にせ王子


                    ☆

(王子様はいいなあ。世の中には、色々な人がいるけど、王子様ほど美しくて、上品で、みんなからちやほやされる人はいないものなあ。オレも、王子様に生まれたらよかったのに)
 ラパカーンは、いつもこんなことを考えていました。ラパカーンは、洋服屋の職人ですが、りりしい王子様の姿に憧れていたのです。
 でも、ラパカーンは、怠け者ではありません。洋服の仕立てはとても上手で、朝から晩までせっせと働きます。洋服屋の大ぜいの職人の中でも、一番腕の良い職人でした。ただ、仲間の職人たちが、汚い服を着ていたり、下品な話をしたりするのが嫌いだったのです。
「オレは王子様のように、上品なのが好きだなあ。オレもどうかして、あんな身分の高い人になりたいなあ」
 ラパカーンは、縫物の手を動かしながら、しきりに考えました。
 仲間の職人たちは、それを見て、くすくす笑いました。
「おい、見ろ。ラパカーンの奴、また夢みたいな事、考えてるらしいぜ。変な奴だなあ」
 しかし、ラパカーンは、仲間が笑っていることなど気が付きません。王子様になれないなら、せめて、王子様の真似でもしてみたい、と思うようになりました。
 ラパカーンは、少ない月給の中から倹約をして、お金を貯めました。そのお金で立派な服を作って来てみました。ラパカーンは、顔立ちの美しい、背のすらりとした若者でしたので、新しい服はとてもよく似合いました。
 休みの日が来ると、ラパカーンはその服を着て教会へ行きました。お祈りが済んでも、真っ直ぐ店には帰りません。大通りや公園を、気取って歩き回りました。仲間の職人たちは、それを見て冷やかしました。
「やあ、ラパカーン、新調の服でおすましだね。どこの若旦那かと思ったよ」
 すると、ラパカーンはいやに丁寧に挨拶をして、すうっと歩いて行くのです。
 洋服屋の親方も、ラパカーンを見ると、大げさに手を広げて言いました。
「おや、どなた様かと思ったら、ラパカーンじゃないか。わしは、どこかの王子様かと思ったよ」
 親方の冗談を本気にして、ラパカーンは嬉しがりました。
「親方、本当に僕は、王子様に似ていますか。実は僕も、前からそう思っていたのですよ」
 と、真面目な顔で言いましたので、親方は呆れて、気が変なのじゃないかと思いました。でも、ラパカーンは仕事が上手ですし、良く働くので、大目に見ていました。
 ある日、洋服屋に、宮殿からお使いが来ました。王様の弟の礼服の繕いを頼みに来たのです。親方は、その仕事をラパカーンに言いつけました。
「ラパカーン、お前は手の込んだ仕事が上手だから、この礼服を繕ってくれ。念を入れて、丁寧に仕上げるのだぞ。大切なお客様なのだからな」
「はい、かしこまりました」
 ラパカーンは、美しい縫い取りのあるビロードの服を取り上げました。夕方になって、他の職人たちはみんな帰っていきましたが、ラパカーンだけは残っていました。繕いはとっくに済みましたが、美しい礼服を手から離すのが惜しかったのです。何というきらびやかな、美しい服でしょう。
「オレも、こんな素晴らしい服を着てみたいなあ。でも、似合うかな。ちょっと試しに着てみよう」
 ラパカーンは誰もいないので、そっと着てみました。すると、どうでしょう。まるで、自分の服みたいにぴったり合うのです。鏡に映してみると、とても凛々しく、立派に見えます。
「オレは、ほんとの王子様かもしれないな。親方もこの間、オレにそう言ったよ。お前は、どこかの王子様かも知れないよって……」


 ラパカーンは、鏡の前を行ったり来たりしました。そうしている内に、いよいよ自分が本当の王子様のような気がしてきました。
「オレは、洋服屋の職人より、王子様の方が似あっているよ。そうだ。これから王子様になる事にしよう。こんな洋服屋で働いていたって、誰もオレを可愛がっちゃくれないし、ほめてもくれない。俺が綺麗な服を着たりすると、洋服屋の小僧のくせにと馬鹿にするだけだ。こんなケチな町から飛び出してやろう。そして、誰も知らないよその国へ行って、王子様になって暮らそう」
 ラパカーンは、そう決心しました。少しばかりのお金を持って、立派な服を着たまま、アレキサンドリアの門からこっそり出ていきました。その晩は真っ暗でしたので、誰にも見つかりませんでした。

