大ピンチ! 対決、三魔爪!

「アングラモンまでも敗れ去っただと……?」
 スパイドル城の玉座の間で、配下から報告を受けたスパイドルナイトが静かに呟いた。
 彼の眼前には、ガダメ達がそろって跪いている。
「はっ。申し訳ございません。奴らの敗北の咎(とが)は私が責任を……」
 三人の中央にいたガダメが、深々と頭を下げる。
 前回の言葉通り、ガダメは部下たちの敗北の責任をとる覚悟があった。
 だが――
「……ガダメよ。貴様にその意思があるのであれば、自身が直接始末をつけてはどうだ?」
「はっ……?」
 主からかけられた意外な言葉に、ガダメは頭を上げる。
「貴様自身が出撃せよ、と言うのだ。不服か?」
「とんでもない事です! 奴らの首、必ずや私めが……!」
 再びガダメが深々と頭を下げる。
 そこへ、
「お待ちを」
 クレイとアーセンも、言葉を続けた。
「ガダメはんばっかりに、エエかっこはさせまへん。そういう事なら、ワイにも出撃させて頂けまへんやろか?」
「私も、クレイと、同意見です。スパイドルナイト様、どうか、出撃の、御許可を」
「……よかろう。スパイドル軍三魔爪(さんまそう)の名に懸けて、見事、異世界の少年たちを討ちとってみよ」
 そこまで言うと、スパイドルナイトの姿が闇に溶け込むようにして消え、後には玉座だけが残った。

「お前達、どういうつもりだ?」
 スパイドルナイトの姿が消えた後、ガダメはクレイとアーセンに問いただしていた。
「言葉の通りや。一人で責任とろうやなんて、カッコつけすぎやで?」
 軽い調子でクレイが肩をすくめる。
「クレイの、言う通りです。私達は、三人そろってこその、三魔爪なのですから」
 相変わらず無表情で抑揚のない口調ながらも、アーセンもクレイの言葉に同意するように頷いた。



 さて、その頃、石川達はブクソフカ大陸に到着していた。
 ハサキヒオ大陸よりも南にあるという事もあってか、今までよりも少し温暖な気候であった。
 別れの挨拶は手短だったが、石川達は、ミオクとまた絶対に会おうと約束して別れた。
「頑張れよ。お前らなら、絶対に元の世界に帰れるって信じてるぜ!」
 ミオクは豪快に笑いながら、三人を送り出したのだった。
 三人が船を下りたブッコフタウンは、ブクソフカ大陸では海に面している北側の街で、この世界での出版物の7割を担っているという、一大製本都市だった。
 数多くの出版社が本部を置き、町の中心には大きな図書館まであった。
 上田は今までに無いくらい目をキラキラさせて、ハイテンションになっている。元々インドア派で本好き少年の彼からすれば、当然と言えば当然か。
「わー、すげぇ! この世界にも出版社ってあるんだ! 漫画とかあるのかな? お、そこの本屋、いい感じ……」
「おい」

 ゴン!

「あいた!」
「落ち着けよ、上ちゃん……」
 あきれ果てた岡野に、上田は後頭部をど突かれる。
「ててて……。いって〜な、ぶつこと無いじゃんよ……」
 後頭部をさすりつつ、先頭に立って上田が歩を進める。
 が、後ろに居る岡野達の方を向いていたため、前方への注意がおろそかになっていた。
 案の定、

 ドンッ!

「きゃっ!」
 彼らは前から歩いていた相手とぶつかってしまったのだった。
「あ〜あ……」
「何やってんだよ、上ちゃん……」
「うるさいなぁ、もう。……っと、そんな場合じゃなかった。すみません、大丈夫ですか?」
「いえ、こちらこそ……」
 道端に尻もちをついている相手は、石川達と同年代に見える、小柄な女の子だった。
 長い黒髪を左右で二つに分けて三つ編みにし、眼鏡をかけている。
 大人しそうな雰囲気の、可愛らしい少女だった。
「すみません、よそ見してて……」
 少女に手を貸し、立ち上がるのを助けながら上田が頭を下げた。
「気にしないで下さい。私もこの子を追いかけてて、前を見てませんでしたから……」
「ん?」
 三人が地面に目をやると、彼女の足元では、小型の愛玩動物が尻尾を振っていた。
 それは現実世界の犬とほぼ同じ外見をしている。ただし、頭に小鳥の嘴のような小さな角が二本生えていたが。
「私はサクラ・クレパスって言います。この子はクーピー」
「あ、おれは石川。石川鉄夫」
「おれは上田倫理」
「おれは岡野盛彦」
「珍しいお名前ですね……」
「あ、まぁ、うん……」
 怪訝な表情をするサクラに、石川達はポリポリと頭をかく。
「実はおれ達……その、遠くの国の出身なんだけど、事故でこっちの方に飛ばされちゃって。自分達の家に帰るために旅をしてて……」
 上田が切り出した。
 いきなり「異世界からやって来た」なんて言っても信じてもらえないだろうと思い、表現を濁したのだ。
「そうなんですか……。大変ですね」
「それでさ、この街で調べものをするのにいい場所ってあるかな?」
「それだったら、図書館がいいと思いますよ。私も良くそこで調べ物をするんですけど、学者さんも利用するくらい、色々な本があるんです。良かったら、案内しましょうか?」
「うん、是非お願い」

