突入! ダークマジッカー!
トゥエクラニフ化した現実世界を元に戻すために、石川達が集めていたクリスタルも、ついに六つが揃った。
「これで、この世界を元に戻せるんだよな!?」
興奮気味に、岡野が言う。
「うむ。これらを変異の中心である、お前たちの学校で使えば、お前たちの世界を元に戻せるはずだ」
ガダメも力強く頷いた。
「じゃあ、さっそく……!」
「いや、今日はゆっくり休め」
勢い込む石川達を、ガダメが制する。
「お前たちは、戦いの場から戻って来たばかりだ。万全の状態で戦いに臨むのも、また必要な事だぞ」
「む〜……わかった」
ガダメの言葉に、三人も素直にうなずく。
ガダメの言っていることは正論であるし、戦いに関しては、ガダメ達は大先輩であるからだ。
「ま、焦ってもしゃーないしな。タイムリミットにはまだまだ時間もあるし……」
クレイがおどけたように笑い、三人は、今度で笑顔で頷くのだった。
翌日。
九人は、石九小の正門前に立っていた。
正門には、六角形を描くように六つのくぼみがある。
「少年たち、クリスタルを」
ガダメに促され、石川達が六つのクリスタルを取り出す。
その途端、
ビカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!
クリスタルがまばゆい光を放ち、それぞれのくぼみに向かって光が伸びたのだ。
六色の光は、それぞれ正門のくぼみを直撃する。
すると、
ギィィィィィィィィィィィィィ……
重々しい、金属が軋むような音をあげながら、正門がゆっくりと開いた。
その時だ。
「フフフフフフフフ……」
嘲笑のような声が響き渡り、空中に巨大なホログラフが浮かび上がる。
マージュII世であった。
「愚かなる勇者たち、それに三魔爪どもよ」
「誰だ、お前は!?」
石川はホログラフに向かって叫んでいた。
「私の名はマージュ・ギッカーナII世! 貴様らの新たな支配者だ!」
「なにっ!?」
「これを見よ!」
マージュII世の横に新たな映像が浮かび上がる。
「こ、これは!」
「トゥエクラニフ!」
そこに映し出された光景は、確かにかつて石川達が冒険した異世界、トゥエクラニフであった。
ボガラニャタウンやブッコフタウンが見える。
だが、さらにその上空には、巨大な真っ黒い球体が出現していた。
直径だけで一〇〇〇シャグル(約三・五キロメートル)はある。
「この黒い球体は魔法時限爆弾なのだ! 爆発すれば、ブクソフカ大陸全てが粉々に吹き飛ぶ!」
「なんだって!」
マージュII世は懐から携帯スイッチを取り出した。
「これが爆弾のスイッチだ。これを押すと二四時間でドカ〜ンだ!」
「そんな!」
「やめて下さい!」
三魔爪やサクラ達の狼狽ぶりを見て、マージュII世は満足そうに笑うと、
「さて……」
と軽くスイッチを入れてしまった。
「わわわわわっ!」
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「えらいこっちゃ!」
トゥエクラニフ上空の黒い球体が振動音を発し、中心に赤い帯が出現した。
「なんて事をするんだ!」
「フハハハハ……爆弾を止めたければ、私のもとに来たまえ! さすれば止める方法を教えてやらないでもない!」
「行ってやろうじゃないか! この世界も、トゥエクラニフも、おれ達が救ってみせる!」
石川が高々と拳を振り上げ、上田たちもうなずいた。
決意も新たに、一同はダンジョンと化した石九小に飛び込んでいった。
正門をくぐり、中庭へと出る。
その途端、一同の前に呪文が飛んできたのだ。
「!」
ドガァァァァァァァァァァァァン!
