☆
時は近未来!
発達した科学技術によって、人々は今とは全く違う生活を送って…………いた訳ではなく。
人々の生活様式は現代社会と大して変わらない、そんな未来。
機械技術が飛躍的な発展を遂げ、あるものを生み出していた。
それは、「心」を持つロボット。
発達したAI技術によって、ロボットは人と同様の心を持つ存在に進化し、共に暮らすパートナーとなっていた。
そして、そんな中でも自在にパーツを交換・カスタマイズする事によって文字通り「『装』いを『改』められる」完全自律の小型人型ロボット、『改装機(かいぞーき)』!
この物語は、そんな改装機達の織りなす、愛と涙、笑いと感動の物語である!
……ぬわぁんちゃって!
猛烈鉄人大レース!
☆
さて、ここは空栗市(からくりし)。
現代で言う静岡県の辺りに存在するとも言われる政令指定都市である。
ここには前巻町(ぜんまいちょう)、羽車町(はぐるまちょう)、降来町(ふりこちょう)、音児町(ねじまち)、愛石町(あいしちょう)などといった町が存在する。
物語に入る前に、ここで少々、この世界における『ロボット』の扱いについて説明せねばなるまい。
ロボットとは、広義には「人の代わりに作業をする機械」の事を指すが、この世界では「人間と同じく感情を持った機械」の事を指す。
対して感情を持たないただの機械はマシンやメカ等と呼ばれている。
概念としては、「人型、非人型を問わず」、「自分で考えて行動し」、「単体で独立稼働でき」、「人語を解する」という特徴があれば基本的にロボットとして扱われる。
また、SFロボットものではお約束の『ロボット三原則』だが、これは多くの矛盾や危険性をはらんでおり、この世界では施行されていない。
人間と同等の知能を持つまでに発展したAIのおかげである。
ただし、先ほど冒頭で「心」が存在するとは書いたが、基本的には『モノ』扱いだ。
ペットと同じようなものなので、所有者がいなければならない。
そうでなければいわゆる「野良ロボット」になってしまうので、いろいろと不便なのである。
また住居に関しても、基本的にロボットは家主にはならないので、野良のままだと不法侵入などの扱いになってしまう。
マンションやアパートによっては、大家が仮に所有者となったりする制度もある。
なお、ロボットでも「所有者」側の権利を有する資格が存在するので、資格を持っていれば家主になることも可能だ。
そしてここからは改装機独自の説明になるが、現時点で改装機には生産時期の違いによる三つの世代が存在する。
外見上の主な違いは主にボディのサイズだ。
基本的なパーツのデザインはどの世代も共通だが、第一期の平均身長は約92cm、第二期は約90cm、そして第三期は約88cmと、世代が進むごとに小型化されている。
因みに現時点で製造数が一番多いのは第二期の改装機だ。
また、彼らは『フレーム』と呼ばれる素体にパーツを装着して完成する、という特徴を持っている。
このフレームには三つの種類があり、ノーマルフレーム、特殊フレーム、可変フレームに分類される。
ノーマルフレームは最も基本的な標準型フレームで、特にこれといった特徴は無いが、最も多くの改装機に使用されている。
特殊フレームは耐電、耐水や強化型、軽量型などの文字通り特殊なフレームの事を指す。
そして可変フレームは、読んで字のごとく変形機構を備えたフレームだ。変形は動物型からビークル型まで様々。
ある意味では特殊フレームの範疇に含まれるが、それだと特殊フレームの定義があまりに広くなり過ぎるため、変形後に人型以外になる物が可変フレームに分類されている。
では、基本的な説明も終わったところで、物語の方に話を戻そう。
ここは前巻町の3丁目。
改装機による何でも屋、刃戦団が住居としている一軒家だ。
基本的には所有者を必要とするロボット達だが、こうやって独立し、仕事をしている者もこの世界では珍しい事ではなかった。
「……暇だ」
壁を背に座り込んだ改装機が呟く。
窓から差し込む朝日が、その改装機のボディを照らす。
彼はシルバー基調のカラーリングに、手足の各所に赤いギザギザの模様が描かれている。
両肩にはそれぞれ刀の鞘が収まっている。
刃戦団のリーダーで、ツルギという改装機だ。