 三人はサクラに連れられて、図書館の前に来ていた。
 それはかなり大きな建物で、ちょっとしたショッピングモールくらいの広さはある。
「でっけぇ〜……」
 その建物を見上げながら、感心したように上田が呟いた。
「なんか、目眩してきた……」
 岡野が頭を押さえる。
「でもまぁ、ここなら……これを解読出来るかも」
 そう言いながら、上田がナップザックからおにぎり山で手に入れた粘土板を取り出した。
「随分古そうな物ですね……。これって……古代アッタノカ文明の文字に似てるような……」
「え、サクラちゃん、知ってるの!?」
「あ、はい。私も詳しくはないんですけど、前に学校の調べ物で図書館を使った時に、見たような……」
「マジで!? ちょっと教えて!」
「は、はい」
 サクラに案内された場所は、図書館の歴史書を収めたコーナーだった。
 ここも見渡す限り、本、本、本の山だ。
 天井まで届く本棚には、様々な色の、本の背表紙が見える。
 立ち並ぶ本棚に、石川と岡野は圧迫感さえ感じていた。
 それに気が付いたのか、上田が二人に向かって言う。
「ねぇ、テッちゃん、岡ちゃん。調べものはおれがやっとくからさ……二人は宿屋でも探しててよ」
「え、でも……」
「いーのいーの。どうせ宿屋は探さなきゃいけないんだし。それに、新しい武器やら何やらもあるかも知れないじゃん?」
 上田がニカッと笑う。
 石川達も、笑い返すと頷いた。
「分かったよ。じゃあ、お願い」
「あ、じゃあ、私が町を案内しますよ」
 サクラがガイド役を引き受け、石川達は宿探しも兼ねて、街に出て行くのであった。

 上田はまず、この世界の基本常識から調べる事にした。
 考えてみれば、この世界の文字などは何故か読めるようになっていたものの、一般常識については、これまで調べる機会が無かったからだ。
 まず、この世界は現実世界と違って、一週間が八日で構成されている、という事だった。
 すなわち、光曜日から始まって、風曜日、火曜日、水曜日、木曜日、金曜日、土曜日、そして闇曜日、という具合だ。
 そして、一ヶ月はおおよそ三五日前後で構成され、一年は十カ月という事だった。
 地球よりも、わずかに一年のサイクルが短いらしい。
 次に上田が調べたのは、この世界での数勘定だった。
 長さは『シャグル』という単位を基本とし、これは現実世界での約三・五メートル位にあたる。
 十分の一シャグルが『一スーセ』という事だったが、キロメートルにあたる単位は無いようであった。
 重さについては、『一カーグ』が約二・五グラム、『一ギカラ』が約二・五キログラムという事だった。
 液体の単位は『リゴク』のみが確認され、これは現実で世界の約一・四リットルに相当していた。
「なるほどねぇ……」
 上田が読んでいた本を机に置いてため息をつく。
 そして、傍らに置いてあった缶コーヒーを飲み干した。
 前回も言ったが、この世界にも缶ジュースやら自販機と言うものは存在しているのである。
 なお、彼が読んでいたのは『よいこの数と数え方』という本だった。
 明らかに児童どころか幼児向けの書籍ではあるが、だからこそ、この世界が初めてである上田でも理解しやすく書いてある。
 今度はこの世界について書いてある本を開く。
 この世界は、今、彼らがいるブクソフカ大陸や、彼らが最初に目覚めたハサキヒオ大陸のほか、はるか遠くにはポルカサテメネ大陸といったものもあり、それぞれがだいたい一つの国になっている、ということだった。
「やっぱり、おれらの世界とは色々違うんだなぁ……。メモメモっと……」
 調べた内容をノートに書き留めながら、上田はようやく歴史書を手に取った。
 これもやはり、子供向けの歴史の教科書的な物であった。
「随分と熱心に調べ物をされてますねぇ」
 机の両脇に本を積んでいる上田を見て、この図書館の司書であるテキスト・ノートが声をかけた。
 彼は眼鏡をかけて知的な紳士で、彼自身も常に本の束を抱えている。
「はい、ちょっと詳しく調べないといけない事があって……」
 椅子に座ったまま、上田が苦笑しながら答える。
「探し物が見つかると良いですね」
 テキストは、人好きのする微笑みを浮かべて立ち去った。
 上田はその背に向かって、軽く会釈をする。
「さてと……」
 上田は腕まくりをすると、気合を入れて歴史書と向き合うのだった。

