世界を作る神


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 大昔の事です。チチカカの湖が、にわかに煮えるように沸き立ちました。その湧き水の中から、一人の神様が現れました。ビラコチャという神様でした。
 ビラコチャの神様は、ゆっくり湖から上がってくると、両手を広げて何かを丸めるようにします。すると、光って輝く丸い物が、いくつと無くできてきました。それは大きなものもあれば、小さなものもありました。
「えーい! えーい!」
 神はそれを、次々と空に向かって投げ上げました。これが太陽であり、月であり、たくさんの星になったのです。
「さて、今度はこの地の上に、住む者をこしらえなくてはならない」
 ビラコチャの神は、かがんで足元の石を一つ取り上げました。その石を握って、しばらく考えました。こしらえるにしても、どんな形にしたものかと思ったのです。
「何かと考えるよりもわしの姿に似せて作るとしよう」
 と、自分の形に良く似せて、一人の人間を作りました。これがインカ族の一番初めの先祖、アルカ・ビカです。


 神様はこの後、次々と石を持っては、どんどん人間をこしらえました。こうして大勢の人間が出来ると、
「さあ、みんなわしについて来るがいい」
 と言って、歩き出しました。大勢の人間たちは、言われるままに、ぞろぞろとその後についていきました。
 クスコという土地に来ると、
「お前たちは、ここで住むがよい」
 と言いました。人間たちは、
「はい、有難う御座います」
 と、お礼を言いました。神様は、一番初めに作ったアルカ・ビカに向かって、
「お前はこの地を治めていかねばならない。争いごとの起こらないように、仲良く、安らかに暮らせるように」
「はい」
 とアルカ・ビカは答えました。
 こうして人間たちは、クスコに住みつくようになったのです。そうして、インカ人の都、クスコが出来上がったのです。
 クスコと言うのは、“世界のヘソ”という意味があります。つまり、世界の中心という訳です。
 多くの民族がそうであるように、インカ人もまた、自分たちが人類の始まりであり、自分たちの住むところが、世界の中心であると考えたのでした。ビラコチャの神様は、その次には、四人の召使をこしらえました。
 それは、東の風と、西の風と、南の風と、北の風とでした。
「お前たちは、それぞれ大地の隅に行って、そこを住処にするがよい」
 と、神様は四人の召使に言いつけました。
「はい」
 と答えて、四人の召使は、それぞれ大地の東の隅、西の隅、南の隅、北の隅へと行って暮らすことになりました。そうして、なんか用のある時は、そこから飛んでくるようになりました。いつでも風が四方のどちらからでも吹いてくるのはそのためです。
 ビラコチャの神様は、この世界を作る仕事が終わると、また水をかき分けてチチカカの湖深く沈んでいきました。



おしまい


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