出た! 新必殺技
住宅地を後にした石川達は、すぐそばにある五郎川団地へとやってきていた。
ここは団地としてはまぁ平均的な規模で、集合住宅が二十棟ほど建っていた。
石川達の小学校の校区にも含まれている為、当然、彼らのクラスメイトも数多く住んでおり、彼らがこの団地を訪れるのも、一度や二度の事ではない。
……のだが。
「な、なにこれ……」
目の前にそびえ立つ建物群を見て、上田がポカンと口を開ける。
そこにあったのは、彼らがよく知っている団地ではなく、まさに『城砦』と言うのにふさわしい建造物だったのだ。
敷地はフェンスが変化したのか、高い塀に囲まれており、建物はサイズと基本的な外観こそあまり変わっていないものの、よく見ると、内部構造は全く変わってしまっていた。
おまけに敷地内の道もあちこち塞がれたり、曲がりくねったものに姿を変えており、目の前の場所へ行くにも、大きく迂回せねばならなさそうだ。
「な、なんか大変な事になっちゃってるみたいだね……」
石川達は改めて、自分達の世界に起こった変化を実感していた。
三人は慎重に、ダンジョンと化した五郎川団地へと入っていった。
この団地は住宅地の中央に塔があり、その周囲を住人用の細い道路が囲っているという造りになっているのだが、塔はそっくりそのまま、まるで団地全体を見張る監視塔のような姿になっていた。
ここに来る前に聞いた情報では、クリスタルの反応は団地の中央からしているらしい。
「よっしゃ、じゃあ、取り敢えずあの塔を目指そう!」
石川の言葉に、上田と岡野も頷く。
変異前であれば、団地の棟と棟の間の道を歩いていけば、すぐに中央塔まではやってこれるのだが、先ほども述べた通り、ダンジョン化した団地は、道はあちこち曲がりくねり、おまけに団地の建物も集合住宅ではなく、あちこちで壁が繋がったり途切れたり、さらには部屋の中に階段が出現しているなど、まるで迷路のようになってしまっていた。
おかげで石川達は、一つの棟を抜けるのに、想像以上に時間をかけねばならなかった。
「一体どうなっちゃってんだよ、これ……」
ブツクサ言いながら歩を進める一同の元に、突如人影が出現した。
「キキーッ!」
「!」
明らかに人間ではなさそうなその叫び声に、三人は身構える。
現れたのは、彼らがよく知っているモンスター……に見えたが。
「ザ……ザコ?」
眼前の相手を見据えながら、石川が怪訝な表情をする。
そう、確かに現れたのは、あの“ただのザコ”だったが、外見が少しばかり違っていた。
手足が人間並に長く、五本指を備えた手もついていたのだ。
「えーっと、どれどれ……」
上田が懐からモンスター百科を取り出し、目の前のザコらしきモンスターへと向ける。
「その本、まだ持ってたのか……」
「うん。こっちに戻ってくる時、懐に入れてたら、一緒に戻ってきてたんだ。……お、反応し始めたぞ。なになに……『ただのザコII世。ただのザコが進化して、手足を備えたモンスター。強さはI世とたいして違いませんが、手が使える分厄介です。引き続き、食材にもなります』……だって」
言い終わらない内に、ザコII世が三人に向かって飛びかかってくる。
「キキーッ!」
しかし、
「あらよっと!」
ゴス!
「キュゥ……」
アッサリと岡野の拳を顔面に喰らい、ザコII世が顔面を陥没させて床に沈んだ。
「なんだ、やっぱり見掛け倒しかよ……」
ポリポリと頭をかいて、岡野が呆れるように言った。
ザコII世を退けた一同はさらに団地の中を進んでいく。
幾つめかの棟を抜けると、団地の公園だったらしい広場に出た。
そこを、新たな敵が襲撃してくる。
「こいつらは!?」
それはシンプルな西洋甲冑に身を包んだ、兵士のようなモンスターだった。
数は三体。
鎧の色は青紫で、露出している顔は人形のような目がついただけの、シンプルな造りだった。
こんな敵は、以前トゥエクラニフを冒険していた時には会った事も無かった。
「ちょっと待って……」
再び上田がモンスター百科を取り出すと、相手に向かってそれを向ける。
すると、またしても本が薄くブーンと光を放ち、かってにパラパラとめくれていく。
「えーっと、『アーマー。魔族の城の警備用に制作されたメタルゴーレム。パワーはそこそこですが、量産型なのでそこまで強くはありません』……だってさ」
「へーっ……」
三人は身構えると、襲い掛かってくるアーマー達を迎え撃った。
百科の解説通り、パワーこそ人間を上回ってはいたものの、アーマー達の能力は、今回の冒険で最初に戦ったフゴマー達よりも低かった。
石川達のレベルこそ、リセットされて低い状態ではあるものの、あの長い戦いを経験した三人にとっては、これ位の敵はへでもない。
「メタルゴーレムなら遠慮しないぜ! うりゃーっ!」
石川のブレイブセイバーが閃き、彼に迫っていたアーマーは真っ二つになってその場に転げ落ちる。
ゼー・ライ・ヴァー・ソウ!
