難関!? 愛石神社の試練!

 トゥエクラニフ化した現実世界を元に戻すため、石川達が集めているクリスタルも、残すところ『光の白玉(ライト・ダイヤモンド)』のみとなった。
 ……のだが。
「むむむむむむ……」
 住宅地の中央広場で、石川達は魔力書物を前に険しい顔をしてうなっていた。
 残り一つというところで、書物がなかなかクリスタルの反応を示さないのだ。
「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! おれ、もう耐えられない!」
 耐えかねたように岡野が叫ぶ。
「まぁまぁ、オカノさん、落ち着いて……」
「書物が反応しないとクリスタルのある所は分からないんだから」
 横からアーセンと上田がなだめるが、石川も岡野に同意するかのように叫んだ。
「でも! 魔衝騎士がクリスタルを手に入れたらと思うと、焦っちゃうよ」
 そんな時だ。
 実にタイミングよくと言うべきか、書物がクリスタルに反応して光を放ったのだ。
「この場所は愛石神社だね……」
 地図を見ながら上田が言った。
 ここは結界の中でも住宅地から一番遠い場所にある。
 だが、最後のクリスタルを見つけたという喜びが、彼らのやる気を最大限に高めていた。
「よ〜し、愛石神社に行くぞー!」
「おーっ!」
 石川の号令に、上田と岡野も拳を振り上げて景気よく叫んだ。

 一方、石川達が出発したのを、マージュII世も気づいていた。
 一足早くクリスタルの反応を感知した彼は、すでに魔衝騎士を向かわせていた。
 彼らの姿が映る水晶球を前に、マージュII世は仮面の下から不敵な笑い声を漏らす。
「ふふふ、小僧どもめ。アイシジンジャに向かっておるな。あそこには魔衝騎士フライールとガクホーンがおるのだ。ファッファッファッファッファッ!」



 住宅地を出発した三人は、壱の松原の時のように品柄川(しながらがわ)にそって歩いていた。
 ただし今回は、神社と住宅地の中継地点である甥浜駅(おいのはまえき)まで川に沿って歩くことになる。
 大通りを横切った時、ふと、上田が住んでいるマンションだった建物が目に入った。
 それもやはり、西洋の館のような建物に変貌している。
「…………」
 上田は複雑な表情で、その建物を見つめていた。
「上ちゃん……」
 岡野が気遣うように、上田に声をかける。
 覚えているだろうか。
 岡野は今でも知らないふりをしているが、上田はトゥエクラニフに飛ばされたその日、ホームシックで密かに泣いてしまった事があった。
 だが、上田は岡野に対してニッコリと笑いかける。
「ん、大丈夫。クリスタルも残り一個だし、ここで頑張らないと!」
「だな。よし、行くか!」
 岡野もうなずくと、三人は道中襲い掛かってくるモンスター達の襲撃を退けつつ、先を急いだ。
 ちょうど甥浜駅に着いた辺りで日が暮れてきたので、三人は駅内部にある喫茶店で夜を明かした。

 翌朝、三人は朝食をとると神社に向かって出発した。
 駅に入居しているスーパーもやはりトゥエクラニフ化していて、洋服屋だったお店は鎧などを置いた防具屋へと変貌していた。
 とは言え、店員がいるはずもなかったので、三人はそれぞれ自分に合った防具を持ってきていた。
「まぁ……」
 石川は苦笑しながらこう言った。
「RPGじゃ、人んちの宝箱の中身を勝手に持っていくなんて当たり前だしね!」
 さて、武器はもとより、防具も充実した三人にとって、そこいらのモンスターなど敵ではない。
 暴走パトカーと同じように意思を持った自動車モンスター、黒タクシーも、アーマーの上位種であるカーネルも、トゥエクラニフでは散々苦戦させられたメイジターキーも、彼らの行く手を阻むことはできなかった。
 三人は半日もせずして、愛石神社に到着していた。
 しかしながら、トゥエクラニフ化した愛石神社の変貌ぶりは、石川達の想像をはるかに超えていた。
 本来、この神社は小高い山の上にあるのだが、山の中腹から上の部分がマヤのピラミッドのようになってしまっていたのである。
 天辺には神社の本殿が変化したのであろう、低めの塔が建っていた。
「ここ、本当に愛石神社だよね……」
 ピラミッドを見上げて、石川が呆けた声を出す。
 無理もなかった。
 これまでのダンジョンで、一番元の施設との変化がすさまじかったのだから。
 或いはこれも世界が本格的にトゥエクラニフ化してしまう事の前触れなのか……。
 三人の頭に、そんな考えがよぎった。

