新たな四天王、バリバリッシュ!



 紫がかったもやのような風景が一面に広がる、ムボウデーンの本拠地。
<ムボウデーン四天王の一人ともあろう者が……よくもオメオメと戻って来られたものだな。失望したぞ、デコトラン!>
 空間にアクジデントの怒声が響き渡る。
 その視線の先にいるのは、前回の戦いで敗れ去ったデコトランだ。
 デコトランは、アクジデントの前で一心に平伏し、全身に汗を噴き出させていた。
「先の戦いは少々油断しただけ! 今一度、私にチャンスを!」
<フフン……>
 ただひたすらに土下座するデコトランに、アクジデントはニヤリと笑みを浮かべる。
 が、次の瞬間、
<えぇ〜い、聞こえぬわ!>

 シュバッ!

 アクジデントの眼が光り、デコトランに向かって光線が発射された。
「ひいっ!」
 デコトランの悲鳴が響き、光線を浴びた彼の身体が消え失せる。
 次の瞬間、デコトランはムボウデーンの島の周囲を漂う岩山の一つに転送されていた。
 それは四方が2m位の岩山で、中は空洞になっており、その内の一面には無数の格子がついている。
 いわゆる牢獄であった。
「トホホ……」
 岩牢の中で、デコトランはガックリとうなだれる。
<その中でしばらく反省しておれ!>
 アクジデントは吐き捨てるように言った。
 そこへ声がかかる。
「アクジデント様」
<誰だ!?>
 現れたのは、バリバリッシュとビルドの二人である。
「次なる地球攻略の任、ぜひこのバリバリッシュにお任せ下さい! オレっちが必ず、人間共を不幸にしてみせまさぁ!」
 が、ビルドはバリバリッシュを押しのけるようにして叫んだ。
「ハンマー! その任務はこのビルドに! このオレの絶対無比の力で、ヒカリアン共を叩き潰してやります!」
 今度はさらに、バリバリッシュがビルドを押しのける。
「いいや、力だけでオツムが足りないビルドより、クールなオレっちに!」
「かっこつけのバリバリッシュより、このビルドの建設軍団に!」
「アホよりもバリバリッシュに!」
「暴走族よりビルドに!」
 眼下で言い争いを始める部下達を見下ろし、アクジデントの顔が怒りのために歪み始める。
<いい加減にせぬか!>
 その怒声に、バリバリッシュもビルドもビクッと動きを止め、思わず気をつけをしてしまう。
<どちらでも良い! 地球を墜とせるのであればな!>
「は、ははっ!」
 バリバリッシュとビルドは一歩飛び退くと、思わず平伏する。
<そこまで言うのであれば、貴様らで公平な方法を用いて決めよ! 良いな!>
「は、はいっ!」
 バリバリッシュとビルドの二人は、慌てて頭を下げる。
 叫び声と共に、アクジデントは空間に消え去るのであった。
「……で、どうやって決めるよ?」
 アクジデントが消え去った後、ビルド顔を上げて尋ねた。
「そうだな……平等な手段と言えば、やっぱりこれだろ。『じゃんけん』だ!」
「成る程、名案だ!」
 こうして、次の地球攻略担当者はじゃんけんで決められる事になったのだった。
 ……いいのかなぁ。
「行くぞ!」
「来い!」
 たかがじゃんけん、されどじゃんけん。
 重要な任務を決める勝負であるため、二人の表情は真剣そのものだ。
「最初はグー!」
「じゃんけん……ぽん!」
 二人は同時に拳を突き出す。
 二人ともチョキであった。
 因みに彼ら(ヒカリアンやブラッチャー)は人間で言う中指から小指までが一体化している為、親指と人差し指を伸ばすチョキ(いわゆる『男チョキ』)だ。
「あいこでしょ!」
 今度は二人ともパー。
「あいこでしょ!」
 今度はグー。
「あいこでしょ!」
「あいこでしょ!」
「あいこでしょ!」
「あいこでしょ!」
 この後、このやり取りが延々一時間も続くとは、二人は全く考えてもいなかった。