石川達と三魔爪達は、セルペン達をかばってとっさにその場から飛びのく。
「誰だ!?」
爆煙が晴れると、そこには五つの人影が立っていた。
現れた相手に、石川達の表情が驚愕のそれへと変わる。
「お前ら!?」
「まさか……!」
現れたのは、彼らが非常に見覚えのある人物だった。
ゴールディ、シルバーン、スピアー、ニッキー……。
いや、違う。
よく見ると、四体はそれぞれ、石川達が知っている魔衝騎士達とは細部が異なっていた。
ゴールディはアイアンクローが左右逆についているし、シルバーンは頭部に大きな板状の兜飾りがついている。
スピアーはカブトのデザインが違うし、ニッキーは肩の羽が無い代わりに、額に大きな一本角が生えていた。
「魔衝騎士、ゴールダー!」
「同じくシルバーグ!」
「ランサー!」
「シナモーン!」
各魔衝騎士達が名乗りを上げる。
そして――
ひときわ大柄な、初めて見る魔衝騎士が地面を踏み砕いて、一歩前に出た。
全身を強固な甲冑で包んでいる。
「吾輩は魔衝騎士を率いる、魔衝騎将ギョクカイゼル! お前たちが手に入れた六つのクリスタル、この場で頂くぞ!」
「なにっ!?」
「さあ、かかれ! 我が無敵の軍団よ!」
「おおっ!」
ギョクカイゼルの号令に、魔衝騎士たちは、一気に石川達に飛びかかった。
「むむっ!」
石川達が武器を構える。
ギョクカイゼルは得意そうな笑みを浮かべて呟く。
「いかに奴らとは言え、これだけの数を相手にしてはひとたまりもあるまい……」
「あっと言う間に片が付くな」
「そうそう、あっと言う間に……んがっ!」
再び前方を見たギョクカイゼルが、唖然とした表情になった。
気が付いた時には、既に事は終わっていた。
パンッパンッ……
上田が手をはたいている。
石川も自分の剣を鞘に納めているところだった。
岡野に至っては耳をほじっている。
三人の後ろに、ゴールダー達がズタボロになって倒れていた。
「一度戦った連中の同型機なんかに負けるかよ」
息一つ乱さず、石川が呟く。
わずか十数秒で、石川達は魔衝騎士たちを地面に沈めていた。
「さてと……」
ジロリと岡野がギョクカイゼルの方を向いた。
「いいっ!」
ギョクカイゼルの方は、思わず及び腰になる。
「なあ、上ちゃん、テッちゃん。こいつ、自分の軍団は無敵だとか言ってたよな」
「うん」
「言ってた言ってた」
ギョクカイゼルの顔からさーっと血の気が引き、冷や汗が流れ落ちる。
「えーっと、それは、その、だから……」
口ごもるギョクカイゼルに、岡野がつかつかと歩み寄っていった。
「自分の言った事には、責任持て!」
次の瞬間、岡野が突き上げた拳がギョクカイゼルの顎に見事にヒットした。
「激烈アッパー!」
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
ドガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!
キラッ!
岡野に殴り飛ばされ、哀れギョクカイゼルは真昼のお星さまになった。
登場が派手だった割には呆気ない。
☆
魔衝騎士達をあっさり退けた石川達は、校舎の中へと入っていく。
本来であれば、そこはすぐ職員室と校長室なのだが、トゥエクラニフ化したことで、部屋はしっかりとダンジョンへと化していた。
廊下なども、本来の倍以上はありそうな広さへと変質している。
天井も高く、大型車両ですら走らせることが出来そうだ。
「やっぱり、こんなすぐにたどり着ける場所にはいないか……」
校長室のドアを閉めながら、石川がため息をつく。
「となると……」
上田がその先にある階段を見つめながら言った。
「一番遠い場所……屋上か!」
「よし!」
一同は、意を決したように頷いた。
と、その時だ。
「あ、ちょい待ち」
クレイが一同に声をかける。
「なに、どうしたの?」
「こっから先は敵の本拠地や。嬢ちゃん達を守りながらは戦えんやろ。そこでや……」
クレイは不敵な笑みを浮かべると、両手を広げて叫ぶ。
「クレイ、大変身!」
叫ぶが早いか、クレイの身体が変形を始めたのだ。
胴体は箱型になり、脚部は大小の四つの車輪へと変わっていく。
背中には二本の大砲らしきものまで生えた。
あっという間に、そこには粘土でできた戦車(チャリオット)が出現していたのだ。