                    ☆

 ラパカーンは町の外に出ると、気がウキウキしました。前からなりたいなりたいと思っていた王子様に、とうとうなれたからです。まだ、本当の王子さまではありませんが、格好だけは王子様にそっくりです。顔も姿も美しいし、言葉も上品です。
 ラパカーンがゆっくり歩いて行くと、よその国の人たちはびっくりしました。
「まあ、どこの国の王子様かしら。綺麗なお召し物だこと。立派なお姿だこと。でも、どうして、てくてく歩いていらっしゃるのかしら」
 人々は不思議がって、ラパカーンに尋ねました。
「あの、王子様、貴いご身分のお方が、どうして歩いて旅をしていらっしゃるのですか。馬やご家来は、どうしたのですか」
「いや、あの……それは、ちょっと訳があってね」
 ラパカーンは困って、口の中でむにゃむにゃ言って、誤魔化しました。
(なるほど、王子様がてくてく歩いているのは、変に見えるだろうな。よし、馬に乗ることにしよう)
 ラパカーンは、値段の安い馬を買いました。その馬はよぼよぼの、年寄り馬でしたので、今まで馬に乗ったことのないラパカーンでも、どうにか乗れました。
 ラパカーンは、その馬にムルパアという名を付けて、ぽくぽくと乗っていきました。
 ある日、田舎道を進んでいますと、後ろから、若い馬に乗った美しい若者が、ぱかぱかと威勢よく馬を走らせて、そばへ寄ってきました。
「やあ、こんにちは。いいお天気ですね。あなたも、一人で旅をしているんですか」
 美しい若者は、楽しそうに話しかけました、
「ええ、そうです」
 ラパカーンが答えますと、若者はニコニコして言いました。
「では、一緒に行きませんか。話をしながら行くと、遠い道でも退屈しませんからね」
「そうですね。一緒に参りましょう」
 ラパカーンは、その若者が美しくて上品なので、喜んで承知しました。
「あなたは、どこのお方ですか。僕はオーマールという者で、カイロの総督、エルフィ・ペイの甥です。このおじが死ぬ時に、ある事を僕に言いつけました。僕は言いつけられたことをするために、こうして旅をしているのですよ」
「そうですか。あなたは、本当に身分の高い方なんですね」
 ラパカーンは羨ましそうに言いました。すると、美しいオーマールは笑って、
「君だって、その立派な服を着ているところを見ると、身分の高い人なんでしょう」
「ええ、それはそうですが、訳があって、私は名前を明かせません。私はただ、楽しみに旅をしているんですよ」
 ラパカーンは、こう言って誤魔化しました。
 二人は連れ立って歩いている内に、仲良しになって同じ宿に泊まりました。
 二日目の晩、ラパカーンはオーマールに尋ねました。
「あなたのおじさんの言いつけと言うのは、どんな事なのですか」
「それはね、とても不思議な事なのですよ。僕はおじさんの総督に、子供の頃から育てられたので、総督を、本当のお父さんだと思っていたのです。ところが、総督は死ぬ間際に、僕は、ある偉い王様の子供だと教えてくれたのです。その王様は僕が生まれた時、神様にお参りすると、悪いお告げがあったのです。『王子を御殿に置くと、必ず悪者に殺される。二十二になるまで、他所へ隠しておくがよい』。こういう事があったので、生まれたばかりの僕は、父の友達の総督に預けられたのだそうです。ところで間もなく二十二になるので、お父様に会いに行くのですよ」
「そうですか。貴方のお父様は、なんという名の王様ですか」
 ラパカーンは尋ねました。
 するとオーマールは首を振って、
「お父様の名前は知らないのです。ただ、この九月の四日に、ここから東の方にあるエル・ゼルルーヤーの円柱の下に行くのです。その円柱の下で待っている人に剣を渡して、僕は『あなたのお捜しになっている人はここにいます』と言うのです。もし、その人が『預言者マホメットに栄あれ、王子をお救い下さって有難う御座います』と言ったら、僕はその人について行きます。その人が、僕をお父様の所へ連れて行ってくれることになっているのです」
「それじゃ、あなたはもうじき、本当の王子様になれるんですね」
 ラパカーンは妬ましそうに言いました。目の前にいるオーマールが羨ましくてたまりません。
 オーマールは総督の所で幸せに暮らしてきたのに、まだそのうえ、王子様になれるのです。ラパカーンは腹が立ちました。
(僕とオーマールとどこが違うんだ。僕だって、オーマールに負けないくらい美しいし、上品な話し方が出来る。僕の方が、本当の王子様よりずっと王子様らしいよ。それなのに、あいつは本当の王子になれるのに、オレは王子様の真似をしているだけだ。一生いやしい、すかんぴんでいなければならないのだ。こんな酷い事があるもんか)
 オーマールの生き生きした目や、つんと高い鼻、静かな歩き方などを見ると、憎らしくてたまりませんでした。
 あくる朝、目が醒めると、オーマールはラパカーンの横ですやすや眠っていました。優しい口元は、今にもにっこり笑いだしそうです。きっと、幸せな夢を見ているのでしょう。帯には見事な剣をさしています。その剣は、王様に会う時の目印の剣です。
 その剣を見ると、ラパカーンは、むらむらと悪い心が起こりました。


