完全無敵の大勝利!

「ルスト様!」
「セレナ!」
「ルスト様ぁ!」
 セレナはルストに抱き着くや否や、おんおん泣き始めた。
 ルストもそんなセレナがいとおしくなってギュッと抱きしめる。
「妬けますね」
「ホントホント」
 二人を見て、ジン達が首をすくめる。
 一方、メフィスとフレイルも再会を喜んでいた。
「メフィス爺さん……まさか生きてたジャン……」
「かっかっかっ! そう簡単に死んでたまるかよ! あのルグーンのハゲ頭を殴りつけるまではな!」
「殿下が爺さんの無事をお知りになったら、どれだけ喜ぶジャン……」
 その時、メフィスが初めて神妙な顔つきになる。
「陛下たちは……?」
「陛下は今や、ルグーンの操り人形ジャン。殿下も中庭の離宮で、一人静かにお暮しになってるジャン」
「そうか……」
 メフィスの顔に憐憫の表情が浮かぶ。
 メフィスはうつむいて大きくタメ息をついた。
 フレイルとメフィスの話がひと段落付いたのを見て、ルストが近づいて来てペコリと頭を下げた。
「メフィスさん、それにフレイル、本当に有難う御座いました」
 メフィスは先ほどまでの深刻な顔はどこへやら、ルストに向かってニカッと笑う。
「カッカッカッ! 大したことはしとらんよ」
 バッツの方はフレイルを見た。
「あんた、結局どっちの味方なんだ?」
「おれは王家のお言葉に従うだけジャン」
「王家ねぇ……。けど、そう思ってるのは、この王宮じゃあ、ごく少数派ってわけか」
「…………」
 フレイルが拳を握り締めて、バッツを睨みつけた。
 もちろんそんなものでひるむバッツではなかったが、ただならぬ雰囲気は、ルスト達を緊張させる。
 その時だった。
「危ねえ!」
 フレイルが殺気を感じ、ルスト達に飛びついた。

 シュガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!

 ギガフレアの巨大な火球が、さっきまでルスト達がいた空間を通り過ぎ、床に激突し、大音響を巻き起こした。
「ちっ!」
 バッツたちが次々と構えをとる。
「フレイル、なかなか身軽な動きだな」
 嘲笑を多分に含んだ、低く太い声が響いた。
「ルグーン……!」
 暗闇の中に溶け込むように、黒衣の宰相は立っていた。
 両脇を同じような服装の男たちが埋めている。
 彼らはルグーン自慢の魔導士部隊であった。
 フレイルは驚愕の瞳でルグーンを見つめていた。
「ルグーン……なんでここに!?」
「ふははははははははははっ! フレイルよ、裏切り者とは貴様の事を言うのだな! ヘブンズ城内には、あちこちにわしの命を受けた忠義者が目を光らせておるのだ! そ奴らが、貴様に不穏な動きがあると知らせてくれたのだ! ふはははははははははっ、分かったか、裏切り者! 何とか言ってみろ! 何も言えないだろう! 何も言えずに死ねっ! ふははははははははははははっ!」
「クッ……」
 怒りでもはや声も出ないフレイルに代わって、こちらはメフィスが応えた。
「語るに落ちたのう、ルグーン!」
「ふん、ファウストの老いぼれ! まだ生きていたか!」
「かっかっかっ! わしゃ、しつこくての! それよりもルグーン! 王権をないがしろにするお前などに忠義などという言葉は使ってほしくないわ! 大切な言葉が汚れるではないか。これだからハゲ親父は……」
「なんだと!」
 やはり口ではメフィスの方が達者だ。
 メフィスは言葉で相手を怒らせる術を心得ているらしい。
 あまり褒められない特技であった。
「いつから王族の命より宰相の命令の方が偉くなったのかのう? 我がヘブンズ王国は建国以来ず〜っと、王族以上の存在を認めておらぬ! フレイルはその王族である王子殿下の命令を守っただけじゃ! そのフレイルをお前さんは殺そうとする。こりゃ、もう裏切り者とかいうレベルではないな。反逆者じゃ! 反逆者……おい、ハゲ! お前にはぴったりの称号じゃろう」
 ルグーンの顔は怒りのためか真っ赤だった。
 それに追い打ちをかけるようにルストが、ジンが、ザコ吉が、そしてバッツが言う。
「ハゲ!」
「スケベハゲ!」
「タコ坊主!」
「おい、オッサン、眩し過ぎるぜ、頭がよ!」
 ルグーンの顔は赤を通り越して、青くなり、最後には黒ずんでさえ見えた。
「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
 ルグーンが吠えた。
「貴様ら! このオレを完全に怒らせたなっ! 全員殺してやるっ! 殺してやるぞ! 何が反逆者だ! この国はオレの物だ! ゴークもジョードも、オレの掌の中だ!」
「それが本性か、ルグーン!」
 フレイルが剣を抜いた。
 ルグーンの興奮ぶりに、魔導士部隊もわずかに動揺している。
 その一瞬の隙をついて、フレイルが斬りかかった。

 ザシュッ!