(閃光よ、走れ!)
「閃光呪文・バーン!」
ゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!
上田の掌から帯状の炎が飛び、アーマーを包み込む。
炎に包まれたアーマーはオーバーヒートを起こし、あっさりと崩れ落ちた。
そして、
「おらおらーっ!」
高速で岡野の拳が飛び、戦神の籠手の一撃はアーマーの装甲をまるで紙粘土のように易々と砕き割った。
「ふう。この調子なら、このダンジョンは楽勝かな……?」
剣を鞘に納めながら、石川がやや楽観的な意見を口にする。
だが、そういった慢心は、時として思わぬ苦戦へとつながる。
事実、彼らが次に戦ったモンスターがまさにそれだった。
彼らの前に現れたのは、西洋兜に短い脚が付いたようなモンスターだった。
見るからに、メタルゴーレムの一種であると分かる。
が、彼らはその外見に、また別の感想を抱いていた。
「メ、メッ○ール……?」
そう、それは彼らがよく遊んでいたテレビゲームに登場する、とあるザコ敵にそっくりだったのだ。
ただし、彼らが知っているキャラクターは西洋兜ではなく、工事用のヘルメットをかぶっていたが。
「『ヘルムート。警備用に制作されたメタルゴーレム。その強固な防御力は侮れません』だって」
上田が解説するが、岡野は楽勝とばかりに腕をぐるぐると回す。
「な〜に、どうせザコだろ。一発でぶっ飛ばしてやる。それっ!」
勢いよく拳を突き出す岡野だったが、ヘルムートはそれを見るなり、瞬時に兜の中にボディを引っ込めた。
ゴイィィィィィィィィィィィィィィィィン!
周囲に寺の鐘を打ったような音が響き渡る。
そして……。
「痛てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」
拳を元の倍くらいに腫らして、岡野が飛び上がった。
モンスター百科の記述にたがわず、ヘルムートの兜は戦神の籠手の一撃すら防いだのだ。
もっとも籠手の方にも傷一つついてはいなかったが。
「だったら、これでどうだ!」
今度は石川が、その頭部に向かってブレイブセイバーを振り下ろす。
しかし、
ガキィィィィィィィン!
岡野の一撃と同じく、これもあっさりとはじき返されてしまったのだ。
「こ、こいつ、意外と手強いぞ……」
石川が、衝撃にしびれる手をぷらぷらと振る。
「見た目で判断しちゃダメって事ですねぇ……」
「そうだね……」
それまで黙っていた錫杖がやや呆れたように呟き、上田もそれに同意する。
「マスター、ここは一つ、あなた様が……」
「おれ?」
上田は一瞬呆けたような表情になったが、すぐに頷いた。
「よ〜し、やってみるか!」
上田は構えると、いまだ兜の中にボディを引っ込めたままのヘルムートと対峙する。
石川と岡野は手をさすりながら、向かい合う両者を静かに見守っていた。
と、いきなりヘルムートが兜を上げ、上田に向かって体当たりを仕掛けたのだ。
「今だ!」
上田はその動きを予測していたかのようにしゃがみ込むと、早口で呪文を唱える。
カ・ダー・マ・デ・モー・セ!
(火の神よ、我が敵を焼け!)
「火炎呪文・フレア!」
ヴァシュゥゥゥゥッッ!
上田の掌から野球ボールくらいの大きさの火の玉が飛び出し、ヘルムートのむき出しの顔面に見事にヒットした。
「みぎゃぁぁぁぁぁぁっ!」
ドガァァァァァァァァン!