 同じ頃、ピラミッドの中ほど。
 その中は複雑な迷路と化していた。
 突然、

 ドガァァァァァァァァァァァァァァァァァァン!

 壁を突き破って、巨大な刀が飛び出してくる。
 壁の向こう側から現れたのは、赤い重厚なボディを持った魔衝騎士だった。
 刀はこいつが投げたのだ。
 両肩には巨大なタイヤが付き、胸部には『飛』という文字に似た紋章が刻まれている。
 フライールである。
「ええい! いつになったら最上階に着けるのじゃ!」
 フライールは苛立ったように叫ぶ。
 迷路の壁を破壊して進むという行動から分かるように、彼はなかなか短気な性格をしているようである。
 他方、もう一人迷路を進む影があった。
 額には刃のような一本角が生え、両肩をはじめとして、つま先などに巨大なドリルがついている。
 そして、膝のパーツはキャタピラになっていた。
 胸部には『角』という文字に似た紋章が描かれている。ボディ全体は青を基調としたカラーリングだ。
 手には両端に刃が付いた薙刀を持っている。
 こちらが愛石神社に向かったもう一人の魔衝騎士、ガクホーンだった。
「中に入れば迷路ばかり……。なかなか厄介な所にクリスタルが……むっ、フライール!」
「ガクホーン!」
 バラバラに迷路を進んでいた二人だったが、どうやら迷路で迷っているうちに、偶然再会したようであった。
「どうだ、そっちは?」
「ダメだな。どこもかしこも行き止まりで、上へあがれん」
 相棒も収穫が無いのを聞いて、フライールは腹立ちまぎれに思いっきり床を踏みつけた。

 ドシィィィィィィィィィン!

「おのれ! 誰だこんな迷路を造りやがったのは!」
 が、少しばかり力が強すぎたようだ。

 ピシッ、ピシピシ……

「あ……」
 フライールが踏みつけた所から床にひびが入り、あっと言う間に彼らがいた場所の床が、音を立てて崩れ落ちたのだった。

 ガラガラガラガラァァァァァァァァァァァァッ!

「どわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「このバカがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
 フライールの悲鳴とガクホーンの怒声は、ともに暗い穴の中に消えていった。
 一方、石川達は山を登り、ピラミッドの入り口の前に立っていた。
「ここが入り口か……」
「さ、グズグズしてられないよ! 中に入ろう!」
「おう!」
 その時である。
「マスター、見て下さい」
 錫杖が入り口よりも右の方を指し示す。
「あれ、こっちの方にも入り口がある」
「こっちにもあるぜ?」
 岡野の言う通り、彼らが立っていた入り口からさらに左側にも入り口があった。
 と、

 ドガァァァァァァァァァァァン!

 ピラミッドの壁が吹き飛び、何かが落下してきたのだ。
「どわっ!」
「な、なんだ!?」
 三人(と一本)は、驚いてそちらの方を向く。
「貴様らは!」
「救世主の小僧ども!」
 落下してきたのは、魔衝騎士の二体だった。迷路から転げ落ち、放り出されてきたのだ。
「魔衝騎士!」
「テッちゃん、クリスタルを手に入れる方が先だよ!」
「あ、そっか!」
 上田に促され、三人は入り口に向かって駆けだした。
「急げ!」
 そんな三人の背中に向かって、フライールがバカにしたように笑う。
「バカめ! そこはさっきオレ達が入った入り口よ! 本当の入り口はここだ」
 言いながら、右側の入り口に向かう。
「待て、フライール。こっちが本物かもしれん!」
 ガクホーンは左側の入り口の前に立って言った。
「ではどうするのだ!?」
「どちらにせよ、奴らより先にクリスタルを手に入れねばならん。ここは手分けしてクリスタルの元へ向かうとしよう」
「良し!」
 フライールとガクホーンも、それぞれ分かれて、再度ピラミッドの中に入っていくのだった。