「うぎゃぁっ!」
 魔導士の一人が胸を真っ赤に染めて、その場に倒れる。
 その時にはルスト達も動いていた。
「はっ!」
「おりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 シャッ!
 ザシャッ!
 ザシャァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!

「ぐがっ!」
「うぐっ……!」
 立て続けに四名の魔導士が絶命した。
 混乱が巻き起ころうというその時、闇から暗殺者(アサシン)達が飛び出してくる。
「ちぃっ!」
「新手か!」
 倍する数の暗殺者の猛攻に、ルスト達はわずかに引いた。
 この間にようやく落ち着きを取り戻したルグーンは、魔導士部隊の態勢を立て直した。
「者ども!」

 ゲキ・カ・ダー・マ・ジー・バツ・メイ・ガー!
(火の神よ、その炎で焼き尽くせ!)

 呪文と共に巨大な火球が魔導士たちの前に現れる。
「クズども、死ねッ!」

 シュゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!

 それらが一斉にルスト達目がけて放たれた。
 全員の目が見開かれたその一瞬――

 シュオン!

 突然、道具袋から何かが飛び出して、ルスト達と呪文の間に割って入るように現れた。
「えっ!?」
 見れば、それは手鏡のようなアイテム――以前、ファーストから授けられたフォルセティの鏡だった。
 ギガフレアの火球は、全てその中に吸い込まれていく。
 と、

 シュガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!

 鏡面から炎が飛び出し、反転してルグーン達の方へ飛んで行ったのだ。
「なにっ!?」
 想定外の事態に、ルグーンの目が見開かれる。

 ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!

 ギガフレアの火球は、ルグーンにまともに命中していた。


 数発分のギガフレアを受けたルグーンは猛火に包まれる。
 が、
「お、おのれーっ!」
 それでも、彼は炎の中で立っていた。
 そこに、

 ビカァァァァァァァァァッ!

 炎に包まれたルグーンを映し出したフォルセティの鏡が、まばゆい光を放つ。
 光はルグーンを照らし出した。
 その途端、
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
 ルグーンの悲鳴が響き、その身体が徐々に崩れていく。
 代わりに現れたのは、巨大な人間の頭部の外見を持ったモンスターだった。
 全高は一シャグル(約三・五メートル)はある。
 顔にはルグーンの面影が残っており、頭にはそのサイズに見合った巨大な王冠を被っていた。
「くっ、おのれ! よくも我が正体を……!」
 なんと、国から魔族を排斥しようとしていたルグーンの正体こそ、モンスターであったのだ。
 これには部下の魔導士たちも目を見開く。
「る、ルグーン様がモンスターだと……!?」
「そ、そんな馬鹿な!」
 その声に、ルグーンはそちらの方をジロリと振り向く。
「ひっ!」
 魔導士の一人が恐怖の悲鳴を上げた。
「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
 ルグーンは吠えかかると、その巨体からは想像も出来ない素早さで飛びかかり、魔導士を押しつぶした。

 グシャッ!

「がっ……」
 嫌な音が響き、魔導士の一人が絶命する。
「あともう少しで、人族と魔族の対立を決定的なものにし、この国を乗っ取れたものを……」
 怒りに満ちた表情でルグーンが呟いた。
 ルグーンが国から魔族を排斥しようとしてたのは、人族と魔族を対立させ、両者の憎悪をあおり、国力を衰退させたうえで、ヘブンズを乗っ取ろうと企んでいたからだったのだ。
「この姿を見たからには、貴様ら皆殺しだ!」
 ルグーンは猛然と、まず近くにいた部下であるはずの魔導士部隊に襲い掛かった。
「くそっ!」
「化け物め!」
 魔導士部隊も応戦するが、統制の取れていない彼らが全滅するのに五分とかからなかった。
 しかも、

 ピシッ……ミシミシッ……

 激しい戦いで、地下迷宮は崩落寸前になっていた。
 いち早くそれに気づいたフレイルが、一同に声をかける。
「ひとまず脱出するジャン!」
「うん!」
 フレイルの先導で、ルスト達はフレイルたちがやって来た通路目がけて走り出す。
「逃さんぞ!」
 ルグーンは飛び跳ねながら、一同の後を追った。

