驚異のペケノート!

 地球とは異なる空間に存在する、紫がかったもやに包まれた空間――
 ムボウデーンの本拠地で、デコトランは頭を抱えていた。
 地球での作戦失敗も、前回で四度目。
 おまけに、ヒカリアンには新たにタンクローリーという仲間が加わるというおまけまでついたのだ。
 さすがに彼にもそろそろ焦りが見えだしたのである。
「う〜む、どうすればヒカリアン共をコテンパンにしてやる事が出来るものか……」
 そんな時だ。
「お〜い、デコトラン。お前さんに荷物が来てるぞ」
「ん?」
 部屋の入り口に立っていたのはバリバリッシュであった。
 手には小包を持っている。
 バリバリッシュから荷物を受け取ったデコトランの顔に笑みが浮かんだ。
「おおっ、やっと届いたか……!」
「一体何なんだよ、それ?」
 小包を開封するデコトランを見ながら、バリバリッシュが尋ねる。
「これはな、ヒカリアン共を地獄に叩き落とす秘密兵器だ。見ろ!」
 と、デコトランが差し出したのは一冊の黒いノートであった。
 表紙にはブラッチャーのエンブレムが印刷してあり、上の方には『×NOTE』と書いてある。
「『エックスノート』……? なかなかクールなデザインじゃん」
 ヒュ〜ッと口笛を吹くバリバリッシュだが、デコトランは首を横に振る。
「いいや、これは『ペケノート』だ!」
「ペケノートぉ?」
「このノートに名前を書かれると、そいつは不幸のどん底に陥るという恐ろしい超兵器なのだ!」
「何かどっかで聞いたような設定だなぁ、そのアイテム」
 バリバリッシュは完全にジト目状態で、ノートを手に上機嫌なデコトランを見据えていた。
 しかし、デコトランはそんなバリバリッシュの視線も気にせずに叫ぶ。
「待ってろよ、ヒカリアン共。今日という今日こそ、貴様らを地獄に叩き込んでやるぞ! ふはははははははははははははは!」

 そして、地球。
 今日は日曜日。
 時間はまだ午前十時前。
 普段は外で遊ぶ事の多いタクヤ達だが、今日は甚佐の店でテレビを見ていた。
 画面では制服姿の男子高生と、青い顔に黒い身体の悪魔のような生物が話しているシーンが映し出されている。
<……僕は日本一と言ってもいいくらいの、真面目な優等生だよ。そして僕は……新世界の神となる!>
<やっぱり人間って……面白!>
 どうやらミステリー物であるらしい。
 ノートに名前を書かれると、その人物は死んでしまうとか何とか……。
「でもホントにこんなノートがあったら恐いよねぇ」
「ははは、そりゃないよ。あくまでフィクションなんだからさぁ」
 インプレッサとタクヤは画面を見ながら笑い合う。
 さて、そんな彼らを遠くから見据えてる者が居た。
 言うまでもなくデコトランである。
「ふふふ、インプレッサめ。笑っていられるのも今の内だ」
 さっそくデコトランはペケノートとボールペンを取り出した。
 ノートを開くと、中身は一見普通の大学ノートのようである。
 その一行目に、デコトランははっきりと『ライトニング インプレッサ』と書き込む。
 すると、ノートに書かれたインプレッサの名前がかすかに黒く発光したようであった。
「これで良しと……」
 デコトランは笑みを浮かべると、懐から冊子を取り出した。
 どうやらペケノートの説明書らしいという事は、一ページ目に『取扱書』と書かれている事からも知れる。
 それに書かれていた内容を簡単に書くと、こんな感じだ。
『ペケノートに名前を書かれた人物は不幸になる』
『書かれる人物の顔が頭に入っていないと効果は無い』
『顔が一致する必要があるため、同姓同名の人間に一遍に効果は得られない。通称名などでは不可』
『名前の後に人間界単位で四分十三秒以内に不幸の状況を書くと、その通りになる』
『ペケノートから切り取ったページや切れ端などでもペケノートの効果は有効である』
『ペケノートはどれだけ使ってもページが尽きることはない』
『ペケノートに書く物質は、文字として認識できれば何でも良い』
 などなど。
 ……う〜ん、ますます某不朽の名作マンガっぽい……。
 と、それはさておき。
 デコトランはノートの効果を確かめるべく、インプレッサ達の方を再び見る。
 すると、ちょうどインプレッサ達は甚佐の店から出てくるところであった。
「これから何しようか、インプレッサ?」
「そうだね〜……うわっ!」
 突然インプレッサが派手に前方に転がり、目の前の塀に激突した。

