歯抜き騒動
☆ 昔は、みんな丈夫な歯をしていたという事です。 何しろ今のように、甘いお菓子もあまり無いし、固い物ばかりたくさん食べていましたから、自然に丈夫になってしまったのです。 デミジョンビルという村の歯医者さんは、年寄りでしたし、みんなが丈夫な歯をしていたので、歯を抜くのに、そりゃ苦労をしたということです。 ええ、虫歯じゃなくったって、曲がって生えてきたり、余分に生えてきた歯は抜く必要があったのです。抜かないとほっぺに穴が開くなどという事になりますから。 その頃は、歯を抜くのは、釘と金づちを使いました。けれど、それでも抜けない事がありました。 この村に、バーニーという、それは背の高い男が居ました。 小さな男だったら、肩に乗らなければ話が出来ませんでした。 そのバーニーの一本の歯が、これまたバーニーの背のように伸びすぎてしまって、どうにも邪魔で仕方がありません。 バーニーは、歯医者を家に呼びました。 何しろ、バーニーの背は高すぎて、歯医者の家に入れませんでしたから。 年寄りの歯医者は、釘と金づちをもって、バーニーの家にやって来ました。 「どれ、どれ、どの歯を抜くのだね?」 歯医者は椅子の上に乗って、バーニーの口の中を覗きました。 「おや、まあ、こりゃ大きな歯だ」 歯医者は歯茎の所に釘を当て、金づちでとんとんやってみましたが、とても抜けるものではありません。 「やれ、やれ、こいつは大ごとだぞ」 歯医者は猫の腸で作った丈夫な紐を歯に結び付けました。 それからバーニーの足を、納屋の柱に括りつけました。 「これでよしと。さあ、みんな、手のあいている者は、バーニーの歯を抜くのを手伝っておくれ」 まずバーニーの奥さんが、歯医者の上着のすそをしっかりとつかみました。 その後ろに、家の者がずっと並んで、まるで運動会の綱引きのように引っ張ったのです。 だが、歯は動きもしないのです。 今度は家の者だけでなく、通りかかった人も頼みました。 「うんとこ、どっこいしょ!」 掛け声も勇ましく引っ張りましたが、やはり駄目です。 日曜日でしたので、村の人たちは、みんな家から出てきました。 それほど、バーニーの家の騒ぎが酷かったのです。 「なんだ、なんだ」 「バーニーの歯が抜けないんだってさ」 「そりゃ、気の毒だ。手伝ってやろう」 とうとう、綱を引っ張る人たちが、村のはずれの丘の向こうまで伸びてしまいました。 さあ、よいしょ、こらしょ! その、物凄い力ったら! 「やめてくれ!」 バーニーがたまりかねて叫んだのでしたが、間に合いませんでした。 「あっ!」 バーニーの物凄い悲鳴。 バーニーの身体が、空高く舞い上がったのです。 綱につかまっていた人たちは、どっと後ろに倒れました。 やっと歯が抜けた。 いえ、いえ、違いました。 歯は、それでも抜けませんでした。抜けたのは、バーニーの首でした。 歯医者がよくよく調べてみると、バーニーの歯の根は、バーニーの足の先まで伸びていて、先の所で折れ曲がっていたのだそうです。 おしまい 戻る |