 ラパカーンは、抜き足、差し足、王子様に近寄って、その剣を抜き取ると、自分の腰に差しました。そして、こっそり部屋から抜け出すと、王子様の良く走る馬に飛び乗って、ぱしっと鞭を当てました。
 たっ、たっ、たっ、東をさして、まっしぐらに走りました。
 まもなく、王子様は目を覚ましました。
 気が付いてみると、帯にさしておいた剣がありません。一緒にいた友達もいなくなっています。
「しまった。盗まれたんだ。あの剣が無いと、お父様に会えない。ああ、どうしよう」
 王子は髪をかきむしって悔しがりましたが、もう、どうすることも出来ません。
 ラパカーンはよく走る馬で、百キロも先を全速力で飛ばしていたのです。

                    ☆

 ラパカーンが王子様の剣を盗んで逃げた日は、ちょうど九月一日でした。約束の日は、九月四日ですから、まだ四日あります。ここから約束のエル・ゼルルーヤーの円柱までは、二日もあれば行けます。けれども、本当の王子が追いかけてくるだろうと思ったので、ラパカーンは馬に鞭うって、急ぎに急ぎました。
 二日目の夕方、ラパカーンは円柱の見えるところまで来ました。広い野原の真ん中に小さな丘があって、その丘の上に高い円柱が建っています。それを見ると、ラパカーンは胸がドキドキしました。嘘をつくのが恥ずかしくもありました。
「だが僕は、王子様になりたいんだ。どうしても、王子様になるんだ」
 ラパカーンは、駄々っ子のように叫んで、ぐんぐん円柱に向かって突進しました。
 辺りは一面、草ぼうぼうの野原です。家もありません。人もいません。寂しい所です。ラパカーンは、シュロの木に馬をつないで、その側に腰を下ろしました。そして、用意してきた食べ物を食べながら、約束の時が来るのを待ちました。
 次の日の昼頃、がやがやと騒がしい声がして、長い行列が野原を横切ってやって来ました。馬やラクダに、大きな荷物を乗せてきて、丘のふもとに立派なテントをいくつも張りました。その賑やかな事、きらびやかな事、大金持ちか、王様の旅行のようです。
「この人たちは、新しい王子様のために、はるばる旅行してきたのだろう。すぐ、あそこへ行って、僕がその王子だと教えてやりたいなあ。でも、約束の日は明日だから、それまで我慢していよう」
 ラパカーンは、飛び出したくてたまらないのをこらえていました。
 いよいよ、約束の九月四日の夜が明けました。お日様は野原の端から登って、ラパカーンの嬉しそうな顔を照らしました。
「さあ、いよいよ本物の王子様になる日が来たぞ」
 ラパカーンは、円柱の方へいそいそと馬を走らせました。走りながら、ちょっとためらいました。
「僕は、いけない事をしているんだな。本当の王子様から幸せを盗もうとしているのだな」
 ラパカーンは気が咎めましたが、今となってはやめる事は出来ません。
「ええ、馬はもう走り出したんだ。仕方がない。度胸を決めて、大胆にやろう。オレは生まれつきの王子様より立派な姿をしてるんだ。誰も偽物とわかるものか」
 ラパカーンは、勇気を奮って進みました。馬はたちまち、丘のふもとに着きました。
 ラパカーンは、馬を木につないで、オーマール王子の剣をしっかり握って丘に登りました。
 円柱の下には気高い老人が、六人の家来を従えて立っていました。
 金糸の縫い取りをした上着、キラキラ輝く宝石をちりばめて、白い絹のターバン……。一目で王様だとわかる老人です。
 ラパカーンは、その老人の前へつかつかと進んで、頭を低く下げました。恭しく剣を差し出しながら言いました。
「あなたのお捜しになっている人はここにおります」
「おう、神様、息子をお助け下さって、有難う御座います。お前は、オーマールだね。こちらへおいで。年取ったお父さんを抱いておくれ」
 王様は、嬉しさのあまり声を震わせて言いました。ラパカーンは真っ赤になりました。恥ずかしかったからです。気がとがめたからです。
 ためらっていると、王様は両手を広げて力いっぱいラパカーンを抱きしめました。ラパカーンは、嬉しくて天にも昇る気持ちでした。
 けれども、その嬉しさもちょっとの間でした。
 王様の側から離れて顔をあげると、向こうから、一人の男が馬に乗って走って来るのが見えました。その男は、よぼよぼの馬を無理やり走らせて、野原を一直線にこちらへやって来ます。
 ラパカーンは、すぐ、本当の王子オーマールと、自分の馬のムルパアだとわかりました。
(困ったな。だが、もう嘘をついてしまったんだ。こうなったら、どこまでもしらばくれて、嘘をつき通すより仕方がない)
 ラパカーンは覚悟しました。
 オーマールは馬から飛び降りると、すぐ駆け上がってきました。
「お待ちください。わたくしは、オーマールという者です。その男は大ウソつきです。あなた方は、騙されていらっしゃるのです。わたくしこそは、本当のオーマール王子なのです」