 そして一時間後……。
 二人とも顔に疲労の色が浮き出たたまま、一心不乱に拳を突き出している。
 もはや彼らは、自分達が何のためにじゃんけんをしていたのかすら忘れていたかも知れない。
「あいこで……」
「しょ!」
 結果は、ビルドがグーで、バリバリッシュがパー。
 バリバリッシュの勝ちだ。
「よっしゃあ! これで次の行動隊長はオレっちだ!」
「ハンマ〜……。今度こそオレが出撃できると思ったのに……」
 ビルドはがっかりしたように肩を落とすと、すごすごと引っ込んでいった。
 意外と素直なのである。
 いや、じゃんけんでイカサマをしなかった辺り、バリバリッシュも素直と言えるか。
 正式に行動隊長となったバリバリッシュは、しばらくにやにやして勝利の余韻に浸っていたが、ふと腕の通信機を開いた。
「サイディ、聞こえるか?」

 さて、一方地球では……。
「遅い! インプレッサにタクヤ君、何してんだろう?」
 ヒカリアンガレージの中庭で、ランサーがキョロキョロしながら呟いた。
 そこにカウンタックが、皿に乗った大きなホールケーキを持って現れる。
「どれどれ、あらかた準備も整ったようだな?」
「インプレッサとタクヤが、お菓子買いに行ったまま返って来ないぜ?」
 テーブルの上に料理の乗った皿を並べながらラングラーが言った。
「インプレッサ達が?」
「もう、先に始めちゃおうよ」
 ランサーがふてくされたように言う。
 彼の不機嫌の理由は、単にインプレッサ達の帰りが遅い、という事だけではないのは容易に想像が出来た。
 そんな彼の本心を知ってか知らずか、カウンタックはピシャリと断る。
「ダメだ。今日は四天王デコトランを倒したお祝いだからな。戦ったメンバーが一人でも欠けてはいかん」
「それにしてもタクヤ君達、遅いわね……」
 ミズキが心配そうに呟く。

 そのインプレッサとタクヤはと言うと、
「ランサー達怒ってるだろうな〜……」
 タクヤを乗せたインプレッサが、大急ぎでガレージに向かっている最中であった。
 後部座席には、お菓子の詰まったスーパーの袋が積んである。
 そこへ、
『そこの自動車、止まりなさい!』
「わわわっ!」
「ぐえっ!」
 背後からいきなり怒鳴り声が聞こえ、インプレッサは急停車する。
 タクヤは思いっきり、シートベルトに締め付けられてしまった。
「な、なに?」
 タクヤが窓から後ろを振り返ると、そこには警官が立っており、こちらを睨んでいる。
「あの、何でしょうか?」
 タクヤがインプレッサから降りて、警官に尋ねる。
「何でしょうかじゃないだろう? 子供が自動車の運転なんかしちゃいかんよ」
(違うんだけどなぁ……)
 タクヤは思わず苦笑い。
 その時インプレッサがヒカリアンに変形し、警官の前に降り立った。
 百聞は一見にしかず。
 事情を説明するには、実際に自分がヒカリアンである、という事を見せた方が早いと思ったのだろう。
「こういう事なんです」
 インプレッサがヒカリアンだった事を知って、警官は驚きつつも納得した。
「ヒカリアンだったのか。それは済まなかったね。しかし、制限速度は守ってくれよ」
「は〜い!」
 警官と分かれ、二人は再びガレージに急ぐ。
 もちろん制限速度は守って、である。

 同じ頃、街の別の場所では、一人のブラッチャーが周囲を見て回りながら歩いていた。
 彼は、少し特徴的な外見を持っていた。
 上から見ると、緩やかな三角形に近いくさび形のボディ。
 右肩のウイングにはタイヤが付いているが、左肩にはパイプのような物が付いている。
 それは何かのジョイントのようにも見えた。
「バリバリッシュの兄貴、こちらサイディっス」
 ブラッチャーが通信機を開く。
『どうだ? クールな素体は見つかったか?』
「バッチリっス。これならきっと、最高のコマルダーになるっスよ」
『よし、オレっちもすぐ行く!』
 サイディの目の前には、落書きされた塀があった。

 他方、警官と別れたインプレッサ達は引き続きガレージに向かって走っていた。
「やっばい! 完全に遅れちゃったよ!」
 制限速度は守りつつも、かなり慌てているのは明白だ。
 角を曲がり、さらに進む。
「お、近道発見!」
 インプレッサはそのまま進んでいく。
 が、タクヤはその道に見覚えが無かった。
「ちょっと待った、インプレッサ! 何かおかし……」

 ドガァァァァァン!

