セルペンのオトナの女になるんだもん! 大作戦

 トゥエクラニフ化してしまった現実世界を元に戻そうという石川達の冒険もようやく終盤に差し掛かった、あるポカポカと暖かい日――
「ふぅ〜……」
 いつも元気なセルペンちゃんがタメ息をついている。
 なにごとか思い詰めた表情……。
 驚きだ!
 あのノーテンキなセルペンちゃんがどうやら悩んでいるらしいのだ!
「セルペンだって悩みくらいありますぅ!」
 こりゃ、失礼。
 しかし、セルペンちゃんの悩みって、一体なんだろうな。
 あっ、分かった!
 おやつにケーキをもらったんだけど、上に乗ってるイチゴを最初に食べようか、最後まで残そうか悩んでる。
「違いますぅ」
 三日前から便秘で悩んでる!
「違いますぅ!」
 石川とどうやったらもっと進んだ関係になれるか悩んでる!
「それは……ちょっとあるかな?」
 あのね……。
「ともかく、セルペンの悩みはずっとずっと大人の悩みなんですぅ!」
 大人の悩み?
 大人の悩みねぇ……。
「はぁ〜……」
 セルペンちゃんの表情はいよいよ深刻なものになっていく。
 こりゃ、相当根深い悩みだ。
「はぁぁぁぁ〜……」
 分かった! 分かった!
 この原作者のお兄さんが相談に乗ろうじゃないか!
「ホントですかぁ、原作者のおじさん?」
 お兄さんだ、お兄さん!
「あのね、おじさん、セルペンの悩みはね……」
 お兄さんだっちゅうとろうが!
「オッパイのことなの」
 はにゃぁ? オッパイ?
「なんでセルペンのオッパイ、ちっちゃいのかなぁって……」
 オ、オ、オ、オッパイって……えっと、その……なんだぁ……。
「セルペン、オッパイおっきくしたいの」
 セルペンはキラキラとした目で言った。
 いかん、純粋だ! あまりにも純粋すぎる!
 いったい、このいたいけな少女に何があったというのだ。
 ま、しかし、どこが大人の悩みだろって疑問もあるけど。
 そんな原作者の意向を無視して、セルペンは遠い目をして事情を語り始めた。



 昨日、セルペンがお散歩してたら、テッチャンさん達が住宅地から出たところで、なにかコソコソしてたんです。
(<※原作者の心の声>ほほう?)

「なぁなぁ、これ、すっごいなぁ……」
「ほんとほんと……」
「だ、駄目だって、こんなの見ちゃ……」

 どうやらテッチャンさん達、落ちてた本を拾って、それを見てたみたいなんです。
(それってまさか……)
 セルペンが後ろから覗いてみたら、本には裸の女の人が載ってたんです。
(やっぱり……)
 そんでもって、その本の女の人、お胸が大きかったんです。
 とってもおっきいの!

「オッパイ、おっきいねぇ」
「オトナの女って感じだよねぇ」
「だからやめなって、二人とも」
「なんだよ、上ちゃんだって、興味あるだろ?」
「まぁ……無いわけじゃないけど……」

 セルペン、それを見てたらなんか悲しくなっちゃって……。
 テッチャンさんが他の女の人の裸を見て喜んでたのも悲しいし、なによりもお胸のおっきいのがいいっていうのも悲しかったの。
 だって、セルペンのオッパイ、そんなにおっきくないんだもん。
 だから、セルペン、テッチャンさんに言ったんです。
「テッチャンさん、オッパイおっきい人が好きなんですか?」
 って。
 そしたら……。
(そしたら?)

「そりゃね、大きいのは好きだよ……って? セ、セルペンちゃん!?」
「のわっ!」
「わっ、セ、セルペンちゃん! こ、これは違うんだよ!」

 テッチャンさん達、慌ててどっかへ走ってっちゃったの。
 結論――
『テッチャンさんはオッパイのおっきい人が好き!』
 このままじゃセルペン、捨てられちゃう!
(なんでそういう結論になるの?)
 セルペン、だから決意したんです!
 絶対にオッパイ、おっきくしようって!