 王様はびっくりして、二人を代わる代わるに見ました。
 ラパカーンは落ち着き払って言いました。
「お恵み深いお父様、この男に、騙されないようになさいませ。この男は、アレキサンドリア生まれの洋服屋の職人で、ラパカーンという者です。身分の卑しい哀れな奴ですから、大目に見てやって頂きとう御座います」
「この嘘つきめ。よくもぬけぬけと……」
 王子様はき○がいのようになって、夢中でラパカーンにつかみかかりました。が、すぐ、そばの家来に抱き留められました。
 王様はそれを見て言いました。
「なるほど、この男は気が狂っているらしい。縛り上げて、ラクダに乗せておくがよい。可哀想な奴だから、命だけは助けてやらないでもないが」
 王子様は羽交い絞めにされて、地団太踏みながら泣き声で王様に言いました。
「どうぞ、私の言う事を聞いて下さい。私は本当の王子です。お願いですから、お母様に会わせて下さい。きっと、私が王子に違いないとおっしゃって下さるでしょう」
「バカな、何を言うか、全く、き○がいはしょうのないものだ。よくも、そんな厚かましい事が言えるものだ」
 王様は笑って相手にしません。ラパカーンの手を取って丘を下りていきました。
 王様とにせ王子は、美しい馬で行列の先頭に立って進んでいきました。本当の王子は両手を縛られ、ラクダに括りつけられて、行列の一番後から引きずられていきます。
 町では王子様のお帰りを、今か今かと待ち受けていました。町の入り口には花と緑の枝で飾ったアーチが出来ていました。どの家も、美しい幕や旗で飾り立てています。
 行列が町へ入ると、町中の人々は、
「ばんざい、ばんざい」
 と叫んで、大喜びで迎えました。
「おう、なんて立派な、美しい王子様でしょう」
「ほんとに、素晴らしい王子様だ。
 人々は、口々に褒め称えました。
 にせ王子のラパカーンは、それを聞くと嬉しくてたまりません。得意そうに鼻を高くして、つーんとすましかえりました。
 それに引き換え、本当の王子様は、ラクダに縛り付けられて泣いていました。けれども、有頂天になった人々は、誰一人、可愛そうな王子に気が付きません。
 日が暮れてから、行列はとうとう都へ入りました。
 お城では、年取ったお妃が、大臣や女官たちを引き連れて、王子様のお帰りを待っていました。大広間には、赤や青、黄色のランプが美しくともっています。お妃のいらっしゃる段の上は、金や宝石をちりばめて、まばゆいほど光り輝いています。
 町の方から、ばんざいばんざいと叫ぶ声や、大勢の人のどよめきが聞こえてきました。うきうきした太鼓の音、ラッパの音が、段々お城に近づいてきます。
 やがて、たくさんの馬のひづめの音がして、行列がお城の庭に入ってきた様子です。
 すると間もなく、広間の扉がさっと開きました。王様と王子様が、続いて入ってきました。家来たちは、一斉に頭を下げました。
 王様は、にせ王子の手を取って、ニコニコしながらお妃の前へ行きました。
「とうとう連れてきましたよ。長い間待っていた王子を連れてきましたよ。さあ、よく御覧」
 王様は弾んだ声で言って、にせ王子をお妃に引き合わせました。
 お妃は一足前へ出て、じいっとにせ王子の顔を眺めました。
 お妃の顔が、さっと曇りました。お妃は恐ろしそうに一足後ろへ下がって、首を振りながら言いました。
「いいえ、これは私の子じゃありません。私は今まで、たびたびマホメット様にお願いして、『どうぞ、夢ででも息子に会わせて下さいませ』とお祈りしました。マホメット様は、その度に夢の中で可愛い息子に会わせて下さいました。ですから、私は息子の顔をよく知っております。この人は、夢で見た王子とは、顔がまるで違っております。この人は、私の息子では御座いません」
 お妃は、きっぱりとこう言いました。
「何をたわけた事を言うのです。この若者は王子です。目印の剣を持っていたのだから、王子に違いないのです。馬鹿な事を言うものではありません」
 王様はこう言って、お妃をたしなめました。
 その時です。広間の戸が乱暴に開きました。オーマール王子が髪を振り乱して飛び込んできました。
「待てっ、き○がい。待たんか」
 追いかけてきた番人は、乱暴者を捕まえようとしました。オーマール王子は、番人の手を激しく突きのけて、王様とお妃の足元に、ぱったり倒れました。
「王様、お妃様、わたくしこそ、本当のオーマール王子です。お父様は、わたくしをき○がい扱いなさって酷いではありませんか。こんな恥ずかしい目に遭ったのは、生まれて初めてです。わたくしは、もう我慢出来ません。いっそ、死んだ方がマシです。さあ、殺して下さい」
 大臣たちはびっくりして、乱暴者の周りに駆け寄りました。番人は、乱暴者を捕まえて、外へ連れ出そうとしました。
 お妃は、驚いてその若者を見ました。番人たちが若者を引きずり出そうとすると、お妃は手を挙げて止めました。