 ゴン!

「いった〜……」
 見てみると、何故か店先にバナナの皮が落ちていたのだ。
「なんでこんなものが……」
 タクヤは怪訝そうな顔をして、バナナの皮を拾い上げる。
「もう、誰だよ、道ばたにゴミ捨てたの!」
 怒りにまかせ、インプレッサは横にあった電柱を殴りつける。
 次の瞬間、

 ゴキ!

 今度は上からスパナが落下してきて、インプレッサの頭に見事にヒットしたのだ。
「はにゃ、ほへ……」
 インプレッサは目を回して倒れてしまう。
「い、インプレッサ!」
 慌ててタクヤはインプレッサに駆け寄った。
「いやぁ、悪い悪い! 大丈夫か!?」
 電柱の上からは、工事をしていた作業員の声が響くのであった。
 インプレッサの惨状を見て、デコトランは笑い転げていた。
「ぶわっはははははははははははは! 愉快痛快! ざまあ見ろってんだ! よ〜し、お次は……」
 デコトランはペケノートを開くと、新たにカウンタック達の名前も書き加える。

 ペケノートの効果は偽り無しであった。
 パトロールをしていたカウンタックは飛び出してきた子供を避けたはずみで壁に激突し、山道を走っていたラングラーはスリップして河に落っこち、実験をしていたタンクは薬品の戸棚をひっくり返して、薬品の爆発に巻き込まれていた。
「い、一体どうなってるのさ……」
 ズタボロになったインプレッサ達は息も絶え絶え。
 逆にデコトランの方はご機嫌である。
「ふふふ、いいぞいいぞ。もっと不幸になるのだ! ふははははははははははは!」
 場所もわきまえず、デコトランはふんぞり返って大笑いをしていた。
「ママ〜、あのおじちゃん何で笑ってるの〜?」
「しっ、見ちゃいけません!」
 …………笑う時には、周りには注意しましょう。
「インプレッサ、大丈夫?」
 タクヤとミズキに支えられ、全身に包帯を巻いたインプレッサはフラフラとした足取りで歩いていた。
 これからヒカリアンのミーティングがあるのである。
 そこへ、
「待ちたまえ、少年」
 彼らを呼び止める者が居た。
 タクヤ達が振り返ると、そこには易者が路上で店を開いていたのだ。
 が、この易者、どことなく怪しい。
 牛乳瓶の底のように分厚い眼鏡をかけ、おまけに眼鏡には付け鼻まで付いている。
 さらに口にはマスクまでしていた。
 実はこの易者、デコトランが変装したものだったのである。
 しかし、インプレッサを始め、タクヤもミズキも全くその事に気がつかない。
 ……ま、『ヒカリアン』だしね。
「僕に何か用ですか?」
 デコトランの変装に全く気づかないインプレッサは、疑う事もせず、デコトランに尋ねる。
 デコトランはそんなインプレッサに虫眼鏡を突きつけると、わざとらしいほど唸って言った。
「むむむ……少年よ。君には大変良くない相が出ておるぞ」
「本当ですか!?」
「うむ。……もしかして、バナナの皮で滑って転んだり、空中からスパナが落ちてきたり、その他諸々、ついてない事は無かった かな?」
「あ、当たってる……。どうしてそれを!?」
 勿論それは、状況を全てデコトランが遠くから見ていたからに他ならないのだが、そんなこと露とも知らないインプレッサ達は真剣に驚く。
 デコトランは内心、
(バカな奴……)
 と呟いていたが、それを顔に出さないように注意すると、威厳があるような表情になって言った。