「そういう訳で、セルペン、絶対にオッパイ大きくするんです!」
 へいへい……。
 なんか、なに言っても無駄みたいだから……ま、適当にがんばんなさい。
「はぁ〜い! ありがとう、原作者のおじさん」
 お兄さんだっちゅうとろうが!
 原作者のその切実な叫びを無視して、セルペンはさっさと歩いて行ってしまっていた。背中に燃え上がった決意の炎をしょって。

 ゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!

「セルペン、やるもん! 必ずやテッチャンさん好みの女の子になるんだもん!」
 かくして、『セルペンのオトナの女になるんだもん! 大作戦』は始まったのだった。



 いの一番にセルペンが訪ねて行ったのは岡野のところだ。

 ところで、この「いの一番」という言葉だけど、この“い”は「いろは」の“い”だそうだ。「いろは」の中で一番である“い”を象徴的に使って、「一番の一番」すなわち「最初の最初」という意味にしているわけだ。
 フフフ……こんな知識まで身についてしまうなんて、なんて『ファイクエ』ってためになる物語なんだろ。
 閑話休題――

「岡野さん!」
「セルペンちゃん?」
 岡野はセルペンを見るなり、思わず及び腰になった。
 昨日の件がどうしても頭に残っているのだ。
「あ、あの、セルペンちゃん、昨日のことはだね、違うんだよ! あれは男の生理現象っていうか……」
「ふえ? なんのこと、岡野さん?」
「セルペンちゃん……? だから、昨日テッちゃん達と読んでた本の事で……」
「テッチャンさん? そうなんですぅ。セルペン、あのことでどうしても岡野さんに聞いておこうと思って」
「うっ……」
 岡野は覚悟を決めた。
 彼は思ったのだ。
 やはり昨日の件を非難され、最終的にオータムたちや三魔爪達にまで言いふらされてしまうと。
 が、セルペンの言葉は岡野の予測にはまるで無いものだった。
「岡野さん、どうやったらあの本の女の人みたいにオッパイ大きくなるんですかぁ?」
「へっ?」
 岡野の目が点になった。
「だからオッパイですぅ」
「あ、あの……?」
「セルペンね、セルペン、どうしてもオッパイをおっきくしたいんですぅ。それでね、テッチャンさんに喜んでもらうの。ね、だから教えて下さいまし」
「えっと、あの……」
 ある意味、岡野にとって魔衝騎士達との戦いより、よっぽど難問だったかもしれない。
「だから、その……えっと、あの……だから……」
 しどろもどろになってしまう岡野だったが、セルペンは容赦しない。
「なんで? なんで? 引っ張ればいいの? 揉めばいいの? なんかのお薬を飲むの?」
 セルペンの瞳は無邪気で純粋だ。
 この瞳に応えないことは、それだけで悪を意味する。
「そ、それは……」
 悩みに悩みまくった岡野の脳裏に浮かんだのは二文字の言葉であった。
「修行……」
「えっ!?」
「そうだよ、修行すればいいんだよ!」
「修行かぁ……」
 その二文字をかみしめるように、考え込んだセルペンの視界から岡野の姿はいつの間にか消えていた。
 応えたことにより、ようやくセルペンの呪縛から解放され、慌てて「用事があるから」とか言って立ち去ったのである。
 要するに逃げたのだ。
「その修行ってどうするんですかぁ?」
 セルペンが新たな疑問にぶつかった時、答える人間はもういなかった。



