小人の作った鐘
☆ むかしむかし、オランダにまだキリスト教が伝わらなかった頃、人々はキリスト教とは違った宗教を信じていました。 けれども、その内、外国のキリスト教の宣教師たちが、 「お前さん達は、悪い宗教を信じている。お前さん達が有難がっている神様は、お前さん達に悪い事ばかり教えていて、ちっとも偉いことは無い。早くそんな神様を拝むのはやめて、キリスト教を信じなさい」 などと言い出しました。 そして、 「私達キリスト教の神様は、それはそれは私達を愛して下さり、貧しい者も、病気の者も、みんな幸せにして下さるのじゃ」 と教えていました。 この宣教師の中には、悪い人がいて、オランダ人たちが神様のように大切にしている木をわざと切り倒してしまったり、有難がっている井戸や泉を、 「何て馬鹿馬鹿しい……」 とあざ笑ったりしました。 また、三羽のカラスを連れているフライアという神様を、オランダ人たちは敬ってお祈りをささげていましたが、悪い宣教師たちはそれを見ると、 「そんなものは神様なんかじゃありゃしない。そんなくだらぬものにお祈りしても、石ころにお辞儀をするのとおんなじさ。もしも効き目があったなら、わしの首をやってもいいよ」 と悪口を言ったりしました。 そんな様子を見たり聞いたりして、酷く怒ったのは小人たちでした。小人たちは、神様が世界の始まりと同時に作ったのですが、身体が小さく、その上姿がとても見にくかったので、恥ずかしくてたまらず、いつも地の中に隠れているのです。そして、土の中に含まれている金や銀や銅、錫などを、せっせと掘り出して働いていました。 小人たちは、悪い宣教師たちを憎んで、ある日、地の底で会議を開き、 「まったく、けしからん宣教師だ。ひとつ、懲らしめてやろうではないか」 「だが、宣教師全部が悪いというのではない。中には良い宣教師もいるのだから、良い宣教師には良い事をしてやり、悪い宣教師には散々な目に合わせてやる事にしたらいいだろう」 と相談しました。 そう決まってからというもの、悪い宣教師たちには、毎日、毎日、悪い事ばかりが起こりました。パンを食べようとすると、一面にカビだらけで食べられませんし、牛乳を飲もうとすると、葉のように苦いのです。家の中にはバラバラと砂利が降ってきます。ベッドはひっくり返されるし、服や帽子が無くなってしまいました。 悪い宣教師たちは、頭から湯気の出るほど怒りましたが、どうしてこんな事が起こるのかさっぱり分からないで、地団太踏んで悔しがりました。 それに引き換え、良い宣教師には、毎日、毎日、嬉しい事ばかり起こりました。パンや牛乳が無くなったと思うと、いつの間にか食べきれないほどたくさんのパンや牛乳が、ちゃんと置かれているのです。 ベッドの敷布や肌着などは、いつも真っ白に洗濯されていますし、庭に出ると、色とりどりの綺麗な花が知らぬ間に植え付けられていたりします。また、教会を建てようと思うと、材木や釘などが、どこからか、さっと山のように運ばれてきたりしました。 教会が出来上がると、良い宣教師たちは、 「教会には鐘がないといけない。鐘は、森の中で迷った旅人に場所を教えたり、神様にお祈りをするため、人々を呼び集めたりするのに是非必要なものだ。ところが、このオランダには鐘を作れるものが居ないから、遠い国から取り寄せなければならない。そうするにはたくさんのお金がいるが、我々にはお金がないから、そんなことは出来ないし、困った事だ」 と、毎日ため息ばかりついていました。 それを知った小人たちは、また会議を開いて、 「良い宣教師たちは鐘を欲しがっているが、ひとつ、オレ達の力で鐘を作ってみたらどうだろう。オレたちは、人を殺す刀や槍を作るために金属を掘り出すのはごめんだが、鐘は人々のためにとても役に立つもんだから、オレ達が金属をどっさり掘り出して、たくさんの鐘を作って贈ろうではないか」 と相談したところ、みんな喜んで賛成したので、そうする事に決まりました。 