灼熱の死闘! クリーンファクトリー

 トゥエクラニフ化してしまった現実世界(なお、彼らの世界では我々のいる現実世界の事を“ウスティジネーグ”と呼んでいる)をもとに戻すために冒険している石川達だが、四六時中、クリスタルを求めて冒険しているわけではない。
 もちろん、一か月というタイムリミットはあるものの、クリスタルの反応が無い以上は、闇雲にあてもなく結界内を探してみてもしようがない事であるし……。
 主だった事件が無い時には、以前探索したダンジョンに戻って手掛かりが無いか調べてみたり、住宅地の周囲で訓練などをしたり、時には一日、心身を休めるためにのんびりと過ごしている事もあった。
 その日も、一同は住宅地の中心にある広場で朝食をとっていた。
 普段の料理役はオータム、サクラ、ガダメに、たまに上田やセルペンが手伝っていた。
 特にセルペンは、先日の壊滅的な家事でさすがに懲りたのか、現在は素直にサクラ達から料理の手ほどきを受け、だいぶまともな料理を作れるようになっていた。
「せやけど、嬢ちゃんたちの料理、ホンマに美味いなぁ」
 ほとんど胃袋に流し込むような食べ方をしながらクレイが言った。
 モンスター出身とは言え、味覚は人間と大差ないのだ。
「えへへ……有難う御座います」
 サクラが照れたように笑う。
 彼女はブッコフタウンの出身ということもあって、サンドイッチをはじめとする、パンを使った料理が得意だった。
 オータムの方は、むろん魚をはじめとする、海の幸を使った料理が得意だ。
「あたしは、この間ガダメさんが作ってくれた魔界鍋もなかなかだったけどねぇ」
 魔界鍋というのは、動植物性の食用になるモンスターを材料にして作った鍋だ。
 味付けも使われる具材も、その時々によって変わり、決まった形というものが無い。
 要するに、現実世界でいうちゃんこ鍋のようなものである。
「強い身体を作るためには、料理も欠かせない修行の一つだからな。みんなにはその内、私が研究中のコウモリ料理をご馳走して進ぜよう」
「あ、えと……それは遠慮しておきます……」
 そんな他愛もない会話をしながら食事を終えた時、数日ぶりにクリスタルの反応が出たのだった。

「まさか次の目的地がクリーンファクトリーとはね〜……」
 道を歩きながら上田が呟いた。
 クリーンファクトリーは、彼らが住んでいる地域の清掃工場であり、彼らの住宅地からは壱の松原とほぼ同じくらいの距離があった。
 加えて小高い山の上にあるため、距離的にはなおさら遠く感じる。
 五郎川団地の横を抜けて、五郎川を渡り、城野春小学校の近くの道を歩いていく。
 時間にして午前中に出発した彼らだったが、例によってモンスターと戦いながらの旅路であるため、球磨野神社に到着した頃には、太陽はすでに真上に来ていた。
「ここで一休みしようか」
「さんせ〜い」
 石川の提案に、上田と岡野もうなずいた。
 この神社は、かつて図画の授業で彼らが写生に訪れたことがある場所だった。
 住宅地の中にある、小高い森のなかに存在しているという、少し不思議な神社だ。
 不思議なことに、他がトゥエクラニフ化している中、この神社は比較的外見が変わっておらず、以前のままだった。
 また、モンスターの気配なども感じることが無かった。
 もしかしたら、この辺り一帯が不思議な力で護られているのかも知れない。
 体を休めながら、三人はぼんやりとそんなことを考えていた。
 一時間ほど休んだ後、一同は改めてクリーンファクトリーに向かって出発した。
 すでに道のりは半分ほど来てはいるが、ここから先は坂道が続く。
 幹線道路だった街道を上っている三人の前に、突如素早い動きで黒い影が飛び込んできた。
「こ、こいつは……!」
 それは先日、バピロスで交戦したカマと呪いの鎧だった。
 ただし、今回は呪いの鎧がカマの背中に騎乗しているという状態だったが。
 カマを乗りこなせるようになった合体モンスターで、カマライダーという。
 呪いの鎧のパワーに加え、カマの機動力を併せ持つという、なかなかの強豪モンスターである。
「このやろーっ!」
 石川が切りかかるが、敵は素早い。
 何度も切りかかったが、カマライダーは身軽に攻撃をかわし、その鋭い呪いの剣とカマの両腕で逆に切り付けてくる。
「このっ!」
 岡野が籠手でその攻撃を受け止め、拳を叩き込もうとするが、やはりカマのスピードで、その拳の一撃もかわされてしまった。
「くっそー……。あいつら、別々に襲い掛かってくるより強くなってねぇ!?」
 息を切らせながら、岡野が前方に立ちふさがるカマライダーを睨みつける。
 呪いの鎧が見事にカマを操ることで、カマ単体の時よりも、効率的な動きができるようになっているのだ。
「じゃあ、これならどうだ!」
 上田が前に出て、印を結び呪文を唱える。