 石川達は、暗い通路を進んでいく。
 しばらく歩いていると、目の前に上の階へと続く階段が見えてきた。
 そしてその前には……。
「おっ?」
「よく来た! このアイシジンジャは各階の関門を乗り越えないと次の階へ行けないのだ!」
 階段の前には、二メートルほどの高さの人間のような目と口が付いた木が立っており、その横には立札が立っていた。
 以前、壱の松原で襲い掛かってきたダークトレントに似ているが、顔つきはあちらのように凶悪ではなかった。
 相手に攻撃の意思がない事を理解した三人は、どのような関門が待ち受けているのか、緊張した面持ちで身構える。
「まずはワシが出す計算に答えてもらおう……!」
 言うなり、トレントの横に立っている立札に計算式が映し出される。
「計算なら頼むぜ、上ちゃん!」
「ええっ、おれ!?」
 石川に指名され、上田が困惑した声を出す。
 彼はどちらかと言うと、国語や社会の方が得意なのだ。
「この問題を二〇秒で解くのだ!」
 映し出された問題は、一つ目が『2X+3=7。X=?』二つ目が『3X=18−3。X=?』。
 簡単な算数ではあるが、まだ四年生で習うような問題ではない。
「急げ上ちゃん!」
「頑張って!」
「えーっと……」
 しばらく上田は考え込むが、残り五秒となったあたりで叫んだ。
「答えは一門目がX=2! 二門目がX=5!」
「正解!」
「ふう、塾行っといて良かった……」
「では次の問題は一〇秒だ!」
 立札の計算式が、次の問題を映し出す。
「答えはX=12!」
「正解! では次!」
「頑張れ上ちゃん!」
 うんうん唸りながらも、上田は確実に答えを出していった。
「では次!」

 トレントの関門を突破した石川達は、次の階の通路を進んでいく。
 しばらく進むと、今度は人の体に羊の頭を持った石像が立っていた。
 手からは糸から吊るされた、小さな輪っかがぶら下がっている。
「よく来ましたね。この関門を突破できますか?」
 言うなり、羊頭は手からぶら下げた輪っかを左右に揺らし始めた。
「ほ〜れ眠れ〜。眠ってしまえ〜……」
 左右に揺れる輪っかから波のようなものが照射され、三人を包み込んでいく。
「ふわぁ〜……。何かおれ、眠くなってきた……」
「おれも……」
 見る見るうちに石川達の目がトロンとしていき、まぶたが下がっていく。
 ただ一人(?)、生きている杖である錫杖には催眠音波は効いておらず、三人を必死に起こそうとしていた。
「マスター! しっかりして下さい!」
「そんな事言ったって……」
「あ〜も〜、こうなったら!」
 しびれを切らした錫杖は、なんと、手近にいた岡野の尻に、自分の頭部(?)の先にある刃を突き刺したのだ。

 ブスッ!

「痛てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」
 その痛みに、岡野が尻を押さえて飛び起きる。
「何てことすんだよ、錫杖!」
「それより岡野さん、お二人を!」
「ああっと、そうだった!」
 我に返った岡野は、石川と上田を揺り起こす。
「おい、起きろよ! テッちゃん上ちゃん」
 が、二人はなかなか目を覚まそうとしない。
「起きろーっ!」

 ビシバシ! ビシバシ!