ヘルムートは悲鳴を上げると、そのまま空中で爆発を起こし、その破片が辺りに散らばった。
「上ちゃん、やるじゃん!」
感心した石川達が、上田に駆け寄る。
「さっすが、ロッ○マンやり込んでるだけはあるな!」
「褒めてんの、それ……?」
喜んでいいのか分からない複雑な思いで、上田は苦笑した。
☆
ヘルムートを倒した後、三人は外周部の道路だった道に到達していた。
アスファルトの地面は、石畳へと姿を変えている。
道幅は、ちょうど車がギリギリすれ違える程度だ。
その時である。
ファンファンファンファン……
遠くからサイレンの音が聞こえてくる。
思いもよらぬ事態に、一同は顔を見合わせた。
「これって……」
「パトカー……?」
「って事は、おれ達以外にも、この世界に残ってる人がいるって事!?」
だが、一同のそんなささやかな期待は裏切られる事になる。
前方の道路から現れたのは、確かにパトカーだった。
しかし、
「なんだ、誰も乗ってないぞ!?」
某ロボットアニメでよく聞くフレーズが、石川の口から飛び出す。
そう。驚いた石川が叫んだ通り、そのパトカーは無人だったのだ。
おまけにそのパトカーは、フロントガラスに目までついている。
これではまるで、小さな子供の絵本に出てくる“生きているパトカー”だ。
ただし、その目つきはかなり凶悪だったが。
「犯人発見! タイホ! タイホ!」
パトカーが直接言葉を発する。
「な、なんだありゃ!?」
岡野が驚愕の表情を浮かべ、上田はモンスター百科をそのパトカーに向ける。
しかし、今までと違って、百科はページがめくれるどころか、うんともすんとも言わない。
「ありゃ、どうなってんの……?」
怪訝な表情になる上田だったが、それも長くは続かない。
「タイホー!」
ブロブロブロォォォォォォォォォォォン!
そのパトカーが、エンジンをふかして突進してきたのだ。
「どわーっ!」
慌てて一同は、左右に飛んでその突進を避ける。
「ちょっ、岡ちゃん、何とかならないの!?」
岡野の方を振り返り、上田が叫ぶが、岡野も慌てて叫んだ。
「無茶言うな! いくら強くなったからって、自動車の相手なんて出来……うひゃっ!」
なおもパトカーは突進を繰り返してくる。
いくらトゥエクラニフ化の影響で肉体が強化されている彼らとは言え、まともに食らえば一巻の終わりだ。
おまけに、パトカーの進路は滅茶苦茶で、そのスピードとも相まって、攻撃を命中させる事さえ出来なかった。
これでは反撃の糸口さえつかめない。
「マスター、ここは魔法で!」
「うん!」
錫杖に促され、上田は再び構えをとった。
グー・ダッ・ガー・ハー・ゼイ・ロウ!
(大気よ、爆ぜろ!)
「爆裂呪文・ボム!」
パトカーが反転する瞬間を見計らって、上田の掌からスパークに包まれた光球が飛ぶ。
狙い通り、それはパトカーに見事に命中した。
ズガァァァァァァァァァァァァァァァァン!
爆発が巻き起こり、パトカーは爆炎の中に姿を消す。
「どうだ……!?」
緊張した面持ちでそちらを見つめていた上田だったが、次の瞬間、その表情は驚愕のためにひきつってしまう。
「タイホー……」
なんと、車体のあちこちを焦がしながらも、ほとんど無傷に近い状態で、パトカーが姿を現したのだ。
これには上田も錫杖を取り落としそうになる。
しかし、流石にダメージがあったのか、パトカーの表情は怒りのそれに変わっていた。
「公務執行妨害罪により……判決、死刑!」
ギャギャギャギャギャ!
怒り狂ったパトカーは、アクセル全開で突っ込んできた。
背後は団地の壁だ。
ブッブー! ブッブーッ!
勝ち誇ったように、パトカーが走って来ながらクラクションを鳴らす。
万事休すか!?
その時、とっさに岡野が石川と上田の腕をつかんだ。
「岡ちゃん!?」
「今だ!」
岡野はタイミングを見計らって、石川達の腕をつかんだまま、上空へと思い切り飛び上がった。
「!?」
いきなりパトカーの視界から、三人の少年の姿が消えた。
目標を見失ったパトカーの目に飛び込んできたのは、団地の壁だ。
「ぎぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」
ブレーキをかける間もなく、パトカーはその勢いのまま団地の壁へと突っ込む。
ドガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン!