「まあ、ちょっとお待ちなさい。その男の顔を、よく見せて下さい」
 こう言って、お妃はもう一度、じいっと乱暴者の顔を見ました。しばらくして、お妃は嬉しそうに言いました。
「おう、この顔は、私が夢の中で見た王子と、そっくりの顔です。まだ一度も会ったことは無いけれど、この若者は王子に違いありません」
 お妃の言葉に、番人たちはびっくりして、捕まえていた手を放しました。
 王様は、かっとなって言いました。
「これは、なんという事だ。妃は、どうかしているのではないか。夢で本当の王子の顔を見たのだと……。そんな事があてになるものか。さあ、早くそのき○がいを縛っておけ」
 こういいつけてから、王様は厳かに言いました。
「私は確かな証拠で、王子を決める。この若い男は私の友人、エルフィ・ペイの剣を持ってきた。これが何より確かな証拠だ。だから、この若者が私の息子だ。私の王子じゃ」
 こう言って、王様はラパカーンを指さしました。
 すると、オーマール王子はわっと泣きながら叫びました。
「いいえ、違います。証拠の剣は、その男が盗んだのです。わたくしが眠っている間に盗み出して、まんまと王子に成りすましたのです」
 オーマールは、き○がいのように泣き叫びましたが、王様は聞こうともしません。ラパカーンを連れて奥へ入っていきました。オーマールはさっきよりももっと厳しく縛られて、狭い部屋に閉じ込められました。

                    ☆

 お妃は、たいそう悲しみました。可哀想な男は、お妃がこれまで度々夢の中で見た王子とそっくりの顔をしています。あれこそ本当の王子に違いないのです。
 けれども、にせの王子は証拠の剣を持っています。それに、オーマール王子から聞いた身の上話を王様に聞かせて、ばれないようにしています。王様はすっかり騙されて、偽物を本当の王子と信じ切っています。
(どうしたら、あれが偽の王子だと分かってもらえるかしら)
 お妃は一生懸命考えました。なかなか良い考えが浮かびません。それで、賢い召使の女たちを呼んで相談しました。
 すると、メレヒサラーという、賢いお婆さんの召使が言いました。
「証拠の剣を持った男は、お妃様が王子様だと思っていらっしゃる方の事を、洋服屋のラパカーンだと言ったそうではありませんか」
「ええ、そうですよ」
 と、お妃は言いました。
「もしや、その嘘つきは、自分の名前を王子様におっかぶせて、自分はオーマール王子に成りすましているのではないでしょうか。もしそうでしたら、上手い計略が御座いますよ」
 と言って、お婆さんはお妃に、何か耳打ちをしました。
 お妃はすぐ、お婆さんの考えた計略をやってみる事にしました。
 次の朝、お妃は王様に言いました。
「王様、お互いに機嫌を悪くしているのは嫌で御座います。それで、私はあの若者を、私の息子に致しましょう。その代わり、一つだけお願いがあるのですが、聞いて頂けるでしょうか」
「良いとも。どんな願いだ、言ってみるがよい」
 王様は、お妃の機嫌が直ったので、ほっとして言いました。
「私はあの二人に、腕比べをさせたいので御座います。でも、馬に乗ったり槍投げをしたりするのはありふれています。それで、変わった事をさせたいのです。私は二人に、上着とズボンをこしらえさせて、どちらが上手にできるか見たいので御座います」
 お妃がこう言うと、王様は笑いました。
「なるほど、それは面白い。私の息子と、お前のき○がいの洋服屋と、どちらが上手に服が縫えるか、腕比べをさせるのだな。いや、それは駄目だ。き○がいでも、洋服屋の方が巧いに決まっているからな」
「でも、王様は、わたくしのお願いを一つだけ許すと約束なさったではありませんか」
「そ、それは約束した。しかし、き○がいの洋服屋が私の王子より上手に服を作っても、私の息子と認める事は出来んぞ」
 王様はこう言って、お妃の願いを許しました。
「困ったことになった」
 王様は、新しい王子様の部屋に来て言いました。
「どうなさったので御座いますか、お父様」
 王子になりきったラパカーンは、心配そうに尋ねました。
「妃が、お前に洋服をこしらえてもらいたい、と申すのだ。お前には無理だろうが、母親を慰めると思って聞いておくれ」
 王様は気の毒そうに言いました。
 けれどもラパカーンは、仕立物ならお手の物ですから、心の中で、しめた、と思いました。
「宜しゅう御座います。お妃様のおっしゃる事なら、なんでも致します」
 と、神妙に言いました。
 新しい王子様と、き○がいの洋服屋は、二つの部屋に分かれて、腕比べを始めました。裁縫台の上には、針やハサミ、長い絹のきれ等が置いてあります。
 王様は、新しい王子が上手に洋服を作ってくれれば良いが、とハラハラしながら待っています。
 お妃の方も、計略が上手くいけば良いが、と胸をドキドキさせています。
 洋服は、二日で縫い上げる事に決めてありました。それで、三日目になると、新しい王子とき○がいの洋服屋は、それぞれ縫い上げた洋服を持って、王様とお妃の前へ出ました。
 ラパカーンは、大いばりで自分の縫った洋服を広げて見せました。
「御覧ください、お父様、お母様。お城の中で一番上手な裁縫師でも、これほど立派な洋服が作れるでしょうか」
 お妃はニッコリして褒めました。それから、オーマールに向かって言いました。
「お前は、どんなものをこしらえましたか」
 オーマールは、まだ何も出来ていません。きれやハサミを腹立たしげに床に投げつけました。
「私は馬に乗ったり剣や槍を使う事は習いました。けれども、縫物を習った事はありません。そんな事はカイロの総督の息子ともあろう者のする事ではないでしょう」
「おう、そうですとも。お前こそ、王様の本当の子です。私の可愛い息子です」
 お妃は、嬉しそうに言いました。それから、王様の方を向いて静かに言いました。
「あなた、こんな企みをして、お許し下さい。でもこれで、どちらが王子でどちらが洋服屋の職人かお分かりになりましたでしょう。王子に成りすましているあの男の作った洋服は、とても上手で御座います。どんな裁縫師でもかないません。一体お前は、どこの洋服屋で、縫物を習ったのですか」
 お妃にこう尋ねられて、ラパカーンは真っ赤になりました。
 いい気になって縫物の腕前を見せてしまったので、とうとう、身元がばれそうになりました。
(しまった!)
 と思っても、もう追いつきません。

