宝さがし
☆ 昔、仲のいい四人のお坊さんがいました。 四人は近くに住んでいて、奥さんも子供もいました。 けれど、ひどい貧乏で、毎日の暮らしは大変でした。 「全く、参ったなあ。何とか暮らしが楽にならないと、落ち着いてお祈りも出来ないね」 ある日、みんなで集まった時、一人がため息をついて言いました。すると、 「そうなんだよ。魔術でも覚えれば、わけなくどっさり大金を手に入れられるんだがなあ」 と、別のお坊さんが笑いながら言いました。 「なに、魔術だって? それはいいじゃないか!」 「一つ、やってみようよ!」 冗談のつもりだったのが、みんな本気になりました。 「やろう。魔術を覚える事にしよう。それよりほかに、我々の暮らしは救われないよ」 そして、相談がすむと、四人のお坊さんは旅の支度を始めたのです。 「それじゃ、しばらく留守にするが、帰りを楽しみに待っていておくれ」 「帰って来たら、もう、今までのような苦労はさせないからな」 奥さんや子供たちにそう言って、お坊さんたちはいよいよ旅に出かけました。 「さて、偉い魔術師はどこに居るだろうね?」 「まあ、慌てなくてもその内に見つかるさ」 呑気な事を言いながら、村から町へ向かいました。 あちこちを何日も歩き回っている内に、アバンチという村に来ました。きれいな川が流れています。 「どうだ、ここでお祈りしようじゃないか」 「早く魔術師に会えますようにとね」 そこで、みんなは川に入りました。身体に水をかけながら、神様にお祈りをしてから、また歩き出しました。 しばらく行くと、向こうの畑道を、妙な衣を着た人が、すたすたと行くのが見えました。 「おい、あれは魔術師じゃないだろうかね?」 「どうも、そうらしいな。ただのお坊さんとは違うよ」 お坊さんたちはにこっと顔を見合わせると、後を追いかけました。 「やあ、お寺だ。あそこへ帰るらしい」 まもなく、お寺の前まで来ました。 「もしもし、あなたは魔術師でいらっしゃいましょうか?」 一人が声をかけると、妙な衣を着た人が振り返りました。 「確かに、私は魔術師だ。何か御用かな?」 「では、お願いがあります。私達は、魔術を学びたくて、はるばるここまでやって来たのです」 「故郷では、妻や子供たちが、辛い暮らしをしています。お金か宝物を手に入れなければ、私達は死ぬよりほかは無いのです。どうか、魔術を教えて下さい」 「お金でも、宝物でも、見つけられるなら、どんな危ない事でも、苦しい事でもやります」 お坊さんたちは、かわるがわる頼みました。 「成程、それは気の毒じゃ。よろしい。では、中に入ってしばらく待っておいでなされ」 魔術師はそう言って、四人を玄関に通すと、自分は奥の部屋に入って行きました。そして、灯りをともす時に油の中に入れる、ひものような細い灯心を四本作りました。 出来上がると、魔術師は灯心に向かって一心に呪文を唱えました。それから四人の所へ持ってきました。 「この灯心を、めいめいに持って、ヒマラヤの方へ歩いていきなされ。不思議な魔力で、その内ひとりでに、灯心は手から離れる。地面に落ちたら、その下を掘るがいい。必ずあなた方の暮らしを救ってくれるものが出るはずじゃ。さあ、出かけなされ」 話を聞いて、お坊さんたちは夢ではないかとうっとりしていました。 「有難う御座います。おかげで、私達は助かります」 丁寧にお礼を言って、四人は灯心を握りしめてお寺を出ました。 「これで、もう宝を手に入れたも同じだな」 「全く、親切な魔術師に出会って良かったよ。ちっとも苦労をしないですむんだから」 みんなは胸をわくわくさせながら、ヒマラヤの方に向かってどんどん歩いていきました。 どのくらい進んだ頃でしょうか。一人のお坊さんの手から、灯心が落ちました。 「やっ、落ちた!」 すぐに地面を掘り始めました。 「何が出てくるかな?」 土の中から、茶色のかねのようなものが見えました。 「あっ、銅だ! 銅が出て来た!」 ざくざく出てきます。いくらでもうずまっているようです。 「すごいなあ! さあ、君達も欲しいだけ持っていくといいよ」 けれど、見ていた三人は、はっはと笑うだけです。 「きみ、そんな銅で満足するのかね。たくさん持って行ったって、銅じゃあんまり有難くないよ」 「いいから、銅なんてうっちゃっといて、さあ行こう。もっといい物が今に出るよ」 みんなは呆れたように言いました。 「だけど、僕はこの銅でいいよ。じゃ、三人で行ってくれたまえ」 と言って、一人だけが残りました。そして、持てるだけ銅を担いで、家へ帰っていきました。 三人は元気よく歩いていきました。少し経つと、先頭になっていたお坊さんの灯心が、ぽとりと手から落ちました。 「さあ、どんな宝が出るかな?」 土を掘り返していくと、ちらりと、白く光るものが見えました。 「やっ、銀だ! 銀だ!」 掘っても掘っても、銀がざくざく出てきます。 「有難い。さあ、みんなで欲しいだけ持って帰ろうよ!」 けれど、後の二人は、はっはっと笑って取ろうともしません。 「きみ、考えてごらんよ。さっきは銅で、今度は銀が出たんだろう。それえなら、この次は金だ。金が山ほど出るよ、きっと。僕らは、銀より金の方がいいからね」 といって、二人は急いで行ってしまいました。 一人残ったお坊さんは、掘り出した銀を、どっかり背中に背負いました、頭の上にも乗せました。