 地下迷宮での戦闘は、地上の城の方にも凄まじい地響きとなって襲い掛かっていた。
 城内ではパニックが巻き起こっていた。
 振動で物が次々と倒壊する。
「うわーっ!」
「逃げろーっ!」
 大広間でも重臣たちが右往左往していた。
「王を、王をお守りしろ!」
 重臣の誰かの声が響いた時だった。
 玉座に無表情で座ったまま動かないゴーク王に向かって、壁の飾りの一部が落下していった。
「危ない!」
 叫び声が響いた時にはもう遅かった。
 落?した飾りは王の頭に命中し、王は玉座から倒れ落ちた。
「王よ!」
 そばにいた重臣たちが慌てて王に近づく。
 一人が静かに抱きかかえると、王は目を開けた。
「ここは……私は何をしていたんだ?」
 物がぶつかったショックで、ゴーク王はようやくルグーンの呪縛から解放されたのだ。

 ガタッと音がして、広大な中庭の片隅にあった庭石が横に動き、下からポッカリと深い穴が現れる。
「は〜ん、こんなとこに出るのか」
 穴から顔を出したのはザコ吉だった。
 続いてセレナ、メフィス、ルスト、ジン、バッツ、そして最後にフレイルが現れる。
「ジョード殿下の指輪のおかげジャン」
 フレイルが言った。
「と、あまりのんびりもしてらんねぇぜ」
 地面を見据えて、バッツが呟く。
 それに呼応するかのように、地響きが近づいてきた。
 続いて、

 ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!

 地面を突き破り、巨大な頭が飛び出してくる。
「貴様ら、逃がさんぞ! 一人残らず殺してやる!」
 ルグーンだった。
 モンスターとしての正体を暴かれたせいか、ルグーンにかつての冷静さは無い。
 そこには狂気に走る、ゲスな魔物がいるだけだった。
「お前の正体が分かった以上、こっちの方こそ容赦しないジャン!」
 フレイルが剣を収め、代わりに魔法銃(マジックピストル)を取り出す。
 それはライフル銃と言っても差し支えないサイズだった。
 これが彼の所持する神器、ティーガー・ショットだった。
「撃つべし! 撃つべし!」

 バヒュン! バヒュン!

 魔力で出来た弾丸が、ルグーンに向かって飛ぶ。
「しゃらくさい!」
 ルグーンの口から火炎が発射され、弾丸を相殺した。
「おれ達も!」
「ええ!」
 ルスト達も、それぞれの武器を手に、ルグーンに飛びかかっていく。
 が、
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
 すさまじい勢いでルグーンが回転し、ルスト達は弾き飛ばされてしまった。
「うわっ!」
 吹っ飛ばされながらも体勢を立て直し、ルストが着地する。
 そこへ、間髪入れずにルグーンが高く舞い上がり、ルストを押しつぶそうとしてきた。
「潰れてしまえ!」
 そんなルストの前に割って入った者がいる。
 メフィスだった。
「地下迷宮に落としてくれた礼をまだしてなかったのう、ハゲ親父!」

 グー・ダッ・ガー・バク・レイ・ゲム!
(大気よ、唸り弾けろ!)

「爆裂呪文・ボンバー!」
 メフィスの手から無数の光球が舞い、ルグーンに命中する。

 ドガドガドガァァァァァァァァァァァァァァァァァン!

「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
 体勢を崩したルグーンは、そのままルスト達とは関係ない方へ落下する。
「チャンス! ウィップモード!」
 ジンが手にしていた錫杖が、瞬く間にチェーンクロスの形状へと変形する。

 ジャララララララララララッ!

 ジンの手から錫杖の先端が飛び、鎖でルグーンをグルグル巻きにしてしまった。
「フレイルさん、今です!」
「よっしゃ!」
 フレイルがティーガー・ショットを構えると、銃口に魔力が集まっていく。

 ミョン、ミョン、ミョン、ミョン……

「これで終わりジャン! えぐり込むように……撃つべし!」

 シュパァァァァァァァァァァァァッ!

 収束された魔力の弾丸が、一直線にルグーンに向かって飛ぶ。
「バカなぁぁぁぁぁ……!」
 魔力弾を受けたルグーンは、悲鳴と共に内部からはじけ飛んだ。
 ヘブンズを乗っ取ろうとした魔物は、今、その邪悪な野望と共に滅んだのだ。


「父上が回復されるまで、余が国の政治を執り行う」
「ははっ」
 ジョードの前に文官武官ともにかしずいている。
 わずかな時間でこの少年は大きく変貌した。
 今まで魔物に国をいいようにされていたという事実が、彼の自立心を大きく変えていたのだ。
 国から魔族や無害なモンスターを追放するという法も、直ちに廃された。
 すぐに元の通りには戻らないだろうが、それでもこの国が、これまでよりも良い方向に向かっていくのは間違いなかった。
 今回の功労者であるルスト達も、この国に入った時とは打って変わって下にも置かぬもてなしを受けた。
 数日の間、クロッコでタノンから受けたものより数段上のご馳走攻めにあってしまった。