車体の前部には、クレイの目が残っている。
「さ、嬢ちゃん達、ワイに乗り!」
サクラ達は感心しながら、クレイが変形した戦車へと乗り込んだ。
粘土で出来ているにもかかわらず、その車体は少々の衝撃ではびくともしないほど頑強になっていた。
一同は改めて、階段へ向かって走っていく。
マージュII世は地下の魔法陣のある巨大ホールの一角のモニターを見ていた。
そこには廊下を走る石川達の姿が映し出されている。
五人と一台の戦車を見て、マージュII世は笑みを浮かべる。
「フフフ……廊下を走ってはいかんぞ、小僧ども。まぁ良い、早く来るがいい! 兄上を葬ったお前たちの力、せいぜい楽しませてもらおうか」
モニターを見ていたマージュII世が、さりげなくパネルのボタンを押す。
その頃、順調に進んでいた石川達だが――
「あれっ?」
石川は、突然自分たちが走る速さが鈍くなったことに気が付いた。
それどころか、後ずさりをしているわけでもないのに、周囲の光景が逆進している。
「くそう、どうなってるんだ!?」
さらに走るスピードを上げるが、駄目であった。
一同はジリジリと後退していく。
床がベルトコンベアのように逆に移動していたのだ。
「くそ、くそっ!」
「きゃあっ、後ろ!」
クレイの車体後部から後ろを覗いたオータムが叫んだ。
彼女の目には、背後で高速回転している巨大な丸鋸が映っていた。
「どわっ! あんなのに巻き込まれたらお陀仏だ!」
急いで上田とアーセンがファストの呪文を唱えてパーティのスピードを上げる。
「くぬやろっ!」
一同は強化されたスピードで、全速力で走るが、やはり前には進まない。
彼らは徐々に丸鋸に近づいていった。
その時である。
「みなはん、ワイにつかまり!」
クレイが叫び声をあげる。
石川達もガダメ達も、訳も分からず、クレイにしがみついた。
「嬢ちゃんら、目の前にあるボタンを押すんや!」
「ええっと、これですか?」
サクラが運転席(?)の真ん中にあるボタンを押した。
と、クレイの背中についている大砲が火を噴いた。
大砲から発射されたのは拳だ。そのうしろには粘土のワイヤーがついていて、クレイ本体とつながっていた。
拳はそのまま通路の奥まで飛んで行って、壁の出っ張りをガッチリとつかんだ。
ワイヤーのウインチで、ようやくクレイ・タンクは前に進み始めた。
「ふぃ〜……」
ピンチを何とか切り抜けて、石川達はホッと一息つく。
「ホッホッホッ、あんな程度で苦労しているようじゃ、先が思いやられるな」
モニターを見て、マージュII世は余裕の笑みを浮かべていた。
「では、次はどうかな? ヤツめに行かせるとしよう」
マージュII世の背後には、トゲトゲした甲冑に身を包んだ、一人の男が立っていた。
☆
一同は、迷路と化した石九小の通路を急いでいた。
と、その時である。
「んっ?」
突然、石川、上田、岡野の眼前に、黒い点が現れたのだ。
点は見る間に巨大化すると、三人を飲み込む。
「うわっ!」
「イシカワ! ウエダ! オカノ!」
突然の出来事に、三魔爪達もサクラ達も、呆然となるしかなかった。
「んっ……?」
気が付くと、三人は不気味な森の中に立っていた。
うっそうとした草が生い茂り、頭上も曲がりくねった木によって隠され、空が見えない。
「おどろおどろしい所だなぁ……」
草をかき分けながら石川が呟く。
「な、なんか出そう……」
岡野も青い顔をして言った。
「ふ、二人とも、変な事言わないでよ……。んぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
突然、上田が悲鳴を上げる。
「な、何だよ? どうしたんだよ上ちゃん?」
なんと、振り向いた石川の背後に、いつの間にか骸骨が出現していたのである。
「テッちゃん、後ろ! 後ろ!」
骸骨に気が付いた岡野も慌てて石川の後ろの方を指さす。
「ん?」
石川は背後を向くが、骸骨は一瞬のうちにさらに石川の背後に回っていた。
「なんだよ、何もいないじゃんか」
「テッちゃん後ろ!」
「え?」
「逆!」
「左! 上! 反対!」
「石川さん! こっち! あっち!」
仲間達の声に上下左右を向く石川だったが、骸骨は巧みに姿を消して、石川の視界の外へと移動していく。
その内に、とうとう石川はめまいを起こして倒れてしまった。