「オッパイをおっきくする修行って、どうすればいいんですか?」
 セルペンはガダメのもとにやって来ていた。
 会っていきなりの言葉が冒頭の台詞だ。
 さすがのガダメも目を白黒。
「胸を大きくする?」
「はい」
「なんだ、筋肉でもつけたいのか? ならば、ウェイト・トレーニングをすれば良い」
「ウェイター・クリーニング!?」
「給仕を洗ってどうする!? 筋力アップのトレーニングだ。なんなら、私が全部機材を作ってやろう」
 ガダメはセルペンにウェイト・トレーニングについて細かに説明を始めた。
「うんしょ……うんしょ……」
 地面に置かれた木と石でできたダンベルをさっきからセルペンが一所懸命上げようとしている。
 が、まるでビクともしない。
「ふぅ〜……」
 ガダメが呆れたようにタメ息をついた。
「セルペン、それはまだ一キロだぞ。それが上がらねばトレーニングにも何にもならぬ」
「でも、上がらないんですぅ」
「まったく、お嬢様育ちというのにも困ったものだ。ほら、ならば、今度はこれだ」
 次にガダメが取り出したのは、やはり木と石で作ったアレイであった。鉄アレイならぬ、石アレイとでも言おうか。
「なら、今度はこれだ」
「うんしょっと! ……キャハ、やったぁ。今度は持ち上がりましたぁ!」
「あのなぁ……アレイを両手で持って喜ぶんじゃない」
「ふえ?」
 セルペンの体力からすると石アレイを両手で持ち上げるのが関の山と言う所か。
「ならば、別の方法を使おう。吊り輪だ」
「吊り輪?」
「よいか」
 そう言うとガダメは近くの木に二本ロープを垂らし、器用に吊り輪を作った。
「ここにつかまって懸垂をやるのだ」
「え〜と……」
 ガダメに支えてもらってロープにつかまったまでは良かったが、そのまま一分、二分、三分……五分。
「もうだめですぅ〜」
 そのままボテッと地面に落ちる。
「懸垂一回もできぬのか……」
「はい……」
 さすがに自分でも情けなくなったのか、セルペンも落ち込んだような声で言った。
 ガダメはしばらくポリポリと頭をかいていたが、やがて、
「仕方がない」
 一本のロープをセルペンに渡した。
「これで縄跳びでもするんだな」
「縄跳び……」
 慎重にセルペンが縄を回し始める。
 が、しかし――

 ドテッ、グシャッ、ドカッ……

「きゃん!」
 しっかり縄が身体に絡まって、セルペンはその場にひっくり返ったのだった。
 それを見て、ガダメが一言――「だめだ、こりゃ」



 岡野に逃げられ、ガダメに見放され、それでもめげないのがセルペンだ。
 セルペンはオータムのもとにやって来ていた。
「オータムさん、セルペンにオッパイおっきくする方法教えて下さいな!」
「はぁ?」
 最初ハテナ顔のオータムだったが、セルペンから事情を聞いて、うんうんと頷いた。
「なるほどねぇ、石川好みの女になりたいってわけか。健気じゃんか」
「きゃはv そうですよね」
「わかったよ。あたしが協力してやろうじゃないか。そこに横になって」
「はぁ〜い」
 オータムに言われた通り、セルペンは地面に横になった。
 オータムがセルペンにまたがるようにしゃがみ込む。
「いいかい、胸なんて、要するに脂肪の塊なのさ。小さいんだったら、他から脂肪を集めてくりゃいい」
「ふえ?」
「寄せて上げる……これが基本さ」
「ふええ……」
 オータムはセルペンの身体をゆっくりと揉み始めた。

 モミ、モミ、モミ、モミ……

「きゃははははははははははははははははははははははははははははっ!」
「こら、セルペン、笑ってるんじゃない!」
「だって、くすぐったいんですもの」
「ともかく、ちょっと我慢してな」
「はぁ〜い」
 再びオータムはセルペンの身体を揉み出す。