 タクヤが言い終わらぬうちに、二人を大きな衝撃が襲う。
 タクヤは膨らんだエアバッグに身体を押さえつけられていた。
「い、一体何だって言うの……」
 目を回したインプレッサが呟く。
 彼が道だと思ったのは、塀に描かれた絵だったのだ。
 いわゆる『だまし絵』である。
「誰がこんな酷いイタズラを……」
 フラフラしながらインプレッサからはい出したタクヤが、頭を押さえる。
 そこへ笑い声が響いた。
「ぬわっはははははははははは! どうだヒカリアン! オレっちの作戦は!?」
「何っ!?」
 インプレッサとタクヤが振り向くと、そこに立っていたのはバリバリッシュとサイディの二人だった。
「お前達は!?」
「オレっちはムボウデーン四天王の一人、バリバリッシュ! ひとつ夜露死苦ぅ!」
「オイラは弟分のサイディ。よろしくっス!」
 インプレッサはすぐにヒカリアンに変形すると、鼻をさすりながら叫んだ。
「何て事するんだよ! 鼻が潰れちゃったじゃないか!」
「そこだけじゃないゼ。街中に落書きして、ゆくゆくは東京の交通をマヒさせてやるのさ。なかなかクールな作戦だろ?」
「そんな事、させるもんか!」
 インプレッサはエンジンガンを構える。
 バリバリッシュはニヤリと笑みを浮かべると、右腕を上げて叫んだ。
「カモン、コマルダー!」
<コマルダー!>
 現れたのは、塀で出来たぬりかべのような姿のコマルダーだった。
 ボディには落書きが所狭しと描かれている。
 さらに右腕はスプレー缶、左腕はペンキ用のハケで出来ていた。
 頭部はペンキ缶で、いままで通りしかめ面がついている。
 そう、街中の落書きは、このコマルダーの仕業だったのだ。
「コマルダー、そいつらもクールにペイントしてやれ!」
<コマルダー!>
 落書きコマルダーの腕から、青いスプレー塗料が噴き出す。
「おっと!」
 インプレッサは塗料を避ける。
 はずれた塗料は後ろの塀に命中し、氷の絵を描いた。
 その途端、驚くべき事が起こった。

 ピキ、ピキ……

 なんと、塀が本物の氷の壁に変わってしまったのだ。
 インプレッサは目を見開く。
「うっそー!」
「驚いたかい。これこそモダンアート! さあて、お前さんは文字通りの火の玉小僧にでもしてやっかな!?」
<コマルダー!>
「じょ、冗談じゃない!」
 コマルダーの右腕がインプレッサに向けられる。
 しかし、今度はへたに避けてしまえば周囲が大火事になってしまう恐れがある。
 万事休す。
 だが、運命はまだまだインプレッサの味方であった。
「どりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 バキッ!

「ぐえっ!」
 突然飛び出してきたラングラーの跳び蹴りが決まり、バリバリッシュを吹っ飛ばしたのだ。
 蹴り飛ばされたバリバリッシュは、丁度インプレッサと落書きコマルダーの間に入る形になる。
 そこへ、落書きコマルダーのスプレーが噴射された
 赤く塗装されたバリバリッシュのボディが、たちまち炎に包まれる。

 ボッ!

「ぎぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」
 火の玉と化したバリバリッシュは、周囲を走り回る。
 サイディもそれを見て慌てふためいていた。
「あ、兄貴ーっ! コマルダー、早いとこ何とかするっス!」
<コマルダ〜! シューセイペタペターッ!>
 落書きコマルダーが左腕のハケでバリバリッシュをなでると、バリバリッシュの身体は元に戻った。
「よ、よくもクールなオレっちを暑苦しい目に遭わせてくれたな……!」
 まだコゲが残った状態でチリチリと煙を上げながら、バリバリッシュが恨めしそうに言う。
 よく死なないなぁ……。
「大丈夫か、インプレッサ、タクヤ?」
「ありがとう、ラングラー」
 ラングラー、ランサー、カウンタックの三人が駆けつけて来たのだ。
「ムボウデーン! よくもインプレッサの顔をキズモノにしてくれたな!」
 ランサーが怒りで顔を真っ赤にして叫んだ。
 しかし『キズモノ』って……まぁ、間違いじゃないけどさ。
「だいたいお前ら誰だよ!」
「ムボウデーンの新しい四天王と、その弟分だよ!」
「何だって!?」
「オレっちはバリバリッシュ。でもって、こいつは弟分のサイディだ! 行くぜサイディ!」
「了解っッス!」
 二人は揃って飛び上がる。
「ブラッチャール・チェーンジ!」
 バリバリッシュはバイクに変形し、さらにその右側に変形したサイディが合体した。
 サイディのボディはサイドカーだったのだ。
 サイドカーに変形したバリバリッシュ達は、カウンタック達に向かって突撃する。
「パ〜ラパラパラパラ〜!」
「正面から!?」
「よ〜し……」
 カウンタックがガルライフルを、ラングラーはサスペンションキャノンを撃つ。
 だが、
「パ〜ラパラパラパラ〜!」