 一方、石川と岡野は、サクラに連れられて繁華街の方に来ていた。
 丁度お昼を過ぎていたので、彼らは近くにあった喫茶店に入った。
 このブッコフタウンは、本の町という事もあってか、サンドイッチが名物だった。
 本を読みながら、片手でも食べられるからだ。
 石川達は、あぶった魚の燻製を挟んだサンドイッチと、スライスした炒めザコを挟んだサンドイッチを注文し、上田の為に同じものをテイクアウトで包んでもらった。
「場所が違っても、サンドイッチはあるんだね……」
 奇妙な感覚を覚えながら、石川がつぶやく。
 岡野も同じ思いを抱きながら、サンドイッチを口に運んだ。
 もっとも、現実世界には炒めたザコを具材にしたサンドイッチなどありえないが……。
「ん、美味い」
 炒めザコのサンドイッチをかじった石川が、思わず舌鼓を鳴らす。
 以前、キノコノ村で食べた焼きザコも美味だったが、こちらの炒めたザコの身も、焼いた時とはまた違う、なんとも言えない香ばしさがあった。
 さらに細かく薄切りにされた身が、パンと実にマッチしていた。
 かんだ時に、パンにしみ込んだうま味が、じわりと口の中に広がる。
「そんなに遠い場所なんですか? 皆さんの故郷って……」
「まぁね。いきなり雷に打たれてさ、気が付いたらハテナ町にいたってわけ。信じられる?」
「そんな事が……」
 サクラの顔に驚きの表情が現れる。
 さすがにこの世界でも、稲妻に打たれて別の場所に運ばれることなど前例が無いようだ。

 日も暮れる頃、四人は街の中央にある、図書館横の時計台の前で落ち合った。
「それで……どうだったん、収穫の方は?」
 岡野が訪ねると、上田はかぶりを振る。
「いやぁ、いろいろ調べてはみたけどね……。まだようやく、この世界の一般常識がわかってきた、ってくらいかなぁ……」
「そっか……」
「しょうがない。何日かこの街に泊まって、調べてみるしかないか」
「そうだね」
 石川の提案に、上田と岡野も頷く。
 三人はサクラに礼を言って別れると、予約していた宿に入った。

 翌日から、上田は図書館に通って調べ物を続けた。
 石川と岡野の方は、上田を手伝ったり、町の外に出て経験値と路銀を稼ぐため、モンスターと戦闘をしたりしていた。
 そのおかげか、二人の腕前はアングラモンと戦った時からさらに上がった。
 上田の方も、調査の過程で調べた呪文の本を読み、その後に実際に練習する事で、新しい魔法をいくつか使いこなす事が出来るようになっていた。
「ふう……」
 本を机に置いて、上田が目頭を押さえる。
 目をシパシパさせて、一息ついた。
 現実世界に居た頃ですら、ここまで熱心に調べ物をしたことは無かっただろう。
 元の世界に帰りたいという思いと、この世界に対する好奇心が、上田に驚くほどの集中力を発揮させていた。
 そして、この頃には、上田もある程度はこの世界の本格的な本も読めるようになっていた。
 そこへ、
「お疲れ様です」
 スッと、上田の机にサンドイッチの包みが置かれる。
「サクラちゃん……。来てたんだ」
 包みを置いたのはサクラだった。
「はい。学校の宿題で、調べ物があって……」
「ふ〜ん、学校か……」
『学校』という単語に、上田が元の世界のことを思い出す。
(今頃、向こうじゃどうなってんだろ……。『校庭に落雷。小学生三人が行方不明』とか、ニュースになってなきゃいいけどなぁ……)
 そんな上田の意識を引き戻したのは、サクラの声であった。
「上田さんは、勉強は好きなんですか?」
「おれ? 国語と図工と音楽は好きだけど、全般的にはあんまり好きじゃないかなぁ。特に体育と算数。そんなに悪い成績は取ってないけどね……」
 苦笑しながら、上田が言った。
 それに対して、サクラがハテナマークを浮かべた顔になる。
「図工……?」
「ああ、物を作ったり、絵を描いたりする授業だよ」
「ああ、美術のことですね!」
 納得したように、サクラがポンと手を打つ。
「サクラちゃんは、何の宿題?」
「あ、はい。世界史を簡単な表で作ってくるっていうものなんですけど」
「だったら、これ使ったら?」
 上田が机に置いていた本をサクラに手渡す。
「有難う御座います」
 サクラは本を抱えると、ニッコリと笑って上田に向かってペコリと頭を下げた。

