〜黄泉戸契(ヨモツヘグイ)〜

杏子「店長、なんだこれ?」

アカサカ「ヨモツヘグリロックシード。この間スィンドルに頼んで取り寄せてもらったんだよ」

杏子「ヨモツヘグリ? 何それ?」

アカサカ「ヨモツヘグリってのは、『黄泉の国の食べ物を口にする事』。漢字で書くと黄泉戸契で、ヨモツヘグイともいうね。
細かく言うと、黄泉のかまどで煮炊きしたものを食べる事だよ」

杏子「ふ〜ん。で、それをするとどうなるんだ?」

アカサカ「一言で言うと、この世に戻れなくなるのさ。
食物を口にした者はその時点で、黄泉の国、つまりあの世に属する存在になってしまって、もう二度とこの世には帰る事が出来なくなる、って訳。
日本神話では『古事記』に出て来る伊邪那美(イザナミ)と伊弉諾(イザナギ)のエピソードが有名かな」

杏子「どんなん?」

アカサカ「イザナギとイザナミの夫婦は、日本の国を作った後に様々な神を産んだんだけど、最後に火の神・カグツチを産んだ時にイザナミは火傷で死んでしまう。
悲しんだイザナギは黄泉の国までイザナミを迎えに行くんだけど、イザナミは『黄泉戸契をしてしまったので戻れない、黄泉の国の神と相談してくるから待っててほしい。
その間、自分の姿を覗かないで』って頼むんだ。でも、待ちきれなくなったイザナギは、つい約束を破って中を覗いてしまう。
そこでイザナギが目にしたのは、腐乱して蛇の姿をした8柱の雷神(八雷神)がまとわりついていたイザナミの姿だったんだ」

杏子「げっ!」

アカサカ「それに驚いたイザナギは逃げようとしたが、イザナミは自分の醜い姿を見られたことを恥じて、黄泉醜女(よもつしこめ)にイザナギを追わせた。
イザナギは何とか逃げ切れるんだけど、イザナミは『私はこれから毎日、一日に千人ずつ殺そう』と言い、これに対しイザナギは『それなら私は人間が決して滅びないよう、一日に千五百人生ませよう』と言った。
これは人間の生死の由来を表している。こうしてこの二人は離婚して、この時から、イザナミは黄泉津大神(ヨモツオオカミ)という、黄泉の国の主になったんだ」

杏子「酷ぇなそいつ」

アカサカ「ははは。神話の神様ってのは、意外と人間臭いからね。ギリシャ神話とかもそうだし」

杏子「男って勝手だな……」

アカサカ「は、は、は……」

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