それから小人たちは、さっそく金槌やノミやツルハシやてこなどを使って、昼も夜もせっせと鉄や銅の入っている岩を砕き始めました。 鉄や銅がたくさん集まると、今度は火を真っ赤に燃やしてそれを溶かしました。膝までの、つんつるてんの短い服を着て、サンタクロースのお爺さんみたいに、天辺に房の付いている赤い帽子をかぶった小人たちは、火を燃やしたり、鉄や銅を投げ込なんだり、あっちこっち走り回って大活躍です。 顔は煤で真っ黒になるし、身体は火の熱で焦げてしまったほどですが、小人たちはじっと我慢して、溶けた鉄や銅で、鐘を一つ一つこしらえていきました。 その甲斐あって、何か月の後には、大きいのやら小さいの、丸い物や長い物、いろんな型の百以上の鐘が、ずらりと地の中に並びました。 「うわー、出来たぞ、出来たぞ! もう、この位でいいだろう」 小人たちは鐘造りをやめて、出来上がった鐘を鉄の棒につるしました。それから顔や体を洗い、服を着替えてさっぱりしてから、鐘の下にみんなが並びました。 すると小人の頭が一本の短い棒を持って、みんなの前に立ち、 「さあ、みんな、鐘が出来たお祝いに、鐘の音に合わせて歌を歌おう。だが、はじめにちょっと練習しなければいけないな。わしが調子をとるから、みんな、歌ってみてくれ」 と言いました。 そこで小人たちは、頭が棒を一振りすると、みんな一斉に声を張り上げて歌い出しました。 けれども小人たちは、男や女ばかりでなく、年寄りや子供たちも一緒だったので、なかなか調子が揃いませんでした。 銅鑼声を出す者もあれば、耳をふさぎたくなるようなキンキン声を出す者もいます。 小人の頭はがっかりして、 「そんな低い声で歌っちゃだめだよ」 とお爺さんを注意したり、 「おい、おい。そんな獣の吠えるような声を出したら、他の者が困るじゃないか」 と若者を叱ったり、 「いいぞ、いいぞ、その調子!」 などと子供たちを褒めたりしている内に、どうやら、やっと、揃うようになりました。 そこで本番となり、小人たちは百以上の鐘を一斉に突き鳴らして、その音に合わせて合唱し始めたのです。 ちょうどその頃、人間界では、一人の宣教師が出来上がった教会を眺めながら、 (ああ、鐘が欲しいなあ。鐘が無いと、なんだか魂が抜けているみたいだ) と思いました。 日が暮れてから宣教師は、 (どうしても鐘を手に入れたいが、この国では金が作れないから、とにかく、ライムズまで行って何とかしてこよう) と考えて、それから寝床に入りました。 すると、なんだか鐘のような音と、歌声のようなものが聞こえてきたように思いました。 (おや、おかしいぞ。この国には鐘なんか無いのだから、私があまり欲しがるので、空耳かな……) 宣教師はそう思って耳を澄ますと、確かに美しい鐘の音と、歌声とが聞こえてくるのです。 (なんて不思議な事だろう。この国では鐘の音など聞かれる事が無いはずなのに……。しかも、あんなに綺麗な鐘の音が……) 宣教師は不思議に思いながら、じっと鐘の音に聞き入っていました。 小人たちは合唱が済むと、 「さあ、それでは鐘を教会へ配って歩こう。みんな、急がなくちゃだめだぞ。 夜が明けたら、人間の世界にはいられないんだから」 と言って、鐘を全部地上へ運び出しました。それからみんなで手分けして、あちらこちらの教会へ金を吊るして歩きましたが、みんな大急ぎで働いたので、夜が明けないうちに、すっかり仕事が終わりました。 小人たちはほっとして地の中へ潜り込むと、 「鐘を見て、宣教師たちはどんなに驚くだろうね」 と言って嬉しがりました。 この日から、オランダの国にも、美しい鐘の音が響き渡るようになったのです。 おしまい 戻る |