 モミ、モミ、モミ、モミ……

「あ、今度はくすぐったくないですぅ」
「そうかい、じゃあ続けるよ」
 お腹の方から胸にかけて寄せ集めるように揉んでいく。
「痛くなったら言いな、セルペン」
「大丈夫ですぅ」
 セルペンは痛くなることは無かったが、全く別の感覚が生まれて来ていた。
 すなわち――
「あん……v」
 セルペンの口から出てきたのは明らかに喘ぎ声。
「どうしたんだい、セルペン?」
「セルペン、気持ちよくなってきちゃいました。あん、いっちゃう」
「あのね……。あたしゃ、あんたを襲う趣味は無いよ。ともかく、そっちも我慢しな」
「でも……あん、あん、あ〜んv」
 運の悪いことに、ちょうどこの時、たまたまアーセンが背後を通りかかったのだ。
「あ、あれは!」
 アーセンはオータムとセルペンの方を見て驚愕した。
 それはそうだろう。
 オータムがセルペンにのしかかっていて、セルペンの身体を触っている。そして、セルペンは上気した顔で喘ぎ声を出している。
 普通に見たら、オータムがセルペンを襲っているとしか見えない。
 事実、アーセンもそう見たのだった。
「あなた達! 何を、しているんですか!」
 この後、二人は一時間ほどアーセンからたっぷりとお説教されてしまうのだった。



「へっ? 胸を成長させる薬ですか?」
「そう! セルペン、オッパイおっきくしたいの! サクラさん、なんか知らない!?」
 オータムのあと、セルペンはすぐにサクラに会いに来ていた。
 物知りのサクラなら、オッパイを大きくさせる薬を知っていると考えたのだ。
 セルペンにしてみれば、トレーニングやマッサージなどはもうこりごりになっていた。
 ここは簡単に薬のようなものに頼ろうとしたのだ。
 う〜ん、よくない傾向だな。
 物事はすべからく努力のたまもの!
 努力なくして、薬に頼っちゃ人間おしまいだよ!
「シャラップですぅ! 運だけでここまで来た作者のくせに!」
 ああっ、言うてはならんことを!
 ええい、セルペンなんかこうしてくれる!――“セルペンちゃんはいきなりクルクルと踊り始めた”

 クルクルクルクルクル……

「あ、あ〜ん、身体が勝手に! 目が回りますぅ」
 わっはっはっはっ、愉快、愉快!
「何をやってるんでしょ、全く……」
 あっ、いかん。
 話を進めねば。
「それでセルペンさん」
「あらら……セルペン、目が回ってますぅ。クルクルクルクル……」
「…………」
 こらっ、セルペン!
 早く話を進めろ! 話を!
「そ、そうでした……クルクルクル。と、ともかくセルペンは薬をおっきくするオッパイを探しているんですぅ……」
 違うだろっ!
「コホン! え〜、胸を大きくする薬ですが、確かにそんな物があるって聞いた事はあります」
「ホントですかぁ!?」
「でも、今は冒険の途中……そのほとんどが入手できないでしょう」
「ガックリ……」
「ただ、一つ可能性があるとすればロイヤルゼリーです!」
「ロイヤルゼリー!?」
 セルペンは思わず身を乗り出した。
 セルペンの頭の中で“ロイヤルゼリー”という言葉が幸せの鐘のように響き渡る。
(ロイヤルゼリー……それがセルペンを幸せの国に連れて行ってくれるのねv)
 目をキラキラと輝かせ、セルペンは夢心地で言った。
「で、ロイヤルゼリーってなんなんです?」
「簡単に言ってしまえばハチミツです」
「ハチミツ?」
「女王蜂を育てるための特殊なハチミツなんです」
「ふえ?」
 もちろん、そんなことを言われてもセルペンにピンと来るわけがない。
「セルペンさん、もともと女王蜂も普通の蜂も全く同じ卵から生まれます。ただ一つ違うのは、途中で与えられる食物……つまり蜜が違うんです。普通の蜂は普通の大きさに。そして女王蜂は普通の蜂よりもずっとずっと大きく育つんです」
「じゃあ、そのロイヤルゼリーを食べればセルペンのオッパイも……!」
「ええ。試してみる価値はありますね。でも、ロイヤルゼリーをとるのはなかなか危険なので、セルペンさんは決して自分でそんなことを……ん!?」
 すでにサクラの目の前からセルペンの姿はない。
 サクラの話を最後まで聞かずにスタコラサッと近くの森に飛び込んで行ってしまったのだ。
「いけない。大変!」
「どうしたの?」
 焦るサクラの後ろに立っていたのは石川だった。