「易者をしていると様々な事がわかるのだよ。よろしい。私が君の運勢を良くなる方向へ導いてしんぜよう」
「お、お願いします先生!」
 インプレッサは地面に両手をついて、デコトランを拝み倒す。
「うむ。それでは、これからすぐに、海へ向かいたまえ。そうすれば、君の運気も上昇すると出ておる」
「えっ? でも、これから大事なミーティングが……」
「もしここで行かないと、一生君の運勢は下降したままだと出ているぞ。それでもいいのか?」
 デコトランは『ズイッ』とインプレッサに詰め寄って、脅しをかけるようにたたみかけた。
 インプレッサも相当参っている様子だ。
 何せ朝から不幸続きなのだ。
 バナナの皮やスパナの他にも、道を歩けば犬の尻尾を踏んで散々追いかけられるわ、カーモードで走ればパンクするわ、買い物に行けばお釣りを落とすわ、etc、etc……。
 そんなインプレッサの様子を見て、タクヤとミズキは頷き合う。
「インプレッサ、おれ達がカウンタックには事情を話しておくから、行って来なよ」
「え、タクヤ君、でも……」
「インプレッサが不幸なままだなんて、私達も嫌だもの。ちゃんと説明しておくから」
 タクヤとミズキの真摯な気遣いに、インプレッサは泣きたくなるほど嬉しくなった。
 それは、彼がペケノートに名前を書かれて以降、初めて感じた幸せだったかも知れない。
「……わかった。僕、行ってくるよ。タクヤ君、ミズキちゃん、ありがとう!」
 インプレッサは二人に向かって深々と頭を下げると、海に向かって駆けだした。
 タイヤがパンクしたままなので、徒歩である。
「タクヤ君、私達も行きましょう」
「うん!」
 タクヤ達もまた、ミーティングが行われる予定の場所に向かって走り出す。
 因みにこの時、今回の出席者全員が、ペケノートの効力によって遅刻している事を誰も知らなかった。
 インプレッサ達が全員居なくなると、デコトランは易者の衣装を脱いで微笑む。
「ふふふ……あの子供達がいないとは都合が良い。これで思う存分、インプレッサを倒せるからな」
 彼らムボウデーンにしてみれば、『人間を傷つける』という行為は余り望ましい事ではないのだ。
 なぜなら彼らの目的は、あくまで人間を『不幸に満ちたブラッチャーの先祖』にしてしまう事であるため、その人間自体が死んでしまうなどしては、本末転倒になってしまうのである。
 ところでデコトランがどうしてタクヤ達に対してノートを使わなかったかと言うと、これが実は彼らの名字を知らなかったからだったりする。
「さてと、それではオレも、インプレッサの後を追うかな。ブラッチャール・チェンジ!」

 ジャキン!

 デコトランは一瞬にしてトレーラー形態にチェンジすると、海辺へ向かって走り出した。

 それからしばらくして、インプレッサは海に到着していた。
 東京とは言ってもこの辺りにはまだ自然の海が残っており、夏になれば子供達が磯遊びなどを楽しむ場所だ。
 とは言え、まだこの時期では海の水も冷たい。
「海に着いたけど……さしあたってどうしたらいいのかな……?」
 インプレッサは周囲を見回す。
 海水浴のシーズンでもないこの時期、辺りには誰もいない。
 海岸に面した道路に、ブルーに塗られたランサーエヴォリューションが停めてある位だ。
 そこへ、

 ヴォンヴォ〜〜〜ン!