腰にもしばりつけ、それから、両手に下げて帰っていきました。 二人のお坊さんは、並んで楽しそうに歩いていました。 ぽとり。一人の灯心が落ちました。 「それ、金だ!」 嬉しくて、お坊さんは夢中になって土を掘りました。 「出だ! やっぱり、金だ! 金だ! ああ眩しい」 金はざくざく、いくらでも出てきます。 「きみ、さあ取りたまえ。だから、あの二人もついてくれば良かったんだ」 ところが、後の一人はまた笑いだしました。 「よした方がいいよ、君。銅の次に銀が出て、金だろう。今度は素晴らしい宝石に決まってるじゃないか。それが分かってるのに、金で我慢するなんて惜しいよ。さあほっておいて、行こう、行こう」 「だったら君だけで行くといい。僕はここで、荷物をこしらえて、君が帰ってくるまで待っているよ」 「そうかい。一緒に来ればいいのになあ。後で、羨ましがらないでくれよ」 そう言って、最後のお坊さんだけは、一人で出かけました。 「全く、みんなには呆れるよ。もうすぐ凄い宝物が手に入ると言うのに、あんなもので喜んでいるんだから。ああ、早く灯心が落ちてくれないかなあ」 灯心を見つめながらいい気分になって進むうちに、ふとお坊さんは辺りを見回しました。ヒマラヤに向かって歩いていたのに、いつの間にか山が左側に来ているのです。 「しまった! さて、左に向かっていくかな? それとも後戻りして、やり直さないといけないのだろうか?」 考えながら森の中を行ったり来たりしていましたが、急に喉が渇いてきました。 「どこかに水は無いかな?」 きょろきょろしていると、木の陰に、人がいるのが見えました。近づいていくと、頭から顔中血だらけになった男が、ぐったり座り込んでいました。驚いた事に、頭の上には大きな車の輪が乗っかって、クルクル回っているではありませんか。 「どうしたんです? こんな所で、一体、何をしているのです?」 駆け寄って尋ねた途端、男の頭の上で回っていた車の輪が、ぴょいと、自分の頭に飛んできました。 「ひゃっ!」 叫び声を上げて輪を払いのけようとしましたが、離れません。 「大変だ! なんて事だ! どうしてこんな事になったんだ!」 お坊さんは、バタバタ暴れ出しました。 「どういう訳か、分かりません。全く不思議なんですよ」 男は軽くなった頭をなでながら言いました。 「急ぐ用事があるんだ! それなのに、こんな重い物が頭に乗っかっていては、何処にも行けやしない。車の輪は、どうすれば取れるのだろう?」 お坊さんは苦しそうに顔をしかめながら、無茶苦茶になって、輪を殴りつけました。 「駄目です。どんなことをしても、無駄ですよ。誰か、魔法のかかった灯心を持った人が来て、話しかけてくれるまでお待ちなさい。そしたら、車の輪は、あなたの頭からその人の頭へ飛んでいきます。私の時もそうだったのですから」 止められても、お坊さんは諦められません。早く宝石を見つけたいと、その事ばかり考えて、いらいらしました。 「それで、あんたは、いつからこの車を頭に乗せていたのです?」 「さあ、もう、どのくらい経ちますかねえ」 と言って、男はぼんやり空を見上げました。そして、 「ラマ王は、今でもお達者でしょうね?」 と、おかしな事を言いだしました。 「いや、ラマ王はとっくに亡くなられた。今はビナバトサ王ですよ」 お坊さんは男の顔を見つめ、目をぱちぱちさせて答えました。 「ほう。では、一体、何年たったでしょうかねえ。私がここへやって来たのは、ラマ王が位についていられた頃ですから。食べることも出来なくなったので、魔術師に頼んで、灯心をもらってね。それが、宝物は手に入らずに、長い間、こうして車の輪を頭に乗せて苦しんだだけです」 男の話を聞いて、お坊さんは気が遠くなりそうでした。 「ああ、体が軽くなった。ようやく、歩けるようになりました。貴方にはお気の毒ですが、私はうちへ帰りますよ」 と言うと、男はお坊さんを残して大急ぎで行ってしまいました。 「誰か、灯心を持ったものは来ないかなあ。ああ、この車の輪がうらめしい!」 一人ぼっちになったお坊さんは、また握り拳で車の輪を叩き始めました。でも、輪は頭から離れません。太い木の幹に向かって何度も頭を打ち付けました。手や頭から、たらたら血が流れてくるだけでした。 それでも気が狂ったように暴れまわっている所へ、一人のお坊さんが現れました。金を掘り出したあの友達です。いつまで待っても帰ってこないお坊さんを心配して、足跡を頼りにやって来たのでした。 「きみ、きみ。どうしたんだ。何をしているんだね?」 友達のお坊さんはびっくり仰天して駆け寄りました。 「ああ、誰かと思ったら、君だったのか! これが、この車の輪のやつめが!」 と言って、血だらけになったお坊さんは、へたへたと草の上に倒れました。それから涙を浮かべて、すっかり訳を話しました。 「そうだったのか。可哀想になあ」 友達のお坊さんは、優しく顔や手の血を拭いてやりながら、また言いました。 「やっぱり僕が金を掘り出した時、君も一緒に取ればよかったんだよ。あんまり欲張るからこんな事になるんだ。何とか助けたいけど、僕にはもう、灯心は無いしなあ。すまないが、先に帰らしてもらうよ」 そして、友達のお坊さんは、後を振り返り、振り返り、行ってしまいました。 おしまい 戻る |