 石川の両頬に、岡野は連続ビンタをかます。
 でも、だめ。
「起きろぉぉぉぉぉっ!」

 ゴキゴキゴキ……

 上田には、なんとコブラツイストまでかけるありさまだ。
 やっぱり、だめ。
 そうしている内にも、羊頭からは催眠音波が照射され、再び岡野も眠気に襲われてきた。
 そんな岡野が出した答えは……。
「ええいこうなったら、強行突破だ!」
 なんと岡野は石川と上田を担ぎ上げると、そのまま全力ダッシュで羊頭の横を走り抜けていったのだ。
 これには羊頭も、呆然となって見送るしかなかった。

 さて、その頃。
 ピラミッドに再度突入したフライールは、またしても迷路の中に迷い込んでいた。
「ええいまた行き止まりか!」
 壁にぶち当たったフライールは、腰の大太刀を抜くと、壁に向かって投げつける。
「でやぁぁっ!」

 ドガァァァァァァァァァン!

 壁をぶち破って先へ進むフライールだが、まだまだ迷路からは抜け出せそうにない。
「くそう、また迷路の中に入っちまったぜ!」

 一方、ガクホーンの方は、先ほど石川達が突破した羊頭の前に到着していた。
「ここの関門、突破できますか?」
「…………」

 ジャキン!

 ガクオーンは無言で薙刀を構える。
 羊頭がギョッとなったのもつかの間、次の瞬間、

 ズバッ!

 薙刀が一閃し、羊頭の石像は綺麗に横に切断され、胸部から上がその場に転がった。
 その横をガクホーンは何の感慨も示さずに通り過ぎていく。

 他方、その羊頭の関門を突破した三人。
 石川と上田もようやく目を覚まし、階段を上っていた。
「はぁ、はぁ、あといくつ関門あるんだ……?」
 息を切らせながら、石川が階段を上りきる。
 ふと前を見ると、一行の目の前には、全高が五メートルほどの、凄まじい形相の阿修羅の像が立っていたのだ。
「どわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
 その恐ろしい姿に、思わず石川が悲鳴を上げる。
「よくぞここまでやって来た。いよいよ最後の関門じゃ」
「は、はい……」
「この関門を失敗すればお前たちは死ぬ……」
「ええっ……!?」
 衝撃の事実を突きつけられ、三人の表情が驚愕に歪んでいた。



 阿修羅と対峙した三人は、張り詰めた表情で、阿修羅の次の言葉を待っていた。
「最後の関門は……」
「ゴクリ……」
 石川がつばを飲み込む。
「最後の関門は……!」
「はいっ!」
 思わず、石川が気を付けの姿勢になった。
 カッと目を見開いて、阿修羅が叫ぶ。
「ジャンケンだ!」
 よく見ると、阿修羅の六本の腕の内、上の二つはグーを、真ん中の二つはチョキを、下の二つはパーの形になっている。
「ガビョーン!」
 先ほどまでの緊張感もどこへやら、石川達は思わずつんのめった。
 気を取り直して、石川と阿修羅が、同時に拳を振り上げる。
 一瞬早く、阿修羅が動いた。
「行くぞジャンケン!」
「最初はグー! ……って、ええっ!?」
 石川は思わずグーを突き出す。
 普段、彼らは「最初はグー!」の文句でジャンケンをしていたのだが、阿修羅はそんな前置きなしに拳を突き出してきたのだ。
 焦る石川だったが、拳はすでにグーの形で突き出してしまっている。
 しかし、
「チョキ!」
 なんと、阿修羅が突き出したのは、チョキの形の拳であった。
 偶然とはいえ、石川は勝利を収めたのだ!
「やったー! おれの勝ちだーっ!」
「うおお負けた! 負けたぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 ズシィィィィィィィィィィィィィィン!

