海に沈む太陽


                    ☆

 むかし、ソナパという神様がいました。
 ソナパの神は、普通の人の姿になって、ペルーの村々を歩き回りました。そうして色々と、人が生きていくのに大切な事を教えました。
「いい事を教えてもらって、有難い事だ」
 そう言って喜ぶ人たちもありましたが、ちっとも教えを聞こうとしない者もありました。
 ヤムクィスパという所へ来ました。ソナパの神は、ここでも人々に大切な事を教えようとしましたが、誰もそれを聞こうとしません。聞かないばかりか、
「どこの何者じゃやら、あんな寝言を聞くことは無い」
「おおかた、キ○ガイか何かだろう。相手にするな」
 そう言って、嘲り笑いました。ソナパを泊めてくれる家もありません。仕方なく、野の木の下で眠らなければならないのでした。
「こんな土地の者は、水の底に沈んでしまうがいい」
 と、ソナパは呪いました。まもなく、この村に大水が出ました。そうして、家も人も押し流してしまい、後には大きな湖が出来て、その下にみんな沈んでしまいました。
 ソナパはまた、村をめぐっていきました。一つの村に来ると、ちょうど結婚のお祝いがあって、人々が集まって酒盛りをして騒いでいました。ソナパの神はそこへ行って、いつものように、教えを説き始めました。
 だが、村人たちは、お酒に酔っている元気で、口々に、
「うるさい! やめろ、やめろ!」
「めでたい席へ来て、下らんことを言うやつは、つまみ出してしまえ」
「そうだ、そうだ、どこの乞食だ!」
 と、あざけり罵りました。ソナパの神は、すっかり腹を立てました。
「こんなやくざな者たちは、石になってしまうがいい」
 そう呪いましたので、今まで酒を飲んで、踊ったり、歌ったりしていた人たちが、みんな石になってしまいました。ペルー中を歩き回って、ソナパはある日、カラバァヤ山のふもとに来ました。そこに集まった人々に向かって、神様の教えを話しました。
 すると突然、人々の中から、
「そいつを生け捕りにしてしまえ」
 と叫ぶ者がありました。
「余計な事を言って、人を惑わす悪い奴だ。ただではおけぬぞ」
「それなら、やっつけろ!」
 人々は寄ってたかって、ソナパを捕らえ、縛り上げてしまいました。そうして、暗い冷たい、岩室の中へ閉じ込めました。
 夜になりました。岩室の中で一人、ソナパが思いに沈んでいますと、ようやく東の空の白みかかった頃、かすかに足音がしました。
 ソナパが顔をあげると、そこに一人の若者が立っています。清々しい姿の若者です。


「私は、天の上からあなたを見守っていらっしゃる、神様の使いの者です」
 そう、若者は、岩室に近寄って囁きました。岩室の番人たちは、まだ夜の眠りから覚めていません。
 こっそり、若者は岩室からソナパを連れ出しました。
 ソナパと若者は、カラブク湖のほとりに来ました。この時、すっかり夜が明けて、東の空から明るい朝の光がさしてきました。
 ソナパは自分の上着を脱いで、湖に投げました。するとそれが、そのまま船になりました。二人はそれに乗って、湖を渡りました。そこに町がありました。
 町の人たちは、みんな遊びにばかりふけっています。馬をかけさせて、喜んでいるものがあります。車を回してはしゃいでいる者があります。そうかと思うと、歌を歌って、踊ってばかりいる者があります。
 お祭りでもないのに、まるでお祭りの日と同じです。誰も彼も、遊ぶことに忙しくて、ソナパの言葉などに耳を傾けようとする者もありません。
「しようのない人間どもだ」
 ソナパは、町の者をみんな石にしてしまいました。
 こうしてソナパは、行く先々で、従うものには幸せを与え、背くものには罰を与えました。
 ついに、海のほとりに来ました。ソナパは、海に入って姿を消しました。

 海に沈んでいく太陽が、そのソナパの神の姿だと言われています。



おしまい


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