 バチィィィン!

 弾丸が命中する直前にバリバリッシュとサイディは左右に分離し、そのままブラッチャーモードに変形する。
「何っ!?」
 呆気にとられるカウンタック達を尻目に、バリバリッシュはフッと笑う。
「どうよ! オレっち達のチームワーク! でもって、エキゾースト・スモッグ!」
 飛び上がったバリバリッシュの両手から、勢いよく黒煙が発射された。
 黒煙はカウンタックとラングラーをとらえる。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
 黒煙を受けた二人は吹っ飛ばされる。

 一方、インプレッサとランサーは落書きコマルダーと戦っている。
「ダブルヒカリアンキーック!」
 二人の跳び蹴りが落書きコマルダーのボディにヒットする。
<コマルダー!>
 落書きコマルダーは腕を振り回して、二人を払いのけようとする。
 だが、元が塀である落書きコマルダーは、スピードでは小回りの利く二人には及ばない。
「インプレッサ、一気にとどめだ!」
「よ〜し、エンジンガン!」
 インプレッサは、エンジンガンにエネルギーをこめる。
「バーニング・ストライク!」
 張り切って引き金を引くインプレッサ。
 ところが……。

 プスン、プスン……

 エンジンガンから飛び出たのは、火花と煙であった。
「ええっ!?」
 驚くインプレッサに、落書きコマルダーの腕が迫る。
<コマルダー!>
「うわわわっ!」
 慌ててインプレッサは、その一撃を避けた。
「こうなったら、ボクが!」
 ランサーの手に、ドライブランスが現れる。
「ドライブランス! イグニッション!」

 シュォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!

 ランサーのかけ声と共に、ドライブランスが青く波打つエネルギーに包まれていった。
 そして、エネルギーは周囲に水のように溢れていく。
 ランサーはそのままドライブランスを構えると、まるで波乗りのようにエネルギーの上を滑走していく。
「ウェーブ・インパクト!」
 水しぶきを上げながら、ランサーはコマルダーをバツの字に斬りつける。

 ザシュッ! ザシュッ!

<コマッタァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!>

 バシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!

 バツの字に切り裂かれたコマルダーは悲鳴を上げ、蒸気に包まれたようになって崩れ落ちる。
 後には落書きされたブロック塀だけが残されていた。
 その様子を見たサイディの表情に驚きが走る。
「兄貴、コマルダーがやられちゃったっス!」
「ちっ、しょうがねぇ……一旦引き上げるぞ」
「でも兄貴……」
「冷静(クール)に考えろって。コマルダーがやられちまった以上、作戦はパーだ。だろ」
「分かったっス」
 カウンタック達を追いつめていたにもかかわらず、バリバリッシュ達はその場から消え去る。
「ラングラー! カウンタック!」
 インプレッサ達は、カウンタック達の元へ駆け寄った。


 真っ黒になっていたラングラー達を治療し、残った落書きもヒカリアン達の活躍で消され、街には平和が戻る。
 だが、インプレッサの頭の中にはもやもやした物が残っていた。
(どうして、バーニング・ストライクが使えなかったんだろう……)
 あの後試しにファイヤー・ストライクを使ってみたが、そちらの方は普通に撃てたのだ。
 インプレッサの表情に、タクヤは彼を元気づけるように笑って言った。
「大丈夫だって。初めての事をいきなりうまくやるなんて、誰だって出来ないでしょ? その内あの新しい技も使いこなせるようになるよ!」
「ありがとう、タクヤ君」
 インプレッサは笑顔を浮かべるが、疑問は彼の頭の片隅に残ったままであった。

To be continued.


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