 その日の夕方、上田とサクラは連れ立って図書館を後にした。
 やや呆れたようにテキストが「閉館時間ですよ」と声をかけた時、館内に残っていたのは彼らだけだった。
 二人そろって、閉館時間まで調べものに没頭していたらしい。
 上田がこの町に来てから買ったばかりのノートなど、既に半分以上のページが埋まってしまっている。
 サクラの口から突然質問が飛んだのはそんな時だった。
「上田さんって……歌とか好きなんですか?」
「へ? なんで?」
 いきなりの予想だにしない問いかけに、上田は素っ頓狂な声を出す。
「いえ……。音楽が好きって言ってたから。それによく、鼻歌を歌ってるし……」
「ああ、そうなんだ。あんまり意識してなかったけど」
『なくて七癖』――とはよく言ったものだ。
「上田さん達の故郷では、どんな歌があるんですか?」
「どんなっつってもね……」
 上田が困ったような表情になった。
 彼は歌謡曲には疎い。と言って、アニメソングを紹介するのもなぁ、と思われた。
 もっとも、どちらを説明したところで伝わるとも思えなかったが……。
「そうねぇ……例えば、こんなのかなぁ」
 考えた末に彼がちょっと歌ってみせたのは、音楽の授業で習った『夢の世界を』という曲だった。
 例として出すには、それこそ学校の授業で習うような曲が一番当たり障りが無いだろう。
「ほほえみ〜、交わして〜、かた〜りあい〜♪……」
 サクラは黙って上田が歌うのを聞いていたが、彼が歌い終わると微笑んだ。
「いい歌ですね」
「あんまり上手く歌えてないけどね……。おれもこの曲は結構好きかな」
「石川さん達からも聞いてみたんですけど、お話を聞いてたら、いつか、私も皆さんの国に行ってみたいなぁ、って思っちゃいました」
 サクラがニコリと無邪気に笑う。
 そこには上田達が住む現実世界に対する好奇心が見て取れた。
「おれらの国か……そうね、来れたらいいけどね……」
 対してわずかに上田の表情が曇る。
 結局のところ、自分たちと彼女たちは、別の世界に住む人間なんだよなぁ、という事を上田は改めて実感していた。
 十字路で挨拶を交わし、二人はそれぞれ分かれて帰路に就いた。



 それからまた数日。
 その日は珍しく、三人そろって図書館で調査を行った。
 たまたま朝から雨が降っていたからだ。
 三人は閉館時間まで調べ物をすると、宿への帰路に就いた。
 いつの間にか雨は上がっていて、空には雲の間から夕日が見えていた。
 もともと、温暖な気候という事もあって、雨上がりの風は涼しくて心地よかった。
 その時だ。
「!?」
 すさまじい殺気を感じて、三人は身構えた。
 殺気はどんどん近づいてくる。
「上ちゃん、岡ちゃん」
 石川が二人に目配せすると、二人は頷き、一同は走り出した。
 三人が路地を駆け抜けていく様子を、たまたま道を歩いていた者が目にしていた。
「倫理さん達……。どうしたのかしら?」
 言うまでもなく、石川達の後を追ってきたサクラだった。
 サクラは、三人の様子にただならぬものを感じ、こっそりと後を追いかけて行った。

 三人は、町はずれの空き地にたどり着いた。
「ここなら、誰も来ないな……」
 石川はそうつぶやくと、周りを見回して叫んだ。
「いるんだろ!? 出て来いよ!」
 石川の叫びに呼応するかのように、周囲の空間が歪み、三人の人影が現れる。
 屈強な肉体を持った隻眼の戦士。両腕が埴輪と土偶になった土人形の戦士。そして、手足の生えた粘土のような戦士。
 三魔爪だった。
「誰だ……?」
 明らかに今までの相手とは格の違う様子に、呆然と石川が口を開く。
 答えたのはガダメだった。
「スパイドル軍三魔爪……。もっとも、ウインドリザードやアングラモンの上司と言った方がわかりやすいかな?」
「ウインドリザードやアングラモンの上司!?」
 六人の視線が絡み合った。
「異世界の少年たちよ、お前達に恨みは無いが、いずれお前たちは我らが主の障害となりうるのでな……。すまんが、消えてもらうぞ」
 あくまで生真面目な表情を崩さずにガダメが言った。
「!」
 石川達は無意識のうちに戦闘態勢をとる。
 油断していたら、一瞬のうちにやられる――本能的にそう悟ったのだ。
「行くぞ!」
 ガダメの声とともに、三魔爪達が石川達にとびかかる。
 同時に石川達も地面を蹴っていた。

