてしまった。
 周囲の買い物客も、何事かと二人の方を振り返る。
 しかし、これが闇に生きる者である忍者同士のやり取りかね……。

 またまた、スポーツ用品のコーナーでは……。
 ソウマ、ダントウ、ルーゼの三人が、仲良くレジに並んでいた。
 それぞれバット、グローブ、ボールを持っている。
 ……えーっと、君達、少年野球でも始めるの?
「違うって! オレ達の借り物がたまたまこれだったんだよ!」
「……なんか、意図的なものを感じるよね」
「おれもそう思う」
 三人は顔を見合わせて、小さくため息をつく。

 カキ――ン!

 何故かその場に、バットでボールを打つ音が響くのだった。

 でもって、青果コーナーでは。
「スイカはどこだぁぁぁぁぁっ!?」
 ホムラが走り回っていた。
 一応言っておくと、今はスイカのシーズンではない。
 これはまた、面倒なものを……。
 ホムラは青果コーナーを片っ端からひっくり返さんばかりの勢いで駆け回っていたが、ようやくスイカを発見する。
「よっしゃ! 見つけたぜ!」
 ホムラはそのスイカを抱え上げる。
 その途端、
「ちょっとちょっと〜、何するんですか〜」
「へっ?」
 なんと、スイカから声がしたのだ。
「ボクはスイカじゃありませんよ〜」
 みるみる、スイカが一人の改装機に姿を変えた。
 頭部にはカメの頭のような形のヘッドギアが付き、赤い全身を緑と黒の縞模様のアーマーで覆っていた。
 カメのような、スイカのような姿の改装機である。
 彼はあやかし研究所の改装機で、マリナなどと同じく水場での監視員として働くウリガクレという改装機だった。
 外見通り彼が本領発揮できるのは夏場で、その時期には非常にハイテンションだが、それ以外の季節では人が変わったようにのんびりしていて、やや自分の殻(甲羅?)に閉じこもりがちであった。
「紛らわしい事するんじゃねえ! 何なんだよお前?」
「スイカのディスプレイのバイトですよ〜。ほとんど動かなくていいし〜、ボクにはピッタリかなって思いまして〜」
「寂しい奴……」
 汗ジトになってホムラが呟く。
「ほっといて下さい〜。それより〜、スイカを探してるんでしたよね〜?」
「ああ、そうだった!」
 ホムラは手短に用件を説明する。
「なるほど〜、だったら〜、これなんてどうですか〜?」
 ウリガクレが近くの棚からスイカを一玉取り出した。
「おっ、いいスイカじゃねえか!」
 ホムラはウリガクレからスイカを受け取ると、急いで出口に向かう。
 この時慌てすぎて途中でスイカを落っことし、真っ二つになってしまったスイカを結局買い取るはめになった彼は、後で彼ら影道衆の元締めであるスライから大目玉を食らう事になるのだが、それはまた別の話である。

「みんな遅いわねー……」
 高徹堂を後にしてカマイチが呟く。
 この借り物競走を最初にクリアしたのはカマイチであった。
 彼は他のメンバーのドタバタと関わる事なく、借り物である薄型テレビをそつなく家電コーナーから借り受けると、速攻でドウリンの元へ戻ってきていた。
 そして二番目にこの課題をクリアした者も、カマイチとほぼ同じタイミングで高徹堂を出発していた。
「どうやらオレが二番目みたいだな……。ラッキー、待ってて下さいよ、ボス!」
 それは意外にもピクシウスだった。
 これには彼の能力が関係していた。
 彼は自分自身がレーダーアンテナとしての機能を持つテックボットだ(因みに彼の名前も「Pyxis=羅針盤座」からとられている)。
 その能力で周辺の探知などが可能なのである。
 先日遊園地・空栗メカニカでクラブラー達に暴走稼働させられた際にも、止めに入ったドラキュリアをその能力で翻弄し、片っ端から攻撃(といってもポップコーンやミカンなどを投げつけただけだが)を命中させているのだ。
 今回も彼はクジを引くなり、そのレーダー機能をフル活用し、目的の品を一発で探し当てたのである。
 因みに彼の課題は玩具売り場で『BB○士No.XXX 白凰頑駄無』を探す事だったとか。
 さて、何とか参加者全員(除・ディサイズ&イダテン)は借り物を無事に終え、次なる関門へと向かう。
 果たして彼らを待ち受けている物とは一体!?
 次回を待て!
「ってコラーッ! オレの事忘れてるだろーっ!」
 あ、ゲイボルグ……。
「オレだって課題クリアして次の場所に向かってるんだからなーっ! 忘れるなよ!」
 ごめんごめん。
 次はきっと出番があるからさ。
 ……多分。
 という訳で改めて、次回を待て!
「納得いかねーっ!」


続く!


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