 オーゾ・ナル・エー!
(時よ、緩やかになれ!)

「減速呪文・スロー!」

 ヴュヴュヴュヴュヴュ……

 上田の掌から音波のような呪文が飛び出し、それはカマライダーに命中した。
「キッ、キキッ……」
 カマが焦ったような鳴き声を上げる。
 チャリンコナイトの時と同じく、素早い相手のスピードを奪うという戦法だった。
 スピードさえ半減してしまえば、もはや遅るるに足らず。
「でりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
 岡野は地面を蹴って一気に跳躍すると、渾身の気を込めた拳を繰り出す。
「オーラナックル!」

 ドガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!
 キラッ!

「ギャェェェェェェェェェェッ!」
 気をまとった拳は、カマに正面から命中し、その背中にまたがる呪いの鎧ごと、お空のお星さまに変えたのだった。
 気が付くと、あたりの空には星がいくつが出ていた。
 太陽は西の空に沈みかけ、空も赤く染まっている。
「もう夜か……」
 クリーンファクトリーはほとんど目と鼻の先ではあったが、消耗した状態で突入すれば、返り討ちにあるのは目に見えている。
 ちょうど右手にレストランだった建物があった。
 ここもやはり無人ではあったが、店の中は荒らされた様子もなく、食料もたっぷりと貯蔵されている。
「今夜はここに泊まらせてもらおう」
「そうだね……」
 一同はレストランに入ると、内側から鍵をかける。

 三人は夕食を済ませると、一息ついた。
「あ〜、やっぱりサクラちゃんたちの方が料理上手いよね……」
 今回の調理を担当した上田が嘆息しながら言った。
 たまに手伝いなどをしていたとはいえ、それでもやはり、サクラ達には遠く及ばなかった。
「ガダメ呼んで作ってもらえば良かったかな……」
 ちらりと石川の荷物に入っている、ガダメの召喚アイテムを見ながら上田が呟いた。
「そんな用事で呼んだら怒られるって……」
 そんな上田に、思わず苦笑してしまう石川だった。
 なお、後日そのことを聞いたガダメ曰く、
「なんだ、それならそれで呼んでくれても構わなかったのに」
 意外と気さくなガダメなのであった。



 翌朝、三人は荷物をまとめると、クリーンファクトリーに向けて出発した。
 道路を渡り、さらに坂道を登っていく。
 そうして到着したクリーンファクトリーは、これまでとは少しばかり違う変化をしていた。
「こ、これって……」
 これまでの場所は元から林であった壱の松原を除き、ファンタジックな外見になっていたのだが、このクリーンファクトリーはレンガ造りながらも、ちょうど産業革命が起きた頃の工場のような様相を呈していたのだった。
「よし、行ってみよう」
「うん……」
 石川を先頭に、三人はクリーンファクトリーに入っていった。

 このクリーンファクトリーは、彼ら三人はつい先日、学校の社会科見学で来ていたのだが、内部構造は別の意味で驚くべき変化を遂げていた。
 通路の下には溶岩のような、ドロドロに溶けた真っ赤な川が流れ、周囲では巨大なプレス機が機械らしい規則正しさでゴミを潰し続けている。
 それはまるで……
「ダ、ダ●トマンステージ……?」
「いや、バーニ●・ナウ●ンダーでしょ」
 そう、彼らが愛好しているアクションゲームに出てくる、工場のステージによく似ていたのだ。
 こういう所に出てくる敵と言えば……。

 ガシャン!