                    ☆

 王様は、一言も言いません。
 お妃とラパカーンの顔を、代わる代わる見比べていました。
 とうとう、お妃に向かって言いました。
「なるほど、お前の言う事はもっともだ。しかし、お前が王子だという若者は、証拠の剣を持っていないではないか。どちらが本当の王子か、これは困った事になった。こうなったら、本当の王子を知る方法は、一つしかない。森の仙女に会って、たずねてみる事だ。すぐ、一番速く走る馬を連れてこい」
 王様は、さっそくただ一人で、馬にまたがって仙女のいる森へ出かけていきました。
 その森は、都からあまり遠くない所にありました。そこにはアルトザイデという仙女が住んでいて、代々の王様が難儀にあった時に、助けてくれると言われていました。
 森の真ん中に広い空き地があって、その周りに高いシダーの木が生えています。そこには仙女が住んでいるという噂があるので、誰も恐れて近寄りません。
 王様は、馬を木につないで、空地の真ん中に立ちました。そして大声で言いました。
「親切な仙女様。私の先祖は、危ない目に遭った時、度々あなたに助けてもらいました。私も今、困った事が起こっています。どうか、良い知恵を授けて下さい」
 すると、大きなシダーの木がぱっと開いて、中から頭巾で顔を隠した長い白い服の女が現れました。
「あなたはサーアウド王ですね。あなたがここへ来たわけは、よく知っています。さあ、この二つの箱を持ってお帰りなさい。そして、二人の者に好きな箱を取らせなさい。そうすれば、本当の王子が分かりますよ」


