ココカロの水道
☆ 昔々、ペルーの国の高い山の上に、五つの卵が並べて置いてありました。どうしてそこにあるのか、何の卵なのか、誰も知りませんでした。 しばらくすると、卵は次々に割れて、四つの卵からは四羽のタカが飛び出しました。けれどもそのタカは、すぐに四人の優れた勇士になりました。 最後の五つ目の卵からは、パリカカという、不思議な力を持った立派な神様が生まれました。 先に生まれた四人の勇士は、パリカカの家来になりました。 パリカカは、四人の家来を連れて、あちらこちらと旅をして歩きました。 ある時、サンロレンゾという村を通りかかりました。すると、村はずれの畑の中で、一人の美しい乙女が、しくしくと泣いていました。 パリカカは、乙女の側に行きました。 「何が悲しくてそんなに泣いているのだ。その訳を話してごらん!」 すると乙女は涙にぬれた顔を上げ、 「私はこの村の者で御座いますが、村には水が足りなくて、せっかく植えたトウモロコシが、御覧のように枯れてしまいそうなのです。それが悲しくて……」 と、また泣き出しました。それにしても、なんと美しい乙女だろう……。パリカカは、その美しさにすっかり心を惹かれてしまいました。 「そうか、分かった。泣かなくてもよい。私はお前を愛している。どうだね、私と結婚をしてくれるなら、お前の畑に水を与えてやろう」 「え、畑に水を……」 乙女は不思議そうに、パリカカを見つめてから、やがて心が決まったらしく、 「でも、私の畑だけでなく、村中みんなの畑に水を与えて下さるなら、お言葉に従っても宜しゅうございます」 と、はっきり言いました。 「村中の畑に……」 パリカカは首をかしげました。村中の畑と言えば、見渡す限りの広さです。そんな力が私に……と思いましたが、はるか彼方に大きな川が流れているのが目につきました。 「よし、あの川の水を利用すれば……」 パリカカは大きく頷くと、 「よし。では、村中の畑に水を流してあげよう。その代わり、私との約束は必ず守ってくれるだろうね!」 と、念を押しました。 「はい、その通りになりましたら、きっとお言葉通りに致します」 乙女の言葉に喜んだパリカカは、四人の家来に言いつけて、野や山に住んでいる鳥や獣を集めさせました。 「いいかね。ほれ、向こうに大きな川が見えるだろう。あの川から、いく本もの水道を作って村中の畑に水を流してくれ。頼むぞ!」 パリカカの言葉に、 「へえ、では、すぐに始めます」 と、動物達は、キツネを親方にして、すぐに仕事にかかりました。 あるものは草をむしり、あるものは石を取り除き、あるものは穴を掘り、また、あるものは水をせき止めるなど、見る見るうちに四方八方へ立派な水道が出来ていきました。 さて、これを見た村の人々は喜びました。いや、一番喜んだのは、パリカカと約束をした乙女です。 そして乙女は、パリカカと結婚することになりました。が、その時、また言いました。 「パリカカ様。もう一つお願いがありますが……」 「そうかい。言ってごらん。どんな願いでもかなえてあげよう」 「はい、あなたが作って下さった水道の中で、ココカロの水道が一番気に入りました。ですから私はあの水道の水上にあるヤナカカの岩の所に、いつまでも住んでいたいのです。許して下さるでしょうか」 「おう、いいとも」 パリカカは、この美しい乙女の願いを聞いて、ヤナカカの岩の所に住むことになりました。 もちろん、村の人々は、二人の結婚を喜んで、幾日も幾日も、お祝いのお祭りをしました。 そのあと乙女は、そこがたいそう気に入って、 「私はいつまでもここにいて、この水道を守りたいと思います。死んだ後までも……」 と言いました。 そこで、パリカカは村を救った美しいこの乙女を、死んだあと、石に変えて、永久にココカロの水道の水上にとどめておく事にしました。 おしまい 戻る |