生真面目な性格なのだが、たまにストレスが溜まり過ぎてキレる事があるのが玉にきず。
「仕事……来ないわね」
若草色にカラーリングされた、男性型の改装機がテーブルにあごを乗せて呟く。
後頭部にお下げのように垂らされた刃が特徴的だ。
同じく刃戦団の一人で、カマイチ。
オネエ系の口調で話すが、これは開発時の言語プログラム導入のミスが原因であり、中身はしっかりと男らしい性格のイケメンである。
器用で几帳面、刃戦団の会計や諸々の管理を担当している。
ここしばらく仕事の依頼が無かったため、彼らは暇をもてあましていたのだ。
そんな二人を尻目に、赤い女性型の改装機が鯛焼きを口にほおばる。
「ウチはこれが有れば幸せ……」
やはり刃戦団のメンバーの一人で、名をアクシィという。
割と怠け者なタイプで、関西弁で話すが、生まれも育ちも前巻町である。
「何を言ってる! その鯛焼きも仕事が無きゃ食べられなくなるんだぞ!」
アクシィの頭上からツルギが怒鳴る。
早くも彼の血管は切れ始めていた。
いつも深刻に考え込んでしまうのは、ツルギの悪いクセと言えた。
そんな彼の目の前に、スッと新聞が差し出される。
「はい、お兄ちゃん。朝刊とってきたわよ」
新聞を持ってきたのは、ツルギ達より少し小柄な少女型の改装機だ。
ツルギによく似ているが、模様は青く、腰の横にはスカートのようなアーマーがついている。
さらに背中には小さな羽根が付いていた。
ツルギの妹で、アロアという改装機だ。
兄に似て生真面目で、正義感が強い学級委員タイプなのだが、負けず嫌いで背伸びしたがりな性格。
カマイチには憧れに近い好意を抱いており、彼を「カマ兄さん」と呼ぶ。
また、アクシィにとっても妹分のような存在で可愛がられている。
口癖は「これぞまさしく○○ね!」。
一時期ツルギとのケンカが原因で、前巻町の隣町である羽車町に住んでいたのだが、とある事件がきっかけで、少し前に前巻町に帰って来ていた(この辺りの詳しいエピソードが知りたい方は、原作の第十七話と第二十話を読もう!)。
「ああ。すまないな、アロア」
アロアから新聞を受け取ったツルギは、折り込んであったチラシに目を通す。
ここ最近仕事が入ってきていない彼らにとって、すこしでも安い特売品を探す事はまさに急務であった。
と、あるチラシを目にしたツルギの手が止まる。
「これは……」
☆
所変わって降来町。
ここはレンガの敷き詰められた西洋風のお洒落な町で、ホテルや映画館などがある。
先ほどの前巻町からは、電車で一駅分ほど離れている。
そんな町中の一角。
大きな河のほとりにそれはあった。
それは少し大きめの建物で、横に長い形をしていた。
横から見ると、建物の両端から中央部にかけて、ゆるやかにへこんでいる。
その屋根の真ん中には大きなソーラーパネルが船の帆のようについていて、遠くから見ると和船のように見えた。
西洋風の降来町には、不似合いと言えば不似合いだ。
改装機の研究所の一つで、あやかし研究所という施設だった。
ベン、ベン、ベン、ベン、ベベベン、ベン……♪
研究所内に三味線の音が響く。
その旋律は、研究所内の居住スペース、その大広間から出ていた。
その空間は天井から床、さらに柱も木製で、調度品も全て和風のテイストにまとめられている。
窓からは例の大きな河を眺める事が出来た。
三味線を弾いているのは少女だ。
年の頃は十二、三歳くらいで、深い濃紺のストレートロングヘアーと、後頭部の大きなリボンが特徴的だ。
ただ、その弾いている曲が特徴的だった。
『情鬼〜薄皮怨歌』。
某侍戦隊で、元花魁の敵幹部が弾いていたアレである。
少々奇抜な選曲のセンスと言えた。
が、その場に居る者達は、別にそれに対して怪訝な表情をするでもなく、彼女の演奏を聴いていた。
一人は小柄な老人で、頭は見事に禿げ上がっているが、口からあごにかけては対照的に立派な髭を蓄えていた。
飄々とした中に、人の良さそうな雰囲気を醸し出している。
この研究所の所長を務める三河盛明(みかわ・せいめい)博士だ。
他には赤い鎧武者のような外見の改装機と、白地に青い炎のようなマーキングが入った、素浪人のような姿の改装機がいた。
「今日も雪の三味はいい音色してるな」