「あーもう! いい加減にしろよみんな! 嘘つきは泥棒の始まりなんだぞ! ねえ?」
と、何気なく横にいた人物に同意を求める。
が、カタカタと音を出しながら笑顔で頷いているのは、まさにその骸骨であった。
ようやくその姿を認めて、石川の顔からサーッと血の気が引く。
これまでさんざん骸骨型のモンスターを倒してるじゃないか、と思われるかもしれないが、そこはそれ、あらかじめ心の準備が出来ているのと出来ていないのでは、驚き方にも天地の差が生じでしまうのである。
「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
三人(と一本)は割れんばかりの悲鳴を上げると、その場から全速力で逃げ出すのだった。
☆
「どうやらここまで来そうだな。ならばせいぜい歓迎してやるとするか。ホホホホホホホホ!」
不気味な森の出口で、高い崖の上から様子を窺っていた男が笑い声をあげる。
それは、先ほどマージュII世の背後に控えていた、あの男だ。
全身をトゲトゲした鎧に身を包み、手には真っ黒な剣と斧を握っている。
ヘルメットに覆われたその頭部の奥では、メタルゴーレム特有の無機的な瞳が光っていた。
「はあ、はあ……。上ちゃん、もう追いかけて来ない?」
「うん、大丈夫みたい……」
息を切らせながら、一同は森の出口へと歩いて行く。
「ん、ここは……?」
森の出口。それは、一面に人骨が敷き詰められた、骨の野原であった。
「ほ、骨だよ! これ全部!」
「マスター、あれを見て下さい!」
驚く上田に、錫杖が前方を指し示す。
三人が前方を見ると、空中に人骨が集まっていき、巨大な頭蓋骨が現れたのだ。
「ぎぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」
悲鳴を上げる三人に向かって、頭蓋骨はカチカチと音を鳴らしながら突撃してきた。
「危ない!」
慌てて伏せる三人の頭上を、頭蓋骨は通り過ぎていく。
空中で反転した頭蓋骨は、再び石川達へと向かって行った。
「んなろーっ!」
岡野は拳に気を溜めると、頭蓋骨に向かって放つ。
「昇竜波!」
ズォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!
龍の形をした気を受けた頭蓋骨は、バラバラの破片に砕け散る。
その降り注ぐ破片の向こうに、人影が姿を現した。
「フホホホホホ! 貴様らが勇者の小僧どもだな!」
「おい、どうやら敵さんのお出ましらしいぜ!」
いち早く気が付いた岡野が、そちらの方を向いて叫んだ。
「んっ!?」
「私はマージュII世様の腹心、四次元ナイト!」
「四次元ナイト!?」
「ヒョーッホッホッホ! 覚悟してもらおう!」
四次元ナイトは、両手に持つ剣と斧を構えて叫んだ。
対して岡野も叫び返す。
「ふん! 腹心だか副都心だか知らないが、今やっつけてやるから覚悟しろ!」
「上ちゃん、おれ達も!」
「うん!」
三人はそれぞれの武器を構えると、四次元ナイトと真っ向から対峙した。
「行くぞ、四次元ナイト!」
ブレイブセイバーを正面に構え、己を見据える西川に対して、四次元ナイトは余裕の笑みを浮かべる。
「ふっふっふ。慌てるな、私の力を見せてやろう! ぬぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!」
ビュィィィィィィィィィィ……
四次元ナイトの目が怪しく光ると、周囲の骨の山が揺れ始め、中から先ほどと同じ巨大な頭蓋骨が無数に飛び出してきたのだ。
「なんだ!?」
「二人とも、気を付けて! やっぱりこいつ、今までの敵とは格が違う!」
額に汗をにじませ、上田も錫杖を握る手に力を込めた。
岡野の方は、その威圧感をものともせず、拳を構えた。
「へっ、何をグズグズしてんだ! こんなもんコケ落としよ!」
そのまま頭蓋骨の群れに飛びかかるが、頭蓋骨たちは素早く八方に散り、岡野の拳は空しく宙を舞う。
間髪入れず、岡野は頭蓋骨の体当たりをまともに受けていた。
「ぐわっ!」
吹っ飛ばされた岡野は、背中から地面に激突する。
「岡ちゃん! よーし、ならば!」
石川はブレイブセイバーを収め、素早く印を組む。
ゼー・レイ・ヒーラ・ヴィッセル!