 足音が響き、三人はそちらの方を向く。
 そこに立っていたのは……
「ぎぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ、出たぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「オバケぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」
 石川と上田が悲鳴を上げる。
 それはボロボロになった、ゾンビのようなモンスターだった。
 しかし、
「バカ、よく見ろ! ありゃメカだぜ!」
「へっ!?」
 岡野の言う通り、それはスクラップになりかけたアーマーだった。
 とは言え、壊れかけた姿で迫ってくるのは、生身(?)のゾンビとはまた違った気色悪さがある。
「ギィィィィィィッ!」
 ゾンビアーマーは軋むような咆哮を上げながら襲い掛かってくる。
 しかし、
「ゴミ捨て場に帰れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」

 バキィィィィィィィィィィィィッ!

 岡野の鉄拳が飛び、アーマーは近くの溶鉱炉に落下して、沈んでいった。
「ふう、気持ち悪い奴だった……」
「そうだね」
 苦笑する一同だったが、そこへさらに足音が響く。
「……まさか?」
「ギィィィ……」
「ガァァァ……」
「ゲェェェ……」
 ゆっくりと振り向いた三人が目にしたのは、数にして二十体以上のゾンビアーマーだった。
「に、逃げろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
 三人は一目散に走りだす。
 さすがにこれだけの数のゾンビアーマーを相手にするのは骨が折れるし、それ以前に、こんな気色悪い連中と戦いたくないというのが本音だった。
 しばらく走った後、三人は工場の一角で一休みしていた。
 相変わらず、周囲はゴミ処理用の機械の駆動音に包まれている。
 そんな時だった。

 ゴロゴロゴロゴロゴロ……

「んっ……?」
 機械の音に交じって、何かが転がってくるような音が聞こえ、三人は耳を澄ませる。
 音はどんどん近づいてきた。
 三人が音のする方を見てみると、巨大な、直径2メートルはありそうな歯車が転がってくるところだった。
「ぬわぁに!?」
 三人の目が、驚愕のために見開かれる。
 しかしそれは、ただの歯車ではなかった。
 その上に、ピエロのような姿をしたモンスターが、玉乗りの要領で乗っていたのだ。
 車輪ピエロという道化師タイプのモンスターで、トゥエクラニフでは遺跡などのダンジョンに潜み、迷い込んできた哀れな犠牲者を石の車輪で轢き潰してしまうという。
「轢き殺す!」
 これまでに無いほど物騒な台詞を吐きながら、車輪ピエロは歯車をゴロゴロ転がしながら三人に迫っていった。
「おっと!」
 三人は横に飛んで避けるが、ピエロは方向転換すると、執拗に三人を追い回す。
 そうこうしているうちに、一同は狭い通路に追い込まれていった。
 ここでは横に逃げることも出来ない。
 このまま力尽きたら、そのまま歯車でペシャンコにされてしまうだろう。
「このっ、これならどうだ!」

 ディ・カ・ダー・マ・モウ・バッ・ダ!
(火の神よ、猛火の裁きを!)

「火炎呪文・メガフレア!」
 上田の掌から、ピエロに向かって火球が飛ぶ。
 しかし、それは歯車にぶつかると、何事もなかったかのようにかき消されてしまった。
「うっそー!?」
 上田が驚きの声を上げる。
 岡野や石川も、振り返って反撃しようにも、どうにも歯車が邪魔してピエロまで攻撃を届かせることが出来ないでいた。
 だが、運はまだ、彼らを見捨ててはいなかった。
 逃げながら、上田が壁に貼られた工場内の見取り図を見つけたのだ。
 彼らの進路の先はT字路になっていて、その先は溶鉱炉になっているようだった。
 即座に上田が考えを巡らせる。
「二人とも、このすぐ先がT字路になってるみたい! おれに考えがあるから、聞いて!」
「なになに?」
 走りながらも、上田は石川達に耳打ちをする。
 それを聞いた二人が、ニヤリとほほ笑んだ。
「よし、やってみるか!」
 三人はスピードを上げて、T字路に向かっていく。
 車輪ピエロもそれに劣らないスピードで、三人の後を追った。
 そしてついに、正面のT字路へと到着した。
 その先は見取り図の通り、真っ赤な溶岩がグラグラと音を立てていた。
 三人は振り返ると、車輪ピエロの方をにらみつける。
「ケケケケケケケケケケケカカカカ!」
 車輪ピエロは勝ち誇ったように、スピードを上げて三人に突撃していく。
 その歯車が、まさに眼前に迫った時、三人はニヤッと笑って、両側の通路に飛びのいた。
「ほんじゃ、バイバイ♪」
「なにいっ!?」
 さしものピエロも急停止する事はかなわず、そのまま溶鉱炉へと真っ逆さまに落ちていった。
「ぎぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」
 下の方からピエロの悲鳴と、「バッシャァァァァン!」という水音が聞こえてくる。
「アーメン」
 三人は目を閉じて十字を切ると、さらに通路の奥へと進んでいくのだった。