赤い方の改装機が、朝っぱらから杯を傾けながら上機嫌で言った。
彼はこの研究所の改装機達のまとめ役で、紅(くれない)バットウといった。
豪放磊落な性格で普段から酒を飲んでおり、やや大雑把なのが欠点。
一方で懐は広く、意外に裁量があるため、仲間達からの人望は厚い。
また、その外見に違わず、研究所内でも最強レベルの戦闘能力の持ち主だった。
「まったく和むよな」
白い素浪人風の改装機も頷く。
彼は背中に長い日本刀を背負っていた。
バットウの相方で、無類の決闘マニアである蒼魂(そうこん)ビャクヤという改装機である。
そして、三味線を弾いている少女の名は三河雪(みかわ・ゆき)。
盛明の孫娘で、現在中学生である。
性格は温和で、少々そそっかしいところがある。
また、その優しい人柄は研究所の所員や改装機たちに愛されており、「お嬢」などと呼ばれている。
ちなみにロボットにとっての不快音(人間で言う「黒板を爪でひっかいたような音」)を三味線を使って出す事ができるという特技を持っている。
そこへ食事の乗った膳を抱えて、妖艶な雰囲気を持つ女性の改装機が入ってきた。
全身白いボディを真っ赤な着物で包み、黄色い帯を締めている。
頭には蚕を象った装飾が着いていた。
「さあさあ、皆様。朝食の用意が調いましたよ」
「有難う、チノカスミ」
チノカスミの姿を認めると、雪もニッコリと笑顔を浮かべ、三味線を弾く手を止めて席に着く。
「ほほう、今日はサバの焼き魚にキノコの和え物かい。美味しそうだねぇ」
盛明も満面笑みを称えて言った。
「恐縮です、博士」
チノカスミも笑顔を浮かべて恭しく頭を下げる。
謙虚な性格なのだ。
一同が食事を終えた頃、折りたたまれた新聞を手に、一人の改装機が部屋へ素早く、しかしながら静かに入ってきた。
「バットウ様、博士、本日の朝刊で御座います」
彼は全身に刃と渦巻きのような装飾が施されており、濃紺のボディカラーをしていた。
腰には折りたたみ式の、二丁のものすごい大鎌をさしている。
バットウの従者格の改装機で、ツムジザキといった。
やや血の気が多いものの、実直で誠実な、たとえて言うなら純朴な田舎の青年といった性格をしている。
また、雪の事を「姫様」と呼び慕っている(なお雪の方は「姫様」という呼び方だけは何とかして欲しいと内心思っている)。
「ツムジザキ殿……」
ツムジザキが入ってきたのを見て、チノカスミがポッと頬を赤らめる。
彼女は密かに、この年下の改装機に想いを寄せていた。
もっともツムジザキがニブい事もあって、告白はまだだったが。
……と、ラブコメはまた今度にしよう。
「ん、ご苦労」
バットウはちらりとチノカスミに
(不憫な奴……)
と言わんばかりの視線を送ると、ツムジザキから新聞を受け取った。
それからしばらく新聞を読んでいたバットウだったが、ある広告のところで目が止まる。
「なになに……『第一回空栗鉄人大レース』。参加はロボットなら誰でも可能。優勝賞金は……百万円んんんんんんん!?」
普段の彼からは想像も付かない声で、バットウは叫んでいた。
☆
一週間後。
「さぁ〜始まりました、第一回空栗鉄人大レース! これは空栗市内に設けられた各関門を突破しつつ、最初にこの空栗競技場に戻ってきた者が勝ちという、非常にシンプルなレースです!」
マイクを手に、ボディは黒、頭や手足はシャインレッドの、いかにもレポーターといった風情の女性改装機が叫んでいた。
彼女はフリーのレポーターで、リポティーヌという改装機だ。
リポティーヌはマイクを握る手に力を込め、更にまくし立てる。
「さらに他の相手を壊したりしなければ、手を組むもよし、空を飛ぶもよしのまさに何でもアリのいかにも書いてる作者に都合がいいルールでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇす!」
ほっとけ。
それはともかく、彼女がいる場所……それは競技場の上空だった。
と言っても、彼女自身に飛行能力がある訳ではない。
彼女はある改装機の背中に乗っていたのだ。
その改装機は、背中に黒い翼が生えている。
全体的に黒と白のカラーリングで、額には太陽を、両肩にはカラスの頭を模した装飾が付いている。
手には羽団扇のような形の映像記録装置を持っている。