(閃光よ、閃け!)
「閃光呪文・バーネイ!」
石川の掌から、頭蓋骨たちに向かって放射状の火炎が発射される。
だが、頭蓋骨たちは同じように火炎を避けてかわすと、あざ笑うかのようにカタカタと骨を鳴らした。
「じゃあこれならどうだ!」
今度は上田が素早く呪文を唱え、ボンバーの光球を放った。
これまでと違い、広範囲を攻撃できるこの呪文であれば、避けようがないはずであった。
しかし、頭蓋骨たちは寄り集まって、石川達と四次元ナイトとの間に壁のように塞がったのだ。
ドガドガドガァァァァァァァァァァァァァァン!
爆煙が晴れると、その向こうから無傷の四次元ナイトが現れる。
ボンバーの呪文はいくらかの頭蓋骨を砕いたものの、完全に一掃してしまう事は出来なかったのだ。
全く攻撃を届かせることが出来ない三人を、四次元ナイトはからかうように笑った。
「フォーホホホ! どうした?」
それを見て、上田が悔しそうに拳を握る。
「くっそー……」
「くそです」
錫杖も主人と同じように、悔しそうに四次元ナイトを睨みつけた。
「それだけか? ならば今度はこちらから行くぞ!」
四次元ナイトの声を合図に、先ほどを上回る数の頭蓋骨が、三人に襲い掛かった。
素早い上に数が多い頭蓋骨たちの攻撃を、石川達は防御するので精いっぱいだ。
致命傷になる一撃こそ受けていないものの、何度も頭蓋骨の体当たりを受け、徐々に体力を削られていく石川の視界はクラクラと揺れていた。
「う〜、頭がグルグルする……」
そんな石川を叱咤するように、上田が体勢を立て直して叫ぶ。
「テッちゃん、まずあの骸骨を何とかしないと駄目だよ!」
「動きが速すぎるよ! こんな時、ガダメ達が居たら……」
ガダメを召喚する眼球を握って、石川がうめいた。
「やってみよう、テッちゃん! もしかしたら、ガダメを呼べるかもしれない。このまま戦ってても、やられちゃうだけだよ!」
「よーし……。来てくれ、ガダメ!」
意を決して、石川は眼球を空中に投げ上げた。
シュパーン!
「タンガンガ〜ン!」
光と共に、ガダメが石川達のいる空間に姿を現したのだ。
「ガダメ!」
「やった!」
ガダメの方も、石川達の姿を認めると、嬉しそうに笑みを浮かべた。
「おお、少年たち! 無事だったか!」
しかし、いつまでも再会を喜んではいられない。
「ふん、生意気な!」
四次元ナイトは、今度はガダメに向かって頭蓋骨の群れをを放つ。
「むむっ!」
頭蓋骨に気づいたガダメは、クローを装着すると、飛来してくる頭蓋骨を次々と叩き落していった。
「つあっ! とりゃっ! でぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇい!」
ドガッ! ズガッ! バキィィィィィィッ!