 黒いトレーラーが走ってきたのだ。
「ブラッチャール・チェンジ!」
 トレーラーは海岸に到着するなり、デコトランに変形する。
 デコトランはインプレッサの眼前に降り立った。
 その足下で、少しだけ砂が舞う。
「デコトラン!」
 驚いた様子のインプレッサに、デコトランはニヤリと笑って言った。
「どうだ、インプレッサ。我が新兵器の威力は?」
「新兵器? どういう事!?」
「ふふふ、これさ」
 訳が分からないインプレッサに対し、デコトランはペケノートを取り出す。
「黒い……ノート?」
「これはペケノートといってな。これに名前を書かれた者は不幸に陥るという、それはそれは素晴らしいアイテムなのだ」
「! まさか!?」
「そうだ。今日のお前達のアンラッキーは、全てこのノートの力よ!」
「よくもそんな酷い事を……!」
「そして、お前の最後の不幸……それはここでオレに倒されるという事だ!」
 言うなり、デコトランはインプレッサに襲いかかる。
「喰らえ!」

 ドウッ! ドウッ!

 デコトランの背中の排気筒から、黒煙弾が発射される。
「おっと……うわっ!」
 避けようとするインプレッサだったが、砂に足を取られて転倒してしまう。
「ムダだ、ムダ。このノートの力がある限り、お前に勝ち目は無いのだ! さぁ、大人しくやられてしまえ!」
 デコトランは続けざまに黒煙弾を発射してくる。
「くっ……」
 インプレッサの脳裏に、諦めがよぎる。
 しかし、運命はまだインプレッサに微笑んでいたのだ。

 ピカァァァァァァァァァァァッ!

 上空から、まばゆい光が飛んでくる。
「ぬっ!?」
「あれは……」
 光は例のランサーエヴォリューション8に飛び込んだ。
 次の瞬間、
「ヒカリアンチェーンジ!」
 ランサーエヴォリューションが、光を放って変形する。
「ライトニング ランサー!」
 そこに現れたのは、鮮やかなブルーに彩られたヒカリアンの少年だった。
「ランサー!」
「大丈夫かい、インプレッサ?」
 ランサーはにっこりとインプレッサに微笑みかける。
「僕は大丈夫! でも、気をつけて! あのブラッチャーが持ってるノートに名前を書かれると、何をやっても失敗する位不幸になっちゃうんだ!」
「不幸に?」
「ふっ、もう遅いわ!」
 デコトランはペケノートを取り出していた。
「既にお前の名前は分かった! ライトニング ランサー、お前はもう終わりだ!」
 ランサーの名をノートに書こうと、デコトランはボールペンをノートに突きつけた。
 が、ボールペンはノートをすり抜ける。
「あ、あれ?」
 いや、ノートを持っていなかったのだ。
 いつの間にか、デコトランの手からノートが消え失せていた。
「探してるのはこれ?」
 ふと見ると、ランサーは右手にペケノートを持ってひらひらと振っている。
「お前、いつの間に!」
 デコトランは驚愕の表情でランサーを見ていた。
 どうやらランサーは、目にも留まらぬスピードで、デコトランの手からノートを奪ったらしい。
「こんな危険な物は……」

 ビリィィィィィィィィィィィィィィッ!

 ランサーはノートを引き裂く。
「ああっ! こら、やめろ、小僧!」
 デコトランは愕然となって叫ぶが、ランサーは構わない。
 数秒の後、ペケノートは細かい紙切れと化して地面に転がっていた。
「な、なんて事しやがる、このガキ! あのノートは5万ブラッチャードルもしたんだぞ!」
「何言ってるんだよ。こんな危険な物、無い方がマシだろ!」
 ノートが破り捨てられた途端、ヒカリアン達の身体がフッと軽くなったようであった。
 全身にまとわりついていた重しがとれた、そんな感じである。
「ん、何か……楽になった? 助かったよ、ランサー」
「おやすい御用だよ!」
 ランサーはニッと笑ってVサインを返した。
 一方、紙くずとなったノートを見て、デコトランはワナワナと震える。
「おのれぇぇぇぇぇ、こうなったら!」
 デコトランはコマルダーボールを取り出すと、ボールペンに叩きつけた。
 衝撃でボールは割れ、中身がボールペンに取り憑く。

 ズォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!