カラーリングと相まって、まるでカラス天狗のようである。
リポティーヌの相棒で、あやかし研究所出身のヤタウツシという改装機だった。
「あー、しんど……」
言葉通り、少ししんどそうな顔をしているヤタウツシを気にする事もなく、リポティーヌはさらに熱っぽく叫んでいた。
「実況は私、リポティーヌ! カメラはヤタウツシでお送りしま〜す! さて、それでは早速今回の出場選手をご紹介しましょう!」
リポティーヌの言葉と共に、ヤタウツシは高度を下げ、競技場に集まっているロボット達にカメラを向けた。
競技場の大スクリーンに、彼らの姿が映し出される。
……とは言っても、その大半は改装機だったが。
「……意外と出場者多いんだな。知ってる奴らばっかだが……」
競技場の観客席から眼下に広がるトラックを見下ろして、ツルギが呟いた。
隣にはアクシィとアロアも座っている。
ちなみに彼ら刃戦団からは、カマイチが出場していた。
勿論当面の生活費をゲットする為である。
そこで、刃戦団一のスピードを誇るカマイチに白羽の矢が立ったという訳である。
本当はアロアも参加しようとしたのだが、彼女を心配したツルギが全力で阻止していた。
……まぁ、ルールがルールだしねぇ。
さて、ツルギが言う通り、トラックに並んでいる選手達は大半が彼の顔なじみであった。
パッと見ただけで、刃戦団の同業者である『三国夢想』の紅一点ドラキュリアや、影の仕事人集団である『影道衆(しゃどーしゅう)』の熱血一直線ホムラ、前巻署の機械課に所属する、元レーサーの婦警エイナなどなど……。
「世間は狭いってこった」
「そうかも知れ……って、どわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
横からかかってきた声に思わず頷いたツルギだったが、その相手を見て、それこそ飛び上がるほど仰天していた。
改装機によく似た体型のロボットだが、改装機ではない。
鋭角的な仮面をつけたような頭部に、いかにも戦闘向きなアーマー。
背中には身長をも超える大剣を背負っている。
そして口許にはシニカルな笑みを浮かべていた。
つい先日ツルギと死闘を演じた、ブレイドと言う名のテックボットだった。
テックボットとは、世界的なロボットメーカーとして有名な工業系の企業『アームズテック社』が開発したロボットだ。
ただし彼は一般に流通しているタイプではなく、裏で開発された「兵器としての」テックボットである。
一般にはあくまで「有名なロボットメーカー」と認知されているアームズテック社だが、裏ではこのような武器商人としての顔も持っているのだった。
とはいえ、これはあくまで上層部での話であり、アームズテックの社員は自分の会社が兵器製造を行っていることなど露とも知らずに働いている者達も多い。
「貴様……一体何を企んでいる!?」
ツルギはキッとブレイドを睨みつけると、いつでも肩の刀を抜けるように身構える。
アクシィはアロアを庇うように得物である大斧を構えている。
アロアはアロアで、背中のフェザーアローを手にしている。
が、ブレイドは別にツルギ達に手を出す様子も無く、けだるそうにイスの背もたれに寄りかかった。
「……別に今日は戦いに来たんじゃねぇよ。ほれ」
と、ブレイドが指さしたのは競技場のトラックであった。
「?」
ツルギ達がその方向を見ると、そこにいたのは一人のテックボットだ。
白い細身のボディに、腰の後ろからはシッポのように三節棍が生えている。
頭部は赤い逆毛のようで、額には金色の輪っか状の装飾がある。
まるで西遊記の孫悟空のような姿だった。
瞳の色からして白兵戦用であるらしい(彼らテックボットは、用途によって瞳の色が決まっている)。
「ゲイボルグの奴がどうしてもこの大会に出たいっつってよ。アームの旦那、オレに『ゲイボルグが何か問題起こさないように見張ってなさい』だと」
アームとは彼らテックボットの指揮官にして、テックボットの第1号機である。
肩書きは「対人虐殺兵器」。
冷静かつ冷酷な性格で、残忍な思考回路と強力無比な戦闘力を誇る。
ツルギ達も幾度となく、絶体絶命の危機に陥れられている。
が、何のかんので組織人である以上、アームもあれこれと雑務をこなさねばならないのだ。