 物陰から、彼らの会話を聞いて、衝撃を受けていた人物がいる。
(倫理さん達が、異世界から来た……?)
 言うまでもなく、石川達の後を追ってきたサクラだ。
 彼女もこの世界に伝わる伝説は聞いてはいたものの、それが現実に起きるなどとは考えていなかったのである。

 さて、石川達は、それぞれ一対一で三魔爪と対峙していた。
 石川はクレイと、上田はアーセンと、岡野はガダメと向かい合っている。
 三人はとっさに相手が得意としているであろう戦法にあたりをつけ、それぞれの得意分野で迎え撃とうと考えたのだ。
「ほな、行くで!」
 クレイの両腕が、石川に向かって蛇のように一気に伸びる。
「うわっ!」
 思いもよらぬ攻撃に、石川はそれを転がってよけると、剣を振りかぶった。
「たぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 ザシュッ! スパッ!

 剣が一閃し、クレイの両腕が宙に飛んだ。
「あ痛〜ッ!」
 両腕を切り飛ばされたクレイが、大げさなほどに悲鳴を上げる。
 だが――
「……なんちゃって♪」
 次の瞬間、その顔には余裕の笑みが浮かんでいた。
「ふんっ!」
 クレイが気合を入れると、切り落とされた両腕がすぐにピタッと元通りにつながる。
 傷跡すら残っていなかった。
「ええっ!?」
 愕然となって、石川が驚いた声を出す。
「ワイの身体は粘土で出来とるんや。剣で斬ったくらいじゃかすり傷にもならへんで」
 クレイは得意げに笑うと、長く伸びた腕を振り回す。

 ドガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
 その腕はまともに石川の胴体をとらえ、石川は大きく吹っ飛ばされていた。

 ディ・カ・ダー・マ・モウ・バッ・ダ!
(火の神よ、猛火の裁きを!)

「火炎呪文・メガフレア!」
 突き出した上田の拳から、サッカーボール大の火球が飛び出し、アーセンに向かう。
 が、

 ゲキ・カ・ダー・マ・ジー・バツ・メイ・ガー!
(火の神よ、その炎で焼き尽くせ)

 アーセンの口から静かに呪文が紡ぎだされる。
「火炎呪文・ギガフレア!」

 ゴワァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!

 次の瞬間、右腕の土偶の目が光り、そこからメガフレアを上回る巨大な火球が飛び出した。
「うわっ!」
 アーセンのギガフレアは、上田のメガフレアを軽々と打ち消し、上田へと迫る。
 とっさに上田は自身の動きを速める加速呪文・ファストを唱えてその火球をよけたが、もしまともに食らっていたら、今頃は消し炭と化していただろう。
「ひぇぇぇぇ……」
 上田の額を嫌な汗が流れ落ちる。
「くっそー! じゃあこれならどうだ!」

 グー・ダッ・ガー・バク・レイ・ゲム!
(大気よ、唸り弾けろ!)

「爆裂呪文・ボンバー!」
 上田の掌から、無数のスパークに包まれた光球が飛んだ。
 しかし、またもやアーセンの口から呪文が飛ぶ。

 グー・バク・ゴウ・ゲレム・ガルム・バング!
(大気よ、全てを砕け散らせたまえ)

 アーセンの両腕に、凄まじいスパークが巻き起こった。
「極大爆裂呪文・ボンベスト!」
 アーセンが両腕を合わせると、そこから凄まじいエネルギーの塊が飛び出した。

 ドガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン!

「どわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
 その凄まじい爆風に、上田の身体は木の葉のように吹っ飛ばされていた。
「そんな、未熟な、呪文では、私の、身体には、傷一つ、つけられませんよ」
 いつもの仮面のような表情のまま、アーセンは淡々とつぶやいた。

「うりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「でぇいやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
 一方、岡野とガダメはすさまじい格闘戦を展開していた。
 その様子は、はたから見ているとまさに格闘漫画のようである。
 両者とも残像が残る速さで拳を打ち合い、お互いの攻撃をさばいている。
 素人目に見ても、二人には一部の隙も無かった。
 だが、
「もらった!」
 突如、ガダメの回し蹴りが飛ぶ。
「くっ!」
 虚を突かれた形となった岡野は、とっさに腕を突き出していた。

 ガシャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン!