 セルペンは森の中をひたすら蜂の巣を探して歩いていた。
「蜂さん、蜂さん、出て来てくださいな」
 ウキウキした表情でそう言う。
 気楽な気持ちで、自分がもうすぐロイヤルゼリーを手に入れることを信じているのだ。
「うふふ。もうすぐで、セルペン、テッチャンさん好みの女になりますねv」
 そのセルペンの目に飛び込んできたものがあった。

 ブ〜ン……ブ〜ン……ブ〜ン……

「あったですぅ!」
 セルペンの目の前の木に巨大な蜂の巣が作られていた。
 その大きさはざっとセルペンの身長ほどある。
 しかも、周りを無数の蜂が飛んで、羽音をやかましく響かせていた。
 ただの蜂ではない。
 トゥエクラニフでも危険と言われている巨大な蜜蜂――ドラゴンビーだ。
 一匹一匹がスズメくらいの大きさはある。

 ブ〜ン……ブ〜ン……ブ〜ン……

 普通の人間なら、その羽音を聞いただけで逃げるというのに、セルペンは平気で蜂の巣に近づいて行った。
 愛のなせるわざか!?
 いや、無知のなせるわざだな……。
「蜂さん、セルペンにロイヤルゼリーを下さいね。えいっ!」
 なんとセルペンは近くにあった大きな石をつかむと、いきなり蜂の巣めがけて投げつけたのだ。

 ドカッ!

 石はまともに蜂の巣にぶつかって、巣の一角を破壊した。
 さて、こうなると収まらないのが蜂たちだ。
 怒る、怒る!

 ブン! ブン! ブン! ブン! ブン!

 たくさんの蜂が一斉にセルペンに襲い掛かってきた。
 さすがのセルペンも自分が何をしでかしたか気づいたようだ。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
 セルペンは慌ててその場を逃げ出す。
「いやぁぁぁん!」
 が、蜂の方がスピードは速い。

 ブブン! ブ〜ン! ブンブン! ブブ〜ン!

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! テッチャンさぁん!」
 ついにセルペンが蜂に囲まれてしまったその時、
「セルペンちゃん!」
「セルペンちゃん!」
 茂みから飛び出してきたのは石川と上田だ。

 カ・ダー・マ・デ・モー・セ!

 石川が威嚇のために空に向かってフレアを放つ。
 蜂が火に驚いて身を引いたところを、すかさず上田が飛び込んだ。
「テッちゃん、行くよ!」
「うん!」
 そのまま上田はセルペンと石川をつかんでテレポーの呪文を唱える。
 その場から三人の身体が掻き消えた。
 怒りの行き場をなくした蜂たちはしばらく辺りをブンブン飛び回っていた。



「え〜ん、え〜ん……蜂さんに刺されて痛いですぅ!」
 地面に座り込んでセルペンは泣きじゃくっていた。
 まわりには全員が集まっている。
 石川がタメ息混じりに言った。
「もう、セルペンちゃん、なんであんな無茶したのさ」
「グシュ……だって、セルペン、テッチャンさん好みの女になりたかったんですぅ」
「セルペンちゃん、それはね……」
「でも、テッチャンさん、見て下さい!」
 泣いていたセルペンがいきなり目を輝かせて、胸をパッとはだけて見せた。
「きゃっ!」
「おおっ!」
 まわりの人間から喚声が起こる。
 なんとセルペンの胸は大きく膨らんでいたのだ。
 蜂に刺されて。
「あ〜ん、だけど痛いですぅ」
「もう、セルペンちゃん……」
 石川はセルペンをそっと抱いた。
「テ、テッチャンさん!?」
 突然のことにセルペンはドキドキだ。
 石川にしてみれば自分のためにそこまで頑張ったセルペンがいじらしくってたまらなかったのだ。
「セルペンちゃん、おれはね、どんなセルペンちゃんよりも普通のセルペンちゃんが大好きだよ」
「テッチャンさぁんv」
「だから、もう無茶はしないでね」
「はぁ〜い」
 かくして、『セルペンのオトナの女になるんだもん! 大作戦』は大成功のうちに終わった。
 ……のかなぁ?

おしまい


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