 こう言って、金や宝石の飾りのついた美しい象牙の箱を渡しました。
 王様はお礼を言って顔をあげると、もう仙女の姿は消えていました。
 王様は二つの箱を持って、お城へ向かいました。帰る道で箱のふたを開けてみようとしましたが、どうしても開きません。蓋の上にはダイヤモンドを散りばめた字が書いてあります。一つの箱には“しあわせと宝”もう一つの箱には“名誉と徳”と書いてあるのです。
「なるほど、どちらも人の欲しがるものだ。私でも、どちらを取って良いか分からないな」
 王様は、独り言を言いました。
 御殿に帰ると、王様は自分の前に台を置いて、二つの箱を並べました。それからお妃を始め、大臣や女官たちを広間に集めました。
 一同が両側にずらりと並ぶと、王様は、
「新しい王子を、ここへ連れてきなさい」
 と、お側の者に言いつけました。
 ラパカーンは、高慢な顔で広間へ入ってきて、王様の前にひざまずきました。
「お父様、何の御用で御座いますか」
 王様は、椅子から立ち上がって言いました。
「お前が私の本当の息子かどうか、分からないという者があるのだ。それで、今日はみんなの前で、お前が本当の王子だという証拠を見せてもらいたい。ここに、箱が二つある。どちらでも、お前の好きな方を取りなさい。そうすれば、お前の本当の身分が分かるのだから」
 ラパカーンは、立って、箱の前に行きました。どちらを取ろうかとしばらく考えていましたが、とうとう“しあわせと宝”の箱を取ることにしました。
「お父様、私は、あなたの息子に生まれて本当に幸せです。これからも、ずっと幸せで、お金や宝をたくさん持って、楽しく暮らしたいと思います。ですから、この箱を頂きます」
「よろしい。お前が本当の王子かどうか、後で分かるだろう。しばらく向こうで待っていなさい」
 と、王様は言って、今度は狭い部屋に閉じ込めてある若者を連れて来させました。オーマールはやせ細って、悲しそうな顔をしています。
「あのき○がいも、すっかり弱っているらしいね」
 と、家来たちも可哀想に思いました。
 王様は、オーマールにも、
「二つの箱の内、お前の好きな方を取りなさい」
 と言いました。
 オーマールはよく気を付けて、箱の上の字を読みました。そして“名誉と徳”と書いた箱の上に手を置いて言いました。
「王様、私は今度の旅で、酷い目に遭いました。そのおかげで、幸せはすぐなくなることが分かりました。また、大切な宝も人に盗られたり、無くなったりすることを知りました。それで、どんなことがあっても無くならない物が欲しいと思います。それは、名誉と徳です。名誉は泥棒も盗ることが出来ません。また、勇気や親切や、正直などの徳は、私の心の中にあるので、死ぬまで無くなりません。ですから、私は“名誉と徳”の箱を頂きたいと思います」
「よろしい。それでは、二人とも、自分の好きな箱の上に手を置きなさい」
 と、王様は言いました。
 それから王様は、東の方を向いて祈りました。
「神様、どうぞ、本当の王子をお教え下さい」
 お祈りを済ますと、王様は段の上に立ちました。並んでいる人々は、息をつめて箱の方を見守りました。
 広間はしいんとして、ネズミの走る足音も聞こえる位です。
 王様は、厳かに言いました。
「箱を開けなさい」
 すると、今までどうしても開かなかった箱が、ひとりでにぱっと開きました。
 オーマールの箱の中には、ビロードのきれの上に小さな金の王冠と、笏(しゃく)が入っていました。ラパカーンの箱には、大きな針と糸が入っていました。
「めいめい箱を持って、ここへ来なさい」
 王様は言いました。そして、オーマールの箱から小さな冠を出して、掌に載せて眺めました。すると不思議、冠は見る見る大きくなって、とうとう普通の冠の大きさになりました。
 王様はオーマールの頭にその冠を置いて、額に接吻しました。
「お前こそ、本当の王子だ。今まで偽物に騙されていた、愚かな私を許しておくれ」
 王様はこう言って、心から王子に謝りました。
 それからラパカーンに向かって、厳しく言いました。
「この大嘘つきめ。卑しい仕立て職人の分際で、まんまと王子に成りすまして、この私を騙しおったな。切り刻んでも飽き足らないほど憎い奴だが、命だけは助けてやる。さっさと消え失せるがよい。お前は、腕の良い職人だ。これに懲りて、これからは、真面目に洋服屋で働くがよい」
 ラパカーンはウソがばれたので、恥ずかしいやら、情けないやら、両手で顔を隠して一言も言えません。
 オーマール王子の前に、ぺたりと額を付けて、涙を滝のように流して謝りました。
「王子様、どうぞお許し下さい」
「よし、許してやる。このアパシッド王家は、代々、友達には親切にし、敵は許してやることになっている。だから、安心して帰っていきなさい」
 王子様は、自分を苦しめたラパカーンを、快く許してやりました。
 王様はそれを見て、心から喜びました。
「おう、心の広い、優しい子じゃ。お前こそ、私の本当の息子じゃ」
 と、両手を広げて、力いっぱい王子を抱きしめました。王妃も駆け寄って、うれし泣きをしながら接吻をしました。
 大臣や女官たちは、それを見て叫びました。
「アパシッド王家、ばんざい。新しい王子様、ばんざい」