 自身の敗北にショックを受けた阿修羅は、頭を抱えると、そのまま後方に倒れこんで、凄まじい地響きを立てるのであった。

 最後の関門を突破した三人は、ピラミッドを抜けて、塔の内部へと到達していた。
 塔と言っても、前述の通りそんなに高いものではなく、せいぜい三階建て程度の高さだ。
 その最上階まで登ると、部屋の中央に、何やら白い光を放っている石が見える。
「あ、あれは!」
「クリスタルだよ!」
 石川は、嬉しそうな顔でクリスタルの所まで駆け寄った。
「やったぞ! 最後のクリスタルだ!」
 最後のクリスタル、『光の白玉(ライト・ダイヤモンド)』を手にして喜ぶ石川だったが、その時だ。
「待てい!」
 ステレオで叫ぶ声と地響きのような足音が響く。
「えっ!?」
「そのクリスタル!」
「こちらにもらおうか!」
 そこに立っていたのは、フライールとガクホーンの二体だった。
 二体とも、強引にピラミッドを突破して追いついてきたのだ。
 だが、そう言われて素直に渡す石川達ではない。
 石川は舌を出して叫んだ。
「やだよーっ! せっかくここまで苦労して来たんだ、渡してたまるか!」
 それを聞いて、激高したのはフライールだった。
「なにぃぃぃぃっ!?」
 スラッと腰の大太刀を抜き放つ。
「落ち着け、フライール!」
「うるさーい!」
 ガクホーンがたしなめるが、フライールは構わず太刀を振り上げた。
 それを見て、石川は岡野たちをの方を振り返って叫ぶ。
「くっ! 逃げるんだ、二人とも!」
「死ねぇぇぇい!」

 ドガッ!

 フライールが振り下ろした太刀が、塔の床を砕く。
 間一髪、それを避けた石川達は走り出すが、フライールは強引に塔の柱を切り倒しながら追いかけてきた。

 ドガッ! ドガッ! ドガッ! ドガッ!

 が、柱をどんどん破壊されたせいで、塔は自分の天井を支えきれなくなっていた。
 やがて――

 ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!

 すさまじい地響きを立てて、ピラミッドの天辺に建っていた塔は一気に倒壊してしまったのだ。
 その瓦礫の中から、土煙を上げて二つの影が這い出てくる。
「ぬぅぅぅぅぅぅぅっ!」
「こんな事なら、最初から塔ごと全て破壊しておけば良かったのだ!」
 忌々しげにガクホーンが吐き捨てる。
 その時、石川も倒壊した瓦礫の中から這い出してきたところだった。
「痛ててて……。無茶苦茶するヤツだなぁ……」
 が、ふと周囲を見てみると、上田と岡野の姿が見当たらない。
「上ちゃん? 岡ちゃん!?」
 まさか、二人とも逃げ遅れて――
 そんな考えが石川の頭をよぎり、その顔が青くなる。
 しかし、そんな石川の前に、魔衝騎士たちは容赦なく立ちふさがった。
「はっはっは、ここまでだな……」
 フライールが勝ち誇ったように笑うが、石川はブレイブセイバーを構えると叫ぶ。
「くっ! 諦めてたまるか! おれ一人でもやってやる!」
「でやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 ガキィィィィィィィィィィィィン!

 フライールが振り下ろしてきた太刀を、石川はブレイブセイバーで受け止める。
 だが、
「うりゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 ドガァァァァァン!

「ぐわぁぁぁぁぁぁっ!」
 間髪入れずに突き出されてきたガクホーンの薙刀を受け、石川の身体が後方へと吹っ飛ばされた。
 新品の鎧のおかげで石川の肉体こそ切り裂かれることは無かったものの、その衝撃はかなりのものだ。
 尻餅をつく石川に、フライールとガクホーンがジリジリとにじり寄る。
「ふん、他愛もない!」
「小僧、覚悟!」
 だが、天はまだ石川を見捨ててはいなかった。
「待て!」
「むっ!」
 ガクホーンが声のした方を向くと、瓦礫の上に立っていたのは上田と岡野だったのだ。
「上ちゃん! 岡ちゃん!」
 安堵と嬉しさのため、石川の表情が笑顔のそれに変わった。
「ごめん、テッちゃん! 脱出に時間がかかっちゃった!」
 あの時、上田は岡野の身体をつかまえて、間一髪、エスケープの呪文で塔の崩壊から脱出していたのだ。
 二人が無事だったことを知って、怒りに燃えていたのはフライールとガクホーンだ。
「おのれ!」
「私が相手になろう!」
 ガクホーンが、上田と岡野の方へと向き直る。
「おう!」
 それに対して、岡野たちも臨戦態勢で待ち構えた。
「うりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
 ガクホーンが繰り出してきた薙刀を、岡野は籠手で受け止めた。

 ガキィィィィィィン!

