ものを言う卵


                    ☆

 むかし、ある所に、ローズとブランシという二人の娘がいました。
 ローズは意地の悪い娘でしたが、お母さんは自分によく似ているので、ローズばかり可愛がりました。
 ブランシには仕事ばかりさせて、ローズはただ遊ばせておきました。ある日、お母さんはブランシに、
「森の中の井戸へ行って、水を汲んでおいで。出来るだけ早く、たくさん汲んでくるのだよ」
 と言いつけました。
 森までは遠いので、なかなか大変な仕事でした。
 ブランシが森の井戸で水を汲んでいると、そこへお婆さんが通りかかりました。
「お嬢さん、私に水を下さいな。喉が渇いてたまらないんですよ」
「あげますよ、お婆さん。はい、どうぞ」
 ブランシは、バケツの中の美味しい、綺麗な水を、お婆さんに飲ませてやりました。
「ありがとう、お嬢さん。貴方はいい娘だね。お礼にいい物をあげよう」
 お婆さんは、手に提げていた籠を差し出しました。
 中には卵がいっぱい入っていました。
「さあ、お嬢さん。この中から“連れて行って”と言う卵だけを持っておいき。“連れて行かないで”と言う卵は持って行っちゃだめだよ。そして、森を出たら、持ってきた卵を後ろに投げて割るんだよ」
 ブランシが籠に手を伸ばすと、あら、不思議!
 卵が口々に「連れて行って」「連れて行かないで」と叫び始めたのです。
 ブランシはその中の「連れて行って」と言っている卵だけを取りました。ブランシは、夢でも見ている気持ちで、
「お婆さん、有難う」
 と言いましたが、もうその時には、お婆さんの姿は見えなくなっていました。
 ブランシは森を出ると、お婆さんに言われた通り、卵を後ろに投げて割りました。


 すると、どうでしょう! 割れた卵の中から、金や銀や宝石が、いっぱい出てきたのです。
 ブランシは、ただもう驚いて、それをバケツに入れて家に帰りました。
 お母さんは、いつもなら帰りが遅い事や、バケツに水が無い事を怒るのですが、宝物を見ると、驚いたり喜んだり。ブランシに、その訳を話させました。
 ブランシがありのままの話をすると、お母さんはローズに言いました。
「お前も森へ行って、お婆さんに会っておいで。そして宝物をもらって来るんだよ」
 ローズは森へなど行った事が無いので、ぶつぶつ言いながら出かけて行きました。森の井戸の所で、お婆さんに会いました。お婆さんはローズに言いました。
「お嬢さん、私に水を下さいな。喉が渇いてたまらないのだよ」
「ここにバケツがあるから、自分で汲んで飲んだらいいわ」
 と、ローズはそっけなく言いました。意地悪娘のローズは、人に親切などしたことが無いので、お婆さんに水を汲んで飲ませてやることが出来ないのでした。
 それでもお婆さんは水を飲むと、ローズに有難うとお礼を言って、手に持っていた籠を差し出しました。
「お嬢さん、この中から“連れて行って”という卵だけを持っておいき。“連れて行かないで”という卵は、持って行っちゃだめだよ。そして森を出たら、その卵を後ろに投げて割るんだよ」
 意地悪娘のローズは、人の言う事をなかなか素直に聞けない娘でした。卵が口々に「連れて行って」「連れて行かないで」と言い始めると、
「連れて行かないでなんて言ったって駄目だよ。あたしが自分で選ぶんだからね」
 ローズは「連れて行かないで」という卵をみんな持って帰りました。
 そして、帰り道でその卵を割ると、
 おや、おや! ヘビやヒキガエルがぞろぞろ!
「うわあ、助けて!」
 ローズは命からがら逃げだしました。
 お母さんは、ローズの後ろからヘビやカエルが追いかけてくるのを見ると、大変怒って、ローズを森の中へ追い払ってしまいました。
 けれどブランシは、お母さんやローズにも宝物を分けて、その後しあわせに暮らしたという事です。



おしまい


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