 車輪ピエロの攻撃を退けた三人は、さらに通路を進んでいく。
 と、薄暗い通路の先に明かりが見えた。
 しかも、それはこちらへと向かってくるではないか。
「なんだ、あれ?」
 三人は目を凝らす。
 と、その方角から、突如メガフレアの火球が飛んできたのだ。

 ゴォォォォォォォッ!

「うわっ!」
 間一髪で、三人は火球をかわす。
 前方にいた明かりの正体は、2メートルほどの聖火台に手足が生えたような外見のモンスターだった。
 古ぼけた松明が長い年月を経て意思を持った、歩く松明というモンスターだ。
「カモーン、エブリバディ!」
 歩く松明が叫ぶと、その頭部の炎が一層激しく燃え上がり、中から目が付いた人魂のようなモンスターが無数に飛び出してきた。
 炎に意思が宿ったフレアゴーストというモンスターだ。
 そこまで強いモンスターではないが、数が多いのが厄介だった。
 しかも、

 カ・ダー・マ・デ・モー・セ!
(火の神よ、我が敵を焼け!)

「火炎呪文・フレア!」
 フレアゴーストはその口から、頻繁にフレアの呪文を唱えてくる。
 たとえフレアといえど、これだけの数で唱えられたらギガフレアに匹敵する。
「わちっ! わちっ!」
「熱いぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」
 三人はフレアの嵐の中を逃げまどっていた。
 そんな中、冷静に錫杖が叫ぶ。
「マスター、ここは吹雪呪文で!」
「うん!」
「よし、じゃああの鬱陶しい連中はおれ達が……」
 上田が呪文を唱える間、石川と岡野が敵の注意を引き付ける。

 アース・ウェーバー・ガーゴ・グー!
(氷の風よ、凍結させよ!)

「吹雪呪文・フロスト!」

 ゴォォォォォォォォォォォォォォォッ!

 上田の掌から、強烈な雹粒を伴った冷風が噴き出し、歩く松明とフレアゴースト達を包み込む。
「あぎゃぱぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
 風が収まった時、そこには氷の彫像と化した松明が突っ立っているのだった。

 歩く松明とフレアゴースト達を倒した三人は、ついに工場の中心へとやってきていた。
「あれは……」
 目の前の祭壇に、赤く輝くクリスタルが見える。
『火の赤玉(ファイア・ルビー)』だった。
「やった! 五個目のクリスタルだ!」
 石川達は、喜び勇んでクリスタルに駆け寄ろうとする。
 その時だ。
「待っていたぞ、少年たち」
「!」
 三人とクリスタルの間に、人影が舞い降りた。
 そいつは馬の頭部を持った騎士で、肩鎧には小さな翼のような装飾がついている。
 腕には長いランスを持ち、胸部には『桂』という文字に似た紋章が描かれていた。
「我が名は魔衝騎士ニッキー! ここのクリスタルと君たちの命、私がもらい受ける!」
「やっぱここにもボスがいたのか!」
 三人とニッキーは、武器を構えて対峙した。
「でやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
 先に動いたのは石川だ。
 石川は床を蹴って一気にニッキーに迫ると、ブレイブセイバーを振り下ろす。
 だが、

 ガキィィィィィィィィィィィィン!