 そのまま鍔迫り合いを続けていた両者だが、岡野は強引に押し切ると、ガクホーンに向かって回し蹴りを放つ。
 が、ガクホーンも一瞬のうちに体勢を立て直すと、その蹴りを伏せて避けた。
 その体勢のまま薙刀を振り上げ、さらに今度は目にもとまらぬ速さで突きを放つが、岡野もさるもの、強化された動体視力で、その流れるような攻撃を紙一重でかわしていた。
 続けてガクホーンは薙刀を振り下ろすが、その刃は、再び岡野の籠手によって塞がれていた。
 そして、その刃をはねのけてガクホーンの体勢が崩れたところに、今度は上田が飛び込むと早口で呪文を唱える。

 グー・ダッ・ガー・バク・レイ・ゲム!
(大気よ、唸り弾けろ!)

「爆裂呪文・ボンバー!」

 ドガドガドガァァァァァァァァン!

「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
 至近距離で爆発の連続攻撃を受け、今度はガクホーンのボディが地面に投げ出される。
 一方、フライールと一対一の勝負になっていた石川も、先ほどまでとは打って変わり、フライールと丁々発止の勝負を繰り広げていた。

 ガキィン! ガキィン!

 剣と太刀の刃がぶつかり合い、周囲に鋭い金属音を響かせる。

 ギィィィィィィィン!

 鍔迫り合いの後、フライールの手から太刀が飛んでいた。
 石川が横に払った一撃が、フライールの太刀を弾き飛ばしたのだ。
「やるな! ならば!」
 その途端、フライールのボディが変形を始める。
 両腕が胴体に収納され、足も縮み、前方へと突き出される。
 瞬く間に、フライールはレーシングカーのような形態へと姿を変えていた。
 続けてガクホーンも変形を始める。
 両腕が肩に収納され、足も畳まれて、ボディ各所のドリルが全て前方を向く。
 次の瞬間、そこにはガクホーンの頭部を持ったドリル戦車が出現していた。
「行くぞ!」
 叫ぶなり、ガクホーンのドリル戦車が地面へと姿を消す。
「あっ! 野郎、どこへ行く!」
「逃げたのかな……?」
 いぶかしむ上田だったが、答えは次の瞬間に来た。

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……

「わわっ!」
 石川達が立っていた地面が突如陥没し、不意を突かれた彼らは体勢を崩したのだ。
「今だフライール!」
 陥没した穴の底から姿を現して、ガクホーンが叫ぶ。
「応!」
 そこへ、フライールが走りこんできて、石川に強烈な体当たりを見舞った。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
 続いてはガクホーンが、岡野に対して同じように体当たりを仕掛ける。
 二体は石川達に反撃の隙を与えないよう、絶妙のコンビネーションで体当たりを繰り返していた。
 このままでは、徐々に体力を削られていくのは明白だ。
 上田が石川に向かって叫んだ。
「テッちゃん、三魔爪を呼ぼう!」
「よーし!」
 石川は懐から熊のような姿をした土人形を取り出すと、空に向かって投げる。
「頼むぜ、アーセン!」

 シュパーン!

「ドンッドグ〜ウ!」
 土人形がまばゆい光を放ち、その中からアーセンが姿を現した。
「私に、任せて下さい!」
 アーセンは石川達の前に立つと、突撃してくるフライール達に向かって、素早く呪文を唱えた。

 ゼー・レイ・ヒーラ・ヴィッセル!
(閃光よ、閃け!)