このあたりは人に使われる者の辛い所である。
「ったく、ガキのおもりなんざフィンクかハーケンにでもやらせろってんだ……」
ブツクサとぼやくブレイドだったが、そこへさらに頭痛の種が舞い込んできた。
「ブレイド殿! お茶を買って参りました!」
「御大将! お茶菓子に羊羹などいかがでしょう!」
「……いらん」
ブレイドはあからさまにうんざりした様子で、ぶっきらぼうに答える。
現れたのは、二体のよく似た姿をしたテックボットだった。
どちらも頭部から巨大な刃が生えている。
ただし一人は長く、もう一人は短い。
刃の長さの他、カラーリングにも差違があった。
刃が長い方は赤を基調としており、短い方は白と水色を基調としている。
彼らは双子のテックボットで、赤い方が兄のサーベル、白い方は弟でロンデルと言った。
性格は昔の武士よろしく、律儀で「超」が付くほど生真面目。
ブレイドに心底惚れ込んでいて、勝手に彼の従者を名乗っている。
「オレはいらんから……そこにいるこいつらにでもくれてやれ」
「はぁ!?」
自分達を指さすブレイドに、ツルギが素っ頓狂な声を上げる。
「お前……何のつもり……」
抗議しようとするツルギだったが、それよりも素早くサーベルとロンデルが彼の前に飛び出していた。
「お初お目にかかる! 私はサーベルと申します!」
「私はロンデルです! 御大将の御命により、このお茶と羊羹をどうぞ召し上がって下され!」
「わーっ! 私も別にいらん!」
「そうおっしゃらずに!」
ドテバキグシャ!
たちまち周囲の迷惑も顧みずにドタバタが始まってしまった。
まるでそこだけ小型の台風でもやって来たかのようだ。
アクシィとアロアはわれ関せずといったふうにそのドタバタを見ていたが、ふとアクシィが気づいたようにサーベル達に言った。
「なぁ、あんたら……あんたらの大将、どっか行ってまったで?」
「「はい?」」
ステレオで気の抜けた声を出した後、サーベル達はブレイドがいた方向を振り返る。
すると、さっきまで確かにいた筈のブレイドの姿が忽然と消えていた。
どうやらサーベル達をツルギに押しつけて、早々に避難したらしい。
「御大将、一体いずこへ!?」
「こうしてはおれん! ロンデル、ブレイド殿を探すぞ!」
「おう! では、私達はこれにて御免!」
二人は慌ててその場から走り去っていく。
そんな二人を、ツルギ達は唖然とした表情で見送るのだった。
さて、ここで今回の出場選手を紹介しておこう。
まずゼッケン一番はカマイチ。
ゼッケン二番はドラキュリア。先ほども紹介したが、ツルギ達と同じく改装機の何でも屋である三国夢想の紅一点だ。
名前の通りドラキュリーナ(女性の吸血鬼の事。男性の吸血鬼は「ドラキュラ」もしくは「ドラクル」と呼ばれる)やサキュバスのような姿をしていて、若干気分屋な所もあるが、繊細で純情な乙女心の持ち主だ。
目下、恋する相手はツルギ。が、今のところは残念ながら彼女の片思いのような状態になっている。
尚、三国夢想には他に電撃使いでオレ様気質のライドウと、思慮深いパワータイプの巨人サイクロウがいるのだが、サイクロウは重量級である自身にこのレースは不利と判断し不参加。ライドウはサイクロウとドラキュリアの二人から「絶対参加するな」と縛り上げられた上で、強制的に留守番をさせられていた。
彼が参加しようものならこのレースがどうなるか、大体想像がつく。
ゼッケン三番は、影道衆の切り込み役、ホムラ。シルバーのボディに、ボディ各部に施された炎のようなマーキングが特徴的だ。
思い切りが良いのが長所だが、後先考えないのが欠点の、熱血直情おバカである。
ゼッケン四番は、黒いカマキリのような姿で、両腕の鎌と銀色に輝く鎧のような左肩・ボディが特徴的なディサイズという改装機だ。
降来町にある改装機の何でも屋の一つ『三つ星コーポレーション』のメンバーで、本来は伐採・木材製造用なのだが、本人の好戦的な性格と高い戦闘能力も相まって、格闘戦では純粋な戦闘用にも匹敵する。
両腕に付いた鎌を使った流星斬が必殺技で、「瞬断のディサイズ」という通り名を持つ。
因みに同じ鎌使いとして、カマイチをライバル視している。
今回の参加の理由もカマイチがレースに参加すると聞きつけた事が大きい。
