あわてんぼパパ


                    ☆

 えー、世の中には、慌てんぼの人がいるものでー。
「おい、おい、起きろ、起きろ、いつまで寝ているんだ。学校に遅れるじゃないか」
「何言ってるのよ、パパ。今日は日曜日じゃないの」
「あ、そうか。じゃ、せっかく早く起きたんだから、今日はドライブに連れてってやるよ」
「嬉しいっ、では、海につれてってね。カニや貝を取って遊ぶの」
「よーし、さあ、車に乗った、乗った」
 自動車は、見る見るスピードを上げて走っていきます。
「どうだい、お友達が手を振って見送ってるよ。こっちも手を振ってあげなさい。どうして返事をしないの。あれっ、いないや。なーんだ、遠くで手を振ってるのは、うちの子じゃないか」
 パパの自動車は、仕方なしに元の所に戻ります。
「パパ、酷いよ、酷いよ。置いてきぼりにするなんて」
「やあー、ごめん、ごめん、今度はちゃんと乗ってるんだよ」

「さあ、海に着いたよ。降りて遊ぼう」
「あれえっ、パパ、変だよ。ニワトリがたくさんいるよ、おまけにちっとも水が無いよ」
「だって、立札にちゃんと海って書いてあるよ」
「いやだなあ、パパ。うみの下に、もっと何か書いてあるよ。えーっと、『“うみ”たて卵』だって」
「いけない、養鶏場に来てしまった」
 パパの車は、慌てて、回れ右。
「今度こそ、本当の海だ。あっ、カニだ、カニだ」
「困りますねえ。この缶詰は、僕らのお弁当のおかずですよ」
「パパはあわてんぼねえ、よそのおじさんの缶詰のラベルよ」
「いや、失敗、失敗。道理でじっと動かないと思った。“かに”してちょうだい」
 それでも、どうやら落ち着いて、貝を拾ったり、カニを探したりし始めます。
「おいっ、ごらん、水の中に真珠があるよ」
「まあ、どうもご親切に。ブローチを落として困っていたんですの」
「あっ、今度はパパが褒められちゃった」
 ――へい、ごたいくつさま。



おしまい


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