「閃光呪文・バーネイ!」

 ゴォォォォォォォォォォォォッ!

 アーセンの、土偶の右手から帯状の火炎が放射され、魔衝騎士たちを吹き飛ばす。
「うぉぉぉぉぉぉっ!」
「ぐわぁぁぁぁぁっ!」
 しかし、二体は体勢を立て直すと、そばの地面に着地した。
「おのれ!」
「フライール!『あれ』をやるぞ……!」
 ガクホーンの言葉に、フライールもうなづく。
「おうよ!」

 ジャキィィィィィィィィン!

 次の瞬間、フライールがガクホーンの機体の上に飛び乗り、ドッキングして一体の大型戦車となったのだ。
「朱(あか)と蒼(あお)の、全方位(オールレンジ)攻撃!」
 叫ぶなり、二体はタイヤとドリルを高速回転させて突進してきた。
 その姿は赤と青の渦巻きへと変わる。
「なんだアイツら……?」
 呆然とその渦を見つめていた岡野だが、その錐揉み状の渦が彼らの側を突き抜けていった時、凄まじい衝撃が一同を襲ったのだ。

 ドガァァァァァァァァァァン!

「ぐわぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「これはぁぁぁぁぁっ!」
「みんな! うわぁぁぁぁぁぁぁっ!」
 石川達もアーセンも、木の葉のように宙に吹き飛ばされて地面に激しく叩きつけられる。
「くっ……あの攻撃、ただ事じゃないぞ!」
 軋む体を押さえながら、石川が立ち上がる。
「二体の、魔衝騎士たちの、相乗効果で、威力が、何倍にも、強まっているようです。並大抵の、攻撃では、あの渦を、突破することは、出来ません」
 いつもの冷静な口調ながらも、冷や汗をかきながらアーセンが言った。
「じゃあ、どうしたら!?」
「私に、考えが、あります。いいですか?」
 アーセンは三人に向かって、手短に反撃の作戦を伝える。
「よし、それでいこう!」
 アーセンの作戦を聞いた石川達は、力強く頷く。
 四人は一カ所に固まると、石川、上田、アーセンは呪文を唱え、岡野は拳に気を集中させる。

 グー・バク・ゴウ・ゲレム・ガルム・バング
(大気よ、全てを砕け散らせたまえ)

 グー・ダッ・ガー・バク・レイ・ゲム

 上田とアーセンの両手に極大呪文のスパークが巻き起こり、石川の手にはボンバーのスパークが同じように生まれている。
 岡野の掌にも、今の彼のレベルで可能な限りの気が送り込まれていた。
 その間に、フライール達は向きを反転させ、再び四人に向かって突進してきた。
「極大爆裂呪文・ボンベスト!」
「爆裂呪文・ボンバー!」
「昇竜波!」
 上田とアーセンからはボンベストが、石川からはボンバーが、岡野からは神龍波よりも一回り小さい竜の姿をした気功波が放たれ、それらは混じりあって、フライール達にも匹敵する大きさの渦となった。

 ギュォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!
 ドガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン!

 呪文と気が融合した光の渦と、赤と青の渦は正面から激突し、周囲に大爆発を巻き起こす。
 勝ったのは石川達の方だった。
 爆煙に混じって、かつてフライールとガクホーンだった金属の破片が辺りに降り注いでいたのだった。



「ようやく全部そろいましたね」
 目の前に並べられた六色のクリスタルを前にして、サクラが感慨深そうに言った。
 住宅地の中央広場で、全員がクリスタルの前に立っていた。
 その時だ。

 パァァァァァァァァァァッ……

「あらっ?」
「な、なに?」
「なんだ?」
 突如、六色のクリスタルが淡い光を放ったのだ。
「テッちゃん、空を見て!」
「えっ?」
 空には虹色に光るオーロラが現れていた。
「なっ、これは……?」
 一同は呆然と、そのオーロラを見上げている。
 オーロラはまるで、クリスタルが揃った事を祝福するかのように、いつまでも輝いているのだった。

To be continued.


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