ゴサムの利口な馬鹿
☆ 昔、ジョン王が旅行をして、ゴサムという村の手前に差し掛かった時です。 王様の一行がゴサムを通ると聞いた村の人達は、広場に集まって、わいわいと騒ぎ出しました。 「王様は回り道が嫌いで、畑でも牧場でも、突っ切ってしまうそうじゃないか」 「そんな事をされたら、馬の蹄に踏み荒らされて、大切な畑も牧場も、めちゃめちゃになってしまうぞ!」 「その上、王様の通ったところは、新しい道として残しておかなければならないそうだ。そうなったら、たくさんの畑や牧場を潰さなければならなくなるんだ。王様は、全く自分勝手だよ」 村の人達が騒いでいると、一人のお百姓さんが、 「村の入り口に柵を作って、王様の一行が通れないようにしようじゃないか」 と、言い出しました。 「そうだ! 柵を作り、石を並べておこう。そうすれば、王様も他の場所を通るぞ」 人々は、村の入り口に、頑丈な柵を作りました。また、大きな石も、ごろごろ転がしておきました。 ジョン王の一行がゴサムの村に入ろうとすると、石や柵があって通れません。 ジョン王は腹を立てましたが、仕方がないので、別の場所を通って旅をつづけました。ジョン王は宮殿に戻ると、すぐに役人を呼んで言いつけました。 「ゴサムの村へ行って、なぜあのような事をしたか調べてこい。返事によっては、ゴサムの村の者は皆殺しじゃ」 役人は、ゴサムの村へ馬を飛ばしました。村の人達は、役人の姿を遠くから見つけて震え上がりました。 「役人が調べに来たぞ」 「王様は我々を罰するつもりだ」 「我らは皆殺しにされるぞ!」 すると、一人のお百姓さんが、 「いい考えがある!」 と叫びました。 「なんだ、どんな考えだ!」 みんなは、そのお百姓さんの周りに集まりました。話を聞いているうち、みんなの顔はぱっと明るくなって、 「それはいい!」 「きっと上手くいくぞ」 と躍り上がりました。 馬を飛ばしてゴサムにやってきた役人は、村に入るとすぐに妙な光景を見つけました。 一人のお百姓さんが、籠からウナギをつかみ出しては、水たまりに放り込んでいるのです。 「こりゃ、そこで何をしておる!」 役人は、馬を止めて聞きました。 「ウナギを溺れさせようとしてるんですよ」 と、お百姓さんは答えました。 「なに、ウナギを溺れさせるって?」 「ウナギはぬるぬるしてすぐ逃げるんでね。水に溺れさせて、ぐったりとしたところを料理しようと思うんですよ」 役人は、 (ゴサムの村には、こんな馬鹿がいるのか) と、呆れて、馬を進めました。 少し先へ行くと、また妙な光景が目に入りました。 一人のお百姓さんが、一軒の家の屋根に汗を流して荷車を引き上げようとしているのです。 「こりゃ、そこで何をしておる」 と、役人は聞きました。 「荷車を引っ張ってる所ですよ。わしは真っすぐに進むのが好きでね……。邪魔っけな家があるから、そいつを乗り越えていくところなんです」 役人は、 (ゴサムの村には、大馬鹿者が多いな……) と思いながら、馬を進めました。 山道に差し掛かると、上の方から、チーズの塊が転がってきました。その後から、一人のお百姓さんがチーズを追いかけて来ました。 「こりゃ、何をしておる」 と、役人はお百姓さんに聞きました。 「ノッキンガムへ行きたいが方角が分からないんです。ですから山の上からチーズを転がして、チーズの行った方へ行けば、町へ行けると思うんですよ。おうい、チーズ、待ってくれやあい!」 お百姓さんは、チーズを追いかけて行ってしまいました。 役人は、 (ゴサムの村には、全く馬鹿者が多いな) と、呆れてしまいました。 山を下りると、一人の男が、ふもとの森の周りに塀を立てていました。 「そこで何をしているのだ」 と、役人が聞きました。男は、 「かっこう鳥が家のそばへ来て鳴くので、うるさくてしょうがないんです。だから、かっこう鳥が森から出られないように、塀を作っているところでさあ」 と言いました。 (塀を立てても、かっこう鳥は空から飛び出してしまうではないか。ゴサムの村には、よくよく馬鹿者がそろっているわい……) 役人は呆れて、宮殿へ引き返しました。そしてジョン王に、次のように報告しました。 「恐れながら、王様、ゴサムの村の者は、そろいもそろって馬鹿者で御座います。ウナギを水へ投げ込んで溺れさせようとしたり、屋根の上を荷車を引いて通ろうとしたり、チーズに道案内をさせたり、低い塀を立てて、かっこう鳥を森に閉じ込めようとしたりしておりました。いやはや、あきれ果てました。これでは、王様の通行の邪魔をした理由を聞くまでも無いと思って、引き返してまいりました。何しろ、村中の者が馬鹿で御座いますので……」 「なに? 村中の者が、馬鹿か? 馬鹿では仕方がない……」 ジョン王は機嫌を直して、ゴサムの村の者を罰するのはやめました。 利口なゴサムの村の人達は、こうして災難を逃れました。 “ゴサムの利口な馬鹿”という言葉は、そこから始まったそうです。 おしまい 戻る |