 喜びに沸き返っている広間から、ラパカーンは、こそこそと自分の箱を抱えて出ていきました。
 王様の厩(うまや)には、ムルパアがつないでありました。これはラパカーンが、自分のお金で買った馬ですから、それに乗ってお城から出ていきました。
「オレはとうとう、王子様になったと思ったけど、あれは夢だったのかなあ。でも、ここに、金やダイヤモンドを散りばめた象牙の箱を持っている。やっぱり、王子様になったのは夢じゃなかったのだ。でも、もう、何もかもおしまいだ」
 ラパカーンはとぼとぼと、アレキサンドリアの町へ帰っていきました。
 他に行く所も無いので、前に働いていた洋服屋へ行ってみました。昔の仲間がせっせと働いています。
「こんにちは」
 ラパカーンは、恐る恐る店へ入りました。
 立派な身なりをしているので、主人は金持ちのお客だと思いました。
「いらっしゃいませ。何か、お入り用で御座いますか」
 丁寧に言って、愛嬌を振りまきました。ラパカーンは笑って、
「親方、私ですよ。ラパカーンですよ」
 そう言われてよくよく見ると、なるほど、ラパカーンです。主人はかっとなって、
「こいつ、よくもぬけぬけと帰ってきたな。おーい、みんな来てくれ。持ち逃げのラパカーンめが、帰ってきたぞ」
 と、大声で職人や弟子たちを呼びました。
「なに、あの見栄っ張りのラパカーンが帰ってきたって」
 職人たちは火熨斗(ひのし)や物差しを持ったまま、飛び出してきました。
「こいつめ、よくも図々しく帰ってきたものだ。性根を叩きなおしてやる。それ、これでも喰らえ」
 職人たちは、火熨斗や物差しを振り上げて、力任せにラパカーンを打ちました。
「ちょっと、私の言う事も聞いて下さい」
 ラパカーンは叫びましたが、誰も言い訳を聞こうともしません。頭から足の先まで、散々打ちのめして、積み上げた古着の上へ打ち倒しました。
「この横着者め、持ち逃げした礼服はどこへやった。お前のおかげで、わしは王様から散々なお叱りをくったぞ。そのうえ、信用はがた落ちだ。さあ、あの礼服をすぐ戻してくれ。でないと、お前を訴えてやるぞ」
 主人はかんかんに怒って喚きたてました。
「お許しください、ご主人様。あの時は魔が差したのです。この償いはきっとします。これから心を入れ替えて、今までの三倍働きますから、どうぞ、勘弁して下さい」
 ラパカーンは、ほこりだらけの床に頭を擦り付けて頼みましたが、聞いてくれません。
「駄目だ、駄目だ。お前みたいな嘘つきの見栄っ張りの言う事なんか、あてになるものか」
 主人と職人たちは、また、めったやたらにラパカーンを打ちのめしました。そして、死んだようになったラパカーンを、外へ放り出しました。


 ラパカーンの服はずたずたに破れ、体中、傷だらけです。しばらくして、やっと正気に返ったラパカーンは、宿屋までたどり着きました。
「あーあ、酷い目に遭わされたなあ」
 ラパカーンは、粗末なベッドにどさりと倒れ込みました。体中の傷がずきずき痛みました。
「世の中は厳しいものだなあ。ちょっとの間違いでも、許してくれないのだからなあ。綺麗な顔も、綺麗な服も、何の役にも立たなかった。オレみたいな者は、いくら望んでも、王子様にはなれないんだ。もう、これからは夢みたいなことを考えるのはやめよう。そして、真面目に正直に働くことにしよう」
 ラパカーンは、こう決心しました。ラパカーンの見栄っ張りは、職人たちの物差しで叩き出されたと見えます。
 次の日、ラパカーンは大切に持ってきた象牙の箱を宝石屋に売りました。そのお金で小さい家を買って、“ラパカーン洋服店”と書いた看板を出しました。
 それから、箱の中に入っていた針と糸を出して、自分の破れた服を繕いました。縫い始めると、針はひとりでに動いて、ボロボロに破れた服を、元の通り綺麗に繕いました。ラパカーンは驚きました。
「これは不思議だ。王様は、どこかの仙女からもらってきたとおっしゃったが、普通の針とはまるで違う。それに、糸も、いくら縫っても無くならない。この針と糸があれば、オレは独りでいくらでも仕事が出来るわけだ。嘘つきのにせ王子の私に、こんな良い贈り物を下さって、有難う」
 ラパカーンは、心から仙女様にお礼を言いました。
 店を開いてから、ひと月もしない内に、ラパカーンの洋服店は町中の評判になりました。お得意が増えて、一人では縫いきれないほどたくさんの注文が来ました。
 けれどもラパカーンは、手伝いの職人を雇いません。いつも一人きりで、窓を閉め切って働きました。
 こうしてラパカーンは、箱の蓋に書いてある通り、幸せになっていきました。宝もだんだん増えていきました。
 ところで、オーマール王子の方はどうでしょう。強くて勇ましいオーマール王子の噂は、ラパカーンの住むアレキサンドリアの町でも評判でした。
 しかし、他の国の王様たちは、オーマール王子に攻め滅ぼされはしないかと、びくびくしていました。そして、隙があったら、反対にオーマール王子を攻めてやろうと思っていました。
 ラパカーンはその噂を聞いて、
(王子様も、外から見るほど楽じゃないなあ)
 と思いました。
 こうして、ラパカーンはあの箱に書いてあった通り、幸せに、お金持ちになって、町の人からも尊敬されて暮らしました。



おしまい


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