激突の勢いで、辺りに凄まじい土ぼこりが舞った。
そして、土煙が晴れた時に一同が目にしたのは、大破し、もはや廃車となったパトカーの姿だった。
「あ、危なかった……」
汗だくになった額をぬぐいながら、石川は大きく息をつくのだった。
☆
<なに、そんな事が?>
石川が手にしている水晶玉から、ガダメの声がする。
よく見ると、水晶玉にはガダメの姿が映っていた。
これは三魔爪達が持ってきた魔界の道具で、二つの水晶玉を介して、遠くの相手と連絡が取れると言うものだ。
要は現代で言う携帯電話みたいなものである。
ただし、三魔爪がわざわざ持ってきたという事からも分かるように、これはトゥエクラニフでも貴重なアイテムであり、一般人でその存在を知っている者はほとんどいないと言っても差し支えなかったが。
<確かに、君たちの言う特徴を持ったモンスターなど、地上や魔界でも、見た事も聞いた事も無いが……>
水晶の中のガダメは、腕を組んで考え込む。
そこへ、横からサクラが顔を出した。
<これは私の推測なんですけど……もしかしたら、この世界がトゥエクラニフ化した現象がそのパトカーっていう鉄の馬車にも影響したのではないかと……>
「つまり、建物や道路なんかがトゥエクラニフ化したのと同じように、自動車がモンスターになっちゃったって事?」
<はい>
上田の問いに、サクラがこくりと頷く。
「成程ねぇ……」
思った以上の事態に、一同は新たな不安を抱く。
それはそれとして、例のパトカーが変化した新種のモンスターには、『暴走パトカー』と名前が付けられたのだった。
三人はさらに歩を進めていく。
途中、さらなるモンスターの妨害をも退け、一同はついに管理塔までたどり着いたのだった。
「ようやく到着だねぇ……」
ここまでの苦労を思い返しながら、上田がため息をついた。
ダンジョン化した団地の探索は、彼らの予想を超える大仕事だったのだ。
三人はこれまでの道のりを噛みしめるように、塔に近づいていく。
その時だった。
「そうはいかん!」
叫び声と共に、彼らの眼前に着地した者がいた。
それは身長が2メートル近くある、大柄なメタルゴーレムだった。
全身を黒を基調とした、戦国時代の武者のような甲冑で包んでいる。
右腕は、先端が三日月のように湾曲した、薙刀のような武器を握っている。
左腕は右腕に比べて肥大化しており、指には鋭い爪を備えていた。
その肩鎧には『金』という字に似た紋章が描かれている。
「我が名は魔衝騎士・ゴールディ! この塔に眠るクリスタルと、お前達の命をもらい受けるために参った!」
「魔衝騎士!? ゴールディ!?」
「このダンジョンのボスってわけか……!」
ゴールディと真正面から向き合い、三人はそれぞれの武器を構える。
「うおりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
薙刀を振りかざして、ゴールディが突進してくる。
振り下ろされた薙刀を、三人は三方向に散って避け、宙を切った薙刀は彼らが数秒前までいた地面を砕いた。
「たぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
地面を蹴り、石川がゴールディに向かってブレイブセイバーを振り下ろす。
しかし、
ガキィィィィィィィィィィン!
「えっ!?」
その一撃は、ゴールディの左手によって受け止められていた。
「ふんっ!」
そのままゴールディはブレイブセイバーの刃を掴み、石川を力任せに投げ飛ばした。
「うわっ!」
投げ飛ばされた石川は、したたかに背中を地面に打ち付けてしまう。
「痛たたたた……」
背中をさすりながら立ち上がる石川に上田が駆け寄ると、すかさずヒールの呪文を唱える。
暖かい光を感じながら、石川の背中から痛みが消えていった。
「大丈夫、テッちゃん?」
「ああ、サンキュー!」
石川は体勢を立て直すと、上田と共にゴールディの方に向き直った。
そこでは、岡野がゴールディに向かって殴り掛かっていたが、ゴールディの方が薙刀を持っている分リーチが長く、どうしても攻めあぐねている。
「ふっふっふっふ。一振りの元に、その首をはねてやるわっ!」
「岡ちゃん!」
すかさず上田がバーンの呪文を唱える。
メタルゴーレムなら、火炎系の呪文でオーバーヒートを起こせると判断したのだ。
だが、ゴールディに向かった帯状の火炎は、やはりその左手で受け止められていた。
「うっそー!?」
「ふふふ、そんなもの、オレには効かんぞ!」
不敵な笑みを浮かべ、再びゴールディが薙刀で斬りかかって来た。
三人はそれを避けるので精一杯だ。
ゴールディは左腕だけでなく、全身を覆う鎧も強固であった。
その鎧に阻まれ、有効な打撃を与える事が出来ないのだ。
三人はその熾烈な攻撃から逃げながら、必死になって作戦を練る。
「ど、どうする!? このままじゃおれ達、逃げるのに疲れてやられ……どわっ!」
石川の頭上をかすめた薙刀の一撃は、彼の向こうにあった植木をバッサリと切断していた。
「魔法もダメ、打撃もダメ、一体どうしたら……ひえっ!」
上田のその言葉に、石川がハッとなる。
もしこれがコミックだったら、彼の頭上で電球がパッと光っていただろう。
「魔法……打撃……打撃と魔法……。そっか! 閃いた!」
「閃いたって、何を!?」
「見てて!」
石川は振り返ると、ゴールディに向かって剣を構える。
「ふふふ、観念したか!」
勝ち誇ったように、ゴールディが薙刀を振り下ろした。
石川はその一撃を避けると、ゴールディに斬りかかる。
その一撃も、今までのように強固な鎧に阻まれる……と思われたのだが。
ザシャッ!