「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
 岡野は大きく蹴り飛ばされて地面に転がった。
「くっ……」
 ガダメの蹴りを受けた左腕に凄まじい激痛が走る。
 どうやら骨にヒビが入っているらしい。
 だが、腕で受けていなければ、岡野の頭は今頃胴体から離れていたことだろう。
 岡野は急いでヒールの呪文を唱え、左腕の傷をいやす。
 上田や石川よりも魔法の力では劣るが、それでも何もしないよりはましだった。
 岡野は体勢を立て直すと、キッとガダメを睨みつける。
「ほほう、子供にしては、なかなか根性があるな。それでこそ救世主よ!」
 岡野の闘志に、ガダメも嬉しそうに笑みを浮かべた。
「だが、容赦はせんぞ! でやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
 岡野に向かってガダメが飛び蹴りを放つ。
 まるでミサイルのように迫ってくるガダメの一撃を、岡野は腕をクロスさせて受け止めた。

 ドガガガガガガガガガガガァァァァァァァッ!

「ぐうっ!」
 確実に受け止めたはずの岡野の身体が、十数メートル吹っ飛ばされる。
 だが、今度は意識を腕に集中させていたため、大ダメージまでには至らなかった。
 もっとも、その凄まじい威力のため、両腕にはしびれが残ってしまっている。
「ちっ……」
 力が入らない両腕を見て、岡野が舌打ちをした。

「ほれ、もいっちょ行くで!」
 再度クレイの腕が飛び、石川を襲う。
「くっ!」
 石川は剣をかざして受け止めるが、衝撃で大きく吹き飛ばされる。

 ガシャァァァァァァァァァァァァン!

「ぐううっ!」
 地面にたたきつけられ、一瞬、石川は息が詰まった。
「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「うぐぅっ!」
 そこへ上田と岡野も転がってくる。
「上ちゃん! 岡ちゃん!」
「痛ってぇなぁ……」
「あちちち……」
 二人とも大きなダメージを負っているのは明らかだった。

 カイ・ディー・ユ・ギー・ナッ・セ!
(癒しの神よ、優しき手で包み込みたまえ)

 上田が立て続けにヒーラーを唱えるが、焼け石に水だ。
「くっ……」
 この時、三人の中に、共通の感情が沸き上がっていた。
 身体が震え、背筋に悪寒が走る。
 不安とはまた違う、その感情――
 そう、それは“恐怖”だった。
 今までの戦いを何とか切り抜けてきた三人が久しく感じていなかった思いだ。
 無理もなかった。
 戦いに慣れてきたとはいえ、彼らはまだ、十歳かそこらの小学生なのだ。
 いつの間にか、彼らの眼前にガダメ達が立っていた。
 三人はキッとガダメ達を睨みつけるが、今の彼らに出来る事はそれだけだ。
 これまでの敵とは別次元の強さを持つ相手に、彼らの戦意はほぼ喪失しかけていたのだ。
「ここまでのようだな。せめてもの情け、苦しまぬように終わらせてやる」
 ガダメがゆっくりと三人に近づいていく。
 石川達はギュッと目をつぶった。
(おれ達、元の世界に帰れないでやられちゃうのかよ……)
 だが、その前に飛び出した者がいた。
「待って下さい!」
 サクラだった。
 彼女は震えながらも、両手を広げてガダメ達の前に立ちふさがり、真っすぐに彼らを見据えている。
 ガダメは一瞬、驚いたような顔をするが、あくまで生真面目に言った。
「娘、その三人とどんな関係があるのかは知らぬが、どいていろ。無関係な者を傷つける気は無い」
 だが、サクラはあくまで石川達の前から動こうとはしなかった。
「嫌です! 例え私に何も出来なくても、友達が傷つけられるのを、黙って見ているなんて出来ません!」
 必死に恐怖と戦いながら、彼らの前に立つサクラの表情に、ガダメは感心したようにつぶやいた。
「見上げた娘だ。……仕方あるまい、アーセン」
「はい」
 ガダメに促され、アーセンがサクラに向かって左腕を突き出す。
「少し、眠っていて下さい」
「あ……」
 その埴輪の目が光ったかと思うと、フッとサクラの意識が遠くなり、その場に昏倒する。
「サクラちゃん!」
「お前、一体何を!?」
 慌てて石川達は、サクラに駆け寄った。
 意識は失っているが、どこも傷ついた様子はない。
「安心して下さい。眠ってもらっただけです。私たちとて、女の子を、傷つけるのは、気が引けますからね」
「サクラちゃん……」
「ったく、無茶すんだから……」
 サクラの顔を見て、石川達が苦笑する。
 そして三人はサクラを空き地の隅まで運ぶと、三魔爪達と向き合った。
「ほう……」
 ガダメがどこか嬉しそうな声を漏らした。
 彼らと対峙する石川達の表情から、怯えが消えていたのだ。
 サクラの勇気ある行動が、彼らの恐怖心を吹き飛ばしていた。
「何やってたんだろうな、おれたち」
「うん。あんなんじゃ、元の世界に帰るなんて絶対できないよね」
「ああ!」
 三人は深呼吸する。
 と、おもむろに上田が言った。
「二人とも。おれ、気づいた事があるんだ。アイツら、個々の能力じゃ、おれ達より遥かに上だ。力に力、魔法に魔法で戦っても絶対に勝てない」
「じゃ、どうすんだよ?」
 怪訝な表情で岡野が問う。
「だから、むしろ違った能力で立ち向かった方がいいと思うんだ」
「そっか、長所で対抗してもダメってことか」
「よし、その手で行こう!」
 三人はさっと分かれると、それぞれ先ほどまでとは異なる相手と対峙する。
 石川はガダメに、上田はクレイに、岡野はアーセンへと向かっていった。
「ふふん、相手を変えるか。面白い、受けて立つぞ!」
 ガダメが地面を蹴り、石川に向かっていく。
 その手には、柄の両端に爪のついた武器が握られている。
「でぇやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
 ガダメの繰り出した爪を、石川は手にした剣で受け止めた。