ゼッケン五番は、ディサイズの舎弟である輸送用の改装機、イダテン。
トンボのような姿をしていて、全力疾走すれば新幹線にすら追いつくことが可能だ。通り名は「俊足のイダテン」。
ちなみに彼とディサイズは、共に降来町にある『フォースター製作所』という研究所で開発された改装機である。
ゼッケン六番はあやかし研究所の改装機で、カゲオボロという忍者型の改装機だ。
狼のような姿に変形する事が可能で、諜報活動に活用している。
今回は恋人であるヨミカガリとの結婚資金の為に参加したらしい。
ゼッケン七番はツムジザキ。
バットウの「お前出ろ」の一言で出場する事になったらしい。この辺り、従者の悲しいところである。
ゼッケン八番はエイナ。
彼女は前巻署の機械課に所属する婦警で、元は空栗市内のサーキットのレースチームに所属していたが、オーナーの汚職に関する口封じの為に機能停止状態でゴミ捨て場に廃棄されていたところを、現在の上司であるケイジロウにより救出され、事件解決後に彼の部下となった(この辺の詳しいエピソードを知りたい方は、原作の「かいぞーき!! 高速のレースクィーン」を読もう)。
それ以来、彼を一途に「アニキ」と慕い、毎日熱烈なアプローチを繰り広げている。
今回は元レーサーの血が騒いだらしい。
また、違法なチューンナップを施されていない「本当の自分で」レースに出たかった、という思いもあった。
ゼッケン九番はクリーム色の小柄な第三期の改装機で、額に付いたパーツから前髪のような青いパーツが二本垂れているのが特徴的だ。
彼女はサイカと言う名前で、「念動力実験・完成型」という特殊な用途の改装機である。
端的に言うと「ロボットに超能力を持たせよう」という事だ。
性格はお転婆で、第三期の改装機の中でも特に設定された精神年齢が幼く、文字通りの「お子様」である。
今回の参加の動機も
「面白そうだから」
という実に分かりやすい理由だった。
ゼッケン十番は黒地に赤いアクセントが入った第三期改装機で、首の後ろから生えた赤いスカーフのようなラジエーターと、額に付いた刃が特徴的だ。
名前はソウマ。
組み替える事で様々な戦局に対応できる槍・ヴァリアブルランス(別名アッセンブルランス)を武器とする護身用だが、純粋な戦闘用に劣らない能力を持つ。
精神的にまだ幼いところがあるものの、正義感と実力を備えた、夢と希望を追いかけるまさに絵に描いたような少年漫画の主人公的な少年である。
ちなみにアロアに好意を抱いているが、あまり相手にはされていない。
合掌。
今回のレースで優勝賞金をゲットして、アロアをデートに誘おうと密かに思っているらしいが……どうなる事やら。
ゼッケン十一番も同じく第三期改装機で、赤と白に塗り分けられている。
耳には銀色の羽が、胸部と手足には竜や鳥、虎など様々な動物の頭部を模した装飾が付いている。
彼はダントウという護衛用の改装機で、先ほど紹介したディサイズとは師弟のような関係を築いている。
改装機の特徴である「外装を自在に交換する」という点をさらに推し進め、その場で瞬時に外装を交換する事が可能だ。
性格は常にポジティブで周囲を元気づける事ができるのだが、ちょっと楽天的すぎる部分があるのが玉にきず。
ゼッケン十二番もやはり第三期の改装機で、紫に塗られたボディが特徴的だ。
頭部にはハエの頭の形をした装飾が付いており、背中に生えた羽もこれまたハエのものに似ている。
ディサイズやイダテンと同じくフォースター製作所で生まれた、ルーゼという戦闘用の改装機だ。
精神年齢は大体人間で言う十二、三歳くらいだが、たまに大人っぽい部分も見せる。
性格は快活でサッパリしており、卑怯な事が大嫌いという一面を持つ。
ゼッケン十三番は、頭部に猛禽類のような装飾が付いた赤とシルバーに塗られた改装機だった。
背中には竜のような翼が付いている。
彼は三つ星コーポレーションと同じく降来町に存在する改装機の何でも屋、『フリークス四獣奏(カルテット)』のリーダー格で、ヨクリュウという名の改装機である。
性格は生真面目で苦労人。また、その性格からか貧乏くじを引く事も多い。
ゼッケン十四番は白いボディのテックボットで、額に付いた赤い矢印のような装飾が特徴的だ。
