ライオンを負かしたうさぎ


                    ☆

 広い森の奥に、強いライオンがいました。
 ライオンは弱い動物を見つけると、片っ端から捕まえて食べました。
 森に棲む動物たちは、毎日びくびくし通しです。
「いくら王様だからって、これじゃ、あんまり酷いよ」
「何とかライオンに捕まらないように、みんなで考えようよ」
 たまりかねた動物たちは、ある日集まって相談を始めました。
「ライオンがこの森からいなくなればいいんだけどなぁ」
 サルが言い出すと、オオカミも言いました。
「そうなんだよ。だけど、ライオンはすごく強いからね。みんなでかかっていっても、追っ払えっこないよ。懲らしめたくたって、それも駄目だしさ」
 いくら考えても、いい方法は見つかりません。
「やっぱり駄目だ。諦めるよりしょうがないだろう」
「あああ、やりきれないなあ」
 動物たちはがっかりして、顔を見合わせました。
「じゃ、こうしたら、どうだろうね?」
 言い出したのは、長いひげを生やしたヤギです。
「それはねえ、僕達で順番を決めて、毎日一匹ずつ、ライオンの所へ行くんだよ。どうせ誰かが食べられるなら、毎日ひやひやしているよりは、まだマシだろう? その間に、せっせと子供たちを育てておくんだよ」
「ふうん、そうすれば、仲間も減らないで安心だね」
「今までよりはいいよ。ねえ、みんな、ヤギさんの言う通りにしようよ」
 オオカミが言ったので、みんな賛成しました。そして、すぐさま動物たちは、ライオンの所へ出かけて行きました。
「これからは、私達の方から、誰かが毎日、王様の所へ参ります。だから、みんなを追い回すのをやめて下さい。そうすれば王様は食べ物を捜さなくて済むし、私達も自分の番が来るまでは安心して暮らせます」
 サルが言うと、ライオンは二タッと笑いました。
「成程、それもよかろう。だが、もし一日でもワシの所へ誰も来なかったら、その時は覚悟をしろ。いっぺんに、お前達を食ってしまうからな!」
「嘘は言いません。きっと約束は守りますから」
「よし。それなら許してやろう」
 ライオンは、喜んで頷きました。
 帰ってくると、動物たちは、さっそく順番を決めました。そして次の日から、一匹ずつ仲間に別れを言って、ライオンの所へ出かけて行きました。

 三日目に、うさぎの番が来ました。大人しいうさぎは恐ろしくて、悲しくて、しくしく泣きだしました。
「駄目じゃないか、うさぎさん。行くんだよ」
「さあ、早く、早く」
 みんなが急き立てます。後ろから体を押されて、うさぎは渋々歩き出しました。
「嫌だ! ライオンに食べられるなんて、ぼく、いやだ!」
 とぼとぼ歩いていたうさぎは、立ち止まってわめきました。そして、憎らしいライオンを、何とか打ち負かしたいと思いました。
(ぼくたちみんなの森なのに、勝手に王様になったんだ。ライオンばかり威張ってるなんて、我慢できるもんか!)
 考えながら歩いている内に、森の外れの井戸の側に来ました。通り過ぎる時に、うさぎはひょいと、大きな井戸を覗いてみました。深い穴の底の水に、自分の顔が映りました。途端にうさぎは、
「これだ!」
 と大きな声を上げました。素晴らしい計略が閃いたのです。
「これだ! この井戸を使って、ライオンをやっつけてやるぞ!」
 もう悲しくも、恐ろしくもなくなりました。うさぎは元気良く、森の奥へ進んでいきました。

 お昼もとっくに過ぎた頃です。うさぎはやっと、ライオンの所に着きました。
「何をぐずぐずしていたんだ、このうさぎめ! 遅れた罰に、明日は森中の奴らを皆殺しにしてやるからな!」
 お腹を空かして待っていたライオンは、牙をむいて怒鳴りました。
「ま、待ってください、王様。私が遅くなったのは、途中で大きなライオンに出会ったからなのですよ」
「なに、ライオンだと?」
 今にもうさぎに飛びかかろうとしていたライオンは、びっくりして尋ねました。
「はい。いきなり、穴の中から大きなライオンが現れたのです。そして、どうしてそんな悲しそうな顔をして歩いているのだと尋ねました。私は、王様のライオンの所へ、食べられに行くところです、と答えました。すると……」
「すると、何と言ったのだ、そいつは?」
 ライオンは目をみはりました。
 そこでうさぎは、いよいよ真剣な顔つきで話しました。
「はい、そのライオンは、『ここはワシの森じゃ。どこからやって来たか分からない、そんな奴の言う事なぞ聞く必要は無い。あいつが図々しく、この森の王だと抜かしているのなら、すぐここへ連れて来い。どっちが本当の森の王か、わしの力を見せてやろう』と、こう言ったのです」
「なにをっ、インチキ野郎めが! この森の王は、ワシだ。よし、行って、この腕前を見せてやる。さあ、どこだ。そいつは、どこにいるのだ!」
 お腹がペコペコのライオンは、うさぎを食べるのも忘れて怒り出しました。
「でも王様。そのライオンは、頑丈なお城に立てこもっているのです。とても敵いませんよ」
 うさぎは心配そうに言いました。
「どこに居ても、どんなに強くても、ワシは恐れはせん。必ず打ち負かしてやるからな!」
「じゃ、おいで下さい」
 そう言うと、うさぎは先に立って歩き出しました。
 茂った森の中をどんどん進んで、二匹はさっきの井戸の所に来ました。
「やっぱり、王様を怖がって、お城の中へ逃げ込んだようです」
「そうだろうとも。だが、城とはどこだ?」
 ライオンは、キョロキョロ見回しました。
「はい、ここがお城で御座います」
 うさぎが井戸を指さすと、ライオンは中を覗き込みました。
「ウォー、あいつだな!」
 ライオンは、水に映った自分の顔を敵のライオンだと思ったのです。大きな吠え声は、深い穴に響いて戻って来ました。
「ようし、見ていろっ!」
 もう一度大きな声を上げると、王のライオンは井戸に飛び込みました。そして、それきりもう、上には上がって来ませんでした。
 うさぎは大急ぎで帰ってくると、この事を、仲間たちに知らせました。
「へえっ、ライオンが、自分で井戸へ飛び込んだんだって? 愉快だなあ」
「いい気味だわ、ライオンの奴!」
「そうだよ。自分勝手ばかりしていたんだからな、似合いの最期さ!」
 動物たちは、みんな喜んで飛び跳ねました。
 嵐が過ぎた後のように、森は静かな、平和な国になりました。



おしまい


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