 ガキィィィィィィィィィィィィィィィィン!

 剣と爪が火花を散らし、周囲に耳障りな金属音を響かせた。
「うりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
 ガダメが振り下ろした爪を、石川は飛び上がってよける。
「何っ!?」
 飛び上がりながら、石川は素早く呪文を唱えていた。

 グー・ダッ・ガー・バク・レイ・ゲム!

「爆裂呪文・ボンバー!」
 眼下のガダメに向かって、石川が掌を突き出した。
 完全にガダメのタイミングを狂わせた呪文は、その顔面にまともに炸裂する。

 ドガドガドガガガガァァァァァァァァァァァン!

「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 ヴェルク・シー・レイ・ウェン・ザー・ザム!
(風の神よ、その羽根で切り裂け!)

「真空呪文・トルネード!」

 ゴォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!

 上田のかざした掌から、真空の渦がクレイに向かって飛ぶ。
 竜巻はクレイの身体をとらえ、動きを封じる。
「はん、この程度の竜巻で、ワイを吹き飛ばせると思っとるんか!?」
 相変わらず余裕の笑みを浮かべるクレイだったが、その間に上田は次の呪文を唱えていた。
 加速呪文の効果がまだ残っていたのだ。

 ディ・カ・ダー・マ・モウ・バッ・ダ!

「お前、身体が粘土で出来てるって言ってたよな! じゃあ、これならどうだ! 火炎呪文・メガフレア!」

 シュゴォォォォォォォォォォォォォッ!

 上田の掌から飛び出した火球が、クレイの全身を包み込んだ。
「しっ、しもたぁっ!」
 この時初めて、クレイの表情から余裕の笑みが消え、焦ったような声を出す。
「か、身体が……」
 クレイの身体を構成する粘土が、メガフレアの炎で水分を失い固まってしまったのだ。
 さすがにクレイを仕留めるまでにはいかなかったが、クレイの動きは目に見えて低下していた。
「やったね♪」
 パチンと指を鳴らして、上田がニッと笑った。

 さらに、アーセンと対峙した岡野は――
「むむっ! なかなか、素早いですね……」
 アーセンから繰り出される呪文の嵐を、縦横無尽に駆け回って回避していた。
 狙いは一つ、アーセンの懐だ。
「ならば、これならば、どうですか!?」

 グー・バク・ゴウ・ゲレム・ガルム・バング!

 再びアーセンの両腕に、凄まじいスパークが巻き起こる。
「極大爆裂呪文・ボンベスト!」
 アーセンが両腕を合わせると、そこから凄まじいエネルギーの塊が飛び出した。
 しかし、岡野はそれをよけるどころか、真っすぐにボンベストに向かってかけていくではないか。
 これにはアーセンも絶句する。
「!」
 ボンベストが眼前すれすれに迫ったところで、岡野はダンッと地面を蹴った。

 ドガァァァァァァァァァァァァァン!

 ボンベストの爆風を背に受けて、一気に岡野がアーセンとの距離を詰める。
 岡野は爆風の威力を、加速に利用したのだ。
 アーセンに迫りながら、岡野が叫ぶ。
「どうだ! 力には技、技には魔法、そしてぇっ……! 魔法には、力だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
 叫びながら、岡野は右足を思いっきり横に薙ぎ払う。
「真空脚!」

 バキィィィィィィィィィィィィィィィィィッ!

 岡野の回し蹴りが空を切り、アーセンのこめかみに見事にヒットしていた。
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
 思わずアーセンがのけぞる。
 蹴りを食らった場所から顔面にかけて、鋭くひびが入っていた。
「アーセン!」
「アーセンはん!」
 思わずガダメ達が、アーセンのもとへ駆け寄った。
「今だ! 上ちゃん!」
「オッケー!」

 グー・ダッ・ガー・バク・レイ・ゲム!

