プディングの塩加減


                    ☆

 シンプソンおばさんの作ったプディングの美味しい事と言ったら、その村中の評判でした。
 誰だって、一度は食べてみたいと思わずにはいられませんでした。
 ところである日、そのシンプソンおばさんの家で、パーティーを開くことになったのです。
 もちろん、プディングも作って出す事に決めてありました。
 シンプソンおばさんには、娘が五人いましたが、パーティーの支度というものは大変忙しいものでしたから、肝心のプディングときたら、夕方近くになっても出来ていませんでした。
 娘たちは洗い物やら、おめかしやら、家の掃除やらを一生懸命やっていたのです。
 そこでおばさんは、台所へ駈け込んで、プディングを作るため、ガタゴトやり始めました。
 プディングには、ミルクとバターの他に、ほんの少し塩を入れなければなりませんでした。
 塩を入れないと、プディングの良い味が出ないのです。
 おばさんはその日、てんてこ舞いだったものですから、塩を入れるのを、つい忘れてしまいました。塩を入れないプディングを火にかけてから、椅子やオルガンのふき掃除に駆け回ってしまったのです。
(あれ? そう、そう。プディングに塩を入れるのを忘れちゃったわ)
 おばさんは掃除をしながら、ふと思い出しました。
 おばさんの両方の手は、汚れていたのです。そこでおばさんは、娘たちの誰かに塩を入れてもらおうと思いました。
「スー、お前、プディングに塩を入れておくれ。私の手は真っ黒だから」
「だめよ、お母さん。あたし、靴を磨いているんですもの」
「セイリー、お前、どう?」
「お母さん、あたし、このドレスのすそを縫い上げてしまわないと、パーティーに間に合わないのよ」
「バーシー、お前、塩を入れられないの?」
「ダメよ、お母さん、今、ここを片付けているのですもの」
「ジェニー、塩を入れてきてちょうだい」
「リルにさせてよ。あたしはアイロンかけで手が離せないのよ」
「じゃ、仕方がない。リル、さあ、お前、塩を入れてきてちょうだい」
「ダメよ、リボンを探しているのですもの。リボンが見つかるまで、他の事していられないわ」
(……ほんとに、娘が五人もいて、一人も役に立たないんだから……)
 おばさんはぶつくさ言いながら、それでも仕方なく手を洗い、プディングに塩を入れに行きました。
 ちょうどおばさんが塩を入れ終わって、また掃除を始めた頃、リルはお母さんに言いつかったことを、やらなければと考えたのです。
(ええと、プディングに塩を入れるんだったっけ)
 リルは台所に行って、プディングに塩を入れたのです。
 ジェニーもまた、お母さんの言いつけを聞かなかったのが、心配になってきました。台所へ行くと、プディングに塩を入れたのです。
 ジェニーが塩を入れて間もなく、セイリーも、台所へ行って塩を入れたのです。
 バーシーは、この家では一番の怠け者でした。お母さんには部屋を片付けているなどと言って、実は自分の部屋で本を読んでいたのです。
 バーシーは、本を読むのも好きでしたが、プディングを食べるのも大好きでした。
(あのプディングに、塩を入れなかったら、不味くて食べられないわ)
 バーシーは、そっと台所へ行って、プディングに塩を入れました。さて、プディングは、確かに見事に出来上がりました。
 パーティーの晩、シンプソンおばさんが、もったいぶってプディングを運んできた時には、誰もがこくりとつばを飲み込まずにはいられませんでした。
 牧師さんも来ていましたが、その牧師さんが、一番先にプディングを分けてもらいました。
「これは、これは、ご馳走様。私は、このプディングには目がない方でしてね」
 牧師さんはもう、よだれの垂れそうな顔をして、プディングの大きな一切れをぱくり!
「うへえっ! ぺっ!」
 これはまあ、どうした事でしょう。
 牧師さんの顔ったら! 今までのニコニコ顔はどこへやら、まるで絞った雑巾みたいなしかめ顔です。
 みんな、呆気に取られてぽかんとしていました。
 シンプソンおばさんは、これはおかしいと思い、プディングを口に入れてみました。
「あっ! ぺっ! ぺっ!」
 おばさんは、思わず口を押えました。
 プディングの塩辛いことったら!
「このプディングに塩を入れたのは、お前たちの誰なの?」
「あたしが入れたのよ」
 五人の娘たちは、誰もかれも、同じようにこう言いました。
「まあ、お前たちったら! せっかくのプディングが台無しじゃないの! 私も塩を入れたんですよ」
 シンプソンおばさんの美味しいプディングだって、たまにはこういう事もあるのです。



おしまい


戻る