 見る間にボールペンは巨大化し、ヘビのような姿をしたコマルダーに変化した。
 ペン先の方は頭になっていて、例のしかめ面が浮かんでいた。
<コマルダァァァァァァァァッ!>
「コマルダーよ! こうなったら、奴らを力ずくで叩き潰してしまうのだ!」
<コマルダー!>

 バシュッ! バシュッ! バシュッ! バシュッ!

 ボールペンコマルダーの口から、芯の形をしたミサイルが発射される。
「おっと!」
 ヒカリアン達はそれを避けた。
「往生際が悪いよ!」
 ランサーの手に、ドライブシャフトに似た形のランス(槍)が現れる。
「ドライブランス! イグニッション!」

 シュォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!

 ランサーのかけ声と共に、ドライブランスが青く波打つエネルギーに包まれていった。
 そして、エネルギーは周囲に水のように溢れていく。
 ランサーはそのままドライブランスを構えると、まるで波乗りのようにエネルギーの上を滑走していく。
「ウェーブ・インパクト!」
 水しぶきを上げながら、ランサーはコマルダーをバツの字に斬りつける。

 ザシュッ! ザシュッ!

<コマッタァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!>

 バシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!

 バツの字に切り裂かれたコマルダーは悲鳴を上げ、蒸気に包まれたようになって崩れ落ちる。
 後にはボールペンだけが残されていた。
 一方、インプレッサもデコトランと睨み合っている。
「逃がさないぞ、ブラッチャー!」
「しゃらくさいわ!」

 ドウッ! ドウッ!

 デコトランは背中の排気筒から黒煙弾を発射し、インプレッサを攻撃する。
 対してインプレッサは、エンジンガンを構える。
「エンジンガン、エンジン全開!」

 ヴォンヴォンヴォンヴォンヴォン!

 銃の本体が振動を始め、銃口に赤いエネルギーが集まっていく。
 その内に、銃口には火がともっていた。
「ファイヤー・ストライク!」
 インプレッサがトリガーを引くと同時に、エンジンガンから炎のエネルギーが発射された。

 ゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!

 巨大な炎は渦を巻き、デコトランを包み込む。

 ドガァァァァァァァァァァァァァァァァァァン!

 大爆発が巻き起こった。
 爆炎の中から、ズタボロになったデコトランが空高く飛んでいく。
「どわぁぁぁぁぁぁぁっ、やっぱりこうなるわけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」

 キラン!

 またしてもデコトランは真昼のお星様にされてしまうのだった。


「今回は本当に助かったよ。有り難う、ランサー」
「何言ってるのさ、水くさい。ボク達は友達じゃん」
 ランサーは屈託の無い笑顔を浮かべる。
 そこへようやく、カウンタック達もタクヤ達を乗せてやって来た。
「インプレッサ、大丈夫か?……って」
「新しいヒカリアン?」
「遅いよ、みんな〜! 敵はもう、ボクとインプレッサで倒しちゃったんだから〜!」
 夕陽の中、ニコニコと笑ってランサーはカウンタック達に手を振っていた。

 他方。
「いてててて……こら、バリバリッシュ! もう少し優しく手当しろよ!」
 全身ヤケドで包帯グルグル巻きのデコトランが、バリバリッシュに悪態をついていた。
「全く……それだけ元気なら大丈夫じゃねえのか?」
 バリバリッシュは怒りを通り越して完全にあきれ顔であった。
「くそっ、あの小僧め! 折角の秘密兵器を……」
 怒りに燃え、思わずデコトランは立ち上がる。
 が、ちょうどそこにはバリバリッシュが持っていた薬のビンがあったからたまらない。

 バリン!

 ビンが割れ、デコトランの身体中に薬がかかる。
「ぎぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ! しみる、しみるーっ!」
「ダメだ、こりゃ……」
 バリバリッシュは深くため息をつく。
「不幸だ――――っ!」
 ムボウデーンの本拠地に、デコトランの叫び声が響くのであった。

To be continued.


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