「何っ!?」
 目の前にいたはずのニッキーの姿が一瞬にして消え、ブレイブセイバーは空しく床を切りつけたのだ。
「テッちゃん、後ろ!」
 振り向いた石川の眼前に、槍が突き出されていた。
「くっ!」
 とっさに石川はブレイブセイバーを構え、ランスの一撃はブレイブセイバーをかすめて床に大穴をあける。
「これならどうだ!」
 今度は岡野が飛び上がり、ニッキーに向かって飛び蹴りを放つが、同じようにニッキーの姿は突然掻き消えた。
「えっ!?」
「跳躍力と素早さでは、天馬とてこのニッキーにはかなわぬ」
 またも背後から声がして、岡野に向かって槍が襲い掛かった。
 岡野は身をかわすが、今度は槍が右腕をかすめる。
「うわっ!」
 その衝撃で、岡野は腕から血を流しながら、床にたたきつけられた。
「岡ちゃん!」
 上田が岡野に駆け寄る。
「岡ちゃん、大丈夫!?」
「ああ、かすり傷だよ。けど、アイツのジャンプ力は厄介だぜ。ピョンピョン野郎とは段違いだ」
 その言葉を聞いて、上田が何ごとか、考え込んだ顔つきになる。
「ジャンプ力……って事は、この間のスピアーみたいに飛び回ってるわけじゃない……。だったら……」
 何か考え付いたのか、上田がニヤッと笑う。
「テッちゃん、クレイを!」
「? 分かった!」
 促されるまま、石川が懐から粘土の塊型のアイテムを取り出し、空高く放り投げた。
「来てくれ、クレイ!」

 シュパーン!

「チョ〜コック〜!」
 粘土がまばゆい光を放ち、その中からクレイが姿を現す。
「呼んだか、ボン達? ……っと、えらい暑い場所やなぁ。こんなところに呼び出されたらかなわんわぁ……」
 額をぬぐいながらクレイが言った。お忘れかも知れないが、身体が粘土でできている彼は、熱に弱いのだ。
 上田はクレイに駆け寄ると、耳打ちをする。
「あのね、こうして、こうして、そうして欲しいんだ」
「なるほどなぁ……。よっしゃ、ワイに任しとき!」
 言うなり、クレイの身体が溶けるようにして床に消えていく。
 その様子を眺めながら、ニッキーは断続的にハイジャンプを繰り返していた。
「何をしようが、無駄な事だ! 私を捕らえる事など誰にもできぬ!」
 ニッキーはとどめとばかり、ひときわ高く宙へと飛んだ。
「覚悟!」
 そのまま自由落下に乗って、凄まじい速度で降下してくる。
 だが、

 ガシィッ!

「な、なにっ!?」
 驚きの声を上げたのはニッキーの方だった。
 彼のボディは、あちこちが地面から生えた、粘土製の縄にからめとられていたのだ。
「地面と一体化しときゃ、あんさんの動きも丸わかりや! 調子に乗って墓穴掘ったな!」
 地面からクレイの目が現れて、不敵な笑みを浮かべる。
「ボン達、今や!」
「よぉ〜し、さっきの借り、きっちり返してやるぜ!」
 上田の呪文で傷を回復させた岡野が、目を閉じて拳を構える。
 握りしめた右拳に、気が収束されていった。
 岡野がカッと目を見開き、その足が、力強く床を蹴る。
 拳に気を溜めたまま、ニッキーに向かって駆けていく。
「オーラナックル!」
 岡野が拳を突き出すのと、クレイが拘束を解除して地面に潜り込むのは同時だった。
 気をまとった岡野の拳は、正面からニッキーのボディに命中する。
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 ドガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン!

 岡野の一撃を受けたニッキーは、空中高く殴り飛ばされ、工場の高い天井すれすれで大爆発を起こした。



「いやぁもう、ヘトヘト……」
「本当だねぇ……」
 ニッキーを撃退して『火の赤玉』を手に入れた一同は、クリーンファクトリーを後にする。
 日は傾き始め、空は先ほどまでの工場の中のように赤く染まっていた。
「とにかく今日は、ぐっすり寝たい」
「同感……」
 上田は力なく頷くと、テレポーの呪文を唱えようとする。
 だが……。
「上ちゃん、どったの?」
 石川の問に、上田はバツが悪そうな顔をして振り向いた。
「魔法力……切れちゃったみたい」
「えーっ!?」
 この後一同は、アーセンに迎えに来てもらう事になるのだった。
「えっと、今回の、私の、出番、これだけですか?」
 うん、そう。
「そんなの、あり!?」
 あり。

To be continued.


戻る