 それから一行は、ようやく準備を整えて再度旅に出ることになった。
 城壁の外まで、フレイルが見送りに来てくれた。
「気を付けて行ってくるジャン」
「色々有難う」
 ルストがフレイルに深々と頭を下げる。
「そりゃいいんだけどよ……」
 バッツがいぶかし気に、自分の横を見て言った。
「なんで爺さん、あんたこっちにいるんだい?」
 そう。
 何故か一行には、メフィスが加わっていたのだ。
「かっかっか。なに、魔王様を元に戻すっちゅう、お前さん達の旅についていくと言うのも面白そうじゃしのう! それに……」
 その先は言わなかったが、メフィスはこう考えていた。「自分がこのままヘブンズに残っていては、かえってジョード殿下の成長の妨げになってしまう」と。
 メフィスはジョードの自立心を促すために、敢えて彼から離れる事を選んだのである。
「さ、北のテンペル山脈を越えれば、いよいよレッサル軍が管理してる神殿だぜ」
 ザコ吉の声に、一同は遥か前方に広がる山脈に目を向けた。
「よし、行こう!」
 ルストの号令に、一同は頷くと、北へと向かって歩き出す。
 フレイルはそんな彼らの姿が見えなくなるまで、ルストたちの方を見つめていた。

 一方で、遠くから彼らの姿をじっと見ている男女がいた。
 説明は不要だろう。
 ブラッディとマリーのジャバット兄妹である。
 彼らは、いまや「だった」という言葉が付くが、ヘブンズが魔族や魔物を追放している国という事もあり、今回は密かにルスト達の動向を追っていたのだ。
「まさか、この国で魔族を追放する政策をとっていた宰相自身が、国の乗っ取りを企むモンスターだったとはな……」
「意外でしたわね……」
 そう言いながらも、彼女の心の内にはどこか納得がいく感情もわずかに存在していた。
 と言うのも、カエルムの洞窟でジンと行動を共にしていた時、ジンが彼女に対してこぼした一言を思い出していたのだ。
 それは、「ここしばらく、魔物や魔族の中に邪悪な企みを抱くものが増えてきている」という事だった。
 さすがのジンも、彼女達の主であるレッサルゴルバがおかしくなってしまっていると言っては無用な諍いを生むと分かっていたので、そこまで踏み込んだことは言わなかったが。
(これも……ジンが言っていた、“邪悪になった魔族”が起こした事件だったというわけですの……?)
 一人思案顔になるマリーだったが、ブラッディに呼ばれ、ハッと我に返る。
「どうした、マリー?」
「いえ、何でもありませんわ」
 取り繕うように両手を振る妹に怪訝な表情を浮かべながらも、ブラッディは続ける。
「とにかく、彼らが我らの神殿に向かっていると言うのであれば話は早い。そこで今度こそ、彼らを捕らえる」
「そうですわね」
 ブラッディの言葉に、マリーも頷いていた。


 ヘブンズ解放の報せは、天界のフィーラス達の耳にも入っていた。
 天善宮の一室で、フィーラス、ファースト、マスタレスの三人は卓を囲んで座っている。
「さすがルスト君たちだね。ヘブンズ王を操ってたモンスターの野望まで阻止しちゃうなんて。地下迷宮に落とされた時には、どうなる事かと思ったけど……」
 ファーストが感心したように言う。
 フィーラスはそれを聞いて一瞬嬉しそうな顔をするが、すぐにまじめな顔になって言った。
「とは言え、これからが本番だ。次はいよいよ、レッサル軍が直接管理する神殿へ向かってるんだからな……」
 現在ルスト達が目的地にしているレッサル軍の神殿は、いわばサレラシオ大陸におけるレッサル軍の活動拠点だ。
 言ってみれば、軍の前線基地とも言える場所なのである。
 それはこれまで以上に、過酷な戦いが彼らを待ち受けている事を意味する。
 しかし、
「なぁに、あの子たちなら大丈夫だろ。何せ、あいつらはオレらの孫だ」
 自信ありげにマスタレスが呟き、ファーストもそれに同調するかのように「そうだね」と、クスリと笑う。
 ここまで成長しながら旅を続けてきた彼らなら。
 二人の顔には、そう言った感情が現れていた。
 数千年を生き、それだけの経験を積んできた彼らは楽観的とは程遠い、慎重な判断を下せるようになっていたが、そんな彼らでも、自分たちの子孫の実力に確かな信頼を寄せていた。
 それを見て、フィーラスも同意するかのように軽く息を吐く。
「そうだな。オレ達は手出しできない以上……彼らの力を信じるしかない、か」
 ようやくフィーラスも、静かに微笑みを浮かべた。

To be continued.


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