みんなの力


                    ☆

 スズメの夫婦が、林の木の枝に巣を作りました。
 仲良く暮らしているうちに、卵を産みました。
「まあ、嬉しい。どっさりだこと!」
「良かったね。早くひなが孵るといいなあ」
「きっと、可愛い子供たちですよ。孵ったら私、色んなことを教えてやらなくちゃ。賢い子に育てますよ」
 大喜びで、スズメたちは毎日卵を温めました。
 すると、暑い昼頃です。野原をうろうろしていた象が、林に飛び込んできました。
「ああ、頭がガンガンする」
 象は暑さに参ったらしく、大きな体でバタバタ暴れ出しました。
「気の毒に、外はよっぽど暑いらしいね」
「でも、私達は有難いわ。林の中は、とても涼しいんですもの」
 スズメたちは、巣の中からのんきに見下ろしていました。
 象は暴れながら、スズメたちのいる木の方に近づいてきました。そして、あっという間に、太い鼻を幹に巻き付けて、木を倒してしまったのです。巣の中の卵は下に落ちて、みんなめちゃめちゃに潰れてしまいました。
「まあ、どうしましょう。こんなになってしまって……」
「なんて酷い事をする奴だ。待てっ!」
 でも、大きな象にかかっていっても到底かないません。スズメたちは抱き合って、わあわあ泣いていました。

「すずめさん、すずめさん。どうしてそんなに泣いているんです?」
 鳴き声を聞きつけて、友達のキツツキが飛んできました。
「卵をみんな壊されたんです。憎い象の奴を、懲らしめてくれませんか?」
 話を聞いて、キツツキも腹を立てました。
「それなら、象の方が悪いよ。断じて許せないとも。困っている者を助けるのが、本当の友達だ。良し、仲良しの蠅くんにも、仲間になってもらうよ」
「有難う、キツツキさん。じゃ、私達も一緒に行きますわ」
 スズメもキツツキについて、畑の方へ飛んでいきました。
「おや、キツツキさんじゃないか。そんなに急いで、何かいい事でもあるの?」
 ぶんぶん飛び回っていた蠅が、嬉しそうに近寄って来ました。
「いい事どころか、このスズメさんが、酷い目に遭ったんだよ。象の奴に、大事な卵をみんな壊されちゃったんだ。ねえ、蠅くん。一緒に象を懲らしめてくれないかい?」
「オーケー! これが黙って見ていられるかってんだ。仲良しのカエル君にも言おう。味方は多いほどいいからな」
 蠅は、喜んで引き受けました。
「じゃ、頼むよ、蠅くん」
「うん。みんなで、すぐ行こう」
 蠅を先頭に、キツツキとスズメは、また飛んでいきました。
 畑の上を過ぎて、川の側に来ました。カエルは、気持ちよさそうに、すいすい泳いでいました。
「カエル君。カエル君。頼みがあって来たんだよ」
 蠅がすっかり、訳を話しました。
「分かった。それならオレに、象をやっつけるいい工夫があるよ」
 カエルは胸を張って言いました。
「どんなことだい?」
「早く、聞かしておくれよ」
 蠅もキツツキも、体を乗り出しました。
「いいかい。はじめに、蠅くんが象の所へ行くんだ。昼過ぎにね。そして、耳の側で、ぶーんぶーん、飛ぶのさ。お腹の膨れてる象は、いい気持になって、うとうとし出す。その時、キツツキさんが、その長いくちばしで象の目玉をほじくり出すんだよ。象は、ちょうど水が欲しくなる頃だ。そこでオレが、見つけておいいた穴のわきで、仲間のカエルたちと一斉に鳴くからね。その声を聞いて目の見えなくなった像が、川か池があるなと思って飲みに来る。その途端、穴に落としてしまう、という仕掛けさ。いいだろう?」
「素晴らしいわ、カエルさん」
 スズメは、羽をバタバタさせて喜びました。
「愉快、愉快。やろうよ」
「間違いなく、成功さ!」
 と、みんな賛成したので、その日は別れて帰りました。

 次の日の、お昼過ぎになりました。
「さあ、出撃だ!」
 蠅は畑を飛び出して行きました。林に寝転んでいる象を見つけると、耳の側をうなりながら、飛び回り始めました。
「ああ、いい気分だ。眠くなったなあ」
 言いながら象は、小さな目をつぶってしまいました。
「それ、僕の出番だ!」
 木の上で待ち構えてきたキツツキは、さっと降りて来て、象の目をつつきました。
「いた、痛たっ!」
 象は叫び声を上げてはね起きました。
「誰だ、酷い事をする奴は? ああ、痛いっ!」
 ところが、見回しても、象は何も見えません。駆け出そうとして、石につまづいてよろけました。
 その時です。

 ゲコ、ゲコ、ゲコ、ゲコ
 ゲコ、ゲコ、ゲコ、ゲコ

 カエルたちが、穴のわきで、大きな鳴き声を上げました。
「ああ、池があるな? 喉がカラカラになった」
 象は痛い目をぼつぼつさせながら、カエルの鳴き声がする方へ、よたよた歩きだしました。
「ひゃっ!」
 間もなく、叫び声と一緒に、象は大きな音を立てて穴に落ちました。
「わあ、やったぞ!」
「いい気味だ!」
「どうだ、象め。思い知ったか? スズメさんの仇だぞ!」
 みんなは、穴を覗き込んではやし立てました。
 象は、のそのそと穴から這い上がって来ました。
「ああ、痛かった。こんな所、もうごめんだよ」
 そう言って、象は慌てて駆け出しました。
「あれ、目は潰れなかったらしいね」
「でも、いいよ。もう誰も意地悪されないもん」
「そうだね、良かったね」
 蠅と、カエルと、キツツキは、逃げて行く象を笑いながら見ていました。



おしまい


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