 石川と上田は声をそろえて呪文を唱え、ボンバーの呪文を放つ。
 重なり合い、ボンベストにも匹敵する威力を持った呪文は、真っすぐにガダメ達へと向かっていった。
「!」
 気が付いたガダメ達がそちらを向く。
 もし彼らが気付くのがもう少し早ければ、彼らはその場を離脱できていただろうが、一瞬遅かった。
「あかん! よけられへん!」

 ドガドガドガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン!

 凄まじい爆発に、三魔爪達の姿が飲み込まれていった。
「やったぁ!」
 石川と上田が連続でタッチする。
「これが決まってれば……勝った」
 勝利を確信した三人の顔に笑みが浮かぶ。
 だが、それがひきつった表情に変わるのに、そんなに時間はいらなかった。
「ばっ、ばかな!」
 なんと、アーセンが他の二人を庇うように立っていたのだ。
「アーセンはん!」
「お前、何という無茶を!」
「はぁっ、はぁっ……。この中では、私が一番、魔法耐性が、高いですからね……。当然のことです」
 だが、やはりそのダメージは大きかったらしく、崩れ落ちそうになるところをガダメとクレイに支えられる。
「ぐっ……。おぁぁぁぁぁぁぁっ!」
 と、アーセンのこめかみのヒビが一気に広がり、頭部が乾いた音を立てて砕け散る。
 なんとその中は空洞であった。
 次の瞬間、
「うっ、あぁぁぁぁぁぁぁっ!」
 アーセンの苦しそうな声が響き、その体が光に包まれる。
 光が収まった時、そこにいたのは子供くらいの大きさの土人形だった。
 埴輪と土偶、そして子熊をミックスしたような外見だ。
 一見すると、鎧を着こんだクマのぬいぐるみに見えなくもない。
 これこそ、アーセンの“原形”だった。
 著しいダメージを受けて、普段の姿を維持出来なくなったのだ。
「ど、どうやら、力を、使いすぎてしまったようですね……」
 そこまで言うと、アーセンは無念そうにガックリと膝をつく。
「くっ……」
 ガダメが悔しそうに唇をかむ。
「ガダメはん、ここは一旦退きまひょ。アーセンはんのダメージは大きいで」
「うむ」
 クレイの言葉に、ガダメも深々とうなずく。
 そして、石川達の方に向き直ると、どこか彼らを認めたような表情で叫んだ。
「少年たちよ、今日の所は我らの負けだ。だが忘れるな。今日の借りは必ず返すぞ!」
 同時に、三人の姿がフッとかき消える。
「…………」
 呆然とその様子を見ていた石川達だったが、やがて、岡野が口を開いた。
「勝った……?」
「そうみたい……」
「よ、良かったぁぁぁぁ……」
 緊張の糸が切れた三人は、その場に大の字になって倒れこむ。
 限界に達した疲労と安堵感で、動きたくなかったのだ。
 三人はしばらく、寝ころんだまま天を仰いでいた。
 すでに空には星が瞬き、月が三人を祝福するように輝いていた。



 二日後――
「もう、行っちゃうんですね……」
 サクラとテキストに見送られ、石川達はブッコフタウンを後にした。
 調査の結果、粘土板に次のようなことが書いてあったことが分かったのだ。
『古来より、天に住む人々には不思議な力を持つ者がいる』
 と。
 そして、この町から西に行った森に、天まで届くという豆の木が立っているという事で、三人は次に、そこへ向かうことにしたのだ。
「気を付けて下さい。皆さんが、元の世界に帰れる事を願っています」
 寂しさを誤魔化すように、サクラは微笑んだ。
「有難う。サクラちゃんも元気でね。……と、そうだ。これやるよ」
 上田が思い出したように、ポケットから一枚の“しおり”を取り出して、サクラに手渡した。
 それは押し花をとじた、可愛らしい小さなしおりだった。
「色々お世話になったからさ……。じゃあね」
「あ、有難う御座います!」
 サクラは嬉しそうにしおりを握ると、歩き出した三人の背に向かって深々と頭を下げた。

「……結構かわいい子だったね」
 町からだいぶ離れた距離に来て、ポツリと上田がつぶやいた。
 そのつぶやきを聞いて、石川と岡野が途端ににやにやと笑いだす。
「え〜、なになに。上ちゃん、ああいう子が好みなの?」
「ばっ! そんなんじゃねぇよ!」
「な〜に言ってんだよ。赤くなってんじゃん」
「このやろ……。グー・ダッ・ガー・ハー・ゼイ……」
「わーっ! ちょっと待て! ちょっと待て!」

 ちゅどぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!

 晴れ渡った街道に、そののどかな雰囲気には似つかわしくない爆発音が響くのだった。

To be continued.


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