どことなくお人好しそうな顔つきで、苦労性な雰囲気を漂わせている。
彼は先ほどのブレイド達とは異なる、いわゆる「民間用として一般的に販売されている」タイプのテックボットだ。
名前はピクシウスという。
これは彼の主人である井坂嵐士(いさか・あらし)に付けられた名前で、元の名は『クシスパ−2』といった。
井坂の事を「ボス」と慕っている健気な性格で、このレースには、鉱石の盗掘未遂で逮捕されてしまった彼の保釈金目当てで参加していた(このあたりの詳しいエピソードを知りたい方は原作の第二十一話を読もう!)。
最後にゼッケン十五番は、先ほどちらりと出たゲイボルグ。
外見も内面も幼く、食べることが思考の大部分を占め、「腹へった」が口癖という、おおよそ戦闘用とは思えない能天気な性格をしている。また、周囲からは「バカ猿」と呼ばれ子供扱いされているが、本人は「サル」扱いには至って不満げである。
選手達の紹介も終わったところで、彼らの方に目を向けてみよう。
レース開始前ではあるものの、皆リラックスした様子で世間話などをしている。
「よぉ、カマイチ。今日はオレが勝たせてもらうぜ! スピードならオレの方が上だからな!」
「……そう。ま、頑張ってね」
意気込むディサイズとは対照的に、カマイチの方は一歩引いたような様子であった。
そこへダントウが声をかける。
「師匠〜。師匠も出るんだね」
「おう、ダントウ。お前も出る以上は絶対上位に食い込めよ!」
「う、うん……」
「まあ優勝はオレとイダテンがもらうから……せめて三位には入れ。でなきゃ、一ヶ月間修行メニューは十倍だ!」
「ええーっ!? と、とにかくやってみるよ」
こんな様子だが、これでもディサイズはディサイズなりにダントウの事を大事に思っていて、ダントウもディサイズの事を慕っている。
「ドラキュリア、お前も出るんだな」
「そう。最近仕事の依頼が少なくってさ〜。そう言うヨクリュウは?」
「こっちも同じよ。不景気のせいかねぇ。賞金ついでにオレ達(フリークス)の宣伝にもなればってな」
住む地区は違えど、同じ業種として同じ悩みを持つ者同士は揃ってため息をついた。
(このレースに勝ったら、アロアさんを海外のネズミーランドに誘って……)
一人燃えながら拳を握りしめるソウマ。
彼の背後には、気のせいか炎まで燃えているようであった。
(アニキ、あちきの走り、絶対見てて欲しいでやんす!)
元レーサーであるエイナは、今回は特に燃えているようだ。
常に一生懸命で全力疾走なのが彼女の良いところであった。
……もっとも、それが空回りしてしまう事も多いのだが。
「カゲオボロどの〜! 頑張ってくださいませ〜!」
競技場の客席からヨミカガリが手を振る。
彼女は額に蛍のような装飾がついたあやかし研究所生まれの改装機で、濃い紫色の着物を着込んでいた。
可憐な印象を与える少女だが、ことカゲオボロが絡むと人が変わったような奇矯さを見せる事がある。
カゲオボロとはかなりラブラブで、端で見ていると呆れてさっさと帰ってしまいたくなるようなバカップルぶりを発揮している。
「おう。任せろよ、ヨミカガリ!」
カゲオボロもピッと親指を立てて応えた。
さて、そうこうしている内に、レースの開始時刻が迫ってきていた。
「そろそろレースのスタートです! 選手の皆さんは、スタートラインに並んでくださ〜〜〜い!」
マイク越しに、リポティーヌの声が競技場に響き渡る。
一同は競技場のスタートラインに、綺麗に整列し始めた。
「いよいよ始まります! 空栗市を舞台とした、第一回空栗鉄人大レース! 果たしてどんな走りが展開されるのでしょう! 期待に胸をふくらませつつ参りましょう! それでは、位置について、よーい…………スタートォォォォォォォォォッ!」
パァァァァァァァン!
リポティーヌの声と同時に軽快な音が響き、参加者達は一斉にスタートラインを蹴って駆けだした。
果たしてこれからどんなレースが始まるのか!?
次回を待て!
「……って続くんかい!」
その通り! 一話完結だと思ったら大間違いなのである!
という訳で改めて、次回を待て!
続く!
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