「何ィッ!?」
ゴールディの目が、驚愕のために見開かれた。
石川の剣の一撃で、ゴールディの肩鎧がざっくりと大きく裂けていたのだ。
「こ、これは……」
その場にいた全員が、驚きの声を上げる。
なんと、ブレイブセイバーの刀身が、炎で燃え上がっているのだ。
「テッちゃん、それ!?」
「やった、成功だ! 魔法も打撃もダメなら、両方を合わせてみたらどうかと思ったんだけど……うまくいった!」
ブレイブセイバーの刀身で燃えている炎は、フレアの呪文で発生させたものだった。
なんと、石川はぶっつけ本番で魔法剣を成功させてしまったのだ。
「これなら行ける! たぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
石川は燃えるブレイブセイバーを構え、真っすぐにゴールディに向かって走り込んでいく。
「バカめ! カウンターでバラバラにしてくれるわ!」
ゴールディも薙刀を構え、石川を迎え撃つ体制をとった。
「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
ガキィィィィィィィィィィィィィィィィィィン!
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
乾いた金属音とゴールディの悲鳴が響き渡って、その背後に石川が着地した。
石川が横に薙ぎ払った一撃は、ゴールディの胴体を見事に両断していたのであった。
次の瞬間、
ズガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン!
ゴールディのボディが大爆発を起こし、辺りにその破片が降り注いだ。
「ふへぇぇぇぇぇぇ……なんとか勝てたな……」
石川は肩で大きく息をすると、火を消したブレイブセイバーを鞘に納める。
「すっごいじゃん、テッちゃん!」
「土壇場で必殺技を編み出しちまうなんてなぁ!」
上田と岡野が、息を弾ませながらかけてくる。
「昔、ド○クエのマンガで主人公が同じことやってたの思い出してさ。出来るかなぁ〜って思って試してみたら……出来ちゃった♪」
あっけらかんと言う石川に、上田と岡野は思わずつんのめる。
「ところで、その技の名前、決めてるの?」
「そうだなぁ……火炎の斬撃だから……『火炎斬』って名前にしよっかな」
「んな安直な……」
思わず汗ジトになる上田であった。
☆
一同は一休みすると、塔を上がっていく。
中は階段があるだけで、今までと違い、モンスターなども出現しなかった。
これもクリスタルの影響か……?
そんなことを考えながら、一同は一番上の階に到達した。
扉を開けると、そこは四畳半ほどの部屋になっており、部屋の中央には石でしつらえた祭壇があった。
その上に、上田が拾ったものと同じ、ゴルフボールくらいの大きさの、正十二面体のクリスタルが載っていたのだ。
色は黄色。
「『土の黄玉(グランド・シトリン)』だ!」
三人は目を輝かせると、祭壇の上のクリスタルを手に取る。
その途端、
シュォォォォォォォォォォォ……
クリスタルから黄色い光が飛び出し、三人を包み込んだ。
やがて光は収まり、輝きを失ったクリスタルは、石川の手の中で冷たくなった。
「取り敢えず、二個目のクリスタルゲットだね」
石川が嬉しそうにクリスタルを掲げ、岡野達も力強く頷いた。
「さ、帰ろう!」
三人は意気揚々と五郎川団地を後にすると、帰路に就く。
(必ずこの世界を元に戻して見せる!)
改めて、そう心に強く誓いながら。
To be continued.
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