月に関する世界の昔話

指の跡がある月の顔(ニューギニア)
 大昔、一人の女が、瓶の中に月を隠していました。女は月の美しい光を、誰にも知られずに、一人で楽しんでいました。ところが、その秘密を見破った少年たちは、女が留守になった時、こっそり瓶のふたを開けたのです。途端に、月は飛び出してきました。そして、逃がすまいとして懸命に握りしめる少年たちの手を逃れようと、もがいたのです。
 とうとう月は、少年たちの手から滑りぬけて、高い空へ飛びあがっていきました。今でも、月の表にたくさんの斑点があるのは、この時の少年たちの手の指の跡なのです。

おしまい



乙女を奪った月(ポリネシア)
 ある所にクイという盲目の男が住んでいました。クイには美しい娘が幾人もいましたが、月はその内の一人の娘が大変気に入りました。それで、月はある夜、天から降りて、その娘の所にやって来たのです。乙女は炉のそばで木の葉をくべて、火箸でそれをかき混ぜていました。それを見た月は、いきなり乙女を抱き上げて、空へ飛んで行ってしまいました。
 それで、月には女と木の葉と火箸がはっきり見えるのです。

おしまい



蛙に飛びつかれた月(北アメリカ)
 昔、月は一人の蛙の妹と一緒に、天に住んでいました。ある時、月は星たちを招いて宴会を開きました。ところが、あんまりたくさんの星のお客様たちが集まって来たので、妹のいる場所が無くなってしまいました。それで、兄の月に不平を言ったのですが、月は聞き入れてくれません。怒った妹は、兄さんの顔に飛びつきました。今でも月には、妹の蛙がしがみついて離れません。

おしまい



月が欠ける訳(アフリカ)
 ある時、太陽が月に酷く腹を立て、月の身体を少しずつそぎ取っていきました。月は、
「このうえ肉を切られると、死んでしまって子供を養えなくなる。肉がついて太るまで待ってておくれ」
 と、頼みました。それで、今でも月は大きくなったり細くなったりします。

おしまい



孤児(みなしご)を助けた月(アッシリア地方)
 昔、親を失った乙女が、村の領主に“ただ”で働かされていました。
 ある時、人の息が凍りそうな寒い月夜の晩に、乙女は桶一杯に水を汲んで、家へ戻ろうとしましたが、柳の木につまづいて倒れてしまいました。桶の水はみんな流れ出てしまい、乙女は寒さの中で泣いていました。
 これを見た月はかわいそうに思って、月の家へ連れて行きました。それで、月が輝いている晩には、おさげを下げた乙女の姿が見えるのです。

おしまい



娘と海と月(アッシリア地方)
 ある海辺の粗末な家に、母と娘が住んでいました。娘は母の言いつけで、海へ水を汲みに行ったところ、海は娘を引きずり込んだので、娘は海の神と争いました。その時、海の上に現れた月が、ひしゃくをもって娘をさらったのです。

おしまい



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