「テッちゃん、今のうちに!」
「よーし!」
石川はブレイブセイバーを構え、四次元ナイトへとまっすぐ駆けて行った。
「てやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
が、そのまま剣を振り下ろす石川の姿がフッと消えたかと思うと、その格好のまま岡野の眼前へと現れたのだ。
「いっ!?」
石川は焦るが、その勢いは止まらない。
ギョッとなった岡野は、慌てて籠手でその刃を受け止めた。周囲に耳障りな金属音が響き渡る。
「こっ、こら! おれを斬ってどうするんだよ!」
「ヒョーホホホ! 驚いたか小僧!」
「一体どうなってるんだ!?」
何が起きたのか分からない石川に、上田が言った。
「あれはテレポートだよ!」
どうやら四次元ナイトは名前の通り、次元を歪める能力を持っているらしい。
骸骨たちを操っているのもその超能力の応用なのだ。
「その通り! 貴様の攻撃など、私の四次元能力で全てかわしてくれる!」
「何を!」
再び石川が斬りかかるが、今度は骨の山の眼前にテレポートさせられてしまった。
正面からまともに山に激突し、石川は鼻血を出しながらひっくり返る。
「はにゃ、ほへ……」
「私の力を思い知ったか!?」
めまいを起こしながらも、上田と岡野に支えられながら、石川はふらふらと立ち上がった。
「くそ、どうしたら……」
「テレポートより速くあいつに攻撃できたら……」
「そうか、メテオザッパーか!」
反撃の糸口を見つけた三人は、四次元ナイトの方に向き直るが、四次元ナイトの方も鋭い目つきで石川達を見据えていた。
「私の真の力を見せてくれる。ぬぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ……!」
すさまじい圧力が四次元ナイトの身体から放射され、三人の身体にはそれまでの何倍ものGがかかっていた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
次元を歪めて相手に通常の何倍もの重力を加える、四次元ナイトの必殺技だ。
そのすさまじい重力に、地面がひび割れ、石川達の身体も地面にめり込んでいく。
もう普通に立ってもいられない程だ。もし、トゥエクラニフの強化された身体能力でなければ、三人の身体は、とっくの昔に卵のようにひしゃげてしまっていただろう。
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
冷や汗を浮かべながら、三人は必死に高重力に耐えている。
「ここまでだな。でやっ!」
三人が動けなくなったのを見届けると、四次元ナイトは重力波を解いて、とどめとばかりに手にしていた剣を投げつけた。そのまま重力波を使い続けていれば、彼自身の剣も重力にとらわれて石川達まで届かないからだ。
だが、とどめのはずのこの一撃は、逆に三人に逆転のチャンスを与えることになった。
ガキィィィィィィィィィィィィィィン!
どこからか飛んできたクローに弾き飛ばされ、四次元ナイトの剣が地面に突き刺さる。
続いて剣を弾き飛ばしたクローも、そのすぐそばの地面に刺さった。
「おや?」
四次元ナイトがクローが飛んできた方向に目をやると、そこに立っていたのはガダメだった。
四次元ナイトが石川達に気をとられているすきに、頭蓋骨を全て片付けてきたのだ。
「少年たち! 今の内だ! さ、早く!」
「ガダメ! よ〜し!」
石川の内部に宇宙のイメージが浮かぶ。
「超新星呪文・メテオザッパァァァァァァァァァァァァッ!」
ズゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!
石川の右腕から、無数の流れ星のように虹色のエネルギーが飛び出す。
メテオザッパーのエネルギーは、真っ直ぐに四次元ナイトに向かっていく。
「なんと!」
避ける事もかなわず、四次元ナイトは正面からメテオザッパーにぶち抜かれる。
「ぐあああああああああああああああああああああああっ!」
ドガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン!
次の瞬間、四次元ナイトのボディは大爆発を起こしていた。
「やったやったー!」
自分たちの勝利に、上田と岡野も、軽くなった身体で飛び跳ねて喜ぶ。
四次元ナイトが倒されたことで、周囲の空間も、徐々に元の石九小のダンジョンへと戻っていった。
彼らを出迎えたアーセンが、嬉しそうにほほ笑む。
「おお、あなた達、無事だったのですね!」
「いきなり自分らが消えてもうた時には驚いたで。おまけに、ガダメはんまで消えてまうんやもんな……」
石川達は、ポリポリと頭をかくと笑みを返して言った。
「あはは、ごめんごめん。でも、もう大丈夫! さあ、先へ進もう!」
一同は頷くと、再びマージュII世の待つ屋上へと歩き出すのだった。
To be continued.
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